日本化學雜誌
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希塩酸によるクルペインの部分加水分解
岩井 浩一
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1962 年 83 巻 1 号 p. 107-112,A7

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抄録

タンパク質の強酸部分加水分解の特異性を,単純なポリペプチド鎖構造をもつクルペインについて検討し,あわせてその化学構造上の特徴を追求した。すなわち,クルペイン塩酸塩に1N塩酸を100℃で2~24時間作用させ,遊離されたN-末瑞基をしらべて加水分解曲線を求めた。この場合,クルペイン構成アミノ酸残基のアミノ基側のペプチド結合切断率は,グリシン>セリン=トレオニン>アラニン>バリン(およびイソロイシン)>アルギニン>プロサンの順であった。前4者は16時間までにほとんど完全に切断された。この順位は,報告されている合成ジペプチド類H2NCH2CO-NHCHRCOOHの加水分解速度と大体一致したが,プロリンのみはここで例外的に安定であった。しかしこれは,ポリペプチド鎖中にあるプロリン残基の特性と考えられる。部分加水分解物は,アルギニンを含む塩基性区分とそれを含まない中性区分とに分別して精査した。両区分の分別は古典的なリンタングステン酸法よりも,DNP誘導体の有機溶媒による分別抽出法の方がすぐれていた。塩基性区分のペプチド類は,その残基数が多くまたアルギニンに富むほど,エタノールに難溶性であったが,その分別にはDNP誘導体の0.25Nギ酸中のロ紙電気泳動がもっとも効果的であった。こうして,8時間までの塩基性区分中にはアルギニン残基を1~3以上含むペプチド類が少なくとも10種類は存在するが,16時間以後はほとんどアルギニン2残基以下のペラチド類と遊離アルギニンのみからなることが判明した。他方,中性区分には遊離の中性アミノ酸類のほかにそれらからなるペプチド類も含まれることが,この区分の平均アミノ酸残基数,DNP誘導体のロ紙電気泳動,その他の方法で確認された。ベプチド類の含有率は加水分解時間が長いほど低下した。以上の事実から,クルペインのポリペプチド鎖中には中性アミノ酸が少なくとも2残基連結した部分があり,またアルギニンの一部は3残基以上連結して配列しなければならないと結論される。

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