日本化學雜誌
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電子衝撃により飛散するアルカリ土類金属の放射化学的測定
柴田 長夫
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1962 年 83 巻 4 号 p. 406-412,A27

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抄録

アルカリ土類金属酸化物に電子を衝撃するさいアルカリ土類金属原子が飛散されてくることを放射性追跡子を用いて確認した。ここに行なった実験は,ストロンチウムとバリウムに関するものであって,その一部はすでに著者らによって報告されている。本報は主としてその基礎的実験である放射化学的方法による測定について報告する。
酸化ストロンチウムまたはバリウムを90~150eVの電子で衝撃すると,ストロンチウム,バリウムは飛散され,その1電子あたりの飛散量は0.5cm3の表面積の酸化物に対して表3.1,表3.2に示される量であった。またその活性化エネルギーはストロンチウム,バリウムでそれぞれ約0.8eV,0.7eVであった。各種の条件における飛散量は表1.1および表2.1で示され,その実験誤差は√(15)2+(計数誤差%)2%であり,そのほとんどはコレクターの捕集係数の偏差と管球ごとの偏差に由来している。140Ba-140La中の89Sr,また140Ba中の放射性娘核種140Laなどの放射性不純物の影響を検討した。解析の結果140Laは飛散されていないことがわかった。以上の結果に基づいて飛散現象はつぎのように説明された。飛散現象は単なる電子衝突による運動量の交換,または表面層の加熱のみによるのではなく,酸化物は電子衝撃によって酸素とアルカリ金属とに分解され,後者はその基体の温度によって表面から昇華されるものである。アルカリ土類金属の酸化物に電子衝撃を行なうと,酸化物は分解され酸素が放出されることが多くの研究者によって報告されている。しかし,アルカリ土類金属原子の挙動に関してはほとんど知られていない。放射性追跡子をもちいて電子衝撃によりバリウム,ストロンチウムの行動を追跡し,これらの原子が飛散されてくることを確認することができた。この結果の一部についてはすでに著者らによって報告されているが,同論文中に指摘したようにその基礎的部分である放射化学的実験は報告されてないのでここに報告する。

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