日本化學雜誌
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N→0アシル転位によるペプチド鎖の選択的切断 プロタミンへの適用
岩井 浩
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1968 年 89 巻 11 号 p. 1009-1021

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抄録

タンパク質中のβ-オキシアミノ酸残基におけるペプチド結合のN→0アシル転位を利用して,ペプチド鎖を選択的に切断する方法の開発を目的とし,プβ タミン(未分別クルペインおよび同サルミン)を試料として,1)転位剤とその作用条件,2)形成された転位結合の切断法とその適用条件,を検討した。ここで確立された方法および条件はクルペイン均一成分の全一次構造決定に適用され,その有用性が証明された。
転位剤に濃硫酸奪用いた場合は,20℃ で4日間の作用により含まれる全セリン残基結合の85~95%(平均90%)が,トレオニン残基の20~40%が転位した。このさい,プロタミンの全窒素または構成アミノ酸はほとんど完全に回収された。他方,新たに開発した揮発性転位剤三フッ化ホウ素飽和ギ酸は,54℃ で18~24時間の作用により,クルペインおよびジペプチド試料中のセリンおよびトレオニソ残基結合の95~100%を転位させ,しかも副反応はとくに認あられなかった。
転位結合の選択的切断法としては,6N塩酸(20℃)による加水分解,遊離アミノ基のアセチル化または脱アミノ後アルカリ加水分解,その他を検討した。ここで,転位結合の加水分解速度はオキシアミノ酸残基の遊離されたアミノ基またはその改変後の性状や,アシル基側のアミノ酸残基側鎖の立体因子の影饗を受けることがわかったが,結局,アセチル化後0.3N炭酸ナトリウムによる加水分解(30℃,4時間)が選択性と収率の両面で最良であった。
転位分解法によって見いだされたクルペインおよびサルミン中のオキシアミノ酸残基の配列様式に関する定量的知見を,トリプシン分解による同様な知見やクルペイソ3成分の一次構造と比較考察する。また,本研究で確立された方法を,とくにN〓Oアルシ転位の機構,各種転位剤の効果,転位結合の各種切断法などに関して,他のタンバク質に適用された他の方法と比較考察する。

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