日本化學雜誌
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転相温度方式とHLB値方式による乳化剤選定の比較
篠田 耕三
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1968 年 89 巻 5 号 p. 435-442

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抄録

与えられた油に対して与えられた温度でもっとも適当な乳化剤を選定することは,乳化研究の中でもっとも重要な命題であるにもかかわらず,HLB値による方法しかなかった。転相温度方式(HLB温度方式と呼んでもよい)は,非イオン性乳化剤の親水性親油性のバランスが温度によって大層変化し,そのちょうど釣り合う温度で乳化の型が逆転することに着目して,与えられた油一水系に対して乳化の転相温度(PIT)を求め,HLB値法よりも迅速に,かつ正確に安定な乳化剤を選定する独自の方法である。同時に転相温度を含めた研究によって乳化系をより深く理解することができる。それはHLB値が分子に与えられた一つの数であるのに対し,転相温度は乳化系の特性値であって,油の種類,乳化剤の濃度,相容積の効果,温度などの効果に関する情報を提供するためである。また,転相温度の研究は油の可溶化,水の可溶化,洗浄など他の諸性質との関係についても多くの知見を提供する。また転相温度の測定から乳化剤の親水性親油性のバランス(HLB)が正確に求められるので,HLBを一定にたもって分散系の安定性に対する分子構造の影響などを判然と知ることができる。HLB値法では正確にHLBを求めることがむずかしいのでこれが困難かつ不正確になる。HLB値が参考的にしか使われなかった理由の一つはこのためであろう。以上のことから転相温度方式(PITまたはHLB温度方式)とs値方式には決定的な将来性の違いがあることがわかる。

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