抄録
低温においてアルキルベンゼン,フッ化アルキル,フッ化ホウ素が反応したときに形成される着色した錯体は,Friedel-Grafts反応の中間体としてのσ錯体であると一般に信じられてきた。しかし著者らがその錯体の吸収,赤外,NMRスペクトルおよび熱学的同位体効果を測定したところ,その錯体はσ錯体でなく,三分子系の配向型τ錯体〓 であることが判明した。Friedel-Graftsアルキル化反応の中間体であるσ錯体は低温においても単離されなかった。えられた配向型π錯体からフッ化ホウ素を排気抽出すると低温においてアルキル化反応が進行する。低温におけるFricdd-αaftsアルキル化反応では配向型π錯体からσ錯体への転移が反応速度を決定するということが提示されている。室温において無極性溶媒と塩基性溶媒を用いた溶液内で,トルエンとベンゼンのFriedel--Craftsアルキル化反応がフッ化アルキルを用いて行なわれた。無極性溶媒では異常な選択性が認められ,ベンゼンはトルエンより活性であった。しかし異性体分布は塩基性溶媒において見いだされた異状体分布と余り変わらず,統計値に達しなかった。フッ化アルキルを用いるフッ化ホウ素触媒アルキル化反応の部分反応速度因子,OfとPfはつぎの順に変化することが見いだされた。エチル化反応(塩基性溶媒)イソプロピル化反応(塩基性溶媒)イソプロピル化反応(無極性溶媒)=エチル化反応(無極性溶媒)この結果からアルキル化反応における親電子試薬は無極性溶媒におけるアルキル・カルボニウムイオンか,塩基性溶媒における分極性のハロゲン化アルキル・金属ハロゲン化物付加錯体のいずれかであるということが示唆されている。これら親電子試薬の親電子性は次の順序に増大する。〓アルキルカルボニウムイオンが親電子試薬のとき,〓 といった配向型π錯体がまず形成される。分極性錯体が親電子試薬のときには・分極性錯体それ自身が電子供与体となる三分子系の配向型π錯体〓が室温におけるFriedel-Cra-ftsアルキル化反応の中間体として形成される。分子間の選択性(kT/kB)と分子内の選択性(k0-:km-:kp-)はともにσ錯体を形成するに要する活性化エネルギーによって決定される.要するに室温におけるFriedel-Grafts 反応において親電子試薬の親電子性が非常に強い場合でも,σ 錯体形成の過程が律速段階となる。