日本化学会誌(化学と工業化学)
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水和セリウム(III)イオンの励起状態の構造
海津 洋行宮川 浩二小林 宏
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1986 年 1986 巻 11 号 p. 1425-1431

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抄録

水溶液中の水和セリウム(III)イオンは主として三側面心三角柱構造の[Ce(OH2)9]3+として存在する。紫外線を照射して5d←4f励起すると発光が観測される。水溶液中で発光するイオンは*[Ce(OH2)9]3+ではなく,1個の水分子が解離した*[Ce(OH2)8]3+である。光励起状態で生成する,*[Ce(OH2)8]3+の構造を明らかにするため,スピン軌道相互作用を考慮し,角重なりモデルによって種々の八配位構造における2D(d1)の副準位について理論的計算を行なった。*[Ce(OH2)9]3+の2D(d1)の最低の副準位では,電子はC3対称軸方向にひろがったdz2軌道を占めている。de2軌道を占める電子を安定化させるため,頂点にある6個の水分子がエクアトリアル方向に移動し,このためエクアトリアルの水分子の1個が解離し,*[Ce(OH2)8]3+を生成する。計算結果によれば*[Ce(OH2)8]3+の最低の副準位は*[Ce(OH2)9]3+のそれにくらべ低くなる。八配位構造で最大の配位子場安定化をあたえるのは立方体および正方ねじれプリズム1構造で,最低の副準位では電子はdz2軌道を占めている。しかし,立方体ではdz2とdxy軌道は縮重しており,立方体は変形して十二面体構造を生成する。これらの構造では最低副準位のエネルギーは等しく,これら構造の中間状態でもエネルギー増はみられないので*[Ce(OH2)8]3+の構造はfluxionalで,これらの構造間で変化していると考えられる。

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