日本化学会誌(化学と工業化学)
Online ISSN : 2185-0925
Print ISSN : 0369-4577
三元系銅(II)-ジアミン-アミノ酸錯体における分子内芳香環スタッキング相互作用スタッキングによる錯体の安定化におよぼずニトロ置換基の効果
小谷 明山内 脩
著者情報
ジャーナル フリー

1987 年 1987 巻 3 号 p. 336-344

詳細
抄録

錯体内での芳香環スタッキングにおよぼす電子密度の効果を明らかにし,相互作用の特異性に関する知見を得る目的で,三元系銅(II)-5-ニトロフェナントロリン-芳香族アミノ酸(L-AA:5-ヒドロキシ-L-トリプトファン,L-トリプトファン,6-ニトロ-L-トリプトファン,L-チロシン,L-フェニルアラニン,またはp-ニトロ-L-フェニルアラニン),銅(II)-芳香族ジアミン(DA)-p-ニトロ-L-フェニルアラニン,および銅(II)-DA-6-ニトロ-L-トリプトファン錯体(DA:1,10-フェナントロリン,2,2'-ビピリジン,(アミノメチル)ピリジンまたはヒスタミン)の安定度定数を25℃,I=0.1mol.dm-3(KNO3)においてpH滴定法によって求め,三元錯体内でのスタッキングの相互作用の強さを銅(II)-エチレンジアミン(en)-L-アラニン(L-ala)を基準としたつぎのような平衡式を考え,その安定度定数Kで評価した。Cu(DA)(L-ala)+Cu(en)(L-AA)〓Cu(DA)(L-AA)+Cu(en)(L-ala)ここでDA,L-AAが芳香環を有するとき,Cu(DA)(L-AA)においてのみスタッキングが可能であり,これによる安定化分の右辺への平衡移動が起こるので安定度定数Kはスタッキングの安定度定数と考えられる,得られたlogK値の正の大きな値(0.18~2.43)はかなり強いスタッキング相互作用を示し,芳香環面積,置換基の位置および種類に依存していた。d-d吸収帯に見られる強い負のCD強度はlogK値から計算されるスタッキング割合とほぼ定量的な関係があった。スタッキングに対するニトロ基の効果はスタッキングの強さが環全体でなく,局部的な電子密度差に基づく電荷移動が重要なことを示している。一部の系では電荷移動吸収帯も観察された。

著者関連情報

この記事は最新の被引用情報を取得できません。

© The Chemical Society of Japan
前の記事 次の記事
feedback
Top