日本化学会誌(化学と工業化学)
Online ISSN : 2185-0925
Print ISSN : 0369-4577
1987 巻, 3 号
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  • 西谷 孝子, 田伏 岩夫
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 265-276
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    生命現象についての分子レベルでの解明の急速な進歩と相まって,シクロデキストリン,シクロファン,クラウンエーテルなどを用いた化学認識力をもつ化合物が,人工酵素,人工レセプターとして合成されている。また,生体膜の研究により,膜形成力をもつ化合物の合成や,それらを用いた人工細胞の構築も精力的に行なわれている。ここでは,脂質間相互作用,呼吸機能をもつ人工細胞光合成機能ををもつ人工細胞について2で述べ,3では,上に述べた分子認識力をもつ分子,およびP-450モデル系について述べる。4では,さらに高度なアロステリック効果の人工的再現について記す。
  • 木村 恵一, 大石 英樹, 坂本 英文, 庄野 利之
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 277-282
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    窒素原子を含むビス(クラウンエーテル)誘導体〔1a〕,〔1b〕,〔2〕および単環性モノアザクラウンエーテル〔3a〕,〔3b〕 をアルカリ金属イオン選択性電極のニュートラルキャリヤーとして用い,電極の応答挙動およびイオン選択性について検討した。いずれのイオン選択性電極においても電極応答は測定溶液のpH値に依存し,高pH領域においてビス(モノアザクラウンエーテル)誘導体〔1a〕,〔1b〕を用いる電極は広いイオン活量範囲でNernst応答を示した。ビス(モノアザ-12-クラウン-4)誘導体〔1a〕およびビス(モノアザ-15-クラウン-5)誘導体〔1b〕を用いるイオン選択性電極は,それぞれ優れたナトリウムおよびカリウムイオン選択性を示した。また,これらのビス(モノアザクラウンエーテル)は対応する単環牲モノアザクラウンエーテルよりもイオン選択性電極のニュートラルキャリヤーとして優れている。〔1a〕を用いるナトリウムイオン選択性電極について電極膜条件を詳しく検討した結果,膜溶媒の種類,ニュートラルキャリヤー濃度および脂溶性塩の有無によってイオン選択性は大きな影響を受けないことが判明した。
  • 田嶋 邦彦, 三田 泰蔵, 藤村 靖, 向井 和男, 石津 和彦
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 283-287
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    分子認識の重要な機構の一つであるイオン抽出をスピン標識したクラウンエーテルを用いて研究した。スピン標識クラウンエーテルを使用すると,イオンキャリヤーの水相-有機相間における動的挙動をESR測定により正確に追跡することができる。本研究で新たに合成したニトロキシドラジカルクラウンエーテルは高い親水性と疎水性を合わせもつ機能性クラウンエーテルである。水相-有機相間におけるニトロキシドクラウンエーテルの分配率を定量的なESR測定から評価するとともに,二相系におけるK-ピクラート塩抽出平衡定数を算出した。従来の研究では無視されていたクラウンエーテルの分配率を考慮して二トロキシドクラウンエーテルの抽出平衡定数を算出すると, その値は疎水的クラウンエーテルを上回わることが認められた。二相系におけるイオン紬出にはクラウンエーテルの親水性が重要な作用をもつことが経験的に提唱されている。本研究はクラウンエーテルの親水性をESR測定から数値化した上で,イオン抽出におよぼす効果を議論した最初の研究例である。
  • 倉本 康弘, 木村 栄一
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 288-292
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    大環状ポリアミンは,金属イオン捕捉能およびその金属錯体による種々の機能を有する。著者らは,大環状ポリアミン化合物を,クエン酸暖衝液中,等速電気泳動で分析したところ,予想とは反対の(+)極へ移動することを発見した。この異常挙動は,まず大環状ポリアミンがその環内に中性から酸性領域下,H+を取り組み,全体として(+)に荷電する。これがクエン酸と1:1の錯体を形成し,見かけ上,(一)に荷電して(+)極へ動いたものと思われる。また,この(+)に荷電した大環状ポリアミンは,クエン酸をはじめリン酸,カテコールなどの多価陰イオンを1:1で捕捉することを見いだした。この陰イオンキレート効果を,難溶性アルカリ土類金属塩の可溶化に応用した。さらに難溶性塩のリン酸カルシウム,シュウ酸カルシウムを主成分とする尿路結石溶解作用に応用した。
  • 高橋 久雄, 入夏 裕一, 辻本 宗一, 幸塚 正児, 太垣 和一郎
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 293-299
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    新規な円筒状アニオン界面活性剤として標題の化合物をβ-シクロデキストリン(β-CD)の選択的修飾によって合成した。これらの水中における中性蛍光プローブに対する包接作用はβ-CDよりも10倍以上も強いが,分子集合状態には影響されない。包接は円筒内の疎水場で起こると推定されアルキルチオ基のアルキル鎖長効果と硫酸陰イオン基の静電効果を強く受ける。
  • 藤田 佳平衛, 田原 務, 古賀 俊隆, 井本 泰治
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 300-305
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ゲスト包接時にホストが配座変化を起こすモデルとして,β-シクロデキストリンの6-位にβ-ナフチルスルホニル基を2個有する3種類の異性体(6A6B,6A6C,6A6D体)を合成した。これらのシクロデキストリン異性体によるゲスト(1-アダマンタンカルボン酸ナトリウムおよび1-アダマンチルアミン塩酸塩)包接を, 蛍光または円偏光二色性スペクトルで検討した結果,ゲスト包接時に置換基がそれぞれ配座変化を起こすことが明らかとなった。これらのゲスト包接能は置換位置の違いによって異なっており, 新しい様式の分子認識モデルと考えられる。
  • 宮嶋 孝一郎, 斎藤 博幸, 中垣 正幸
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 306-312
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    脂質膜に対するシクロデキストリン(CD)の膜破壊性を卵黄レシチンとコレステロールのモル比の異なるリボソームの内水相に水溶性マーカー(カルセイン)を内封させ,外水相に種々の濃度の異なったCDを加え,マーカーの外水相への漏出から調べた。卵黄レシチンのみからなるリボソームでは,ジ-0-メチル-β->α->β->トリ-0-メチル-β->γ-CDの順に膜破壊性が強く,それぞれコレステロールとレシチンを42モル%含むリポソームでは,ジ-0-メチル-β->β->α->r>トリ-0-メチル-β-CDの順になった。一方,ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)または,コレステロール単分子膜の水相に,α-,β-,γ-CDを加え表面圧の経時変化を調べた。DMPC膜ではα->β->γ-CDの順にく表面圧の減少が大きく,コレステロール膜ではβ->γ->α-CDの順に大きく減少した。これらの結果から,メチル化されていないCDでは,主として内空孔の大きさにより,メチル化されたCDでは内空孔の大きさと,分子のもつ疎水性も関与して,脂質膜中の分子を認識し,包接体を形成し膜破壊をすることが明らかになった。
  • 坪山 セイ, 瀧島 崇, 桜井 敏雄, 坪山 薫
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 313-321
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    光学活性な12員環テトラミンを配位子とするコバルト(III)錯体[1]はα-アミノ-α-メチルマロン酸(AMM)と反応し,相当するAMM錯体[2]を単一生成物として与える。その構造をX線結晶解析により決定した。用いたプリズム形結晶は単斜晶系,空間群P21,α=13.985(6),b=11.768(13),C=9.626(3)A,β=108.36(3)°,U=1504(2)A3,Z=2である。[2]はシス形八面体構造で,12員環は折れ曲がり[1]の基本骨格が保持されている。AMMはそのpro-Rのカルボキシル基とアミノ基とで,β-形に配位しており,新たに生じた不斉中心の配置はRであった。非配位pra-Sカルボキシル基は配位子の第二級アミンの一つと分子内水素結合をつくっている。このように,[1]はいわゆる三点結合によってプロキラル中心を確実に認識したことを示している。つぎに[2]の脱炭酸反応を行ない,得られたアラニナト錯体のR:Sの比は28:72であることを認めた。さらにアラニナト錯体からアラニンを遊離させ,得られたジアクア型錯体をHBrで処理し, 出発錯体として回収するとによって,より温和な反応条件下でアラニン不斉合成のサイクル化が可能になった。
  • 槻瀬 知明, 清水 史彦, 矢野 重信, 干鯛 真信, 吉川 貞雄, 朝倉 清高
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 322-327
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    C-2エピマーであるD-グルコーメ(D-Glc)およびD-マンノース(D-Man)をNi-tmen錯体,[Ni(H20)2(tmen)2]Cl2(tmen=1-ジメチルアミノ-2-(メチルアミノ)エタン)と反応させると,いずれの場合もすみやかに基質のC-2-エピマー化が起こり,さらに,糖成分としてD-Manのみを含む同一の緑色錯体が生成する。本反応中に発現する,Nj(II)錯体によるC-2-エピマー間分子識別の要因を明らかにする目的で,(Glc,Man)の系でD-Manに対し澤択的に得られる配糖錯体〔3〕の構造解析をEXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure)法により行なった。実験室系EXAFS装置により(a)Ni Foil,(b)配糖錯体〔1〕,([Ni(L-Rha-tn)2]2+),(c)複核配糖錯体〔2〕(μ-Man-[Ni2(CH30H)(N-D-Man-dmen)(N,N'-(D-Man)2-dmen)]2+),(d)配糖錯体〔3〕(未知試料)についてX線吸収スペクトルを測定し,これらのEXAFS成分を解析した結果,配糖錯体〔3〕は,N-マンノフラノシド橋かけ配位構造を有するNiの多核錯体であると考えられ,さらに,このような配位力の強い橋かけ構造の有無がマンノース型エピマーに対する選択的錯形成の要因になっているものと推察される。
  • 高橋 利和, 矢野 重信, 吉川 貞雄, 干鯛 真信
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 328-334
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    トリス[(1R,2R)-および(1S,2S)-1,2-シクロヘキサンジアミン(chxn)]Ni(II)錯体といくつかのアルドースとの反応により,ニッケル1原子あたり糖2分子を含む青色八面の正体型常磁性錯体が生成する。この反応は糖質の構造に対して敏感であり,とくに糖のC-2-位の絶対配置に関して,R,R-chxn錯体はC-2-がSの糖と,S,S-chxn錯体はC-2-位がRの糖と選択的に錯形成する傾向をもつことがわかった。この錯体は水溶液中で容易に加水分解を受け,もとの糖とジアミン錯体とに戻るので,糖質の分離に応用しうる。実際にたがいにC-2エピマーであるD-グルコースとD-マンノースとの1:1混合物の中から,[Ni(R,R-chxn)3]Br2.3H2Oとの反応による配糖錯体の生成を利用してD-マンノースのみを分離することができた。この選択性の生じた原因は生成した配糖錯体のキレート環のゴーシュ構造の不斉から説朗することが可能である。過去にX線構造解析の行なわれた類似錯体の構造から,これらの錯体上ではN-グリコシドがmer形に配位した構造をもっともとりやすいと推定されるが,このとき2個の五員環キレートが一つのN原子を介して連結されているため,キレート環のゴーシュ構造の絶対配置は一方がδ,他方がλの組み合わせがもっとも安定化すると考えられる。このような立体化学的機構がアルドースの分子識別において重要な要因となるものと考えられた。
  • 小谷 明, 山内 脩
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 336-344
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    錯体内での芳香環スタッキングにおよぼす電子密度の効果を明らかにし,相互作用の特異性に関する知見を得る目的で,三元系銅(II)-5-ニトロフェナントロリン-芳香族アミノ酸(L-AA:5-ヒドロキシ-L-トリプトファン,L-トリプトファン,6-ニトロ-L-トリプトファン,L-チロシン,L-フェニルアラニン,またはp-ニトロ-L-フェニルアラニン),銅(II)-芳香族ジアミン(DA)-p-ニトロ-L-フェニルアラニン,および銅(II)-DA-6-ニトロ-L-トリプトファン錯体(DA:1,10-フェナントロリン,2,2'-ビピリジン,(アミノメチル)ピリジンまたはヒスタミン)の安定度定数を25℃,I=0.1mol.dm-3(KNO3)においてpH滴定法によって求め,三元錯体内でのスタッキングの相互作用の強さを銅(II)-エチレンジアミン(en)-L-アラニン(L-ala)を基準としたつぎのような平衡式を考え,その安定度定数Kで評価した。Cu(DA)(L-ala)+Cu(en)(L-AA)〓Cu(DA)(L-AA)+Cu(en)(L-ala)ここでDA,L-AAが芳香環を有するとき,Cu(DA)(L-AA)においてのみスタッキングが可能であり,これによる安定化分の右辺への平衡移動が起こるので安定度定数Kはスタッキングの安定度定数と考えられる,得られたlogK値の正の大きな値(0.18~2.43)はかなり強いスタッキング相互作用を示し,芳香環面積,置換基の位置および種類に依存していた。d-d吸収帯に見られる強い負のCD強度はlogK値から計算されるスタッキング割合とほぼ定量的な関係があった。スタッキングに対するニトロ基の効果はスタッキングの強さが環全体でなく,局部的な電子密度差に基づく電荷移動が重要なことを示している。一部の系では電荷移動吸収帯も観察された。
  • 林 裕晃, 小林 良之, 宮路 浩二, 井上 祥平
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 345-350
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    七員環アミドL-α-ジメチルアミノ-ε-カプロラクタムを触媒として,アルデヒドへのシアン化水素の付加によるシアノヒドリンの不斉合成を種々のアルデヒドを基質として行なったところ,脂肪族アルデヒドを基質とした場合に最高26.3%の不斉収率が得られた。
    また,光学活性シアノヒドリンを合成する他の方法として,アルデヒドとアセトンシアノヒドリンとのシアノヒドリン交換反応を取り上げ, この反応におけるシクロ(L-フェニルアラニル-L-ヒスチジル)およびL-α-ジメチルアミノ-ε-カプロラクタムの不斉触媒作用について種々のアルデヒドを基質として検討したところ,最高62.7%の不斉収率が得られた。これは,アルデヒドとアセトンシアノヒドリンとの不斉シアノヒドリン交換反応の初めての例である。
  • 近松 啓明, 金光 高正, 橋本 安弘
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 351-357
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    プロキラル中心をもつ対称ジケトンに含まれる二つのエナンチオトピックなカルボニル基のうち,その一方のみを選択的に還元できれば基質の全量を一つの光学活性体に変えることが理論的に可能である。このような観点に基づいて,微生物の立体選択性を生かして8a-メチル-cis-2,7-デカリンジオン[4]の不斉変換を試みた。Rhodotorula rubra によって[4]は容易に還元され,ジアステレオマーである2種のケトール(生成比4:1)となる。これらはアセタート[6],[8]として分離精製したのち,加水分解して(+)-ケトール[5](収率54%,光学純度88%)と(-)-ケトール[7](収率13%,光学純度93%)を得た。(-)-ケトール[7]は(+)-(1R,3R,6S,8R)-6-メチル-4-ツイスタノン[10]に導くことによって(4aR,7S,8aS)-7β-ヒドロキジ-8aβ-メチル-cis-2-デカロンと決めた。一方,(+)-ケトール[5]は,そのヒドロキシル基の反転反応によって(+)-[7]を与えるので(4aS,7S,8aR)-7α-ヒドキシ-8aβ-メチル-cis-2-デカロンである。ロよって,R.rubraによる[4]の還元では基質中の二つのエナンチオトピックなカルボニル基のうちpro-S側が優先的に還元されることがわかる。また,ケトン[10]のWolff-Kishner還元により(+)-1-メチルツイスタン[11]が得られた。かご型炭化水素[11]の光学活性体が[4]から簡単な経路によって合成できることを示した。
  • 千田 貢, 池田 篤治, 日浅 洋, 片所 功
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 358-365
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    電極表面を酸化還元酵素で修飾して電極自体が電子受容体または電子供与体となるようにした電極,酵素機能(バイオカタリスト)電極は分析用センサーのみでなく,合成用リアクターとして,また燃料電池用電極としての用途が期待される。この場合電極と酵素間の電子伝達を仲介するメディエーターの利用が有効である。メディエーターを用いるバイオカタリスト電極での電極過程の理論について,pingpong機構による酵素反応を例にとり,考察を行ない,その挙動を規定する因子を明らかにした。メディエーターを有効に固定化する方法の一つとして,網状電極の一面にメディエーター貯蔵層を接し,この電極に酵素を固定化する構造の電極を考案し,この方式によるグルコースオキシダーゼ電極をつくり,ベンゾキノンまたは酸素をメディエーターとしてこの電極によりD-グルコースがD-グルコン酸に電解酸化されることを確かめた。バイオカタリスト電極を合成用リアクターとして用いる場合につき,グルコースオシダーゼ電極を例にとり,電解電流密度と電解電圧の両面から電気化学的考察を加え,今後の可能性についても論じた。
  • 高村 喜代子, 伊藤 国夫, 楠 文代
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 366-371
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    神経系におけるシナプス伝達が行なわれる場合,シナプス間隙に放出された神経トランスミヅターは拡散によりシナプス後膜に達し,後膜上の受容体部位に結合する。電気化学で取り扱う電極/溶液界面は,電解質溶液と接する帯電表面である点で,シナプス後膜などの生体膜表面との類越性があると考えられている。本報では金電極表面上に吸着し準神軽トランスミッター分子を認識し, その脱吸着挙動をin situに追跡できる実験的方法として光の鏡面反射率測定法を取り上げ,つぎの9種の神経トランスミッターに適用した。(a)γ-アミノ酪酸.グリシン,β-アラニン,ドーパミン,ノルエピネフリン,エピネフリン。(b)アセチルコリソ,グルタミン酸,アスパラギン酸。これらが吸着平衡に達したときの金電極め反射率変化量ΔR/R0を電位に対してプロットすると,得られた曲線は(a)群と(b)群とで明らかに異なる形状を呈した。中枢神経系における作用機構上,(a)群は抑制性の,また(b) 群は興奮性の神経トランスミッターとして機能するといわれている。本報で両群の吸着挙動の相違を捕らえたことは,光反射を利用する吸着分子の認識法が神経系の受容体機構を探る一手法となり得ることを示唆する。
  • 山岸 晧彦, 中村 勇児
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 372-377
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    コロイド状に分散した粘土鉱物(ナトリウムモンモリロナイト)の面上において,吸着した光学活性な金属錯体間の相互作用を電気二色性および円二色性スペクトルの測定によって研究した。
    粘土面上では,錯体は立体選択的相互作用をすることがわかった。また,光学不活性な分子が光学活性な錯体と相互作用し,電子スペクトルに光学活性が誘起されることがわかった。金属錯体. 粘土のイオン交換付加物を吸着体に用いて,不斉合成反応を行なった。
  • 上岡 龍一, 吉野 公繁, 松本 陽子
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 378-385
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ヘキサデシルトリメチルアンモニウム=クロリド(CTACl)を用いたミセル分子集合体反応場で,酵素モデルとして用いたN-ベンジルオキシカルボニル-L-フェニルアラニル-L-ヒスチジル-L-ロイシンが長鎖エナンチオマー基質(N-ドデカノイル-D-および-L-フェニルアラニン=p-ニトロフェニルエステル)の加水分解において,反応種問の有効な二分子間的相互作用にもとつくL-体優位の不斉認識機能を発現することが明確になった。
    そこで,これらの触媒および基質を用いて,ミセル系による立体制御を試みたところ,(1)臨界ミセル濃度の2倍量以上で安定で大きな立体識別を可能にし,(2)長鎖エナンチオマー基質の鎖長(C12)や構造(ベンジル基)に対し,適切なアルキル長鎖(C16)およびヘッドグループ(ベンジル基)をもつ界面活性剤が鏡像異性体速度比(kLa,obsd/kDa,obsd)をいちじるしく大きくし,さらにキラリティーを有する(-)-ヘキサデシルジメチル[(S)-α-メチルベンジル]アンモニウム=プロミドは速度比(L/D)を58倍にまで高めた。また,(3)CTAClミセルとジヘキサデシルジメチルアンモニウム=クロリド(2C16N2c1Cl)ベシクルの混合比を系統的に変えたところ,23mol%CTACl/77mol%2C16N2C1Cl混合比で分子集合体の大きさが最大となり,同時に立体識別をもっとも大きくすることができた。以上のことは, 動的平衡にあるやわらかなミセル反応場を用いても立体識別に有利な触媒-基質の配向性を微調整できることを実証した興味ある知見である。
  • 伊藤 眞人, 加藤 淳一, 露木 美穂, 遠藤 忠
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 386-390
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    置換基の形の類似性を定量的に表わすためのパラメーター(SI)は,1対の置換基を空間内で重ねたときに,たがいに重なり合う程度として定義できる。SI値を計算するためのプログラムを開発し,1対の会合性チオールの置換基問でのSI値と,チオールの酸化反応の選択性(分子識別の尺度)との関係を調ぺた。高い選択性を与える置換基の組み合わせのときに,SI値も大きくなる傾向のあることが明らかになった。選択性は,チオール聞の反応性の差や溶解度差には依存しない。また選択性を,チオールの置換基の電子的効果,立体効果および疎水性で説明することはできない。これらの結果は,「識別に関与する置換基の三次元的な形がたがいに類似しているときに,より特異的な分子識別が起こる」という"類似性識別仮説"を支持している。
  • 上野 雅晴
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 391-396
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    テトラナクチン-イオン複合体形成の熱力学的パラメーターを,赤外またはNMRスペクトルの解析およびマイクロカロリメーターによる直接熱測定などにより算出した。複合体形成にともなう配座エネルギー変化にイオンの脱溶媒和エネルギーの寄与を加えることにより,基本的には複合体形成エンタルピーが説明されることを示した。各イオン複合体によるエンタルピー変化の順序が,自由エネルギー変化の順序に一致していることから,テトラナクチンのイオン選択性にエンタルピーの寄与の大なることが明らかとなった。Na+のような小さいイオンや,Ba2+のような二価のイオンでは,K+やRb+にくらべて相対的に脱溶媒和の寄与が大になりそれにともなうエントロピーの正への寄与も相対的に大きくなることが理解された。NH4+では結合様式が他のイオンと異なることも関係して,複合体形成に対しエンタルピーの寄与がより大であった。テトラナクチンの配座エネルギーとイオンの脱溶媒和エネルギーが同程度の値をもつことから,テトラナクチンのイオン選択性は,基本的にはこの両者により決定されることが結論される。
  • 井沢 一, 吉川 信一, 小泉 光恵
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 397-399
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Eu3+ and Tb3+ intercalations were studied on layered titanic acids. H2Ti307, H2Ti409. H20, and their alkylammonium complexes in aqueous chloride solutions. The lanthanoid ions were taken up into the alkylammonium complexes but were not detected in the products obtained directly from H2Ti307 and H2Ti409. H20. The interlayer alkylammonium ions were quantitatively exchanged with hydrated Eu3+ and Tb3+ ions during the reactions. The layered Eu titanate showed red luminescence under excitation at 400 nm and the Tb titanate emitted green luminescence by 380 nm excitation. The luminescence spectra of the Eu titanates are discussed in relation to the crystal structure of titanates.
  • 小宮山 真, 平井 英史
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 400-401
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Solubility (30mg.cm-3) of α-cyclodextrin in water at pH7 and 30°C in the presence of the equimolar amount of adamantane-1-carboxylate [1] is much smaller than that (170mg.cm-3) in the absence of 1. In contrast, solubility of β-cyclodextrin (65mg.cm-3)in the presence of [1] is larger than that (21mg.cm-3) in the absence of 1. The enhancement of solubility of β-cyclodextrin by [1] is ascribed to the conformational change of β-cyclodextrin by the inclusion of bulky [1] into its cavity, which promotes the interactions between the hydroxyl groups of β-cyclodextrin and the solvent water molecules.
  • 横山 茂之, 神田 大輔, 宮澤 辰雄
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 402-404
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    The 400-MHz 1H-NMR spectra of L-isoleucine were measured in the presence of Escherichia coli isoleucyl-tRNA synthetase (IleRS). Because of chemical exchange of L-isoleucine between the free state ang the IleRS-bound state, transferred nuclear Overhauser effect (TRNOE) was observed among proton resonances of L-isoleucine. The IleRS-bound L-isoleucine was found to take the gauche+ form about the Cα-Cβ bond and the trans form about the Cβ-Cγ1 bond. The TRNOE analysis is useful for studying the amino acid discrimination mechanism of aminoacyl-tRNA synthetases.
  • 南後 守, 木村 吉晴, 伊原 靖二, 黒木 宣彦
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 405-407
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Stereoselective hydrolysis of amino acid p-nitrophenyl esters was examined for poly (ethylenimine) derivatives with covalently-linked dipeptide containing a histidyl residue in the presence of copper(II) ions. Added copper(II) ions influenced both the rate constant and the ratio of stereoselectivity in the hydrolysis of the chiral esters by poly(ethylenimine)derivatives (Ia and Ib) depending on the nature of the esters and the modified polymers. Added copper(II) ions caused to increase the rate of the reaction, but no significant effect on the stereoselective preference for the quaternized polymer (Ib), indicating the action of copper(II) ions in the hydrolysis of the esters as catalyzed by a histidyl residue on the polymer.
  • 清水 岡夫
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 408-415
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    膜の本質的機能は,被透過体の認識による選択的な透過による分離と,それを輸送に結びつけた機能としての能動的輸送にある。この被透過体の認識を積極的に利用した膜として,キャリヤー膜があり,それは単に被透過体の選択的透過のみならず,能動的輸送をも可能にする。また,それには流動キャリヤーと固定キャリヤー膜とがある。これらの機能発現の原理とキャリヤーの認識機能を考察し,それぞれ,ガリウムの選択的能動輸送ならびにアルカリ金属イオンの選択的能動輸送の具体例を示した。一方,膜の機能展開に対して,被透過体を従来の分子やイオンから電子や光子へ拡張し,対象相を従来の気相や液相から固相へ拡張する必然性を考察し,さらに,認識機能の情報変換への具体的応用として,電子伝導の可能なマトリックスとして考えられる高分子導電膜への機能分子の埋め込みによってできるキャリヤー固定導電膜の合成法と,その膜による新たな機能を展望した。
  • 村上 幸人, 菊池 純一, 松浦 猛夫
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 416-422
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    種々の疎水性ゲスト分子に対してinduced-fit型の包接特性を示すホスト分子である,N,N',N'',N'''-テトラキス(10-カルボキシデシル)-2,11,20,29-テトラアザ[3.3.3.3]パラシクロファン-1,12,19,30-テトラオン(以下APC(C10CO2H)4と略記する)を,AF-アミノトヨバール650にアミド結合で導入したクロマトグラフィー用充填剤を調整した。溶離液としてメタノールと炭酸緩衝液(0.01mol.dm-3,pH 10.0,μ0.10(KCl))の混合溶媒を用い,均一水溶液中におけるAPC(C10CO2H)4の包接挙動が明らかにされている6種類の疎水性ゲスト分子の分離特性を明らかにした。AF-アミノトヨパール650のアミノ基をすべてアセチル化した充填剤と比較した場合に,APC(C10CO2H)4の包接特性を反映して静電相互作用と疎水性相互作用による新たな分離挙動が認められた。「タコ」形アザシクロファンをAPC(C10CO2H)4の構造形態で担体に直接導入するよりも,その炭化水素鎖末端の4個のカルポキシル基のうち3個をメチルエステルとして保護して樹脂に固定化することによって,より効果的な分離機能が発現された。
  • 菊池 裕嗣, 片寄 雅弘, 新海 征治, 真鍋 修, 梶山 千里
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 423-429
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    水面展開法により厚さ数10nmの高分子/液晶/アゾ置換クラウンエーテル三元複合薄膜を調製した。複合薄膜中の液晶と高分子の凝集構造を透過型電子顕微鏡観察により検討した。膜構造は展開溶媒種と展開溶液中の溶質濃度に顕著に依存することが明らかとなった。複合薄膜中では液晶が薄膜内を貫通する連続相ドメインを形成しており,その液晶相中にアゾ置換クラウンエーテルが良好に分散することが熱的挙動から明らかとなった。また,液晶中でアゾ置換クラウンエーテルが可逆的に光異性化することを紫外吸収スペクトル測定から確認した。この複合薄膜を数10枚積層することにより厚さ1~2μm程度の自己支持性の膜を調製し,K+透過の光応答性を検討した。その結果,光によるK+の促進輸送と光とpH勾配による能動輸送が確認された。さらに,得られた結果に基づき,輸送機構を考察した。
  • 中辻 洋司, 坂本 雅之, 岡原 光男, 松嶋 健兒
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 430-434
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ジクロロメタン層を液膜とするLi+,Na+,K+イオン共存下での競争輸送系において,オクチルおよびドデシルモノアザ15-クラウン-5のピクリン酸塩が,すぐれたNa+/K+,Na+/Li+選択性を有するpH制御可能な新しい型の能動輸送剤であることを見いだした。なかでも放出層側への親油性陰イオンの漏れがほとんど検出されない事実は,このイオノホアがカルボン酸型イオノホアと輸送機溝が異なるにもかかわらず,原理上同じ働きをしていることを示している。カルボン酸型イオノホアと比較して,親油性陰イオンの存在が有利に作用する点とイオノホアの構造が単純で合成しやすい点に特徴がある。一方,モノアザ18-クラウン-6誘導体においては,K+/Na+選択性を示した。また,ラリアートエーテル化することにより,錯形成能の上昇を反映して抽出率は増加するものの輸送速度はほとんど変わらず,逆に陽イオン選択性は低下することが認められた。本能動輸送系の開発により錯形成に関与する部位にpH制御可能な基を有してさえいれば,比較的低い錯形成能しかもたないホスト化合物であっても効果的な輸送が可能であることが明らかになった。
  • 岡本 佳男, 毛利 晴彦, 中村 雅昭, 畑田 耕一
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 435-440
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    光学活性なポリ(メタクリル酸トリフェニルメチル)(PTrMA)を3種の異なる方法で大孔径シリカゲルに化学結合させ,高速液体クロマトグラフィー用のキラルな充填剤を調製した。その結果,メタクリル酸トリフェニルメチルとメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルとのブロック共重合体を用いるともっとも多量のPTrMAをシリカゲルに化学結合できることが明らかになった。メタノールを溶離液に用いた場合の種々のラセミ体に対する光学分割能は,従来までのPTrMA担持型充填填剤と類似していた。また,この化学結合型充填剤ではPTrMAが溶解するテトラヒドロフランやクロロホルムといった溶離液も使用可能であった。クロロホルムを溶離液に用いて,(±)-PTrMAを(+)体と(-)体に部分的に光学分割することができた。また,ラジカル重合で得られたポリ(メタクリル酸ジフェニル-2-ピリジルメヂル)も光学分割でき,このポリマーがらせん構造を有していることがわかった。化学結合型充填剤はGPC用の充填剤としての性質も有していた。分子量数千から百万までの単分散ポリスチレンを分析すると,分子量の対数値と溶出時間との間によい直線関係が得られた。
  • 山下 順三, 北 弘志, 多田 万里, 沼倉 孝, 橋本 春吉, 高井 信治
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 441-445
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    11-アミノウンデシル基を化学結合したシリカゲル担体を合成した。これにより光学活性アミノ酸,アミン類をシリカ表面と長い橋かけ鎖をへだてて結合した光学活性固定相が容易に得られることになった。そこで N-(2-ナフトイル)-L-ロイシンおよび N-(3,5-ジニトロベンゾイル)-D-フェニルグリシンを,上記アミノシリカ担体に結合した固定相を合成し,従来の橋かけ鎖の短い 3-アミノプロピルシリカ担体に結合した固定相と比較検討した。N-アシルアミノ酸ブチルエステルでは,いずれの場合も橋かけ鎖の長い方が分離係数は大きく, とくにロイシン,イソロイシン,フェニルアラニンでは顕著であった。N-(2-ナフトイル)-L-ロイシン-11-アミノウンデシルシリカ固定相を用いると N-(3,5-ジニトロベンゾイル)-イソロイシンブチルエステルは,イソロイシンおよびアロイソロイシンそれぞれ2種の異性体が完全に分離でぎた。しかし,ビナフチル類の分離では橋かけ鎖の短い固定相の方が,むしろ効果的で,シリカ表商による立体障害以外の複雑な因子が,分離機構に関与していることが示唆された。
  • 石原 一彦, 鈴木 七美, 松井 清英
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 446-451
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    高分子膜を透過させることによりDL-アミノ酸を光学分割することを目的として,側鎖に分子包接能を有するβ-シクロデキストリン残基を導入した高分子を合成し,これから得られる高分子膜のアミノ酸透過性を検討した。フェニルアラニンを透過させた場合,L-体の透過速度がD-体にくらべて大きく,その透過係数比は1.40であった。トリプトファン,ヒスチジンを透過させた場合も同様の傾向となった。また,シクロデキストリン残基のかわりにグルコース残基を有する高分子膜を用いた場合は,アミノ酸の光学異性体間で透過係数に差は認められない。さらにβ-ジグロデキストリンを橋かけした樹脂に対するフェニルアラニンの吸着量は,L-体にくらべてD-体の方が多くなる。これらのことから,シクロデキストリン残基とアミノ酸とが高分子膜中で相互作用し,とくにD-体との相互作用が強いため拡散性が抑制され,透過係数に差が生じたと考えられる。また,DL-アミノ酸を透過物質として光学分割を試みたところ,膜透過とまりL-体が濃縮きれ,フェニルアラニンの場合,その組成比はL/D=61.7/38.3となった。
  • 吉規 正和, 塩田 淳, 讃井 浩平, 緒方 直哉
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 452-455
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    種々の分子量の異なる二官能性ポリ(オキシエチレン)をトリス(4-イソシアナトフェニル)メタンにより橋かけしたヒドロゲル膜を調製し,その膜の限外濾過特性としての透水性,分子量分画特性について検討した。その結果,得られた膜は,55~85%の水を膜内に含有しており,自由水と不凍水の2種類の状態の異なる水が存在することを,示差走査熱分析,核磁気共鳴による水の1Hのスピン-格子緩和時間の結果から明らかにした。この膜の分子量分画特性は鋭く,中低分子量物質とタンパク質領域とを分画し,血漿濾過用の膜素材として有望であることを明らかにした。
  • 田中 耕一, 戸田 芙三夫
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 456-459
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    シアノヒドリン〔2〕がブルシンと錯体をつくり,一方の光学活性体へ変換されることを見いだした。たとえば,(±)-1-シアノ-2,2-ジメチル-1-フェニル-1-プロパノール〔2a〕をメタノール中ブルシンで処理すると,94%eeの(+)-〔2a〕へ定量的に変換された。同様な方法で,(+)-〔2b〕,(+)-〔2c〕,(-)-〔2d〕,(-)-〔2e〕,(+)-〔2p〕および(-)-〔2u〕も得られた。
  • 木庭 秀明, 土井 由佳, 西梶 隆, 緒方 直哉
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 460-462
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Polystyrene-based adsorbents incorporating several poly(α-amino acid)s have been synthesized and evaluated for the resolution of (RS)-5-isopropylhydantoin in order to elucidate the effect of side chain length of the immobilized poly(α-amino acid)s on the resolution efficiency. Of the four adsorbents evaluated, poly(N5-benzyl-L-glutamine)-incorporated adsorbent demonstrated the highest resolution efficiency, presumably in consequence of the most suitable size and the appropriate rigidity of the recognition site.
  • 相澤 益男, 碇山 義人
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 463-471
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    バイオアフィニティーの低い分子複合体レセプターと酵素増幅作用を利用したバイオアフィニティーセンサーを考案し,ビオチン(ビタミンH),チロキシン(T4),あるいはインスリンなどの生理学的,生医学的に重要な物質の測定を行なった。バイオアフィニティーセンサーの分子認識レセプターは,heterologous recognitionと homologous recognitionに分類され,heterologous recognition型のバイオアフィニティーセンサーには,膜結合測定対象アナログ物質と酵素標識結合タンパク質または抗体との分子複合体レセプターが利用されている。一方,homologous recognition型にはアナログ物質に代わって測定対象物質そのものが用いられる。ビオチンは,2-(4-hydroxyphenylazo)benzoic acrd (HABA)またはリボ酸をアナログ物質とし,アビジンを結合タンパク質として用いたheterologous recognitin法では,電流測定によって10-9~10-7g.ml-1の濃度範囲で測定できる。homologous recognition法で,チロキシン(T4)の測定を10-8~10-5g.ml-1の濃度範囲で行なうことができる。インスリンはオプトエレクトロニクス法で10-8~10-6g.ml-1の濃度範囲の測定が可能である。heterologous,homologous recognitionの両法を適用することができる。
  • 水谷 文一, 阿部 さつき, 吉田 忠雄
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 472-476
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    パラジウムを真空蒸着した水晶発振子を用いて不活性ガス中の水素の検知を試みた。この水素ガスセンサーはパラジウム薄膜への水素の吸収による素子の質量変化に比例した発振周波数の変化を出力として取りだすものである。本素子の室温における応答および回復にやや時間がかかるものの,水素分圧は250~5000ppmの範囲で周波数変化(出力ΔF)と比較的よい直線関係を示した。水素検出に影響を与えるパラメーターとして,流量(100~500ml/min),温度(25~100℃)の影響について調べた結果,キャリヤーガス流量の影響はほとんど見られず,温度については高温側で感度が減少するが,応答時間,回復時間は短縮され良好となる。また,水素に対する選択性も高い。
    水素吸収,放出サイクルの再現性は優れており,水素の吸収,放出の速度は薄膜に吸収されている水素に対して一次の式に回帰できることが確かめられた。これは表面移動過程が水素の吸収,放出において律速段階であると考えると説明できる。
  • 中村 吉伸, 鶴谷 毅, 宮山 勝, 岡田 治, 河本 邦仁, 柳田 博明
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 477-483
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    P型半遵体であるCuO,Nio焼結体とn型半導体であるZnOとを接触させてpnヘテロ接合(著者らはこれをpnヘテロ接触と呼ぶ)を作成し,接触面を通過する電流の可燃性ガス(CO,H2,C3H8など)の存在による変化を観測した。電流は可燃性ガスの存在により増大し,CuO/ZnO系のヘテロ接触を用いた場合は,温度260℃,印加電圧+0.5Vのとき,一酸化炭素(CO)ガスに対して高い感度を示し,水素(H2)ガスやプロパン(C3H6)ガスとの識別が可能となった。可燃性ガスが接触界面に作用すると,界面の容量増大,P型物質-n型物質問の電位差消失という現象が観測された。電流増大のメカニズムとして,これらの結果から,1)吸着酸素の脱離によるZnO表面のエネルギー障壁の低下。2)P型物質表面へのガスの化学吸着によって生じる界面準位を経由する電流輸送。の二つが推定され,実際にはこれらが同時進行しているものと思われる。後者の機構を考えることにより,特定ガスに対する高選択性ガスセンサーの構成の可能性が示唆された。
  • 鋤柄 光則, 會川 義寛, 木村 誠宏, 大川 祐輔
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 484-488
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    高分子イオン交換体Nafionを接合した半導体(n-SnO2)のイオンセンサーとしての性質を調べた。このセンサーは,アノードパイアス下で形成された空乏層の厚みを溶液組成によって変化させることで半導体の表面コンダクタンスを変化させるものである。Nafion中の交換性陽イオンをFe3+にイオン交換した電極のフラットバンド電位は,溶液中のFe3+イオン濃度によって20mV/decadeで変化したきヒが,溶液のpHには依存しなかった。この結果は,半導体を一定電位にたもった場合でも表面電位は溶液組成によって変わり,したがって空乏層の厚みが変化することを示している。一定電位下で測定した電極のコンダクタンスは溶液中のFe3+濃度によって変化し,イオンセンサーとして機能することがわかった。このさい,電極電位を小さくすると感度が上がったが,0.4V(対銀/塩化銀電極)前後からFe3+イオンの還元にともなう電流が半導体から溶液に流れでる現象が観測された。この電流もセンサー信号として扱えることがわかった
  • 宇都 正幸, 菅原 正雄, 梅澤 喜夫
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 489-494
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    キャリヤー含浸ナイロン膜を用いた上り坂輸送膜センサーを試作した。ナイロン膜をいわゆる界面重合法により下地電極上に直接重合成膜した。下地電極とナイロン膜の間の小さな隙間(40μl以下)に適当な溶液を満たし,上り坂輸送膜センサーの受容溶液とした。ナイロン膜には有機溶媒に溶かした適切なキャリヤーを含浸した。典型例として,ナイロン膜にメチルトリオクチルアンモニウム=クロリドを含浸し,図2に示すようなカドミウム(II)上り坂輸送膜センサーを作成した。本センサーは,カドミウムイオンの見かけの濃度を試料溶液の数十倍にそれ自身で高めることができた。この場合,重合後にナイロン膜と下地電極の間の閉鎖空間に残った溶液に溶けているモノマー(1,6-ヘキサンジアミン)をカドミウムイオンをナイロン液膜の内部溶液側へ逆抽出する配位子として使用できた。ナイロン膜を使用するアプローチの利点は内部受容溶液を非常に小さくすることができるのでセンサーの増感効果を増大させる。また,ナイロン膜をできうるかぎり薄くして応答晴間を短くすることが望める。
  • 中田 聡, 吉川 研一, 石井 淑夫
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 495-501
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    油水二層を接触させると,界面を通しての物質移動にともなって界面が揺れ動く現象がある。この現象はMarangoni効果と呼ばれ,一般に界面活性剤存在下では起こり難いものとされてきたが,10年余り前にDupeyratらは,界面活性剤存在下でも,界面がゆれ動く現象を見いだした。著者らの研究塞では,彼らの実験系を改良することにより,カチオン界面活性剤を含む油-水二層系,あるいは水-油-水三層系で電位の自発的かつ持続的な発振が生じる条件を見いだし,すでに報告した。今回,アニオン界面活性剤を用いた場合にも油水界面電位が,自発的な振動を起こすことを見いだした。このことは,界面の発振現象が,非常に特殊な条件下で生じる現象ではなく,かなり一般的に起こる現象であることを意味している。振動の機構についても簡単に議論した。
  • 仲川 勤, 内田 利久
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 502-506
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    気体透過性でかつ酵紫固定に適するL-ロイシン-N5-ベンジルオキシカルボニル-L-リシン(7:3)の共重含体を合成し,この溶液にグルコースオキシダーゼを分散させ,スピンキャスト法により1μmの厚さの酵素固定膜を得た。ついで,酸素透過性がもっとも高く溶媒に可溶性のポリ(4-メチル-1-ペンテン)あるいはポリ[1-(トリメチルシリル)-1-プロピン]を酵繁固定膜を補強する目的で酵素固定薄膜上に15~40μmの厚さの膜をスピンキャスト法により製膜した。酵素はこのアミノ酸共重合体の薄膜に均一に分布していることが認められた。酸素電極法によるこれらの膜の酸素透過速度は高いことを示した。ついで,この酸素電極の陰極に酵素固定複合膜を密着させ,グルコースセンサーとした。グルコース存在による減少電流の大きさは酸素透過速度と密接な関係がある。本研究で得た複合膜のグルコースに対する応答時間は20~30秒であり,また,2.0×10-1~1.8×103mg.l-1の範囲で電流減少値とグルコース濃度の対数の間に直線関係が認められ,3.6×10-2mg.l-1の濃度のグルコースを検出することも可能であった。このセンサーのグルコース存在による減少電流は3か月の使用後でも再現性が認められた。
  • 海田 章一郎, 石田 睦, 伊藤 要, 市川 健次, 湯川 孝雄, 大倉 國利, 中尾 昭公, 市橋 秀仁, 近藤 達平, 小島 洋彦
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 507-511
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    人工膵臓用グルコースセンサーのグルコース透過制限膜としての酢酸セルロース非対称膜を種々の酢酸セルロース濃度のキャスト液から製膜し,また60~90℃ の各温度で熱処理して調製した。これらの膜のグルコースに対する透過係数,Pm,を同期回転翼を備えた回分式透析器を用いて測定した。一方,グルコースセンサーに膜を装着して,その検量線を測定した結果と比較した。人工膵臓用グルコースセンサーに適する膜の透過係数の値は,1.0×10-6cm/s付近であることがわかった。この膜を装着したグルコースセンサーは,ヒト血漿中でも3時間にわたり安定に,また正確に応答し, 生体への適用性を示唆した。
  • 宮内 光平, 沢村 邦夫, 民谷 栄一, 軽部 征夫
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 512-517
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    デキストラナーゼは,虫歯予防用成分として歯みがき剤に添加されている。この酵素の活性は,従来は生成する還元糖を定量する方法で測定されていたが,前処理などの煩雑な操作が必要であった。そこで著者らは,グルコシダーゼとグルコースオキシダーゼおよび酸素電極を組み合わせることにより酵素センサーを製作し,短時間に精度よくデキストラナーゼの活性を測定する方法について検討した。まず,本酵素センサーの至適pH,至適温度について測定したところ,pH5.9,35℃ が最適であった。1%デキストラン溶液に酵素センサーを挿入し,各種濃度のデキストラナーゼ溶液を添加したところ,電流値の減少がみられた。そこでこの電流変化速度を指標とし,デキストラナーゼ活性と電流値の関係をプロットすると20~300U/mlの範囲で直線関係が認められた。さらにデキストラナーゼ標準溶液(130U/ml)を用いて9回くり返して活牲を測定した結果, 変動係数は1.88%と再現性も良好であった。また本酵素センサーは製作してから約1カ月間にわたり安定な応答値を示した。さらにデキストラナーゼ配合製剤に本センサーを適用したところ,従来法で測定した結果との相関係数は0,99以上で,よく一致し,測定時間は1/3以下に短縮することができた。
  • 松永 是, 重松 明典
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 518-523
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    抗生物質感受性および耐性の大腸菌を各抗生物質(アンピシリン50μg/ml,テトラサイクリン20μg/ml)を含む培地で37℃で1時間放置後菌体をメンブランフィルター上に取り, これを B.P.G. 電極表面に装着し, サイクリックボルタンメトリーを0~1.0V(vs.SCE)の範囲で行うと, そのピーク電位および波形から抗生物質感受性菌と抗生物質耐性菌の識別ができることが明らかになった。抗生物質感受性菌のピーク電流値は抗生物質の濃度の増加とともに減少した。一方,抗生物質耐性菌から得られるピーク電流値はアンピシリンの場合はわずかに減少するがテトラサイクリンの場合はほぼ一定であった。また, ピーク電流値は初期菌数の増加とともに増加した。これらから, サイクリックボルタンモグラムのピーク電流値から抗生物質感受性菌や耐性菌の識別ばかりでなく,菌数や最小発育阻止濃度の指定が可能であることが示された。抗生物質感受性および耐性菌の電気化学的な識別において,細胞内の CoA が電極反応に関与してしていたことが明らかになった。
    実際に大腸菌の各種の抗生物質に対する最小発育阻止濃度を電極で求めたところ,従来のコロニー法で求められている最小発育阻止濃度範囲に入っていた。
  • 牧野 圭祐, 佐々木 一郎, 上西 徹, 武内 民男, 原 一郎, 海野 益郎
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 530
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    本研究は心筋梗塞に密接に関連する血中リポタンパクサブフラクション中のコレステロールエステル含有量を測定するための自動臨床分析法の開発に関するものである。具体的には,リポタンパク中のコレステロールエステルに反応し, 最終的に過酸化水素を生じるコレステロールエステルヒドラーゼ(CEH)およびコレステロールオキシダーゼ(COD)を,リポタンパクと相互作用のない排除クロマトグラフィー用ゲルに固定化し,これをバイオリアクター型検出器として,リポタンパク分離用の排除クロマトグラフィー用カラム後方に接続した。CEHおよびCODはグルタルアルデヒドをスペーサーとして用いることで固定化できた。このシステムで生成した過酸化水素をオンラインで発色することで,550nmに吸収極大をもつキノンジイミン色素を生成し,これをモニターしたところ,低密度および高密度リポタンパクに由来するピークを得た。この溶出挙動は,過去に報告されたCEHおよびCODを水溶液発酬として消費する方法によって得られた結果とよい相関をみた。またピークの溶出容量,理論段相当高,面積を詳細に検討したところ,これらが本研究の目的である高脂血症の型の認識を可能にすることを見いだした。以上のように本研究は,今日の最大死因の一つである心筋梗塞を予知し,また治療経過をモニターするのに大きな可能性をもつ方法を提供するものである。さらに本研究で得たバイオリアクター型検出器は血中リポタンパクを選択的に(特異的に)検出するものであり,「分子認識とその応用」とい今回の課題に適合するものである考える。
  • 水谷 文雄, 津田 圭四郎
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 531-533
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Two kinds of immobilized enzyme layers, one containing NADH oxidase (layer I ) and the other, NADH oxidase and alcohol dehydrogenase (layer II), are prepared and are separately combined with Clark oxygen electrodes. The resulting enzyme electrodes are used for the determination of NADH. The detection limits are 2 μmol.dm-3 for the electrode with the layer I and 20 nmol.dm-3 for that with the layer II in the presence of ethanol. The amplification of electrode response obtained through the cyclic enzymatic reactions between NADH and NAD+ brings about the high sensitivity in the latter system.
  • 国武 豊喜
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 534-542
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    合成二分子膜はさまざまなタイプの化合物から構成されうる。生体脂質と同様な二本鎖型両親媒性化合物に留まらず,三本鎖型化合物や剛直部位をもつ一本鎖型化合物,その他の型の化合物などがある。これらの化合物はいずれも通常の界面活性剤分子の合成法に準じて容易に合成できる。これらの化合物の水分散液については電子顕微鏡観察,示差走査熱量測定,分子量測定を行ない,二分子膜構造の形成を確認することができる。合成二分子膜は生体脂質二分子膜と基本的には同一の物理化学的特性を示すので,分子認識システムを構成するのに有利である。膜表面の特異的な構造は特異的な色素結合部位を与える。また膜表面親水基と分子.イオンとの相互作用かち生ずる分子配向性や相分離状態の変化をスペクトル的に検出し,分子認識を行なうことができる。
  • 伊原 博隆, 福本 尚徳, 平山 忠一, 山田 仁穂
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 543-549
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    末端に2個の長鎖アルキル基をもつポリ(L-グルタミン酸)およびポリ(L-アスパラギン酸)誘導体を合成し,希薄水溶液中での会合形態を調べた。これらのポリアミノ酸は超音波照射によってpH4以上の水に分散し,厚さ30~60Aの一重層二分子膜からなるらせんを巻いたリボン状あるいはひも状会合体や中空棒状会合体を形成することが電子顕微鏡観察によって明らかになった。形態は親水部の化学構造と密接な関係にあり,アミノ酸残基のメチレン数やキラリティーによっていちじるしく異なった。これに対して,親水部にポリアミノ酸をもたない相当するアンモニウム化合物や重合度の小さい化合物ではらせん状形態は観察されなかった。一方,ポリ(L-アスパラギン酸)誘導体の場合,水溶液中で顕著な形態変化が観察された。いくつかの重要な中問的会合形態の発見によって, ポリ(L-アスパラギン酸)誘導体から形成されるらせん状超構造体は,熟成によって生じる直径150A以下の細長い繊維状会合体から二重あるいは多重らせんが形成されることによって発生するものと結論した。
  • 渡辺 均, 奥山 健二, 小沢 裕, 平林 潔, 下村 政嗣, 国武 豊喜, 安岡 則武
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 550-555
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    一本鎖型両親媒性化合物であるアゾペンゼン構造を含むアンモニウム塩(C6AzoC5N+B-),C27H42.N303Brの結晶構造をX線回掛法により決定した。結晶は三斜晶形の空間群P1に属し,Z=2,a=2.7446(9),b=0.8592(1),c=0.6112(1)nm,α=106.91(2),β=87.05(2),γ=93.18(4)° である。構造は直接法により解かれ,対角近似の最小二乗法により精密化され,3535個の反射(sinθ/λ<0.56)に対してR-値は0.060となった。ほかのアゾベンゼン誘導体と異なり,C6AzoC5N+Br-分子のアゾベンゼン部分は非常によい平面性をもち,ベンゼン環とアゾ基部分の間りねじれ角は2°以内であった。さらに,スペーサーと端末部のアルキル鎖のジグザク面はアゾベンゼン平面と0.1°6.3° それぞれずれているだけであり,分子全体ば長くて薄い板状である。結晶構造はα-軸方向に規則的に積重なった二分子膜からできており,その中でアゾベンゼン発色団は隣接の分子とJ-会合(head-to-tail)している。C6AzoC5N+Br-の詳細な分子,結晶構造は前に解析した同族体であるC12AzoC5N+Br-の構造と非常に類似している。
  • 加納 航治, 浦木 久嗣, 橋本 静信
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 556-562
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    10-(1-ピレニル)デカン酸(PDAと略す)の水中における会合体について,蛍光分光法により検討した。pH5.0の緩衝溶液中,PDAはミクロクリスタルとして分散し,モノマー蛍光以外に,430nm付近に構造のある会合体発光を示した。この系では,PDA会合体からPDAモノマーへの励起エネルギー移動が観察された。一方,pH9.0の水溶液中,低濃度(1×10-6mol.dm-3)領域では,モノマー状態で溶解し,2×10-5mol.dm-3以上のPDA=濃度領域ではミセルを形成した。PDAミセルは,モノマー蛍光のみを示し,PDA会合体からモノマーへの励起エネルギー移動が進行した。臨界ミセル濃度以下の低濃度PDA水溶液に,NaClを添加すると,無蛍光性会合体が生じ,この場合には,PDAモノマーから会合体へのエネルギー移動が起こることが,蛍光の励起スペクトルおよび減衰曲線の測定結果から示唆された。PDA-ステアリン酸混合系においては,水-空気界面に単分子膜が形成され,その累積膜の蛍光スペクトルには,モノマー発光以外に,エキシマー蛍光が観測された。モノマーおよびエキシマー蛍光ともに,その減衰曲線は多成分的で,励起エネルギー移動がやはり進行するものと思われ,累積膜中でも,PDAのピレニル基は,一部不規則な配置をした無蛍光性会合体を形成するものと推論される。
  • 高橋 章友, 椎野 太二郎, 赤池 敏宏
    1987 年 1987 巻 3 号 p. 563-568
    発行日: 1987/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    シランカップリング剤処理したガラス上に運動性の異なる脂質配向膜を調製し,その表面に対するマウスの線維芽細胞であるL-細胞の接着,増殖挙動,および接着機構の解析を行なった。アシル基の炭素数が14であるジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)とアシル基の炭素数が16であるジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)を用いることにより,運動性の異なる脂質配向膜を調製した。37℃ でゲル状態であるDPPC配向膜に対して,L-細胞はいちじるしく高い接着率を示した。また,高い接着率の発現にはCa2+が必須であり,膜タンパク質が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。L-細胞を細胞骨格の機能を抑捌するサイトカラシンB,またはコルヒチンで処理した場合,DPPC配向膜に対する接着率は低下した。L-細胞の増殖率は脂質配向膜の運動性の影響を受けなかった。以上のことから,L-細胞は脂質配向膜の運動性を能動的に認識し接着することが明らかとなった。
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