認知神経科学
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シンポジウムⅠ-02
変性疾患に伴う失語症の臨床像
小森 憲治郎
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2012 年 14 巻 1 号 p. 15-25

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抄録

近年、脳変性疾患に伴う失語症に関して、原発性進行性失語(primary progressiveaphasia:PPA)の主要3 類型について国際臨床診断基準が公表された。今回この診断基準に該当する自験例を提示し、わが国のPPA の臨床像について報告する。左側優位のシルビウス裂周囲の萎縮と血流低下を認めた進行性非流暢性失語(progressive non-fluent aphasia:PNFA)例では、喚語困難と発話失行による発話障害が著明であり、モーラ数の多い単語や文表現に困難が際だった。発話障害に加え仮名書字障害や文レベルにおける軽度の了解障害を認めた。意味性認知症(semantic dementia:SD)例では、頻度や親密度効果が著明な呼称と語理解の障害を呈し、漢字語に選択的な表層性失読を認める典型的な語義失語像を示した。第3 のPPA であるlogopenic progressive aphasia(LPA)に該当する症例では、自発話は流暢であるが、語想起困難のための休止があり、促迫的な発話と自己修正を伴う字性錯語が認められ伝導失語の要素を示した。また復唱障害に加え文レベルの理解障害は他のどの失語型の症例よりも重篤であった。LPA の言語症状は主に言語情報把持能力の低下によるものと推測されるが、すべてをそれのみで説明可能かどうかは今後の検討課題である。PNFA に比べSDとLPA は血管障害による古典的な失語型には分類し難く、脳変性疾患の特徴をより反映していると思われる。今後症例の蓄積により一層の発話特徴の整理が求められる。

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