認知神経科学
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シンポジウムⅡ 社会脳の老化とその障害
社会生活障害としての認知症 アルツハイマー型認知症を中心に
牧 陽子
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2016 年 18 巻 3+4 号 p. 146-153

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抄録

【要旨】2013年に改訂された米国精神医学会の診断基準では認知機能を6領域に分類し、複雑な注意、実行機能、学習と記憶、言語、知覚・運動に加えてあらたに社会的認知が独立した認知領域として認められた。

社会認知とは“他者を知り、自己を知る”脳機能ということができる。“他者を知る脳”の主要な機能である、他者の心的状態を推測する心の理論は、前頭側頭型認知症(FTD)に加えて、アルツハイマー型認知症(AD)でも低下を示すことがメタアナリシスの結果として報告されている。自験例では、コミュニケーションに関して、語用論・ノンバーバルコミュニケーションで重要な表情認知機能もADで低下することを報告している。また、“自己を知る脳”としての自己洞察の一部である病識がFTD・ADを中心に認知症で低下することが報告されている。なお、第三者視点にたって、他者を評価するのが心の理論の働き、自己を評価するのが自己洞察(病識)で、第三者視点に立つという点で共通すると考えられ、認知症でこの心の理論・病識の関連性・連続性がどのように示されているのかの検討が、今後の課題である。

認知症の困難さはMCIの段階から社会認知が低下して、社会適応が困難になる反面、自立が徐々に失われていき、支援を要しより一層、社会的なつながりで生きていくことが求められる点と考えられる。効果的な支援のためにも、心の理論・病識の低下を中心に、社会認知の臨床での適切な評価が望まれる。

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© 2016 認知神経科学会
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