認知神経科学
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会長講演
古典神経心理学を超えて
武田 克彦
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2018 年 20 巻 3+4 号 p. 140-148

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抄録

【要旨】最初に古典神経心理学の歴史的を振り返り、Gallがそれぞれの明瞭に異なる諸機能が大脳の明瞭に異なる脳回が担い、古典神経心理学の発展の先駆けとなったことを述べた。次にWernickeによる立体覚の障害された症例報告を紹介した。この症例報告を例に、古典神経心理学に対する批判をあげてそれにつき考察した。まず数量化や標準化のなされていない検査を用いているという批判につき、今後も質的研究は奨励されるべきとの考えを述べた。多数例の検討が必要であるという批判に対して、新しい診かたと正確な記述を必須とする少数例の検討の必要性を強調した。観察より実験が大事とする点では、今後も臨床的観察から明らかにされた所見を基礎に、実験的さらに解剖学的研究が導かれると述べた。Wernickeの報告後の中心後回の役割についての研究として、岩村らの研究を紹介した。それを受けて中心後回脳損傷例についての筆者らの検討に触れて、このような臨床研究と実験との往復が必要なことを述べた。Wernickeは症例報告例では触知心像が消失していると考察したが、これは現代でも支持される表象説につながる考えである。だがこの表象説に対しては疑義があることを論じた。最後に今後古典神経心理学を乗り越えるには、互いに干渉しあわない情報の流れだけを想定するのではなく、系の全体ないし他の系からの影響を受けることを考慮する考え方を導入する必要性を述べた。

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© 2018 認知神経科学会
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