2023 年 24 巻 3+4 号 p. 87-92
【要旨】 文字や図形の認知に課題を抱える児童の視覚認知過程の弱さが報告されている。このような視覚認知過程の問題に対して、触覚を利用した学習支援が試みられており、学術的な根拠に基づいた効果の検証が求められている。本研究では、視覚性記憶検査であるRey-Osterrieth複雑図形検査 (Rey-Osterrieth Complex Figure Test:以下ROCFT)に着目し、独自に加工した立体図版を作成して触覚学習実験を行った。触覚学習がROCFTの成績向上にどのような影響を与えるかを調べることで、視覚記憶への寄与について検討した。対象者はVision-Haptic群(V-H群)とVision群(V群)の2群に分けられた計52名の健常成人である。1回目再生課題を実施した直後に、V-H群は立体図版を「見ながら触れる」再学習を、V群は通常図版による「見る」再学習を行った。この再学習から24時間後に2回目の再生課題を実施した。ROCFTの得点を従属変数、学習方法の違いによる群と学習の事前事後を独立変数とし、二元配置分散分析を行った。さらにROCF総得点に加えて、図形を3つの下位ユニット(外部、部分、内部)に分けて、ユニットごとの得点も同じ手法で分析した。結果、2群間の交互作用が有意となりV-H群はV群よりROCFT再生成績の向上が大きいことが分かった。V-H群においては、視覚と触覚の2つの手がかりを利用することで、よりROCFの外部形状を中心とした精緻かつ具体的なイメージの形成と表出が可能になったと推測する。触覚-視覚情報の認知的統合が視覚性記憶を促進させる可能性を確かめられた。