認知神経科学
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fMRIでみる読み書きの脳内メカニズム
松尾 香弥子
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2006 年 8 巻 1 号 p. 22-29

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抄録

【要旨】fMRIは高磁場MRI装置を用いた非侵襲的計測法であり、比較方法の工夫によって読み書きの認知処理過程の仮説検証に活用できる。読み書きに固有な脳部位は存在しないかもしれず、むしろ「読む」「書く」といった目的達成のために必要な多くの脳部位が統合的に働いているのであろう。とはいえ読み書きに特徴的な脳活動パターンは存在する。その多くは従来の臨床的知見と重なるが、不一致もある。例えば左角回の損傷により文字処理の障害が起こることはよく知られるが、fMRIでは予想ほどには強い脳活動は計測されない。反対に、紡錘状回中程に読みを含むfMRI計測で活動する部位があり、visual wordform areaと呼ばれるが、この部位の損傷によって文字処理障害が発生することはあまりない。この部位の活動が他の課題でも計測されるなどの理由から、本当に文字処理への特化があるのかどうか議論されている。ところで漢字と仮名の処理は、それぞれ全く異なる脳部位が使われるというよりは、むしろ諸文字全体のために用意されている「仕組み」があり、各文字の特性に応じて、それぞれの脳部位の活動強度が異なるように発達するのかもしれない。またエクスナーの部位(Exner's area)は従来、書字中枢と考えられてきたが、読みにも関連があることが示されている。文字視覚表象と音韻情報との間の変換作業に関与しているのではないかと解釈できる。

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