日本銀行が掲げる 2%物価安定目標の達成には、まだ相応の時間がかかるとみられており、金融緩和の長期化は、財政規律を低下させて最終的には財政従属による高インフレ(財政インフレ)をもたらす、将来の出口の際の国民負担を増大させる、といった懸念が表明されてきた。財政と金融が協調するもとで、積極緩和がもたらすリスクと意義はどのように評価すべきなのだろうか。本稿では、まず財政インフレの懸念について、「マネタリストの不快な算術モデル」に基づき理論的に検討する。いくつかのシナリオを想定して、積極緩和によるメリット(通貨発行益の増大、金利の抑制、経済成長の改善)とデメリット(財政赤字の増加)の両方について比較考量を行い、前者のメリットには政府債務・GDP 比率の伸びを抑制して財政インフレ・レジームへの移行を遅らせる効果があることを定量的に示す。出口の際の財政負担についても、再投資の期間や金利正常化後のバランスシート規模によっては、当初の損失をその後の利益が上回る可能性がある。財政政策と金融政策の協調は、大規模緩和の前提である政府と日銀の「共同声明」で包括的に記されており、今後も堅持していかなくてはならない。