2010 年 72 巻 1 号 p. 54-59
表皮角化細胞は表皮を構成する全細胞の約95%を占める。表皮角化細胞は生涯にわたり分裂増殖しつつ,基底細胞から有棘細胞,顆粒細胞,角質細胞へと分化する。表皮は紫外線など様々な物理的化学的刺激,微生物の影響を常に受けている。このために,角化細胞には表皮のホメオスタシスを保つためのダイナミックな生物活性が賦与されている。我々は,細胞内シグナル伝達・転写活性因子であるsignal transducerand activator of transcription 3(Stat3)の表皮角化細胞における働きを研究してきた。その結果,角化細胞Stat3シグナルが創傷治癒や紫外線からの抗アポトーシスに必要であり,マウスにおいては毛包成長にも関わることが解明された。一方,その過剰あるいは遷延性シグナルが乾癬や皮膚癌の発症に関与することを明らかにした。この講座では,現在まで明らかになったStat3の働きと皮膚疾患,治療を含む将来の展望について,我々の研究をもとにして3編にわたり論説する。