患者:29 歳,女性
主訴:腹部のかゆみを伴う丘疹
現症:第 1 子妊娠 22 週頃から腹部を中心にかゆみを伴う敷石状の丘疹が出現した(図 1 )。出産後,皮疹の程度は軽減するもかゆみが持続するため産後 5 週目に当科を受診した(図 2 )。
診断および経過:当科を初診時,腹部を中心にかゆみの強い紅斑,丘疹の残存を認めた。下腹部から施行した皮膚生検では,真皮浅層の軽度浮腫,浅層から中層の血管周囲性にリンパ球,好酸球の浸潤を認めた(図 3 )。以上の所見,経過から pruritic urticarial papules and plaques of pregnancy(PUPPP)と診断し,フェキソフェナジン内服とジフルプレドナートクリーム外用を開始した。出産から 11 週間後に皮疹は色素沈着を残すのみとなりかゆみも消失した。
患者:31 歳,女性
主訴:頚部,腋窩,鼠径部および臀部の紅斑
既往歴:なし
現病歴:妊娠 36 週に会陰切開を伴う分娩後,感染症予防のためにセファゾリンを投与された。分娩翌日から 37 度台前半の発熱があり,分娩 3 日後より頚部,腋窩および鼠径部に瘙痒を伴った紅斑が出現したため,分娩 4 日後に当院を受診した。
現症:頚部,腋窩,肘窩,鼠径部および臀部に,瘙痒を伴ったび漫性紅斑を認めた(図 1 ~3 )。会陰部に疼痛はなく,明らかな発赤や腫脹は認めなかった。受診時には解熱していた。
血液検査所見:CPR 3.31 mg/dl であったが,肝機能,腎機能,血球数の異常は認めなかった。
細菌学検査所見:膣からの一般細菌培養では,大腸菌(1+)が認められた。
診断:baboon syndrome
治療および経過:セファゾリンは中止とし,フェキソフェナジン塩酸塩 120 mg/ 日の内服,クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏外用をした。紅斑は徐々に消退し,受診 7 日後には色素沈着となった。セファゾリンのパッチテストおよび再投与試験は陰性であった。
患者:68 歳,女性
主訴:体動時における左側顔面の著明な発汗
既往歴:頭部,頚部および胸部の外傷歴はなし
現病歴:約 1 年前から夏季などの気温が高い時期にウォーキングや庭仕事を行うと,左側顔面の著明な発汗を自覚した。体幹や四肢などには症状はなかった。近医の脳神経外科や内科を受診するも原因が不明なため,当院を受診した。
現症:受診時は,とくに顔面の発汗過多や潮紅は認めなかった。また眼瞼下垂や瞳孔の左右差は認めなかった。
血液検査所見:生化学,血球数,FT3,FT4 および TSH の異常は認めなかった。
画像検査:近医の脳神経内科と整形外科での頭部,頚部および胸部 MRI での異常は認められなかった。
ミノール法による発汗テスト:ヨード液と澱粉を顔面に塗った。気温 28 度下で,15 分ウォーキングを施行した。左側顔面に著明な発汗を認めたが,右側顔面にはあまり発汗が認められなかった(図 1 )。
診断:特発性ハーレクイン症候群
治療および経過:塩化アルミニウム水溶液外用,ボトックス注射および神経ブロックを説明したが,経過観察を希望された。
50 歳,男性。化膿性脊椎炎にたいし,初診 20 日前からスルファメトキサゾール・トリメトプリムを内服していた。初診 10 日前に発熱,咽頭痛が出現し,その後,皮疹や口腔粘膜疹が生じたため当科を受診した。初診時,口唇や舌,頰粘膜など広範囲の出血性びらんと躯幹四肢に flat atypical targets を認め Stevens-Johnson 症候群(SJS)と診断したが,顔面は浮腫性に腫脹し,眼囲を避けるようにびまん性の紅斑がみられ,異型リンパ球,肝機能障害,リンパ節腫脹を認めたことから薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome :DIHS)とのオーバーラップを考えた。スルファメトキサゾール・トリメトプリムを中止のうえ,ステロイドセミパルス療法を開始した。入院翌日には解熱したが,呼吸苦,嗄声,嚥下困難,SpO2 低下を生じ,喉頭鏡で著明な喉頭浮腫,びらんを認めたため緊急で気管挿管を行った。パルス療法後は,プレドニゾロン(PSL) 80 mg/日の点滴静注を行い,皮膚と粘膜症状は軽快した。喉頭鏡にて喉頭浮腫の改善を確認し,入院 5 日目に抜管した。その後,PSL 40 mg/日の内服に切り換えて漸減した。経過中に皮疹の再燃を生じたが,全身症状を伴わず,数日で褪色した。以後,皮疹の再燃は生じず,PSL は漸減し中止した。DIHS や SJS において喉頭浮腫を合併することは稀であるが,対応が遅れると致死的となり得るため,発症早期や原因薬剤の中止後には呼吸苦や喘鳴,嗄声などの気道閉塞を疑う症状を見逃さないように注意が必要である。
79 歳,男性。既往歴に前立腺癌があり,10 年前からホルモン療法を受けていた。初診の 4 カ月前からアンドロゲン合成酵素阻害薬であるアビラテロン酢酸エステルを服薬していたが,下腹部を中心に大小の浸潤性紅斑が生じたため当科を紹介され受診した。右鼠径部には小児手掌大で中心治癒傾向のある紅斑を認めるが痒みはなかった。紅斑の辺縁から生検した。表皮基底層には液状変性がみられ,真皮膠原線維間に組織球,巨細胞の浸潤を認め interstitial granulomatous drug reaction(IGDR)と診断した。臨床検査では特記すべきことはなかったがリンパ球刺激試験は陰性であった。被疑薬の休薬によって 5 カ月後には皮疹は消失した。本邦では自験例を含め 6 例の IGDR の報告があり,いずれも高齢者で男女比は 1:1 であった。躯幹を中心に紅斑や結節状の皮疹がみられた。組織学的には膠原線維間の肉芽腫性炎症が共通する所見で,表皮基底層の液状変性と真皮内にムチンの沈着がないという所見が多くの症例でみられた。被疑薬はさまざまで特定の系統への偏りはなかった。
22 歳,男性。介護職,扁桃炎の既往を認めた。13 歳の頃内科にて IgA 血管炎と診断されたが,安静のみで改善を認めた。初診 7 日前より上肢に点状皮疹を認め,当科を紹介され受診した。初診時,四肢に浸潤をふれる紫斑が多発し,病理組織検査で leukocytoclastic vasculitis の所見があり,蛍光抗体直接法で血管壁に IgA 沈着を認め,IgA 血管炎と診断した。尿蛋白,尿潜血は陰性であった。安静およびプレドニゾロン(PSL)20 mg/ 日の内服を開始するも改善に乏しく初診 15 日目に入院し,同日より PSL 50 mg/日へ増量した。入院 9 日目 PSL 40 mg/ 日に減量後,再び紫斑の増悪を認めたため入院 12 日目よりアモキシシリン(AMPC)内服を追加したところ皮疹は改善を認めた。以後 PSL を減量し,入院 34 日目に PSL 27.5 mg/日に減量,退院となった。約 5 カ月後に耳鼻咽喉科にて扁桃摘出術を施行し,その後,皮疹の再燃を認めなくなり約 6 カ月後に AMPC を中止,約 10 カ月後に PSL の内服を終了し,現在に至るまで再燃なく経過している。
31 歳,男性。COVID-19 は未感染であった。初診の 3 週間前に BNT162b2(コミナティ筋注®)の 2 回目を接種した。2 週間前より両下肢に瘙痒を伴う皮疹が出現し,両上肢,躯幹に拡大した。ステロイドの外用と抗ヒスタミン薬の内服で改善せず,皮膚生検して滴状乾癬と診断した。オロパタジン塩酸塩錠の内服とカルシポトリオール水和物・ベタメタゾンジプロピオン酸エステル噴霧剤の外用に変更し,皮膚症状は改善した。海外では新型コロナワクチンに続発する乾癬の新規発症が複数例報告されており,ワクチン接種 1 回目ないしは 2 回目,接種後 1~2 週間に多く,ほとんどの症例が外用を中心とした治療で数日から 2 カ月で症状が軽快し,良好な経過をたどることが分かっている。渉猟した限り,本邦では新規発症例の文献的報告はなかった。コロナワクチン接種にともなう乾癬発症の病態メカニズムも十分に解明されていない。疫学と共に,提唱されているいくつかの病因の仮説について考察した。
81 歳,男性。6 カ月前に口唇の腫脹が出現し,その後,眼瞼周囲の腫脹,オトガイ部皮膚の硬化,眼瞼周囲や下腹部を主体とする紫斑が出現した。血清 IgG,IgA 値は正常値で,IgM 28.2 mg/dl と軽度低下し,D-dimer 6.0 μg/ml と上昇していた。下口唇の腫脹,および下腹部の紫斑からの組織では特異的所見は得られなかったが,再度,オトガイの皮膚硬化部より生検した組織では,真皮全層に direct fast scarlet(DFS)染色で橙色に染色され,偏光下で青緑色を示すアミロイドの沈着を認め,さらに食道・胃粘膜生検でもアミロイドの沈着がみられた。血清蛋白分画では M 成分を認め,血清免疫電気泳動で IgG-λ 型 M 蛋白が確認された。骨髄生検では,CD138 陽性細胞が増加しており,免疫グロブリン軽鎖は λmonotype で,全身性 amyloid light chain(AL)アミロイドーシスと診断した。一般にアミロイドーシスの生検では,いずれの臓器においてもアミロイド沈着が偽陰性となってしまうことがある。また,AL アミロイドーシスでは,血清免疫グロブリン値が高値を示さないこともある。全身に紫斑を呈する疾患にはさまざまなものがあるが,raccoon eyes sign と呼ばれる眼瞼周囲の紫斑や,巨舌,D-dimer の上昇など AL アミロイドーシスに特徴的な所見がある場合には,スクリーニング検査の段階で複数部位から皮膚生検を実施し,血清蛋白分画の評価をすることが大切である。
症例 1:4 歳,男児。右足背に中央が柔らかく隆起し,周囲に馬蹄形の紅色丘疹を伴う局面を認めた。臨床像および生検で皮下型の環状肉芽腫と診断した。4 カ月後に自然消退した。症例 2:2 歳,男児。四肢にわずかに周堤を成す紅斑を認めた。生検で環状肉芽腫と診断した。ステロイド外用により大部分は消退した。症例 3:4 歳,男児。左足背に半円状の紅色小丘疹を認めた。皮下型の環状肉芽腫と臨床診断し,受診時は退縮傾向にあった。ステロイド外用にて消退した。小児の環状肉芽腫は,臨床的に皮下型を呈する頻度が高い。多くは自然治癒するため,診断後は経過観察を検討しても良い。
14 歳,男児。当科に初診の 8 年前に右踵部に有痛性の丘疹が出現し,増数したため当科を紹介され受診した。初診時,右踵部に数珠状に連なる暗紫色の丘疹を認めた。病理組織検査では,真皮内に大小さまざまな血管の増加と,その周囲に立方形の腫瘍細胞や,紡錘形状の平滑筋様細胞の増殖を認めた。免疫組織化学染色では,立方形の腫瘍細胞は desmin 陰性,α smooth muscle antigen(αSMA)陽性であった。紡錘形の細胞は desmin 陽性,αSMA 陽性,caldesmon 陽性でありグロムス腫瘍の 1 種である glomangiomyoma と診断した。グロムス腫瘍は病理組織学的所見と臨床所見に基づいて分類されるが,多発性の glomangiomyoma は稀である。当院で 2007 年から 2024 年までに診断した 19 例のグロムス腫瘍を再検討したところ,glomangiomyoma と診断できるものは 2 例で,多発性は 2 例であったが,多発する glomangiomyoma は自験例の 1 例のみであった。
31 歳,女性。2 年前に左鼻頰溝部に皮下腫瘍が出現し経過をみていたが徐々に増大傾向を示した。前医を受診し皮膚生検が施行され,病理組織学的所見にて隆起性皮膚線維肉腫の診断となり手術加療目的で当科を紹介され受診した。整容的・機能的な面からも再発のリスクについて十分に説明をした上で,水平マージンは 1 cm で,深部は鼻骨,上顎骨を合併切除し遊離皮弁にて再建を行った。術後 1 年が経過し再発は認めず,複数回の修正術を行いながら整容面においても良好な経過をたどっている。隆起性皮膚線維肉腫は臨床的に可能であれば,3~5 cm 程度のマージンでの切除が望まれるが本症例のように整容面・機能面からもマージンの確保が困難な部位に発生する症例も稀ながら経験する。縮小マージンでの切除の適否について過去の症例報告を検索し検討を行った。
90 歳,男性。初診 5 カ月前より,左眉毛部に自覚症状のない可動性に乏しい皮下腫瘤が出現した。近医にて頭部造影 CT 検査を実施され,左眉毛部の皮下に 50×13 mm の内部不均一に増強される皮下腫瘤を認め,精査加療目的に当科を紹介され受診した。皮膚病理組織検査にて,真皮から脂肪組織にかけて非常に大型の鏡像の二核を有する異型細胞を認め,背景に組織球やリンパ球などの多彩な炎症細胞浸潤を伴っていた。免疫組織化学染色で,大型異型細胞は CD3,CD4,CD8,CD20 と ALK に陰性,CD30 と EBER-in situ hybridization(EBER-ISH)に陽性であった。全身検索目的に造影 CT と PET-CT を実施したところ他臓器病変は認めず,随伴する全身症状もなかった。以上よりホジキンリンパ腫様形態を示す EBV 関連リンパ増殖性疾患と診断した。EBV 関連リンパ腫・リンパ増殖異常症はさまざまな組織像を示し,病態は多様である。WHO 分類第 5 版では,さまざまな免疫状態の患者背景に基づいた包括的な分類が提唱されており,今後さらなる症例の蓄積によって疾患概念が明確になっていくと思われる。症例をみる機会は必ずしも多くはなく,診断や臨床的対応に苦慮する場合もあるが,組織像・免疫組織化学・ISH 法を用いた腫瘍細胞の詳細な検索と臨床所見などから,疾患病態を把握してゆくことが大切であると考えた。
4 歳,女児。当科初診の 5 カ月前より頭部に痒みと鱗屑が出現し,近医の皮膚科でステロイド外用治療を行っていた。その後,病変が拡大し脱毛斑を伴うようになり,病変部の鱗屑の直接鏡検にて胞子様菌体が確認され,頭部白癬と診断された。イトラコナゾールの内服を開始したが,気分不快のため継続できず,当科を紹介され受診した。当科初診時,頭頂部に脱毛,断裂毛,黒点,紅斑,鱗屑があり,易脱毛性が観察された。病変部の鱗屑の直接鏡検で,数珠状の分節胞子がみられ,頭部白癬と診断し,テルビナフィン 62.5 mg/日を開始した。菌学的所見と分子生物学的解析から,原因菌を Trichophyton violaceum(T. violaceum)と同定した。同時期に父親も頭部白癬と診断されたが,すでに他院で内服治療が開始されていた。家族内感染を疑い,患児を除く同居家族 4 人について頭部のブラシ培養を行ったが,家族から同菌は検出されなかった。内服を 7 週間行い,内服終了 4 カ月後も再燃はみられなかった。T. violaceum は本邦で検出される頻度は少ないが,海外の地域によっては頭部白癬の主な原因菌である。好人性の皮膚糸状菌で,家族内や施設内の集団感染の報告も多いため,本菌が検出された場合は,ブラシ培養などを用いて,患者周囲の感染状況を確認する必要がある。
Dr. Khalid Garman is a physician-scientist and a Visiting Fellow in the Dermatology Branch at the National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseases (NIAMS). He also serves as an Adjunct Professor at Georgetown University in Washington, DC. After earning his medical degree from the University of Tripoli (Tripoli, Libya), Dr. Garman worked as a physician for a few years before moving to the United States. There, he pursued a master's and PhD in pharmacology from Georgetown University. Following his graduate studies, he joined Dr. Isaac Brownell's lab at the National Institutes of Health as a visiting fellow, where he focused on developing innovative therapies for Merkel cell carcinoma, a rare and aggressive skin cancer.