患者:82 歳,男性
主訴:下顎部の紅色結節
既往歴:前立腺癌,胃癌術後,レビー小体型認知症
常用薬:デノスマブ,ゴセレリン酢酸塩,ドネペジル塩酸塩
現病歴:骨転移を有する前立腺癌患者で初診 5 年前からホルモン治療を,同 4 年前からデノスマブとエンザルタミドを開始された(後者は半年前,家族都合による社会的入院中に処方切れとなり,PSA 値も低値で維持できていたため休薬)。同薬開始時より 3 カ月毎に歯科を併診し,下顎前歯以外は義歯状態で,認知症の進行に伴い義歯,残存歯および口腔内の清掃不良が目立っていた。経過中の PSA 値は正常域であった。同半年前より下顎部左側に紅色結節が出現し増大してきた。結節出現の前後で抜歯歴はなかった。
初診時現症:下顎部に 2 カ所の皮膚陥凹があり,左側には滲出液を伴う径 1 cm の紅色結節があった(図 1 a)。ダーモスコピーでは拡張毛細血管の蛇行がみられた(図 1 b)。
細菌培養検査:黄色ブドウ球菌 2+
病理組織学的所見:紅色結節は炎症性の肉芽組織であった(図 1 c,d)。
下顎部の造影 CT 検査:左右の下顎骨におよぶ皮膚瘻(図 2 a)があり,骨条件では同部の下顎骨の両側に骨膜反応(図 2 b)がみられ,広範なデノスマブ関連顎骨壊死と考えられた。
診断:デノスマブ関連顎骨壊死と続発性の皮膚瘻
治療および経過:ステロイドと亜鉛華軟膏の混合外用とミノサイクリン内服を開始し,7 日間で肉芽は縮小し,周囲の発赤も消失した。本症診断後,担当科と協議の上で症状改善まで当面デノスマブは休薬となった。
患者:19 歳,女性
主訴:全身の瘙痒を伴う皮疹
現病歴:混合性胚細胞腫瘍に対して右付属器摘出術,大網切除術,虫垂切除術を施行後,再発予防目的にブレオマイシン(20 mg/m2),エトポシド,シスプラチンによる BEP 療法を開始したところ,投与開始の 1 週間後に躯幹,四肢に強い瘙痒を伴う皮疹が出現したため当科を受診した。
現症:躯幹,四肢の手の届く範囲で搔破痕に一致した鞭打ち様の紅斑を認めた(図 1)。
治療および経過:抗アレルギー薬内服と very strong クラスのステロイド外用を開始したところ,瘙痒は減少し紅斑は消退したが鞭打ち様の色素沈着が残存した(図 2)。ブレオマイシンによる flagellate hyperpigmentation と診断し,ビタミン C 内服,ヘパリン類似物質クリーム外用を開始し,現在も治療中である(図 3)。
患者:42 歳,女性
主訴:頭部に多発する皮下結節
現病歴:高校生の頃に頭部の皮下結節を 2 カ所自覚した。半年前より増大,増数傾向であったため,精査目的に当科を受診した。
家族歴:父に外毛根鞘囊腫の切除歴があるが,単発か多発かは不明
既往歴:子宮内膜症,虫垂炎
臨床像:頭部に 1~2 cm の下床と可能性良好で弾性硬な皮下結節を計 9 カ所認めた(図 1)。爪病変はなかった。
造影 MRI:頭部に多発する皮下結節を認めた。大きさは最小 7 mm,最大 2.1 cm で,病変は T2W1 で低信号を示した(図 2)。
治療および経過:局所麻酔下に本人が希望した 4 カ所の皮下結節を摘出した。摘出した皮下結節は肉眼的には白色の壁の厚い囊腫であった(図 3)。いずれの病変も病理組織学的所見より外毛根鞘囊腫と診断した。5 カ所の残存病変も切除する方針となった。
病理組織学的所見:囊腫状病変で内部には好酸性の角化物を含んでいた。重層扁平上皮からなる囊腫壁と顆粒層を経ずに角化する外毛根鞘性角化を認めた(図 4 a,b)。多房性の囊腫状腫瘍は認めず,増殖性外毛根鞘囊腫の所見は認めなかった。
室内塵中に生息するダニやダニの糞をアレルゲンとするダニアレルギーは,アレルギー疾患における感作の成立や症状の発現に容量依存的に関わっていることが分かっており,われわれの生活からなるべく排除する必要があるが,実際には極めて排除困難なアレルゲンであり,ダニアレルギーをコントロール困難なものにしている。今回,軽症のアトピー性皮膚炎とアレルギー性鼻炎に罹患した二組の一卵性双生児例に CAP-radioallergosorbent test(以下 CAP-RAST と略す)を実施したところ,食物アレルギーに関しては二組とも同胞間でほぼ同じデータを示したが,ダニに関しては明らかな乖離が認められた。この理由を確かめるべく行った母親に対する問診の結果,母親が室内掃除時に用いる掃除機に対する反応が児によって異なることがわかり,乖離の主要原因と思われた。
32 歳,女性。初診約半年前より臍上部,左大腿,下腿後面に徐々に増大する線状の褐色斑が出現した。近医皮膚科を受診し,線状苔癬などが疑われ当科へ紹介され受診した。臍上部,左下腿後面に Blaschko 線に沿った角化性丘疹の集簇を認めた。皮膚生検において角層の一部錯角化,表皮真皮境界部には中等度のリンパ球の浸潤があり,線状苔癬と診断した。成人発症の線状苔癬の文献的報告は少なく,文献的考察を加えて報告する。
生後 11 カ月より当科で治療継続中の 8 歳,男児。生後 7 カ月で左上腕に BCG 接種を受け,生後 10 カ月より BCG 接種部位に紅色の局面が出現し,その後顔面や躯幹にも同様の皮疹が多発し尋常性乾癬と診断された。外用治療や光線療法を継続し症状は改善と増悪を繰り返していたが,7 歳時に COVID-19 感染後より急激に増悪した。増悪時の Psoriasis Area and Severity Index(PASI)は 28.4 点,Children's Dermatology Life Quality Index(CDLQI)は 18 点となり,学校生活にも支障をきたしていた。現行の治療ではコントロール困難と判断しセクキヌマブ(コセンティクス®)を開始した。開始後 6 カ月で PASI クリア,CDLQI 0 点へ改善し,開始から 1 年以上経つ現在まで再燃や副作用なく経過している。セクキヌマブは 2021 年 9 月,はじめて国内で 6 歳以上の小児乾癬に承認された生物学的製剤である。成人乾癬に対しては多数の生物学的製剤が承認されているが,小児乾癬においてはセクキヌマブが承認されるまでは限られた外用薬や内服薬で治療を行わざるを得なかった。小児患者には精神的合併症を抱える者も多く,治療に難渋する例では交友や進路・職業選択に大きな影響が出ることは想像に難くない。セクキヌマブの承認により,既存の治療でコントロール不良であった小児乾癬患者に新たな治療法を提示できるようになった。小児乾癬患者とその家族は日常的に精神的負担を強いられていることを認識し,必要であれば積極的な治療法を検討すべきである。
62 歳,女性。前頚部に弾性硬の 12 mm の結節を触知した。転移性皮膚腫瘍を疑い全身精査を行うも,原発巣は指摘できなかった。皮膚生検の病理像と免疫組織化学染色で NK1/C3 陽性の腫瘍細胞を認めたことから,Cellular neurothekeoma(富細胞性神経莢腫;CNT)と診断した。局所麻酔下で全摘出を行い,術後半年で再発を認めていない。CNT は多彩な組織像を示し,悪性腫瘍などが鑑別に挙がる場合がある。完全摘出できれば再発のリスクは低い良性腫瘍であるが,症例数も多くはなく CNT の定義や発生については議論が多い疾患である。今回われわれは,CNT の 1 例を経験したので報告する。
76 歳,男性。頭部血管肉腫に対しパクリタキセルによる維持化学療法施行中に右上顎第 1 大臼歯が自然脱落した。同部位歯肉に著明な肉芽様腫瘤を形成しており,生検で血管肉腫の転移と診断した。転移巣切除と,術後放射線療法を施行し,現在口腔内に再発所見は認めない。血管肉腫の歯肉転移は稀であるが,未治療の場合は口腔内の易出血性や摂食嚥下障害が危惧される。今回,積極的に治療介入することで良好な局所コントロールを維持することができた。
81 歳,男性。当科初診 2 年前より当院泌尿器科において膀胱癌,多発リンパ節転移,腹膜播種に対してペムブロリズマブの投与を開始し,1 年前に両側皮膚瘻の増設をした。6 カ月前より両側皮膚瘻周囲に結節の出現があり,当科を受診した。初診時の皮膚生検より,膀胱癌の転移性皮膚腫瘍と診断した。尿路上皮癌に伴う皮膚瘻から皮膚への直接浸潤の文献的報告は少ないため,文献的考察を加え報告する。
40 歳,男性。未治療のアトピー性皮膚炎があった。発熱,全身倦怠感,関節痛により当院内科に入院した。感染性心内膜炎の既往歴があった。入院後精査で,経胸壁超音波検査にて重症の僧帽弁閉鎖不全症を認め,頭部 MRI 検査では急性期脳梗塞所見を認めた。また,血液培養検査では黄色ブドウ球菌が検出され,感染性心内膜炎と診断した。入院時より出現時期不明の手指と手掌の皮疹があり,手指の有痛性紅斑より皮膚生検を施行し,感染性心内膜炎に伴う Osler 結節と診断した。アトピー性皮膚炎を背景とした感染性心内膜炎の発症は稀である。感染性心内膜炎は多くの合併症を引き起こし,死亡することもある重篤な疾患である。急な経過を呈することもあり,原因不明の高熱があるアトピー性皮膚炎患者を診た際には,感染性心内膜炎を念頭に置く必要があると考えた。
42 歳,女性。天ぷら油で両側下腿に 7%のⅠ~Ⅱ度熱傷を受傷した。当初,外来にて通院治療を開始したが,自宅処置が困難と訴えがあり,処置目的に受傷 3 日目に入院した。全身状態は問題なかった。受傷 4 日目に,突然 39 度の発熱,嘔吐,下痢が出現し,わずか数時間で,意識障害,急速な血圧低下,全身の潮紅を認め,多臓器不全となり,集中治療室での管理を始めた。臨床症状と検査所見より toxic shock syndrome(TSS)と診断した。抗菌薬,大量免疫グロブリン投与が奏効し,全身状態は改善した。本症例は,創部培養より黄色ブドウ球菌が検出されたものの,創部に感染徴候はなく,軽症熱傷を契機として発症した TSS だった。熱傷治療において,予防的抗生剤投与は推奨されていない一方,TSS には有効性を示した報告もあり,受傷早期の抗生剤投与については一定の見解が得られていない。TSS は急激に状態が悪化するため,診断や治療が遅れた場合,死亡する場合もあり,数時間以内の迅速な診断が求められる。且つ患者年齢や基礎疾患,熱傷の重症度によらず発症する可能性があることを留意すべきである。
63 歳,女性。受診 1 カ月前に糖尿病性末期腎不全と診断され,降圧薬や利尿剤などが開始された。受診 2 週間前から口唇腫脹と全身の瘙痒が出現し,当科に紹介され受診した。全身の浸潤性紅斑から播種性紅斑丘疹型薬疹と診断し,内服薬を全て中止し,プレドニゾロン(PSL)20 mg/日を開始した。しかし,びらんを伴うようになり,PSL 治療開始 18 日目には表皮剝離が体表面積の 13%を占めたため,中毒性表皮壊死症(Toxic epidermal necrolysis:TEN)と診断し,ステロイドパルス療法を行い,後療法として PSL 50 mg/日を開始した。紅斑,びらんは改善したが,PSL 治療開始 22 日目に発熱があり,胸部 CT 検査で左下葉に索状影を認め,血液培養からクリプトコックスが検出されたため,播種性クリプトコックス症と診断した。抗真菌薬(アムホテリシン B,フルシトシン,フルコナゾール)を使用し,クリプトコックス症,TEN ともに治癒した。TEN はさまざまな感染症を併発することで知られており,TEN の治療経過中に感染症が疑われる際には,クリプトコックス症を含めた真菌症も鑑別疾患として重要であると考えたので報告する。
デュピルマブは重症のアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis,以下 AD)に対して高い有効性と患者満足度がある。デュピルマブの適応は Eczema Area and Severity Index(以下 EASI)16 以上の AD 患者であるが,AD の臨床的な重症度は必ずしも瘙痒や QOL に相関しないことが報告されている。そこで,われわれはデュピルマブが投与された AD 患者を重症群と中等症群に分けて主観的な症状改善と治療効果を後方視的に比較検討した。対象は 34 例で重症群(EASI>21)22 例と中等症群(EASI≦21)12 例に分類し,投与前,4 週後(4 w),16 週後(16 w)に EASI 50 達成率,EASI 75 達成率,痒み Visual Analogue Scale(以下 VAS),睡眠障害 VAS,Dermatology Life Quality Index(以下 DLQI),結膜炎の発症を評価した。重症群の平均 EASI は 0 w で 31.8,4 w で 18.5,16 w で 11.6 だった。中等症群の平均 EASI は 0 w で 18,4 w で 9.4,16 w で 3.9 だった。EASI 75 達成率と EASI 50 達成率のいずれにおいても,4 w と 16 w の両方で中等症群は重症群よりも明らかに高かった。重症群では皮疹の改善途中であり,16 w 以降にさらに EASI 達成率が上昇することが考えられる。2 群間でベースラインの EASI に相違があるにも関わらず,痒み VAS,DLQI では投与前のスコアは 2 群とも同程度であった。いずれの主観的指標においても,中等症群では 4 w までにより急速にスコアが低下した。結膜炎の発症頻度は 2 群間に差はなかった。患者の求める治療目標として,皮疹の改善のみではなく瘙痒や睡眠といった生活の質の改善が重要と考えられる。EASI が重症でない症例であっても,QOL 低下の原因をデュピルマブによって早期に改善できることが期待される。
Dr. Andrew P. Kowalczyk is Endowed Professor of Dermatology at the Pennsylvania State University College of Medicine, in Hershey, Pennsylvania, USA.
Dr. Kowalczyk received his Ph.D. in Physiology and Cell Biology at the Albany Medical College (Albany, New York) in 1992. After completing his dissertation work on fibronectin matrix assembly by vascular endothelial cells, Dr. Kowalczyk pursued postdoctoral studies at Northwestern University Medical School in Chicago, Illinois. At Northwestern, Dr. Kowalczyk worked with Professor Kathleen J. Green and established an interest in desmosome biology and epidermal blistering disorders, such as pemphigus. In 1998, Dr. Kowalczyk established an independent laboratory at Emory University School of Medicine in Atlanta, Georgia. Dr. Kowalczyk remained at Emory University while holding appointments in the Departments of Cell Biology and Dermatology until moving to the Pennsylvania State University in 2020.