患者:67 歳,女性
主訴:両手掌のざらつき
現病歴:初診の 5,6 年前から両手掌がざらついていた。痛みや痒みはなかった。外用治療(詳細不明)を行ったが改善なく,その後放置していた。初診の 2 週間前に他院でヘパリン類似物質油性クリームとベタメタゾン吉草酸エステルクリームを処方され,当院へ紹介となった。
既往歴:高血圧症,脂質異常症,右変形性膝関節症術後
家族歴:同症なし
薬剤歴:アムロジピン,ロスバスタチン
現症:両手掌から指腹,両足底から足趾にかけて,直径 1 mm,長さ約 1~2 mm の棘状の角化性突起が多発していた(図 1 a~c)。足底と足趾の皮疹は自覚していなかった。
ダーモスコピー所見:白色調で内部構造に乏しい円筒形の角質突起を認めた(図 2 )。
病理組織学的所見:左手掌の角化性突起から皮膚生検を行った。角質層内に周囲に比べ淡染性で不全角化を伴う部分を認め,直下の表皮はやや陥凹し,顆粒層が消失していた(図 3 )。
診断および経過:臨床および病理組織学的所見から spiny keratoderma と診断した。手指の角化性突起は,初診時にはすでに減少していた。当科に受診後は 10%尿素クリームに変更し手足両方に外用した。1 カ月後の再診時には,角化性突起はさらに減少していた。ロスバスタチンの内服は継続している。全身検索を行ったが,脂質異常症以外に悪性腫瘍や全身性疾患はなかった。
患者:48 歳,男性
主訴:左下腿の徐々に盛り上がってきた皮疹
既往歴・薬剤歴・家族歴:特記事項なし
現病歴:1 カ月程前に気づいた左下腿の皮疹が,徐々に盛り上がってきた。
初診時現症:左下腿に,径 6 mm,表面にミリウムの集簇を思わせる白色構造を伴った赤褐色の硬い結節を認めた(図 1 a)。
ダーモスコピー所見:卵型ないし球形の白色構造の集簇,赤褐色小孔,血管拡張を認めた(図 1 b)。
病理組織学的所見:表皮は,過角化や乳頭腫症,不規則な表皮突起の発育と延長を伴い内方向性に嵌入して増殖し,角質を充満して皮膚表面に開口した囊腫状を呈していた(図 2 a)。上皮胞巣内に squamous eddies が散見され,周囲真皮に炎症細胞浸潤がみられた(図 2 b)。
診断:脂漏性角化症(刺激型)
治療および経過:局所麻酔下に腫瘍を全摘出した。術後 3 カ月経過するが,再発所見はない。
患者:30 代,男性
主訴:下顎や外陰部に多発する丘疹
生活歴:日常的に髭剃りを行い,同一刃で外陰部剃毛歴があった。
現病歴:多発性硬化症に対して 11 年前からフィンゴリモドを内服中,8 カ月前に頚部に丘疹が出現し外陰部に拡大した。アトピー素因はなく,性的接触機会もなかった。
現症:下顎,頚部,下腹部,外陰部,鼠径部,大腿内側に 3~5 mm の光沢のある常色から淡紅色の丘疹が一部融合,集塊化し多発していた(図 1 )。
血液検査所見(下線は異常値を示す):リンパ球 422/μl(1000~4800)
ダーモスコピー所見:中央が陥凹し白色小塊が透見され,中心の陥凹を避け,病変の辺縁から中央にかけて伸びる放射状血管を認めた(図 2 )。
病理組織学的所見:表皮の陥凹性増殖からなるトマト状形態の 2 病変を有する,半球状病変を認めた。増殖細胞は,内部に好酸性封入体(molluscum body)を有し,内上側方で深紅色の角質細胞へ移行していた(図 3 )。
診断と治療:伝染性軟属腫と診断した。液体窒素凍結療法,イミキモド外用,サリチル酸ワセリン外用で改善せず,ヨクイニン内服と摘除を継続中である。
ネモリズマブ(ミチーガ®)はインターロイキン 31(IL-31)受容体 A を標的とするヒト化抗ヒト IL-31RA モノクローナル抗体であり,難治性瘙痒を伴うアトピー性皮膚炎や結節性痒疹に用いられる。近年,ネモリズマブ投与後の水疱性類天疱瘡の発症例が報告されており,免疫環境の変化による自己免疫反応の誘導が示唆されている。本報告では,搔破性結節や潰瘍を伴うアトピー性皮膚炎の高齢女性にネモリズマブを導入後,急性に薬剤性水疱性類天疱瘡を発症したと考えられる症例を提示する。ただし,ネモリズマブ投与前に抗 BP180 抗体価を確認しておらず,投与前の皮膚症状が結節性類天疱瘡であり,ネモリズマブ投与を契機として水疱を伴う類天疱瘡へと進展した可能性も考慮すべきである。治療指標としての TARC(thymus and activation-regulated chemokine)や抗 BP180 抗体,可溶性 IL-2 レセプターの経時的推移が皮疹とよく相関していた点や,IL-31 経路遮断による免疫環境の変化が自己免疫性皮膚疾患の惹起に関与する可能性について考察する。
50 歳,男性。初診の 1 年前から両下腿に網目状の色素斑と潰瘍が多発し始めた。疼痛が増強したため当科を受診した。既往歴に無治療の糖尿病がある。両下腿に網状皮斑,左下腿は黒色壊死物質を付着した潰瘍が多発していた。病理組織検査では真皮全層に強い線維化が認められ,真皮中層に血管閉塞像と血管周囲へのフィブリノイド沈着を認めた。以上の所見からリベド様血管症と診断した。エドキサバン 15 mg/day で治療を開始したところ,疼痛はすみやかに改善し,約 1 カ月後には潰瘍は消失して網状皮斑のみ残存した。一部に白色萎縮もみられた。過去にリベド様血管症にエドキサバンが投与された症例を集計した。症例によってその効果が異なり,投与量にも差があった。今後も,症例を集積しての検討が必要であると結論した。
55 歳,男性。当科初診の約 1 年前,寒冷曝露後に両耳介や足趾に皮膚潰瘍や黒色壊死が出現した。一度すべて上皮化するも当科初診の 4 カ月前より皮疹が再燃し,外用療法で改善なく,当科を受診した。初診時,両耳介や四肢に紫斑があり,潰瘍や黒色壊死を伴っていた。血液検査では ANCA および血清クリオグロブリンは陰性で,潰瘍辺縁からの皮膚生検では真皮上層の血管に血栓形成を認めた。患者の血漿を 4℃で 72 時間静置したところ,析出を生じた。その検体を加温したところ,析出が溶解したことから本症例をクリオフィブリノーゲン血症と診断した。悪性腫瘍や感染症などの基礎疾患がないことから,原発性クリオフィブリノーゲン血症と考えた。入院による寒冷刺激の回避とスルファジアジン銀外用で潰瘍は上皮化した。本邦において原発性クリオフィブリノーゲン血症の標準的な治療はないことから,国外の報告も参考に本疾患の治療法について考察した。
82 歳,女性。81 歳時に落葉状天疱瘡と診断されプレドニゾロン(PSL)5 mg/日の内服で寛解状態を維持していた。初診の 4 カ月前に左頰部の紅斑を自覚し,皮膚生検の結果,日光角化症と診断された。同月よりイミキモド(ベセルナ®)クリームの外用を開始したが,2 コース目外用開始後に同部位に著明な角化と紅斑を認めた。さらに,非外用部である右頰部,右腋窩,背部にも紅斑,水疱,びらんが出現した。血清抗デスモグレイン 1 抗体は 189 U/ml と上昇を認めた。皮膚生検では角層下に裂隙形成と棘融解細胞を認め,蛍光抗体直接法で表皮細胞間に IgG と C3 の沈着を確認した。以上よりイミキモドクリーム外用が誘因となった落葉状天疱瘡の再燃と診断した。PSL を 10 mg/日に増量し,速やかに寛解が得られた。イミキモドはサイトカイン産生や免疫応答の賦活化を通じ,自己免疫性水疱症の再燃に関与する可能性がある。自験例と過去の報告について文献的考察を加えて報告する。
57 歳,女性。前額部の皮疹を主訴に前医を受診し,扁平疣贅と診断され凍結療法を実施された。その後,増数傾向のため当院を紹介され受診し,皮膚生検によって稗粒腫および皮膚コレステリン肉芽腫と診断した。皮膚コレステリン肉芽腫の臨床像は稗粒腫や扁平疣贅と類似するため,皮膚生検を実施し診断を確定させることが重要であると考えた。また,自験例では,凍結療法による囊腫構造の破綻が皮膚コレステリン肉芽腫の発症要因として示唆された。
32 歳,女性。6 年前に右拇指の小結節が出現し,徐々に増大した。近医で皮膚線維腫として摘出された。病理組織では CD34 陽性,CD10 が一部陽性の短紡錘形細胞が花むしろ状に増殖し,隆起性皮膚線維肉腫(dermatofibrosarcoma protuberans:以下,DFSP)と診断された。一部断端陽性であり,当科を紹介され受診した。切除後瘢痕から 5~10 mm 離して腱膜上で拡大切除を行い,2 期的に全層植皮術を行った。術後 1 年経過し,局所再発は認めていない。DFSP の診断には,CD34 や CD10 の免疫組織化学染色が有用である。発生部位や腫瘍の大きさ,深達度などを考慮し,切除マージンを決めなければならない。DFSP は局所再発しやすいため,切除後も慎重な経過観察を要する。
62 歳,男性。全身の多発性表皮囊腫に対し複数回の切除歴と食道癌に対して亜全摘術,化学療法の既往があった。半年前から下腹部に結節を自覚し,増大したため近くの皮膚科を受診した。下腹部正中の皮内から皮下に約 3 cm の囊腫を認め,表皮囊腫が疑われ切除術を受けた。病理組織学的には真皮から皮下組織にかけて囊腫様構造があり,囊腫壁の一部では異型細胞が不規則,胞巣状に増殖し,多数の癌真珠が認められたため,当院に紹介された。左鼠径部には約 25×20 mm のリンパ節を触知し,PET-CT にて同部位に集積を認めた。以上の所見より表皮囊腫から生じた有棘細胞癌および所属リンパ節転移と診断し,原発巣の追加切除,左浅鼠径リンパ節郭清,右鼠径部リンパ節摘出術を行った。表皮囊腫の悪性化はきわめて稀であり,とくにリンパ節転移を伴う症例は過去に報告が少ない。発症の機序について文献的考察を含め,過去の症例と併せて報告する。
80 歳,男性。初診の 1 年ほど前に鼠径部に生じた丘疹を主訴に受診した。臨床所見から尖圭コンジローマと診断し,イミキモドクリーム(ベセルナクリーム 5%®)外用および凍結療法を開始した。治療開始後 11 カ月頃に皮疹は消退傾向となったが,その 1 カ月後に瘢痕を縁取るように環状に再燃した。再燃した皮疹から皮膚生検を実施し,病理組織学的に尖圭コンジローマと診断した。尋常性疣贅では凍結療法後にドーナツ疣贅として環状に再燃することが知られているが,尖圭コンジローマにおいては報告がない。尖圭コンジローマ治療中にもドーナツ疣贅が起こり得ることに留意する必要があると考えた。
41 歳,男性。初診 3 カ月前より両側眼瞼周囲に紅褐色結節と丘疹が多発し,拡大傾向があり精査治療目的で当科を紹介され受診した。初診時,両側眼瞼下方および外側に局面状の紅褐色結節と丘疹を認めた。前医での皮膚生検では肉芽腫性病変が報告されており,当院でも再生検および抗酸菌・真菌を含めた組織培養,採血を施行した。採血にて β-D グルカン高値を認め,組織培養にて黒色のコロニーが形成され,褐色の有隔壁性菌糸を確認し,黒色真菌症と診断した。原因菌は MALDI-TOF MS 装置である VITEK MS により Exophiala dermatitidis と同定された。イトラコナゾール内服にて治療を開始し,開始後 1 カ月時点では皮疹は残存していたため 1 カ月分の内服を追加で処方した。その後の受診は途絶えたが,約 1 年後の別件での受診時に皮疹は消失しており,治癒と判断した。Exophiala dermatitidis は通常,免疫抑制状態の患者に日和見的に発症することが知られているが,自験例は健常者に生じた稀な例であった。眼瞼周囲皮膚に限局した Exophiala dermatitidis 感染の本邦での報告は認められず,自験例はその臨床的特徴の理解と診療上の注意喚起として有用な報告と考えられる。
73 歳,女性。初診の 2 週間前に飼いネコに左前腕を咬まれ,3 日後に同部位に発赤熱感が出現したため,近医を受診し抗菌剤を内服したが硬結が残存するため,当科を受診した。抗菌剤を 2 週間継続し,経過をみていたところ,初診の 1.5 カ月後に同部位に波動を触れる結節が出現し,切開にて血性膿を排出した。膿の Ziehl-Neelsen 染色で陽性,小川培地で迅速発育性抗酸菌を検出し,質量分析の結果,Mycobacterium chelonae(M. chelonae)と同定した。ミノサイクリン(MINO)で治療を開始したが改善に乏しく,クラリスロマイシン(CAM)に変更し,温熱療法を併用した。動物咬傷後の M. chelonae 感染症の報告は稀ではあるが,咬傷部位の治癒が遷延する際には本症も念頭におき,培養検査を行うことが重要である。
島根大学医学部附属病院皮膚科にて 2016 年から 2020 年にかけて骨棘形成を伴う巻き爪 6 例に対して双茎爪床骨膜弁法を施行し,長期間の経過フォローを行ったので報告する。男性 1 例,女性 5 例,年齢中央値 70.5 歳,6 例とも周辺皮膚軟部組織の炎症を伴って湾曲の強い巻き爪を形成し,CT にて末節骨に骨棘所見が確認された。部分抜爪後の再発が強く懸念され,骨棘切削の必要性から双茎爪床骨膜弁法を施行した。術後フォローは 6±5 年で行い,いずれも経過良好で巻き爪再燃はみられていない。
Prof. Mahnke currently serves as Head of the Research Laboratory at the Department of Dermatology, University Hospital Heidelberg. His work is embedded in several DFG-funded research projects at Ruprecht-Karls-University Heidelberg, one of Germany’s leading research universities.