抄録
胃液・膵液及ビ膽汁等ノ分泌ニ關シテハ, 神經性分泌機轉ノ他ニ, 體液神經性及ビ純體液性機轉ノ存スルコトハ. 既ニ我ガ教窒及ビ其ノ他ノ業績ニ依リ確證セラレタリ. 然ルニ唾液分泌ニ於イテハ, 從來圭トシテ精神神經性乃至神經性機轉ニ依リ, 支配セラル、モノト認メラレ居レドモ, 更ニ體液神經性分泌機轉ノ存セザルヤ否ヤハ今尚完全ニ解決セラレザル所ナリ.
余ハ實驗動物トシテ犬ヲ選ビ, 顎下腺ノ恆久性瘻管ヲ作成シ, 豫備的及ビ本實驗ノ檢索ヲ行ヒ, 次ギノ諸成績ヲ得タリ.
1). 犬ノ顎下腺唾液中ニハ「アミラーゼ」.「リパーゼ」共ニ痕跡的ナレドモ, 證明シ得ル、程度ニ存在ス.
2).「ビロカルビン」注射ニ依ル唾液分泌ヲ「アトロビン」ハ積極的ニ制止スレドモ, 「アドレナリン」ハ之レヲ唯濃厚ニシ, 少量ニスルノミナリ.
3).「インシュリン」注射ニ依リテ惹起セラレタル血糖下降ノ際ハ, 生理的動搖範圍ニ於ケル輕度ノ場合ニハ少量ノ唾液分泌見ラルヽモ, 必須ニハ非ズ, 振顫・痙攣等ノ中毒症状ヲ發スル極度ノ場合ニハ多量ノ唾液分泌ヲ招來セリ.
4). 葡萄糖ノ皮下或ハ靜脈内注射ニ依リテ惹起セラレタル血糖上昇ノ際ハ, 唾液分泌ハ殆ド見ラレズ, 多少阻止ノ觀ヲ呈スルモ, 不定ナリ.
5).「アドレナリン」注射ノ際ハ, 其ノ初期ニ於イテ少量ニシテ濃厚ナル唾液分泌ヲ來タスモ, 高血糖ヲ來タス時期ニ至レバ, 殆ド分泌ハ認メラレズ.
6).「インシュリン」低血糖ニ依ル唾液分泌ハ, 葡萄糖注射又ハ「アドレナリン」注射ニ依リテ, 徐々ニ制止セラル.
7).「インシュリン」低血糖ニ依リテ起ル唾液分泌ハ, 「アトロビン」ニ依リテ制止セラレ, 又鼓索神經切断犬ニ於イテハ, 分泌ハ殆ド發現セザリキ.
以上ノ結果ヲ綜合スレバ, 唾液分泌ハ主トシテ精紳紳經性機轉ノ下ニ行ハレ, 體液神經性機轉ハ唯其ノ萌芽ヲ認ムルノミナリ, 尚此ノ際迷走神經ハ必要ナル介在ヲ演ズルモノト結論スルヲ得.
