抄録
芥川龍之介の「或阿呆の一生」は、死の直前に書かれた遺作であり、芥川文学の集大成である。従って多くの問題を内在しており、それだけ一方向からの考察ではなく、多くのアプローチによって作品を考察することが必要である。そこで、様々な視点からなるべく作品を多角的に捉えることを視野に置いて考察を試みた。考察の結果、「或阿呆の一生」は、芥川のこれまでの創作方法のすべてを駆使した〈告白〉作品である。それは、これまでの人間としての単なる〈告白〉ではなく、作家であることを意識しながら、嘘をつかずに自分自身をさらけ出している。つまり、作家であることに重点が置かれた〈告白〉を目的とした作品である。