2019 年 23 巻 1 号 p. 59-70
目的:本研究の目的は,来日学校保健研修(以下、来日研修)に参加したカンボジア国の行政担当者・教員が帰国後に必要としている課題についてセミナーを実施し,その効果を評価し,セミナー内容を定着させるための課題を明らかにすることである.来日研修とは,JICA草の根事業により実施した日本での学校保健、衛生環境に関する視察である.
方法:調査対象者は,セミナー参加者24名であった.セミナーとは,来日研修帰国後に実施される,講義・演習と情報交換で構成され,複数回実施されるものである.本研究では,講義,情報交換で構成された保健と保健室に関するセミナーを対象とした.
データの収集は,6項目の事前事後質問紙調査とインタビュー調査を実施した.分析はノンパラメトリック検定と記述的分析であった.データは,第三者によって収集された匿名データを受理し分析をおこなったため倫理的問題はなかった.
結果:6質問項目のうち5項目は実施前後で有意差があったが,理解が深まった段階にはないといえる.インタビューでは,資料の事前配布,通訳等の要望があった.
考察:セミナーでは言語的な壁や時間制約の問題があり,十分に理解が得られた段階までには至らなかった.理解を促進するための母国語セミナーや現地スタッフの継続的な実地指導によりセミナー内容の定着を図る必要がある.また教員の基礎能力の影響や教員同士の相互協力,社会資源との連携,教育行政の課題なども解決する必要がある.
結論:今回対象のセミナーは知識導入にあたる段階であり,今後は現地での継続的な知識定着を促進するフォローアップ指導を組み合わせる必要がある.