香川大学看護学雑誌
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我が国の救急看護に関する研究の動向と今後の課題
我が国の救急看護に関する研究の動向と今後の課題
大西 敏美市原 多香子
著者情報
研究報告書・技術報告書 オープンアクセス HTML

2020 年 24 巻 1 号 p. 53-64

詳細
要旨

我が国における救急看護に関する研究の動向を知り,今後の救急看護領域における課題を検討することを目的とする.

2009年から10年間で検索を行い,原著,症例検討,一般による文献検討を行った.523件を分析対象とし,山勢らの研究と比較するため,山勢らが用いたテーマ,【病態や処置の解説】【救急看護教育】【救急看護の専門性】【救急看護ケア】【その他】と,追加した【看護管理】に分類した.【病態や処置の解説】は減少し,【救急看護ケア】が増加していた.研究内容は,フライトナース,トリアージに関する文献が急増していた.フライトナースに関しては,複数施設あるいは,全国規模でフライトナースを対象として,継続教育も含めた教育体制の確立,心理的サポートの充実が必要と考えられた.トリアージに関しては,トリアージ能力の向上,トリアージ判定の事後検証システムの確立,その検証結果のフィードバック体制の構築やシミュレーションなどの勉強会を定期的に行うシステムの確立が求められた.家族援助では,看護師に対する終末期ケアの教育が示唆された.

Summary

To clarify trends in research on emergency nursing and identify its future challenges in Japan, a literature review was conducted.

Original articles, case studies, and general reports published within the 10-year period from 2009 were searched for, and 523 papers were identified and analyzed. In comparison with a study by Yamase et al., they were classified into the themes used by Yamase et al.:[explanations of pathological conditions and care procedures], [emergency nursing education], [specialty of emergency nursing], [emergency nursing care], [others], and newly added [nursing management]. The number of papers examining [explanations of pathological conditions and care procedures] had decreased, whereas that discussing [emergency nursing care] had increased. When focusing on study contents, there had been a rapid increase in the number of papers on flight nurses and triage. According to these papers, it may be necessary to establish education systems, including those to provide continuing education, and offer more effective psychological support for flight nurses in several facilities or on a nationwide basis. Triage requires improving triage skills and establishing systems to examine triage assessments after the fact, feed the results of such examination back, and regularly hold seminars, such as simulation-based learning workshops. In family support, the importance of end-of-life care education for nurses was highlighted.

はじめに

1987年からの10年間における日本の救急看護研究の内容と動向を検討した山勢ら1)は,「救急看護が看護の新たな分野としての発展を遂げ,救急看護の独自性を確立することが課題である」と述べている.その研究以降,救急医療・救急看護を取り巻く状況は大きく変わってきた.救急医療とは,「発熱,腹痛,呼吸困難などの急病,事故や災害による外傷によって迅速な対応が必要な傷病者に対して医療を提供することをいう」2).救急看護とは,看護学事典では,「病院の内外を問わず,あらゆる場面で生じる患者への救急処置が必要となる状況において実践される看護活動.突発的な外傷あるいは発病,慢性疾患の急性増悪などいわゆる急性・救急疾患を対象とすることが多い.主に救急医療の初療段階において展開される看護を指す」3)と定義されている.

我が国で救急医療を担っている場所が,救急医療施設である.救急医療施設は,1次救急医療から3次救急医療までの救急医療体制によって位置づけられた病院施設である.中でも,3次救急医療施設として救命救急センターは重症患者に対応する中心的役割を担っている.1977年に日本医科大学付属病院に,第1号の救命救急センターが設置され,2019年8月時点においては,全国に289の施設が認可されている4).救命救急センターのような救急医療が専門的に展開される場には,救急看護を専門とする救急看護認定看護師が存在する.救急看護認定看護師は,救急医療の高度化に伴い,熟練した看護技術と知識を用いて,水準の高い看護実践を遂行するために育成され1997年に誕生するに至った.

船木ら5)は,「1990年代中頃まで病院前救護(以下,プレホスピタルケア)における看護師の活動はほとんど行われておらず,救急看護はインホスピタルケア(以下,病院を意味する)が中心であった」と述べている.その後,1995年の阪神・淡路大震災での救急搬送体制の不備から,厚生省は,救急医療用ヘリコプター(以下,ドクターヘリ)の試行的運行を行った.その結果,ドクターヘリを用いた救急搬送に伴い,救命効果と予後の改善の有効性が明らかとなり,2007年,ドクターヘリを用いた救急医療の確保に関する特別措置法が施行され,ドクターヘリが本格的に運行開始となった.ドクターヘリには通常1名のフライトナースと呼ばれる看護師が搭乗し,医師とともに活動を開始した.この頃から,救急医療は,プレホスピタルケアからインホスピタルケアに至る連続性と継続性によって成り立つものであるという考えに変化し,医師と看護師らは現場の働きを理解し,協働体制を構築していくこととなった.看護師らはプレホスピタルにおいて医師と共に傷病者の発生現場で活躍6)し,フライトナースとしての看護実践の内容や役割5)を報告するようになった.さらに2004年から規制されていた非医療者の自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator;AED)の使用が可能となり,救急看護役割は,地域住民に対するAEDの使用方法の講習などの院外活動へと拡大してきた.

2007年になり,救急医療における終末期医療に関する提言が発表されたことから,生命倫理,脳死や延命治療,代理意志決定支援,そして,患者や家族に対するインフォームド・コンセントや精神的サポートなど,様々な課題7)が生じることになった.さらに2012年には,全年齢層を対象とした,院内トリアージ実施料が新設され,トリアージの質が求められるようになり,トリアージナースの教育が急務となった.

以上のように,救急医療は,高度集中医療,社会の情勢に影響され,発展してきた.そこで本研究では,近年10年間のわが国における救急看護に関する研究の動向を概観し,1987年から10年間の文献検討を行った山勢ら1)の研究結果と比較することで,近年の日本の救急看護領域の課題を明らかにすることを目的とした.

目的

本研究では,我が国における救急看護に関する研究の動向を知り,今後の救急看護領域における課題を検討する.

方法

1. 文献検索方法

文献検索データベースは,医学中央雑誌Webを使用し,2009年から2018年までの10年間の,日本における『救急看護』をキーワードにして検索をした.絞り込み条件の論文の種類から,原著・症例検討・一般で検索した結果,674件の文献が抽出された.それらをリスト化し整理した.次に,表題と要旨を読み,診療科が精神科と救急看護に関連のない文献を除外し,重複論文を除いた原著521件,症例検討2件,計523件を分析対象とした.

2. 分析方法

1) 研究の動向についての分析

過去10年間の文献を,研究数の年次推移,論文内訳推移ごとに分類した.

2) 過去10年間の救急看護に関する研究内容別分類

山勢らの結果と比較するため,分析対象523件を,山勢らが用いた5つのテーマ【病態や処置の解説】【救急看護教育】【救急看護の専門性】【救急看護ケア】【その他】を参考に分類したところ,看護管理に該当するものが多かったため,【看護管理】を新しいテーマとして追加し,最終的に【病態や処置の解説】【救急看護教育】【救急看護の専門性】【救急看護ケア】【看護管理】【その他】の6つのテーマに分類した.6つのテーマの内訳は,山勢らの研究と同様のカテゴリーまで分類し,テーマ,カテゴリーの分類作業は,研究タイトル,抄録を読み,研究者2名で検討し,結果の真実性の確保に努めた.

3. 倫理的配慮

文献引用時には,出典の明記を徹底し,分析時には,意味内容が変化することのないよう著作権を侵害しないよう努めた.

結果

1. 2009~2018年における救急看護に関する文献の年次別推移

2009年から10年間に,わが国において発表された救急看護に関する文献は原著521件,症例検討2件,一般0件,計523件であった.2009年に38件,2010年に28件,2011年に57件,2012年に54件,2013年に46件,2014年に55件,2015年に46件,2016年に67件,2017年に73件,2018年に59件であった(図1).山勢らの研究1)では,1987年から1999年までの10年間に,513件の文献が抽出されていた.2009年から2018年までの年次別推移から見えたこととして,毎年一定の報告がされ,山勢ら1)と比較すると10件増えていた.

図1

文献数の年次別推移

2. 過去10年間の救急看護に関する研究内容

救急看護領域の各年のテーマ別文献件数内訳を表1に,各年のカテゴリー別文献件数内訳を表2に示した.1987年から1999年と過去10年間(2009~2018年)の文献を比較するために,それぞれのテーマ別件数の比較を図2に,カテゴリー別件数の比較を図3に示した.以下【 】はテーマ,<>はカテゴリーを表す.

救急看護領域の各年のテーマ別件数をみると,【病態や処置の解説】が2件,【救急看護教育】が72件,【救急看護の専門性】が49件,【救急看護ケア】が327件,【看護管理】が31件,【その他】が42件,であった.【救急看護ケア】に関するものが,124件増加し,109件あった【病態や処置の解説】は,2件まで減少していた.以下に各テーマ別分類に沿って動向をまとめる.

図2

山勢らのテーマ分類に沿った文献数(山勢らの論文との対比グラフ)

   山勢は文献1より引用 *山勢らのテーマ分類に看護管理を追加

図3

山勢らのテーマ分類に沿った文献数(山勢らの論文との対比グラフ)

   山勢は文献1より引用 *山勢らのテーマ分類に看護管理・記録(ツール・マニュアル)を追加

表1 過去10年間(2009~2018年)における救急看護領域における各年のテーマ別文献数の内訳
テーマ 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
病態や処置の解説 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 2
救急看護教育 10 4 4 5 7 6 2 8 12 14 72
救急看護の専門性 5 0 5 4 4 6 5 9 6 5 49
救急看護ケア 18 19 40 38 28 38 29 42 40 35 327
看護管理 1 2 2 1 1 4 5 6 8 1 31
その他 4 3 6 6 6 1 5 2 7 2 42
38 28 57 54 46 55 46 67 73 59 523
表2 過去10年間(2009~2018年)における救急看護領域における各年のカテゴリ-別文献数の内訳
カテゴリー 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
病態や処置の解説 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 2
看護基礎教育 3 1 1 2 3 2 0 0 3 6 21
現任教育 7 3 3 3 4 4 2 8 9 8 51
認定看護師に関するもの 0 0 1 1 1 1 1 1 1 2 9
認定看護師以外の看護師に関するもの 5 0 4 3 3 5 4 8 5 3 40
特徴的な事例/看護技術に関するもの 5 2 5 9 4 9 3 8 8 7 60
家族援助 5 6 10 7 7 4 8 7 9 7 70
危機介入(精神的ケア含む) 0 1 2 0 0 0 1 1 3 1 9
プレホスピタルケア 0 3 2 3 1 3 3 5 3 4 27
トリアージ 1 2 6 9 9 9 8 6 7 3 60
インフォームド・コンセント 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1
災害看護 0 0 0 3 1 0 0 2 1 3 10
ナースのストレス・困難・思い 3 3 9 5 2 8 3 7 6 6 52
妊産褥婦・小児・高齢者の救急 4 2 6 2 4 4 3 6 3 4 38
看護体制・記録(ツール・マニュアル含む) 1 2 2 1 1 4 5 6 8 1 31
その他 4 3 6 6 6 1 5 2 7 2 42
38 28 57 54 46 55 46 67 73 59 523

1. 救急看護教育

【救急看護教育】について記述された文献は72件であった.【救急看護教育】は,<看護基礎教育>と<現任教育>の2つに分類され,<看護基礎教育>は21件,<現任教育>は51件みられた.その中には,<看護基礎教育>では,救急患者の模擬演習に関する研究8)や,メディカルラリーに関する研究910)といった救急医療を実際に経験,体験する研究がみられた.また,救命救急センター見学実習や,その意義と効果についての研究11),救命センター看護師指導による簡易型一次救命処置(Basic Life Support;BLS)演習における看護学生への影響に関する研究12)がみられた.

<現任教育>では,教育対象者の所属が,救命救急センター(Intensive Care Unit;ICU含む)に勤務する看護師の文献が24件,病棟に勤務する看護師の文献が9件,外来に勤務する看護師の文献が6件,全看護師を対象とした文献が12件であった.<現任教育>では,救命救急センターへ配属された新人や異動者への教育にとどまらず,一般病棟を含めた看護職者への心肺蘇生法といった看護実践能力に関する研究13)が多かった.なかには,ラダーレベルを活用した看護師育成の効果についての報告14)もみられた.

2. 救急看護の専門性

【救急看護の専門性】は,<認定看護師に関するもの>9件,<認定看護師以外の看護師に関するもの>40件の2つに分類した.

<認定看護師に関するもの>は,過去10年間で9件の報告に留まり,認定看護師の看護実践能力15),小児救急看護認定看護師の活動報告に関する研究16)がみられた.

救命救急領域で働く<認定看護師以外の看護師に関するもの>は,救命救急の場で働く看護師がどのような考えに基づいてどのような看護ケアを行っているのかを明らかにすることを目的とした研究17)や,救急外来で必要とされる看護師のマネジメント能力を明らかにすることを目的とした研究18)など,看護師の機能や役割における報告が多くみられた.また,救急搬送された患者の入院後に到達した家族への関わりに対する熟練看護師の看護実践19),救命救急センターに勤務する看護師の自律性に関する質的検討の研究20)もみられた.

3. 救急看護ケア

【救急看護ケア】のテーマについて記述された文献は,327件と最も多く報告されていた.327件の内訳と報告数は,<特徴的な事例/看護技術に関するもの>60件,<家族援助>70件,<危機介入>9件,<プレホスピタルケア>27件,<トリアージ>60件,<インフォームド・コンセント(IC)>1件,<災害看護>10件,<ナースのストレス・困難・思い>52件,<妊産褥婦・小児・高齢者の救急>38件の9つに分類した.山勢らは,プレホスピタルケアとトリアージを1つのカテゴリーとしていたが,トリアージに関する研究が60件と目立っていたため,<プレホスピタルケア>と<トリアージ>をそれぞれ1つのカテゴリーとした.

【救急看護ケア】における<特徴的な事例/看護技術に関するもの>には,自殺企図目的患者への対応やケアの現状に関するもの21),せん妄予防の取り組みに関するもの22),挿管中の患者の口腔ケア23),褥瘡ケア24),排便管理25),呼吸管理26)に関する研究がみられた.

【救急看護ケア】における<家族援助>に関する研究の対象者は,看護師を対象とした文献が46件,家族を対象とした文献が17件であった.研究内容の中には,家族への看護援助の現状に関するもの27),終末期ケアに関する看護師の役割認識に関するもの28),終末期患者の家族に対する熟練看護師の看護実践に関するもの2930),代理意思決定への支援3132)に関する研究がみられた.また,家族のニードを明らかにするもの3334),患者家族の予期的悲嘆35)がみられた.

【救急看護ケア】における<危機介入>に関する研究は,フィンクの危機モデルを用いた事例36)37),アギュララの問題解決型危機モデルを用いた事例38),山勢らの危機対処プロセスモデルを用いた事例39)がみられた.

【救急看護ケア】における<プレホスピタルケア>に関する研究は,フライトナースに関する文献が15件,ドクターカーに関する文献が2件であった.その中には,フライトナースのストレスに関するもの40),フライトナースの育成や教育に関するもの41),フライトナースの専門性に関するもの42)がみられた.

【救急看護ケア】における<トリアージ>に関する研究の中には,トリアージの現状と課題43),小児救急医療におけるトリアージに関するもの44),トリアージ導入後の事後検証に関するもの45)がみられた.またトリアージへの取り組みや課題に関するもの46),トリアージナースの心理面に焦点をあてたもの47)もみられた.

【救急看護ケア】における<インフォームド・コンセント>に関する文献は,1件のみであった.カルテからインフォームド・コンセントに同席した看護師の役割遂行を目的とした研究48)であった.

【救急看護ケア】における<災害看護>に関する研究の中には,東日本大震災時に看護師が行った初動行動に関するもの49),災害時に備えた知識や技術に関するもの50),大規模災害時に備えた救急看護師育成に関するもの51)がみられた.

【救急看護ケア】における<ナースのストレス・困難・思い>に関する研究の中には,終末期ケアに関するもの52),急変時の救命処置に関するもの53),ストレス要因,ストレスへの対処法に関するもの54)がみられた.その他には,勤務体制に関するもの55)や新卒看護師が感じる困難と乗り越えに関するもの56),救命救急センターに勤務する看護師の蓄積的疲労に関する横断的な調査をしているもの57)がみられた.

【救急看護ケア】における<妊産褥婦・小児・高齢者の救急>を対象にした文献は,妊産褥婦に関するもの5件,小児救急に関するもの22件,高齢者に関するもの10件であった.

妊産褥婦を対象とした研究の中には,分娩後大量出血の対応に関するもの58)がみられた.小児を対象とした研究の中には,電話相談に関するもの59),虐待に関するもの60)や急変時対応に関するもの61)がみられた.その他には,小児終末期医療の家族看護に関するもの62)が1件みられた.高齢者を対象とした研究の中には,せん妄に対する看護の実態に関するもの63)や,高齢者虐待遭遇の意識に関するもの64)がみられた.

4. 看護管理

【看護管理】のテーマについて記述された文献は31件であった.

その中には,フローチャートやチェックシートの活用による有効性に関連したもの65)が12件みられた.

5. その他

【その他】は42件みられ,他のテーマにあてはまらない研究をまとめた.臓器移植に関する研究66),医師との連携に関するもの67)がみられた.

考察

1. 日本における救急看護研究の年次推移

2009年~2018年までの10年間で,原著・症例検討は523件発表されていた.年次推移から,2011~2018年の8年間は46~73件の一定範囲で研究報告があることが言える.

1987~1999年までの救急看護に関する研究の動向と今後の課題を検討した山勢らの報告では,10年間で513件発表されていた.著明に増加しているとまでは言えないが,近年においても,毎年一定の報告があることがわかる.

2. 過去10年間の救急看護に関する研究内容の動向と課題

過去10年間(2009~2018年)における救急看護領域の各年のテーマ別件数をみると,【救急看護ケア】が327件,【救急看護教育】が72件,【救急看護の専門性】が49件,【看護管理】が31件,【その他】42件であった.【救急看護ケア】に関するものが,124件増加し,それにつれて,109件あった【病態や処置の解説】は,1998年から減少し始め,今回の調査ではわずか2件であった.減少した要因として,1990年代前半までは,救急領域でよくみられる病態や処置を医師が解説することが一般的であったことや,救急の初療は,診断と治療が並行して行われることが多かったため,看護者も重篤で複雑な救急患者の病態や処置を理解する必要があったためと考える.

【救急看護教育】に関しては,一般病棟を含めた看護師への心肺蘇生法といった看護実践能力に関する研究13)が多かった.また,看護師のストレスの中でも,急変に対する不安や一次救命処置に対する不安53)が多かった.その背景には,厚生労働省が平成14年に提示した『看護学教育の在り方に関する検討会報告』では,臨地実習で看護学生が行う基本的な看護技術水準に救命救急処置技術は原則見学となっており,実施内容は各教育施設の裁量に任されている現状がある.つまり,就職時においては,看護師のレディネスには差があることを認識し,シミュレーション教育やBLSといった実技講習などを行う病院施設の教育プログラムの確立が求められる.また,<看護基礎教育>においては,救急の実態を知らないまま就職すると,リアリティショックの可能性が高まるため,救急看護の重要性を踏まえ,どのようなカリキュラムを構築していくのかが課題として挙げられた.

【救急看護の専門性】に関しては,マネジメント能力18),看護実践能力19),看護師の機能や役割に関する報告が多かった.救急患者は,様々な場面で存在し,性別,年齢,症状,傷病の程度も多種多様であるため,幅広い知識が必要となる.また,救命の場面においては,高度な知識や予測性を伴った臨床判断力,他職種との連携に必要なマネジメント能力が必要となるため,これらの研究が多く実施されてきたと考える.しかし,インフォームド・コンセントに関する研究は,山勢らの報告時から増えておらず,わずか1件であった.特に,救急看護では,患者,家族は,医療者と信頼関係を築く間もなく,ケアを受けざるを得ない状況におかれている1).つまり,患者や家族が高度で複雑化している治療の説明を本当に理解できているのか確認するに至っていないと考える.必要に応じて補足説明を行うことが看護師に求められる役割の一つである.今後これらに関する実践を言語化していくことが求められる.

一方,【救急看護ケア】が増加した理由として,【病態や処置の解説】にとどまらず,自殺企図目的患者への対応21)や,せん妄予防の看護実践22),口腔ケア23),褥瘡ケア24),排便管理25),呼吸管理26)といった<特徴的な事例・看護技術>に関する報告が増えたことが考えられる.しかし,看護ケアの報告にとどまっていたものが多く,今後は,実施した看護ケアの評価をしていくことが課題として挙げられた.

<家族援助>に関しては,救急医療の場では,家族も心理的な危機状態にあることが多く,家族への精神的サポートの重要性は,山勢らの報告時から,最も関心の高い研究領域の一つであり,今回の調査においても,最も多く報告されている.近年の<家族援助>に関する特徴的なものは,終末期ケアに関するものであった.その背景には,2014年に公表された救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン68)があり,曖昧であった救急医療の終末期に関する大きな道標になったことが考えられる.以降,集中治療領域における終末期医療への関心は飛躍的に高まり,終末期にある患者家族へのケアにも焦点が当てられるようになった.しかし,これまでの救急領域での家族援助に関する研究では,家族のニーズやアセスメント3334)の報告が多く,援助については次第に明らかとなってきているが,終末期ケアに関しては,多くの看護師は困難感やジレンマを感じていた69).日本のクリティカルケア領域では,治療を行う場であることから死を避ける風土があるとされている.そのため,クリティカルケア領域における終末期に関する教育は重要視されてこなかった.しかし,アメリカでは,終末期に関する<現任教育>として,The End-of-Life Nursing Education Consortium(以下ELNEC)という看護師が質の高いエンド・オブ・ライフケアを提供することを目的として,2006年にELNEC-Critical Careが開始された.日本では,2016年からELNEC-Critical Careの日本版が開始されたばかりである.このように,日本のクリティカルケア領域における終末期看護に関する教育は,海外と比べて始まりが遅かった.そのため,クリティカルケア領域における終末期に関する教育は重要視されてこなかった経緯から,クリティカルケア領域における終末期ケアは困難感を伴う場面であるとされている70)ことや,看護師のバーンアウトの一因71)ともされていることから,今後の教育の必要性が課題として示された.

次に,【救急看護ケア】が増加した理由として,山勢らの報告時には,<プレホスピタルケア・トリアージ>は7件であったものが,<プレホスピタルケア>が27件,<トリアージ>が60件に増加していた.<プレホスピタルケア>に関する研究の多くは,フライトナースに関するものであり,2010年から発表されている.これらの背景には,2007年の,ドクターヘリを用いた救急医療の確保に関する特別措置法の施行がある.2019年8月現在,全国43道府県に53機のドクターヘリが配備されており,その出動件数は年々増加していることから,ドクターヘリを用いた救急医療の提供は今後も促進されていくことが予測される.しかし,ドクターヘリは,限られた施設への配備であり,フライトナースの数が少ないことや,フライトナースの教育は各施設に任されていたため,フライトナースの育成や教育プログラムに関する研究41),フライトナースのストレスに関するもの40)が目立っていた.また,多くの研究は,1施設のフライトナースを研究対象としているため,フライトナースに関する課題は十分明らかになっていない現状があった.今回の結果から,今後は,複数施設あるいは,全国規模でフライトナースを対象として,継続教育も含めたフライトナースの教育体制の確立,心理的サポートの充実が課題として挙げられる.<トリアージ>に関しては,山勢らの報告ではほとんどなかった.山勢らは,「トリアージは医師という図式が出来上がっている.初療対応が救急看護の重要な部分であるならば,もっと多く取り組むべきである」1)と述べている.その後,<トリアージ>に関する文献は2011年からみられ始め,今回の調査で大幅に増加している背景には,2012年度の診療報酬改定で,院内トリアージ実施料が新設され,2014年度からは,小児救急患者の院内トリアージ加算が導入されたことが大きいと考える.そのため,トリアージへの取り組みに関するもの46),トリアージ導入後の事後検証に関するもの45)が多かった.なぜなら,我が国では,トリアージの歴史は浅く,統一された方法は確立されておらず「トリアージの実践は担当する看護師の個々の裁量に任されている現状であった」72).そこに,2012年JTAS(Japanese Triage and Acuity Scale)が完成したことで,<トリアージ>に関する研究の増加につながったと言える.今後は,トリアージ能力の向上,トリアージ判定の妥当性と信頼性を評価する事後検証システムの確立,その検証結果のフィードバック体制の構築やシミュレーションなどの勉強会を定期的に行うシステムの確立が課題として挙げられる.

【看護管理】に関する研究は,マニュアル作成73),対応の標準化74),フローチャートの使用65)により,その有効性が報告されていた.また,患者の全身状態の把握が容易になったことや異常の早期発見が可能になっていた75).記録やマニュアルが統一化されることで,看護体制が整い業務効率が向上することにより,患者や家族に対して,心理的な面で充実したケアができるような体制づくりが求められる.

結論

日本の文献における救急看護領域のテーマ・カテゴリー別比較において,近年10年間と山勢らの研究を比較した結果,以下の結論を得た.

  1. 1.   医師による病態や処置の解説は大幅に減少し,救急看護ケアが大幅に増加していた.また,看護管理に関連した研究が増えていた.
  2. 2.   救急看護ケアが大幅に増加していた要因として,プレホスピタルケアやトリアージの急増がある.
  3. 3.   プレホスピタルケアは,フライトナースに関するものが多くみられたが,フライトナースの数が少なく,課題は十分明らかにされていない.今後,複数施設あるいは,全国規模でフライトナースを対象として,継続教育も含めたフライトナースの教育体制の確立,心理的サポートの充実が必要である.
  4. 4.   トリアージに関しては,トリアージ能力の向上,フィードバック体制の構築やシミュレーションなどの勉強会を定期的に行うシステムの確立が課題として挙げられる.
  5. 5.   家族援助に関する研究は多くされていたが,終末期医療におけるケアに対して,多くの看護師が困難感を抱いており,よりよい終末期ケアが提供できるよう看護師に対する終末期ケアの教育の充実が求められる.
  6. 6.   看護管理に関しては,マニュアル作成や対応の標準化,フローチャートの使用の有効性が報告されていた.業務効率が向上することで,時間の確保ができる分,患者や家族に対して,心理的な面で充実したケアができるような体制づくりが求められる.

Notes

本研究において開示すべき利益相反は存在しない.著者資格について,OTは研究の着想,データ収集,分析と論文作成を行い,その過程においてITからスーパーバイズを受けた.全ての著者が最終原稿を読み,承認した.

文献
関連文献
 
© 2020,香川大学医学部看護学科

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