香川大学看護学雑誌
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娘の里帰り出産をサポートした就労実母の思い
娘の里帰り出産をサポートした就労実母の思い
小野 愛実佐々木 睦子小松 千佳石上 悦子
著者情報
研究報告書・技術報告書 オープンアクセス HTML

2022 年 26 巻 1 号 p. 51-63

詳細
要旨

目的

娘の里帰り出産をサポートした就労実母の思いを明らかにすることである.

研究方法

A病院で出産した娘の里帰り出産を引き受けた就労実母8名を対象に,半構造化面接法を実施し,質的帰納的に内容の分析をした.香川大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した.

結果

就労実母は,娘の出産時に親から受けた支援を娘にも同じようにして力になりたい思いと同時に,娘をサポートする不安も抱いていたが,【家族に支えられながら娘の里帰り出産を引き受ける】思いに至っていた.実際に娘が里帰り出産で帰省すると生活全体が変わり,娘をサポートするための仕事の調整も必要となり,【仕事と娘へのサポートの調整は大変】であると感じていた.そして,娘が里帰り出産を終えると実母の生活は一変して元に戻り,【サポートを終えた後の寂しさと安堵】の思いを抱いていた.一方,里帰り出産を終えた後の娘からの感謝の言葉と子育ての様子から,【成長した娘の姿と役割を果たした満足】を得ていた.

考察

就労実母自身の育児経験は,娘を助けたいという思いに繋がっていた.実際に,娘の里帰り出産を引き受けることは,非日常であり,仕事と娘へのサポートの両立をするための葛藤を抱き,その調整は大変という思いに繫がっていたと考える.しかし,里帰り出産でのサポートを終えた後の感謝の言葉と娘の成長した姿を見届けることは,母親としての役割を果たした安堵と満足に繋がり,娘の第2子の里帰り出産を引き受けるために仕事を頑張るという生きがいに繋がっていたと考える.

結論

就労実母自身の育児経験は,初めて出産した娘を助けたいという思いに繋がり,家族に支えられながら里帰り出産をサポートしていた.就労実母は,仕事と娘へのサポートの調整は大変であると感じていたが,感謝の言葉と娘の成長した姿を見届け安堵するとともに満足を得ていた.

Summary

Objective: To clarify the emotions of working mothers who supported daughters to give birth in their hometown.

Methods: Eight working mothers, who had supported daughters to give birth in their hometown, were examined through semi-structured interviews after the daughters' deliveries in a single hospital. The obtained data were qualitatively and inductively analyzed. The study was approved by the Ethics Committee of Kagawa University Faculty of Medicine.

Results: While the working mothers desire to help their daughters as they were helped by their parents when they gave birth, they were anxious about such support, but they were finally prepared “to support the daughters to give birth in their hometowns with other family members”. However, when the daughters actually returned to their hometowns, and the mothers' daily lives completely changed, they found it “burdensome to support the daughters while working”. After the daughter's delivery, their daily lives returned to normal, and they felt “relieved while developing a sense of loneliness due to ending of support”. On the other hand, the daughter's appreciative statement and positive attitude toward parenting led to their “satisfaction with the personal growth of the daughter and oneself having fulfilled her role as a mother”.

Discussion: The working mothers felt conflicted about the necessity of supporting their daughters while working. However, being appreciated by the daughters who had grown personally, they felt relieved and satisfied, as they may have realized that they had fulfilled their role as a mother.

Conclusion: The working mothers found it burdensome to provide support while working, but they felt relieved and satisfied when they were appreciated by their daughters, who had grown personally.

はじめに

日本には,古くから続く里帰り出産という風習があり核家族,3世代家族の家族形態を問わず,出産前後の期間を実家で過ごす女性が多い(我部山,2017).里帰り出産では,実母からのサポートを受けて静養することで産褥期の身体を養生することができる.また,身体的休息だけでなく精神的サポートを得ることになり,育児不安の軽減に繋がるとともに,実母を模範とした育児技術の習得もできると考える.一方,里帰り出産の先行研究によると,育児観の時代的相違や実母の過干渉から生じる母娘間のトラブルがあることも明らかとなっている(小林,2010)

2015年の,「産前産後の生活とサポートについての調査」によると産後に実家へ里帰りをしていた初産婦は約6割で,産後の主なサポートを担っていたのは実母と夫であった(ベネッセ総合研究所,2015).他方,2019年の50代~60代女性の就業率は6~8割(総務省統計局,2019)で,また,近年の女性の平均寿命の延伸から,労働力率の増加が予測できる.すなわち,就労実母は娘の里帰り出産を受け入れる準備として生活環境の調整や,帰省に伴う生活の負担が増大すると考える.このことから,娘の里帰り出産を引き受ける実母の就労の有無は,実母の生活の負担に影響しているのではないかと考える.

里帰り出産を引き受けた実母は就労と非就労を問わず,母から受けた支援を娘に繋ごうと自己を顧みずに無心に助けていたこと(中村,2018),娘へのサポートを通して疲労感と自己犠牲の受容をしていたことを明らかにしている(中村,2014).このように,実母を対象とした研究では,娘へのサポートを通した実母の体験や思いは明らかにされているが,就労実母が娘の里帰り出産を引き受けた時の気持ち,娘へのサポートを通してどのように感じたのか明らかにした研究は見当たらない.

このことより,就労実母が娘の里帰り出産を引き受けると決めた時から里帰り出産中および帰省後にどのように感じていたのかを明らかにすることは,引き受ける年齢の女性就業者数が増加してきている現在,里帰り出産を希望する娘と引き受ける就労実母それぞれに対する支援についてより具体的に検討するための基礎資料になり,里帰り出産を引き受ける就労女性への支援を検討する上で意義があると考える.

目的

娘の里帰り出産をサポートした就労実母の思いを明らかにすることである.

方法

1. 用語の定義

1) 里帰り出産

:里帰りという言葉は,「結婚した女性が一時的に実家に帰ること」とされている(新村,2018a).このことより,出産前後の帰省も里帰りと捉えることができる.そして,里帰り出産は元来妊婦がその実家に戻って自宅分娩することを意味していたが,施設分娩がほとんどである現在は「出産前後の生活において実家のサポートを得ること」と解釈できると述べている(大賀ら,2005).以上のことから,本研究において,里帰り出産は実母とは生計を別にしている娘が,妊娠や出産を機に実家へ帰省し,実母から出産前後のサポートを得ることと定義する.

2) 実母

:「血をわけたほんとうの母」とあるが(新村,2018b),本研究においては血縁関係にはとらわれず育ての母を実母とする.ただし,実母が娘を育てた期間は問わないこととする.

3) 思い

:「思う心の動き,内容,状態,物事から自然に感じられた心の状態」とある(新村,2018c).本研究においては,娘の里帰り出産を引き受けた就労実母が,引き受けると決めた時から就労を継続しながらどのように感じ考え娘にサポートをしていたのか,里帰り出産が終わった後の娘への気持ち,自身のサポートを振り返ってみてどのような気持ちを抱いているのかについて実母が自らの言葉で表現したものと定義する.

4) サポート

:ソーシャルサポートとは,「社会関係の中でやりとりされる支援と定義し健康行動の維持やストレッサーの影響を緩和する働きがある」とされている(厚生労働省,2020).ソーシャルサポートは,情緒的サポート,道具的サポート,情報的サポート,評価的サポートに分類される.情緒的サポートとは共感や愛情の提供であり,道具的サポートは形のある物やサービスの提供,情報的サポートは問題の解決に必要なアドバイスや情報の提供であり,評価的サポートは肯定的な評価の提供である.本研究においては,これら里帰り出産で帰省中の娘に対する実母の支援全てを包括しサポートと定義する.

2. 研究デザイン

研究デザインは,半構造化面接法による質的帰納的記述研究である.本研究においては,娘の里帰り出産をサポートした就労実母を対象に,娘へのサポートに対する思いを語ってもらい帰納的に分析することで,就労実母の思いを明らかにすることができると考えた.

3. 研究対象者の選択基準

A病院において,第1子を出産した娘を里帰り形態でサポートした就労実母8名を対象とした.対象者の選定基準は,就労しており娘の里帰り出産を産後1か月~2か月サポートしていることとした.実母が過去に里帰り出産を引き受けたか否かは,娘への支援の実際や引き受けると決めた思いにも影響があると考えるため初めて里帰り出産をサポートするケースとした.

4. 研究対象者の選定方法

A病院の周産期科診療科長,看護部長,周産期科病棟看護師長に研究協力の依頼文を手渡し,研究の趣旨を文書と口頭で説明した.病棟看護師長から推薦を受けた褥婦に産後2週間健診の受診時に面会し,研究の趣旨について文書を用いて説明し同意を得たうえで実母の紹介を依頼した.紹介を受けた実母にも研究の趣旨を文書と口頭で説明した.研究参加に同意が得られた実母8名を対象とした.

5. 調査方法

調査期間は2020年6月~2020年12月である.基本属性は,基本属性調査票を実母に郵送,または娘の産後2週間健診に付き添っている場合は直接手渡した.調査内容は年齢,居住地,雇用形態,娘の里帰り期間中の休暇取得の有無,同居家族,同居家族内の要介護者の有無および介護度,娘の年齢,娘の居住地,里帰り期間である.その後,半構造化面接法によって30分~60分以内でインタビューを実施した.新型コロナウイルス感染症が拡大しており,研究者と研究対象者が直接面会することによる感染リスクが危惧されたが,実母の年齢やWebインタビューの環境を考慮した結果,インタビュー方法として電話インタビューもしくは双方が感染対策を実施したうえでの対面インタビューどちらかを選択してもらい実施した.インタビュー内容は,対象者の同意を得たうえでICレコーダーに録音した.

6. 調査内容

1) フェイスシートによる質問項目

事前に配布したフェイスシートで実母の年齢,居住地,雇用形態,娘の里帰り期間中の休暇取得の有無,同居家族,同居家族内の要介護者の有無および介護度,娘の年齢,娘の居住地,里帰り期間について質問した.

2) インタビュー内容

  1. ①   お母さまにとっての里帰りのイメージや認識はどのようなものでしたか.
  2. ②   娘さんに対してどのような思いがあり里帰りを引き受けようと思いましたか.
  3. ③   娘さんの里帰りを受けるために仕事の面で何か準備したことはありましたか.
  4. ④   里帰り前に提供したいと思っていたサポートと,実際に提供したサポート内容について聞かせてください.
  5. ⑤   里帰り前に提供したいと思っていたサポートと,提供出来たサポートについて実際にサポートをしてみてどう思われましたか.
  6. ⑥   サポートを提供している間に娘さんからの要望は何かありましたか.
  7. ⑦   娘さんが里帰りをする前の生活スタイルと変わったところはありましたか,それについてどう思いましたか.
  8. ⑧   仕事と娘さんへのサポートの両立で何か困ったことや大変だったことはありましたか.
  9. ⑨   里帰りが終わってサポートを振り返ってみて今どのような思いですか.

7. データ分析方法

谷津(2015)の分析方法を参考にし,研究対象者の語りやふるまいからなるべく離れず,推論をできるだけ少なくして出来事に忠実に解釈し,内容の分析をした.

インタビュー内容を逐語録にし,研究対象者毎に丁寧に読み込んだ.次に,文脈的に意味のある文節で区切り1つの意味になるように整理し切片化した.データの意味や表現を検討しながらコード化した.そして,コード間の意味の類似性に基づいて分類しサブカテゴリー化した.サブカテゴリーの意味が同質のものをグループに分類し,カテゴリー化した.得られたカテゴリー間の関連性については,結果において系統的に記載した.また,本研究における真実性の確保として,インタビューは単独で実施したが研究者によってかかるバイアスを最少にするために,インタビューガイドを作成した.インタビューガイドを作成することで全ての研究対象者に対して同様の質問内容でインタビューを実施することができると考えた.そして,研究対象者に逐語録を基に作成したコードの確認を依頼し,データの正確性と真実性の確保に努めた.質的研究に精通した指導教員にスーパーバイズを受けながら真実性の確保に努めた.

8. 倫理的配慮

本研究は,香川大学医学部倫理委員会の審議により承認(受付番号,2020-25)を得て実施した.研究対象者には,研究の背景,目的,意義,研究方法,研究機関,プライバシー・匿名性・秘密確保の権利,全過程において途中で研究協力を辞退することも可能であること,また,途中で辞退しても不利益を被らないことを口頭と文書で説明した.

分析の段階で大学院生および教員,修了生で討議をしたが,その際に使用したデータや知り得た情報に関しては外部には持ち出さず,研究終了まで施錠できる保管庫で保管した.

結果

1. 対象者の概要

インタビューの協力が得られた就労実母8名を分析対象とした.

平均年齢は56.50歳(±4.34)であった.雇用形態は,正規職員4名,自営業を含む非正規職員4名であった.娘の里帰り出産に伴い休暇を取得したものは4名であった.休暇を取得した日数は正規職員で5日間,非正規職員で7日~30日間であった.

娘の平均年齢は29.80歳(±2.85)であった.里帰り出産の終了時期は産後1か月のものが5名,産後1.5か月のものが1名,産後2か月のものが2名であった.

インタビュー方法は電話4名,対面4名であった.インタビュー時間は平均42分であり,電話と対面による所要時間の違いはなかった.研究対象者の概要は表1に示す.

表1 対象者の概要
対象者 雇用形態 娘の里帰り時に休んだ期間(日) 同居家族 インタビュー
年齢 里帰り 年齢 居住地 産後里帰り 夫の 方法 時間
(歳) 経験 (歳) (か月) 同伴 (分)
A 50代 正規雇用 5 30代前半 A県 1 週末 電話 35
のみ
B 50代 非正規雇用 7 第2子 息子1人 30代前半 A県 1 対面 48
以降有 (未婚)
C 60代 非正規雇用 15 息子2人 30代後半 B県 1.5 電話 55
(自営業) (未婚)
D 50代 正規雇用 20代後半 A県 1 電話 41
娘1人
(未婚)
E 50代 正規雇用 20代後半 A県 1 電話 23
F 50代 非正規雇用 20代後半 A県 2 対面 48
(自営業)
G 40代 正規雇用 20代後半 A県 1 対面 45
H 50代 非正規雇用 30 20代後半 A県 2 対面 37
息子1人 週末
(未婚) のみ

*厚生労働省の雇用形態によると,正規雇用労働者は勤め先での呼称が「正規の職員,従業員」である者,非正規雇用者は勤め先での呼称が「パート」,「アルバイト」,「労働派遣事業者の派遣社員」,「契約社員」,「嘱託」,「その他」である者としている.

2. インタビュー調査内容の分析結果

8名の分析結果より,13サブカテゴリー,4カテゴリーが抽出された.カテゴリーとサブカテゴリー一覧は表2に示す.本文中の【】はカテゴリー名,《》はサブカテゴリー,「」は特徴的な語りを示す.

就労実母は娘の出産時に親から受けた支援を娘にも同じようにして力になりたい思いと同時に娘をサポートする不安も抱いていたが,【家族に支えられながら娘の里帰り出産を引き受ける】思いに至っていた.実際に娘が里帰り出産で帰省すると生活全体が変わり,娘をサポートするための仕事の調整も必要となり,【仕事と娘へのサポートの調整は大変】であると感じていた.そして,娘が里帰り出産を終えると実母の生活は一変して元に戻り,【サポートを終えた後の寂しさと安堵】の思いを抱いていた.一方,里帰り出産を終えた後の娘からの感謝の言葉と子育ての様子から,【成長した娘の姿と役割を果たした満足】を得ていた.

表2 娘の里帰り出産をサポートした就労実母の思いのカテゴリーとサブカテゴリー一覧
コード サブカテゴリー カテゴリー
自分の里帰りの時は精神的にいろいろあり,母乳の出が悪く,睡眠不足もあって1か月より長く里帰りしていた 親からしてもらったすべての支援を娘にも同じようにしてやりたい 家族に支えられ娘の里帰り出産を引き受ける
親にサポートしてもらったので娘にしてあげるのも当然かなと思う
自分も産後は里帰りをしていたので,実家で1か月過ごすのは普通の感覚であった
自分の経験から里帰りは当たり前と思い,サポートしてあげないと可哀相かなと思った
食事と精神的なサポートをしようと思い里帰りを引き受けた 初めて出産する娘の力になりたい
娘が長年不妊治療を頑張って授かった子なので世話をしてあげたいと思い里帰りを引き受けた
妊娠中はしんどいので里帰りは当たり前と思い準備はしていた
娘の旦那さんの出張が決まり一人で育児をするのは不安かなと思い里帰りさせた
仕事をしていて出来るサポートは限られていたが,娘を少しでも休ませてあげたいと思い里帰りを引き受けた
夜の授乳を助けてあげたいと思い里帰りを引き受けた
娘の子どもはずっと見れるかなという思いと自分が元気なうちに関わりたいという思いがあり里帰りをを引き受けた
里帰りは当たり前と思い,精神的なサポートに重きを置いて助けてあげたいと思い引き受けた
里帰りは精神的な安心感があると思った
不規則な仕事の中でも家にいる時にできる事をしてあげたい
娘の里帰り前には食事のサポートをしようと思い栄養を考えて3食作る覚悟をしていた
食事の面で娘から要望があり栄養面を考えて準備した
里帰り前には食事や家事のサポートをしようと考えていた
娘にきちんと(規則正しく)ご飯を食べさせてあげたいと思い食事のサポートをした
授乳後の排気,おむつ交換,沐浴など出来ることを手伝った
娘が夜寝れていないときは授乳を変わって,睡眠をとらせた
昔と今の育児は方法や環境も違うことが多く,自分の経験してきた育児が通用するのか不安があった これまでの子育て経験と娘をサポートする不安
里帰りのイメージは賑やかで楽しくなる半面,大変という思いもあった
主人が生きていたら家業は任せて娘のサポートだけ出来たが両方やるしか仕方ない
娘の旦那に言いたいことがあったがスムーズに里帰りが終わるよう我慢した
娘の旦那も帰ってくるとなった時は負担が増えるだろうと思い覚悟した
おばあちゃんは元気なので私が仕事をしている時もサポートを協力してくれた 自分を支えてくれる家族の存在を実感
(家業を手伝っている)娘が仕事を休んでいる間は家族で協力した
仕事に行っている間は,娘と一緒にいてほしいと次男に依頼した
食事の準備は,家族も協力してくれたので休息することが出来た
日中のサポートは家族が協力してくれた
娘の旦那が家事を手伝ってくれたので助かった
最近の人はおむつを変えたりミルクをあげたり育児を手伝ってくれてすごいなと思った
娘の夫は夜起きて育児をしているので感心した
仕事をしながらのサポートは時間も休みもなく大変だった 娘の里帰り出産で生活が変わりサポートは大変 仕事と娘へのサポートの調整は大変
娘のサポートで睡眠不足になったが,期間が分かっていたから出来た
仕事をしながら孫の面倒を見るのは睡眠時間が減りすごく疲れた
仕事をしながらのサポート中は時間がなく,週末に買いだめや作り置きをして休日も忙しく過ごしていた
(里帰りは)期限が決まっているので出来たが,疲れも感じた
おむつの関係でいつもよりごみの量が増えたのが大変だった
仕事から夜遅く帰って来た後に孫の世話や家事をしてほとんど寝る時間がない日もあった
娘の夫が一人生活になるので一緒に里帰りするよう勧めた
サポートを出来る限り一生懸命したつもりだったが,娘にとって十分だったかどうかは分からない
仕事と娘のサポートと両親の介護は寝不足を感じ身体がしんどかった
里帰りを引き受けてのサポートがしんどかった
栄養面に配慮して食事の準備をしたが思ったよりも気を遣った
仕事をしていたが休むことが出来なかった 娘をサポートするための仕事の調整
娘の里帰りのために休みをとることについて職場の理解はあった
全く働かないと収入が無くなるので,時短勤務にして娘と過ごす時間を増やした
職場の理解はあり,1か月の休暇取得ができて助かった
休暇中の仕事はスタッフに安心して任せられた
娘が不安定になり辛かったが,仕事に行かないわけにはいかなかった 仕事中も娘たちが気がかり
仕事に行っている間も娘たちのことが心配だった
娘のために有給を使ってサポートをしたかった
最初の1週間はお互いにリズムが合わないからしんどかったけど,慣れてきてもう明日帰るってなると寂しかった 里帰り出産が終わり娘と孫がいない生活の寂しさ サポートを終えた後の寂しさと安堵
自宅に孫がいると思うとワクワクして仕事から帰るのも楽しみだった
サポートは大変だったけど,仕事から帰ると孫に会えるのが楽しみだった
生まれて間もない孫の世話が出来て嬉しかった
里帰りが終わって気力がなくなり,静かで物足りなく一気に去ってしまったような感じがする
里帰りが終わると自宅に帰っても孫がいないのが寂しい
もっと娘の面倒をみてあげたかったがいつまでもいるわけにはいかなかった
娘が帰った後の部屋を見て寂しさを感じる
娘が帰った後は主人と娘より孫の話をするようになった
里帰りが終わってすごく寂しかったが,(元の生活に戻り)ほっとした気持ちもある サポートが終わり安堵する
1か月の休暇が終わり仕事復帰すると気分転換になった
里帰りが終わるときは寂しかったが娘が帰ると終わったという気持ちでほっとした
育児は娘の意向を大事にした 育児は娘の意思を尊重し見守る 成長した娘の姿と役割を果たした満足
育児のやり方は娘に任せた
昔の育児を押しつけず娘の意思を尊重した
沐浴を手伝っていたけど,自宅に帰ったら一人でしないといけないからと言って自分で段取り良くしていた
娘が自立できるように孫の世話は口だけ出して見守った
孫が可愛いので手助けしたくなるが娘の夫にできるだけ育児を練習させるようにした
娘の旦那さんが来ている時は,親がするより2人で育児をやったほうがいいと思い自分は一歩引いていた
娘の夫は育児に積極的で,泊りに来る日は娘夫婦に任せて見守る
里帰り後に娘が自立するようできるだけ育児をさせて様子をみた
仕事をしていると身体の無理が利かないので夜中の孫の世話は娘に任せた
食事のサポートはすごい助かったと言ってくれた 娘からの感謝の言葉と成長する姿への喜び
里帰りが終わる頃にはリズムが出来てまとめて睡眠がとれるとゆとりができ,帰る前にこれならやっていけそうの言葉に娘の成長を感じた
娘はマニュアル通りの育児をしていたが,里帰りが終わる頃には少しずつ余裕が出て,自分のやり方が出来るようになってきたと思った
産後は子どものことを一番に考えられるようになり,娘の成長を感じた
娘が余裕を持って育児出来ていたので食事と家事のサポートに徹することが出来た
娘は感謝の言葉も伝えてくれて役に立てたかなと思う
長女を出産した時には母乳育児が出来なかったので,娘が母乳育児をしているのを感心する
(里帰り中のサポートを)喜んでくれて帰るときにありがとうと言ってくれて(娘の家に)いつでも来てねと言ってくれて嬉しかった
実家から自宅に帰るときは娘からの言葉は特になかったが,娘の荷物を運んだりするのを手伝い,自分が帰るときにはお世話になりましたという言葉があった
初めての子育てで分からないことばかりなので娘を助けてあげたいという思いでサポートし大きい仕事をやり終えたという気持ちがある 大きな役割を果たした満足
両親にひ孫を見せてあげられて喜んでくれて嬉しかった
(サポートは)やるだけやったので物足りないことはなく,ほぼ成功と思っている
娘も一生懸命子育てをしていたので,食事のサポートもそんなに大変とは思わなかった
サポートを頑張った自分に満足している
里帰りをしていたので娘が不安定になっていることに気づけた
娘の2人目も元気で見てあげたいので,定年までは仕事を頑張りたい 娘の第2子の里帰り出産も引き受けるために仕事を頑張る
育児がしんどくて実家に帰ってくるときは助けてあげたい
親としては娘が幸せで過ごしてくれるのが安心

3. カテゴリーとサブカテゴリーの説明

1) 【家族に支えられ娘の里帰り出産を引き受ける】

就労実母は,娘の出産時に里帰り経験があり,親からのサポートを受けながら育児をしていたこと,産後は身体的,精神的にも大変であった経験から,初めて出産する娘の里帰り出産を引き受けたいと思っていた.一方,就労実母は娘の里帰り出産を初めてサポートすることになり,これまでの子育て経験が役に立つのか,就労しながら娘の里帰り出産をサポートすることに対する不安を抱いていた.さらに,実母は就労していることから,一人で娘へのサポートをすることは難しかったが,同居している家族や娘の夫の支えによって里帰り出産をサポートできていたことを意味する.これは,《親からしてもらった全ての支援を娘にも同じようにしてやりたい》,《初めて出産する娘の力になりたい》,《これまでの子育て経験と娘をサポートする不安》,《自分を支えてくれる家族の存在を実感》の4つのサブカテゴリーから構成された.

(1) 《親からしてもらった全ての支援を娘にも同じようにしてやりたい》

就労実母が娘を出産した時に親から受けた産後支援や,大変だった育児経験から娘の力になり,親からしてもらった全ての支援を娘にも同じようにしてやりたいと思っていたことを意味する.

「自分もやっぱりある程度は親にサポートしてもらってるし,(中略)まぁしてくれとるからするんが当然かなみたいなとこもあったし.」(B氏)

「産後ひと月くらいは産んだ後ゆっくりしないといけないっていうのがまあ自分自身もそうさせてもらったのもあって.」(E氏)

「(里帰りは)まあ私もしたので.出産して1か月は帰るんが当たり前というか.帰らせてもらわんと大変やしね.当たり前というかしてあげな逆に可哀相かなと.」(G氏)

(2) 《初めて出産する娘の力になりたい》

娘が里帰り出産をするきっかけはそれぞれあったが,就労実母は里帰り出産を当たり前と捉えており,就労しながらではあるができることはしてあげたいという思いを抱いていたことを意味する.

「食事のサポートもあるかなと思って.やっぱりあの睡眠不足とかでやっぱり食事作れないんでまぁあのちょっとうん,しようかなと思ったんやけどね.」(A氏)

「私も仕事フルタイムでしてるんでまあどれくらいサポート出来るかいうのは限られるんですけど,まあでもね少しでも休ませてあげたいっていうのがあって.少なくとも洗濯とかご飯くらいは助けてあげれるかなっていうことで.引き受けたところです.」(E氏)

「まあ多分出産って初めてだし,すごく心配だし,不安に思ってることもあると思うので力になりたいっていう気持ちがやっぱり一番かな.助けてあげたい,力になりたい.そんな気持ちでしたね.」(H氏)

(3) 《これまでの子育て経験と娘をサポートする不安》

実母はこれまで経験してきた子育ての経験が役に立つのか不安を抱いていた.さらに,就労しながら娘のサポートをすることで負担が増大することやサポートが十分にできるのか不安を抱いていたことを意味する.

「もうやっぱり40年近く前に子育てしてるんで,それを(娘に)教えても通用するのかなと思って不安でしたね.」(C氏)

「(里帰り期間中娘の夫が同居することに)負担がなんだろ増えるんは覚悟しました.」(F氏)

「なんですかね,あの昔と違うでしょ今って.子育てというか子育ても違うしベビーグッズも何か違うし.(中略).私もあんまりもう昔過ぎてあんまり覚えてない所もあるし,でもこんなんなんでって言われたらあそうなん?みたいな感じで極力受け入れんとね.時代が違うしね.」(G氏)

(4) 《自分を支えてくれる家族の存在を実感》

実母は就労を継続しながら娘の里帰り出産をサポートすることになるため,自分だけでサポートをするには限界があるが,家族に助けられながら娘へのサポートができていることを実感していたことを意味する.

「おばあちゃんがおったから娘もシャワー浴びる間子ども見てくれよったり,ミルクとかもねぇ用意しとったら飲ましてくれるし.人が全然おらんのとはね違うね.うちの場合,まぁ私が仕事しよってもばぁちゃんがおったけんね.」(A氏)

「(娘が里帰りしてきても)仕事はもうなんも変わらず,土日祝だけ休みというか,普通のカレンダー通りなので8時半くらいに会社行って17時までなんです.その間は全くもう家のことはタッチせずというか,家にはその生んだ娘(長女)と赤ちゃんと妹(次女)で.だけん妹(次女)の方が昼間のサポートはすごいしたと思うんですけど.私はなかなか(仕事が休めず昼間のサポートができなかった).」(D氏)

2) 【仕事と娘へのサポートの調整は大変】

娘が里帰り出産で帰省すると生活全体が変わり,就労しながらの娘へのサポートは休みがなく,睡眠時間が減り疲労を感じていた.また,娘をサポートするために仕事を調整する必要があったことや,調整ができ仕事をしていたが仕事中も娘たちのことが気がかりで,できるならばそばにいてあげたかったという思いを抱き,仕事と娘へのサポートの調整は大変であると感じていたことを意味する.これは,《娘の里帰り出産で生活が変わりサポートは大変》,《娘をサポートするための仕事の調整》,《仕事中も娘たちが気がかり》の3つのサブカテゴリーから構成された.

(1) 《娘の里帰り出産で生活が変わりサポートは大変》

娘の里帰り出産によって就労実母の生活スタイルは大きく変わり,時間に追われながら生活し,睡眠時間が減り自己犠牲をはらいサポートしていた.仕事と娘へのサポートの両立は想像以上に大変であると感じていたことを意味する.

「(日が変わる前に仕事から)帰ってきてそこからお風呂入って,自分もさっとご飯食べて洗濯して.赤ちゃんの洗濯はもう先にしとるけど大人の物をそこから洗濯して.ほんで,そこからミルクがすぐの時もあるし,(自分は寝るのが)2時や3時くらいの時もあるし.なんか寝とんやら寝とらんのやら分らんような.」(B氏)

「睡眠時間はだいぶ少なかったですね.すごい疲れる.仕事もしだしてやっぱり子ども(孫)も見てって.(孫が)夕方から泣き出してそれでずっと抱っこしてたらしんどいんですよね.」(C氏)

「とにかく時間がないので.とにかく少しでも早く帰って,少しでもご飯の準備しなきゃみたいな感じで毎日バタバタしてましたね.普段一人なので全然急がないので.」(E氏)

「(仕事とサポートの両立をして)まさか自分がこんなに一瞬で,その15分とか寝落ちできるとは思ってなかった.割と疲れたなって.年もあるかな.」(F氏)

「なんかやっぱり寝不足を感じることがちょっとあって合間で私も昼寝30分しようとかってちょこっと仕事がない日はしながら何とか頑張りましたね.やっぱり子どもが帰ってから(里帰りが終わってから)口内炎が出来たり,疲れがどっと出て.」(H氏)

(2) 《娘をサポートするための仕事の調整》

就労実母は産後間もない娘を少しでもサポートするために仕事を調整し,可能であれば休暇を取得していた.また,急に休みが必要になることを予測して予め上司に了承を得るなど可能な範囲で仕事の調整をしていた.一方では,娘が里帰り出産をしていても,仕事を休むことができず仕事の調整は大変であったことを意味する.

「やっぱりこうちょっと時短でうん少しずつ働いていったらええかなって.(昼間の仕事の)方も午前中だけ働かしてもらって,まぁ昼から帰って.(娘が)退院して1週間はバイトも休んで(昼間の仕事)の方はきよったんですけど,まぁ午前中だけいう形で,昼から帰ってちょっとお昼ご飯も一緒に食べてっていう状況にして.次の週からは(昼間の仕事も)フルにして,バイトの方はある程度にして20時くらいから数時間ずらして.そういう形で.全く行かんかったら収入も無くなるので.」(B氏)

「私が働いてて休みがとれないので,この前初めて予防接種もあったんですけど,生んだ方(娘)と妹(次女)と赤ちゃんの3人で病院行って予防接種も打った後泣いたんも妹の方があやしてなんかしとったみたいで.だいぶなんか,おるとおらんとでは違うみたい.」(D氏)

「まあ何かひょっとね何かあった時にサポートしなきゃいけないってことを上司に伝えてですね,で一応ひょっと急にお休みを取らせてもらわないかんことがあるかもしれませんってことは言ってたんですけど.」(E氏)

(3) 《仕事中も娘たちが気がかり》

実母は仕事中も娘たちのことを心配しながら働いていた.娘のそばにいてあげたかったが,仕事をしないと生活が成り立たないという現実に目を向けながら,仕事と娘へのサポートの両立に葛藤していることを意味する.

「(娘が精神的に不安定になっていたが)私がバイト行っとるときにちょうど1週間目くらいかな,退院して.うん.やっぱり何か(児が)泣くばっかりするし乳やってもすぐ泣くし,ほんだら乳ももうでよらんいうて.うん.でなんかこれ様子がおかしいぞっと思って.(中略)あ,これね鬱になったら困ると思ってね.(中略)お母さんが(仕事に)行ってからもうそんな感じなんやぁ言うて.だけんそれまでは私が晩におったから,そうそう.ちょうどバイト行きだして.そなん言うたから.いやーほんだけど仕事行かんかったら私もねぇ,正直経済が.その前もコロナで収入が無かったのに.ねぇ.」(B氏)

「(仕事中も娘たちのこと)それはやっぱり心配してました.」(C氏)

3) 【サポートを終えた後の寂しさと安堵】

実母は,娘が里帰り出産の期間を終え無事に自宅へと送り出せたことに安堵するとともに,娘と孫のいない生活に物足りなさと寂しさを感じていた.しかし,サポートを終えて少しずつ自身の生活を取り戻したことで安堵の思いも抱いていた.寂しさと安堵は交わりあいながら実母の感情になっていたことを意味する.これは,《里帰り出産が終わり娘と孫がいない生活の寂しさ》,《サポートが終わり安堵する》の2つのサブカテゴリーから構成された.

(1) 《里帰り出産が終わり娘と孫がいない生活の寂しさ》

里帰り出産中の1~2か月は就労実母にとって忙しく大変な日々であったが,孫と一緒に過ごすことができ喜びを感じる日常でもあった.しかし,娘の里帰り出産が終わると自宅に娘と孫がおらず,家が静かになり物足りなさを感じることもあった.娘と孫が帰った後は,家族と孫の話をする機会が増えもう少し娘の面倒をみてあげたかったという心残りと寂しさを抱いていることを意味する.

「なんか,気力がなくなったというか.なんかうん.なんか静かすぎて.なんか,なんか物足りんというか.えっ,みたいな.いっぺんに去ったような.なんかねーうんうん.いやー私なんなんこれ,この状態,みたいな.」(B氏)

「ねえまあ,ひと月だったから私の気持ち的にはもうふた月でみ月でも好きなだけおってえんでって子どもには言うてたんで.もうちょっとおって見てやっても良かったかなと思うんですけど,まあでもいつまでもおるわけにもいかんし.2人の生活にも,3人の生活にも慣れないかんしっていうところで.」(E氏)

「なんかちょっとやっぱり寂しい.和室にこう荷物がいっぱいで布団も敷いて赤ちゃんもいてって言うので,ざわざわしてたのがガランと空いて見たら帰ったなーみたいな寂しいのはありますけどね.」(H氏)

(2) 《サポートが終わり安堵する》

娘の里帰り出産による帰省期間は産後1か月~2か月と長い期間ではなかったが,娘の里帰り出産によって就労実母の生活スタイルは大きく変わっていた.実母は,仕事と娘へのサポートをする中で疲労を感じていたことから,帰省中のサポートを終えて娘を無事に自宅へと送り出せたことで自身の生活を取り戻し安堵していることを意味する.

「(娘が自宅に)帰ってみたらちょっとほっとしたのもあって.あー終わったーみたいな.ダラダラする時間も出来たし,テレビも見られるし.(産後は)あんまりテレビとか見ん方がええとか言うじゃないですか.音のない生活しよったんで.」(E氏)

「大変やって思いながらも(サポートして)もう帰るねって言われたら,もう帰るん?みたいなんもあったけど.でもいざ帰ってみたら,はあーみたいな.終わったーみたいな.」(G氏)

4) 【成長した娘の姿と役割を果たした満足】

娘は実母のサポートのもとで自分なりの育児方法を見出し,自分のペースで育児をすることができ,里帰り出産が終わる頃には少しずつ育児に自信をつけていた.実母は育児の主体は娘であると認識し,手を出しすぎずに一歩引いて見守っていた.そして,里帰り出産が終わった後の感謝の言葉と,娘の成長した姿を見届けることで,サポートできた喜びと達成感,母親としての大きな役割を果たした安堵と同時に満足を得ていた.役割を果たした満足は,里帰り出産を引き受けてのサポートができたことだけではなく,娘をここまで育ててきた自負を持ち実母が満足を得ていたことを意味する.これは,《育児は娘の意思を尊重し見守る》,《娘からの感謝の言葉と成長する姿への喜び》,《大きな役割を果たした満足》,《娘の第2子の里帰り出産も引き受けるために仕事を頑張る》の4つのサブカテゴリーから構成された.

(1) 《育児は娘の意思を尊重し見守る》

実母が育児をしていた頃と現代の育児は異なるところがあることから,昔の育児方法や知識を押し付けるのではなく,育児の主体は娘であると認識し,娘の意思を尊重し自立できるように見守りサポートしていたことを意味する.

「えーっと,娘だけが帰ってきてたんじゃなくてその主人も一緒に帰ってきてたので,うん.(自宅に)帰ったあとはその主人に面倒見てもらわないかんようになるから,なんかもう出来るだけ,その出来るだけその赤ちゃんの面倒を主人にも,私もつい可愛いし手助けしたくなってしまうんですけど,まあね主人の方にも練習させてあげてみたいな話はありましたね.」(E氏)

「こうしたいんやろうなと思ったらやって(娘の考えた方法で一度やってみる),失敗したらやり直したらええけん,(育児は)一応本人の意向を大事にしたかな.」(F氏)

(2) 《娘からの感謝の言葉と成長する姿への喜び》

里帰り出産の期間を通して,少しずつ母親となっていく娘の姿に喜びを感じ,サポートに対する娘からの感謝の言葉があり,母親としてサポートできた喜びを抱いていることを意味する.

「帰るときありがとうって言うてくれて.休みの日は(自宅に)いつでもきてねって.旦那さんもお世話になりましたいうてね.だけど本当に喜んでもらってよかった最後にね.」(A氏)

「(前略)(娘は)やっぱりなんていうんかな自分本位なところがあって,自分勝手やなって思ってたんですけど.子どもが出来たら,やっぱり自分のことよりは子どものことを先に考えるようにはなってましたね.まあだんだんとお母さんになってきてるんかなと.」(C氏)

「まあ多少は役に立ったかなって思ってますし,うんやっぱり可愛いし.娘もすぐお母さんありがとうって言ってくれるし.割にありがとうって,寝かしてもありがとうってぱっと言うてくれるからね.」(H氏)

(3) 《大きな役割を果たした満足》

実母は就労しながら初めて出産する娘の里帰りを引き受けサポートするという大きな役割を果たした達成感とともに満足を得ていることを意味する.

「まあ大きな仕事を終えた,大きな仕事いうほどではないんやけど.うんまあ,やっと孫が出来たから見てあげたいっていうところがあったから大きい仕事をやり終えたっていう感じもありますね.」(C氏)

「(サポートを)うんもう,私頑張ったみたいなんはあるんですけど.そうですね,うん.頑張ったんです.勝手な自己満足ですけど.」(G氏)

「(前略)じいちゃんはもう息が苦しかったんですけど,何か男前じゃーってニコニコして.おばあちゃんも表情がニコニコしてね.やっぱり喜んでくれてね.初ひ孫やったからね.見せてあげられてよかった.」(H氏)

(4) 《娘の第2子の里帰り出産も引き受けるために仕事を頑張る》

娘が次子を出産する時には可能であれば助けてあげたい,そのためにこれからも元気で仕事を頑張るという新たな目標を抱いていることを意味する.

「娘の2人目も元気で見てあげたいので,定年までは仕事を頑張りたい.」(B氏)

考察

1. 家族に支えられながら娘の里帰り出産を引き受ける

実母は全員里帰り出産の経験があり,親からのサポートを受けながら育児をしていた.先行研究では,実母は自身の祖母像の形成をする時,自身の母親から受けた支援の回想をして,自分の妊娠・出産時に母親にしてもらったことを思い出し,自分がしてもらったことを娘にもしてやりたいと感じていたことを明らかにしている(金澤ら,2016).本研究対象者も出産後のことを鮮明に思い出し,親に助けてもらっていたことを思い巡らせていた.そして,娘を出産した時に親から受けた産後サポートで,産後間もない大変な時期の育児を乗り越えて,娘を育てることができたという思いに繫がっていた.実母は就労しているためできるサポートは限られていたが,できる限り娘を休ませてあげたい,夜の授乳を助けたい,育児物品を準備してあげたい,食事の準備をしてあげたい等,親からしてもらった全ての支援は娘にも同じようにして力になりたいという思いへ繫がっていったと考える.

一方,実母は初めて出産する娘を助けたいと思っていたものの,就労しながら娘の里帰り出産をサポートする決断に至るには容易ではなかったと考える.就労していることから,娘と生まれて間もない孫を家に残して仕事にいかなければいけないことや,時間的制約等から,実母だけでのサポートには限界があることを理解していた.しかし,家族に支えてもらいながら娘の里帰り出産をサポートしていたと考える.娘の里帰り出産時に,娘の夫が同伴していたものは2名おり,娘の夫とともに生活をすることに不安を抱く就労実母もいたが,娘が実際に帰省してくると,同伴の夫は育児や家事に協力していた.さらに,同居する家族が実母の負担軽減のために家事や日中の娘のサポートを協力してくれるなど,家族の存在は就労実母の負担軽減に繋がっていたと考える.今回の研究対象者8名のうち自身だけで娘をサポートしたものはおらず全員が娘の夫または家族に支えられながら娘のサポートをしていた.しかし,実母一人だけで娘へのサポートをしなければいけない状況にある就労実母も多くいると考えられ,その場合さらに負担が大きくなることが考えられる.就労実母の負担軽減に向けた支援が必要であると考える.

2. 就労実母の仕事と娘へのサポートの調整

就労実母は娘の里帰り出産をサポートすることに,これまでの子育て経験が役立つのかという不安と同時に,娘をサポートする不安を抱いていた.就労実母の中には家業を営んでいるものもおり,仕事も娘へのサポートも両方やるしかない状況であったことや,里帰り出産に娘の夫が同伴し帰省していたものでは,引き受けることに対して不安を強く抱いていた.夫が同伴していなかったものにおいても,実家に来た際の食事には気を遣うという語りがあったことから,夫が同伴し一緒に生活していたものでは実母の気遣いもより強かったと考える.このように,娘の里帰り出産を引き受け生活することは短期間であるものの,今までの生活リズムや生活環境とは大きく変わる非日常であり,生活全体の変化に伴う負担が増えることに対して就労実母の不安が強まっていったのではないかと考える.

そして,娘が里帰り出産で帰省している期間は,仕事と娘へのサポートが実母の生活の中心になっていた.仕事が終わると,娘の食事の準備をするために急いで帰宅する等,常に時間に追われながら生活していた.また,娘や孫の世話をしていたことから十分な睡眠時間を確保できない実母もいた.このように,娘の里帰り出産をサポートすることで実母自身の時間の確保も難しくなる等,生活全体の変化に伴う負担が大きくなり,その変化に順応していくことも大変であったと考える.

実母は自分の育児体験を思い出し,母から受けた支援を娘に繋ぐために自己を顧みずに無心に助ける姿があったことを明らかにしている(中村,2018).本研究の就労実母も親から受けた支援を娘に同じようにしてやりたいと思い里帰り出産をサポートし,生活全体が変化する中で娘を助けていたことは先行研究の結果と同様であった.そして,仕事と娘へのサポートの両立を目指していた就労実母は,産後間もない娘が精神的に不安定になっていても経済的な問題から仕事を休む選択が出来なかった.娘の出産に伴い休暇を取得できなかった実母もおり,仕事中も家にいる娘たちのことを気にかけていた.このように,就労実母は仕事と娘へのサポートの両立に葛藤を抱き,その調整は大変であるという思いに繋がっていったと考える.この思いは,仕事も娘へのサポートも手を抜かず,初めて出産した娘を助けたいという実母の気持ちであったと考える.

就労実母は,慣れないサポート生活の不安を抱きながら娘の里帰り出産をサポートしていたが,実際に娘が帰省すると生活全体の変化に伴う負担が増大し,慣れないサポート生活に大変さを感じていた.このことより,就労実母には妊娠期から里帰り出産をサポートする準備等ができるような支援が必要であると考える.妊娠・出産・育児において実母本来の力が有効に発揮されないのは,多くの実母は娘の妊娠・出産・育児に関して専門家あるいは,医療従事者から情報を得ることができなかったからだという指摘がある(柳川,2002).看護者は,里帰り出産を引き受ける実母に対する指導を妊娠中から産褥期において十分にできておらず,また,就労実母は里帰り出産で帰省した娘へのサポートや,育児の新しい知識を習得する機会は少ない.本研究結果でも,就労実母の2名に孫がいるものの共に生活していないことから,育児の新しい知識を得る機会がなく,出生後間もない孫の世話に対する不安を抱いていたと考える.よって,実母の負担や不安をできる限り少なくし,サポートできるよう支援していく必要があると考える.さらに,その支援は里帰り出産を希望する娘に対しても必要と考える.古くから続く里帰り出産であるが,家族形態や実母の就労状況は昔と大きく変わっている.娘の里帰り出産により実母は生活が変わりサポートが大変であったという結果から,娘は実母にかかる負担を理解しておく必要がある.そして,助産師は娘が里帰り後の生活を具体的にイメージできているのか保健指導の中で確認する必要がある.

先行研究によると,里帰り中に娘が体験した否定的な思いに,サポート提供と認知があることを明らかにしている(井関ら,2010).また,祖母の育児支援の実態として,妊婦が望む産褥期の育児支援は子育て相談など間接的支援であったが,実際に祖母が行っている支援としては,子育て支援よりは家事協力などの間接的支援が多く,妊婦が望む支援と祖母が実際にしている支援には違いがあることが明らかとなっている(岡津ら,2011).これらより,里帰り出産中に娘が実母に対して期待している内容と,実母が就労継続しながらではあるがサポートできる内容について,里帰り前に家族間で話し合っておくことが必要である.双方が里帰り出産についてのメリット・デメリットについて前もって話し合うことで,娘の求めるサポートは実母に伝わり,実母のできるサポートや役割を娘も知ることができる.また,実母には自治体で実施されている祖父母教室や孫育てに関する本を紹介するなど適切な情報を提供することで,新しい子育ての知識を得ることもでき,里帰りを引き受ける準備に繋がる.娘は里帰りによって実母にかかる負担を理解する必要があるが,就労実母ができるサポートにも限界があるため,娘には訪問型産後ケア事業や産後ヘルパー等の社会資源情報を提供し,産後に必要なサポートを実母のみに頼るのではなく,地域社会から受けられる支援内容についても情報収集しておく必要がある.このように里帰り出産に関する支援は,実母だけでなく娘にも実施することで,双方の負担軽減への一助に繋がると考える.

3. 娘の里帰り出産を引き受けた就労実母の安堵と満足

就労実母は,娘が無事に出産を終えて自宅に帰るときに感謝の言葉を伝えてくれて嬉しかったことや,里帰り中の育児期間を通して,娘が子どものことを一番に考えられるようになり少しずつ母親になってきていることを感じていた.里帰りは,産後の女性の産褥復古支援および育児不安の解消と子育ての態度の形成の場,そして,新たな母子関係の発達の場でもあったと述べている(小林,2010).さらに,里帰りを引き受けたことで,娘との新たな関係の構築があったことを明らかにしている(中村,2014).このように,就労実母は娘が母親として成長する姿を見届けたことに安堵し,ここまで娘を育てることができたという自負を持つことにも繋がっていたと考える.さらに,娘の里帰り出産が終わったことで,以前の生活を取り戻したことによる安堵の思いもあると考える.娘が自宅に帰った後は自宅でゆっくりとする時間をとれていたことから,就労実母は,産後の不安定な時期の娘を気遣い,自分の時間を犠牲にしながら慣れない生活の中で娘と孫の世話をしていたと考える.それゆえ,娘の里帰り出産が終わることは,就労実母にとって自分の時間を取り戻し安堵することに繋がったと考える.

産後里帰りを引き受けた実母は,無我夢中で里帰りのサポートをしたことにより得た充実感があることを明らかにしている(中村,2014).本研究の就労実母は,娘を助けてあげたいという思いでサポートし大きい仕事をやり終えたと感じていたことや,娘へのサポートを頑張ったことに達成感を得ていた.娘の里帰り出産を初めて引き受けた就労実母は,これまでの子育て経験が役立つのか,また,生活全体の変化に伴う負担への不安を抱きながらも,仕事と娘へのサポートの両立を目指して支えていたと考える.その中で,就労実母は娘からの感謝の言葉や成長した姿を見届け,安堵するとともに役割を果たした満足も得ていたと考える.

先行研究によると,里帰りを引き受けた体験から導き出された実母の人生における意味として,人生の新たな方向性への気付きがあったことを明らかにしている(中村,2014).このように就労実母が得た満足は,里帰り出産後も娘を助けてあげたいという思いや,娘の第2子の里帰り出産も引き受けるために今後も仕事を頑張るという決意になり,実母の生きがいにも繋がっていたと考える.仕事と娘へのサポートの調整は大変であったが,里帰り出産を引き受けたことで,サポートの大変さを超える喜びや満足を娘や孫から得ることができたと考える.

里帰り分娩中のみならず,里帰り分娩後も産後のサポート源は家族,主に実母であることを明らかにしているように(古川ら,2020),実母からのサポートは里帰り出産の期間だけではなく,今後も長く続いていくものであり,実母は引き続き娘や孫の成長に喜びや満足を得ていくと考える.本研究では,里帰り形態でのサポートであり,初めての育児に奮闘する娘の姿を間近でみたことは就労実母が娘の成長をより強く感じることに繋がったと考える.

結論

就労実母が娘の里帰り出産をサポートすることは,生活が大きく変わる非日常であり,仕事と娘へのサポートを両立していくための葛藤を抱いていた.これは,仕事も娘へのサポートに対しても全力で,就労しながらも初めて出産した娘を助けたいという実母の気持ちの表れであった.一方,里帰り中の娘と生活をともにし,子育てに奮闘し母親になる姿をみて成長を感じたことは,サポートの大変さを超える喜びであり,娘をサポートするやりがいにも繋がっていた.そして,就労実母が娘へのサポートを通して得た安堵と満足は,娘の第2子の里帰り出産も引き受けるために仕事を頑張るという実母の生きがいにも繋がっていた.

研究の限界

本研究において,対象者はA県で就労実母8名に限定しているため,対象地域や研究対象者の違いが,研究結果にどのように影響するのか調査できていないことが研究の限界である.

謝辞

本研究を実施するにあたり,ご協力いただきました看護部長様,病棟看護師長様ほか,快くインタビューを引き受けていただきました研究対象者の皆さまに心より感謝申し上げます.なお,本論文は香川大学大学院医学系研究科へ修士論文として提出したものに加筆修正したものである.

利益相反

本研究における開示すべき利益相反は無い.

著者資格

MOは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,論文作成に貢献:MS,CK,EIは研究の着想,デザイン,データ分析,草稿作成に貢献:MSは研究プロセス全体への助言および原稿への示唆,すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
関連文献
 
© 2022,香川大学医学部看護学科

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