抄録
【はじめに】大腸癌の浸潤先端部分の間質においてはしばしば細胞1個または2から3個程度の小規模の島状癌細胞集塊が観察される。これはbuddingと呼ばれ、これが高頻度に見られる症例では低頻度な症例に比べ予後が有意に悪いことが明らかになり、新しい悪性度規定因子として最近注目されている。今回われわれは、進行大腸癌の浸潤先端部におけるこのbuddingの頻度を定量し、その臨床的意義を調べるとともに、浸潤先端部におけるbeta-cateninとMMP-7の発現を調べ、これらの発現がbuddingの成立に関与している可能性が示唆されたのでここに報告する。【対象および方法】症例は当院で2002年1月から5月までに手術により摘出された連続40例の散発性進行大腸癌である。この腫瘍の最大深達度を示す割面のパラフィン切片を用い、これに対しbeta-catenin,MMP-7を二重染色し、またbudding数を算出した。判定の基準は、budding頻度は最も高頻度に見られる100倍視野での個数を算定した。beta-cateninは腫瘍全体の5%以上の核に発色する症例を陽性とした。MMP-7は浸潤先端部で10%以上の発色があるものを陽性とした。【結果および考察】budding は腫瘍の膨張性発育を示す例では少なく、浸潤性に発育する例で多く見られ、その頻度はINF因子(p=0.0012)を反映し、さらにリンパ管侵襲(p=0.012)、リンパ節転移(p=0.015)、進達度(p=0.026)、肉眼型(p=0.0022)と有意に関連し癌の進展と正相関した。beta-cateninは正常部と腫瘍部の細胞膜に染まったが、一部の腫瘍では核に優位な反応が認められた。MMP-7は腫瘍の浸潤先端部分の細胞質に局在して発現した。beta-cateninの発現は臨床病理学的因子との関連は見られなかったが、MMP-7の発現はリンパ節転移との有意な関連が認められた(p=0.031)。また、beta-cateninとMMP-7はそれぞれbudding頻度と有意に関連した(p=0.0069、p=0.0098)。さらにbeta-cateninとMMP-7の発現は相関し (p=0.027)、beta-cateninの核への移行とMMP-7の発現が同じ細胞上でもしばしば観察された。【まとめ】大腸癌の浸潤先端部においてはbudding が観察され、それは癌の進展と強く相関し悪性度規定因子として有用であった。また、buddingの成立にはbeta-cateninの核への移行とMMP-7の発現が関与している可能性が考えられた。