日本農村医学会学術総会抄録集
Online ISSN : 1880-1730
Print ISSN : 1880-1749
ISSN-L : 1880-1730
第55回日本農村医学会学術総会
セッションID: sympo3
会議情報

シンポジウム3
地域医療の将来展望と日本農村医学会の使命
明石 光伸山瀬 裕彦
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 医療といえどもその時々の社会状況と無縁ではありえない。むしろ表裏一体、密接な関連を有している。とすれば、現状を認識し将来の社会状況を正しく認識する必要がある。加速する少子高齢化、やがて訪れる多死時代、将来の人口の減少。避けられない医療費の伸び、それを支える人口の減少。それらに対し、国は世界に冠たる国民皆保険制度を維持すべく医療の一層の効率化と医療費を抑制(国は適正化というが)するための政策を打ち出している。しかし、あくまでも医療は人の命と健康を守るという理念の基に、人間の尊厳を守る総括的医療が求められている中、このような流れでは、病院の機能分化が押し進み、ますます都市部へと偏った医療が促されることになる。紹介率による急性期加算や手術例数による算定などは、今回の改定により中止となり、患者にとって説明のつかない負担であり、何のメリットもなく当然であるが、DPCの導入や医療機関の差別化は人口密度の低い地方における地域医療の将来展望に影をおとしている。このような背景のなかで当シンポジウムで地域医療の将来を語り、日本農村医学会に何ができるのか、何をしなければならないのかを語ることは誠に時宜を得た取り組みであると考える。
 シンポジストには次の5人の方に登場してもらう。 まず、診療所医師の立場から佐久総合病院地域ケア科の長 純一先生に実際に農村の診療所活動を通して語ってもらいついで、農村医学会の中心的構成メンバーである厚生連病院の立場から厚生連病院長会長でもある高橋正彦先生に地域医療に貢献する厚生連病院の展望と行動計画をお話いただく。
 また地域医療を担う地方大学の立場からは、次の2名の先生にお願いした。長崎県は離島診療所の医師確保のため離島僻地医療支援センターを設立し、ドクターバンクとしての支援を行っている。1年半診療所に勤務すればあとの半年間は自主研修をすることができる他、五島中央病院に設立された長崎大学離島医療研究所との連携により離島診療所に勤務しながら大学院に入学し、医学博士の学位を習得することができる。今回、その所長である前田隆浩教授から離島をかかえた地方大学における医療人の育成などの現状を、ついで、文部科学省のGPに採用されている過疎農山村をかかえた、地域の医療を担う医師造りの取り組みを実践され、さらにアメリカの地域医療医師造りのプロジェクトWWAAMIと連携し日本版作りを開始された島根大学医学部病院長である小林祥泰教授に話題を提供してもらうことにしている。
 最後に、昨年初めて病院代表として中医協委員となり、新しい中医協総会に参加され、日本の医療政策に積極的に提言され、ご自身も赤穂市民病院長として地域医療を実践されている邉見公雄先生に21世紀の地域医療の将来展望と農村医学会への期待をずばり提言していただくことになっている。
 農村医学会における“農村”には重大な意味がある。農村地区における全日本的規模の普遍的な医療に関する問題点が出現したときに、機能的に迅速に対応できる組織は恐らく農村医学会が最も適切と思われる。以前は農村といえば医療に関して貧困であるとのイメージが強かったが、今や都会において医療の荒廃、医療の砂漠化が心配されている状況の中で農村医学会の果す役割と責任は大きくなってきていると言える。本シンポジウムが農村医学会を更に発展させ充実させ地域医療の将来展望に資することがきれば幸いである。会場の皆様からの活発な討論を期待している。

著者関連情報
© 2006 一般社団法人 日本農村医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top