日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2E21
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一般演題
気管切開術を施行された高齢患者への退院までの関わり
賢木 静千田 恵子鎌田 玲子吉田 隆子
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キーワード: 気管切開術, 高齢患者
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抄録

〈緒言〉 今回、甲状腺腫瘍摘出術施行において、腫瘍の浸潤により気管切開術(以下気切)を予期せず施行された事例を経験した。術後患者は気切に関する知識のないまま生活習慣を変更せざるを得ない状態となった。そこで入院前の生活を考慮し援助を行った結果、気切後のボディイメージの受容、食べる楽しみの回復、生活上の自己管理ができたのでその関わりについて報告する。
〈患者紹介〉  79歳 女性
病名 甲状腺腫瘍(T4N1)現病歴 平成17年5月手術目的で入院し、甲状腺腫瘍摘出術施行。腫瘍が両側声帯まで浸潤していた為、術後反回神経麻痺による窒息の危険が高く家族同意で気切施行し、気管カニューレ(以下カニューレ)が挿入された。社会背景 家族は84歳の夫、次女、孫2人の5人家族で、手術直前まで川柳の指導や講演を全国各地で行っており、各地の名産品を食べることを楽しみにし、話し好きで明るい性格であった。
看護問題
 (1)気切後のボディイメージに戸惑っている。
 (2)咽頭痛や嚥下によるムセがあり、食事に恐怖感がある。
 (3)退院後の生活についての不安がある。
看護目標
 1.気切後のボディイメージが受容できる。
 2.経口摂取でき、食べる楽しみが回復する。
 3.退院後の生活の注意点について患者・家族共に習得できる。
〈結果〉 患者はカニューレが入っている事をなかなか理解できず、術前のように発声しようとしたり、口から排痰しようとする行動が繰り返し見られた。そこで、段階的に患者の年齢に合わせ理解できるような行動目標をたて、理解度を確認しながら介入を行った。初めは鏡を見る事からとし、カニューレの位置が認識できるようにした。また一緒に鏡を見ながら触っても心配ない事や、排痰時の方法について指導を繰り返し行った。その結果怖がって消極的であった患者は次第に鏡を見る時間が増え、自分で排痰する事が可能となった。術後21日目スピーチカニューレに交換でき、発声に関する行動目標を持ち、一緒に発声訓練を行った。患者は「これで先が見えてきた」と表情も明るくなり、うれしそうに他患者へ自ら話しかける場面が増えた。会話の中で気切口を小鳥の巣箱にたとえて、愛着を持って関われるように変化が見られた。食事については、術後1日目に食事開始した際のムセが恐怖感につながり、患者の同意の下やむを得ず経管栄養に移行した。しかし「味気ないものね」と次第に経口摂取への願望を示す言葉が増え、創状態の安定と共に嚥下訓練を開始し、1時間以上かけてムセなく食べられるようになった。退院に向け、入浴、洗髪、更衣、カニューレ管理の注意点についてパンフレットを用いて患者・家族へ指導を行い家族の協力も助け、注意点を守った生活行動がとれるように変化した。
〈結論〉
1.気管切開術後のボディイメージの受容には、気切部を体の一部として理解する事に加え、気切前の生活に戻れる自信と患者の楽しみの回復ができるような援助が必要である。
2.高齢者の指導には、患者の社会背景に合わせ、各段階での目標を持たせること、家族の支援が重要である。

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© 2006 一般社団法人 日本農村医学会
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