日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2F08
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201Tl負荷心筋シンチグラフィーによる虚血判定における下後壁偽陽性例の検討
田口 雅士芝田 弘寺島 清瀧澤 勉三澤 卓夫
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抄録

<目的>虚血性心疾患の診断法の一つとして201Tl(以下,Tl)負荷心筋シンチグラフィーが広く用いられている.しかしTlは, 比較的半減期が長く被曝の観点から大量投与は難しく,また,体内での減弱や散乱の影響を受けやすい核種であるため,特に男性では右冠動脈支配領域である下後壁において虚血の判定に苦慮すると言われている。
 そこでTl負荷シンチグラフィーの下後壁に対する有病正診率向上のため男性平均画像を作成し,正常画像・正常値を把握し,正常画像との対比から偽陽性例の心筋再構成画像に影響を与えた因子について検討を行った。
<対象>偽陽性群は2002年5月から2004年12月に行われたTl負荷心筋シンチグラフィー746件中,下後壁の虚血が疑われ,冠動脈造影が施行されたものの冠動脈造影で異常なしと確定診断された男性症例8例,平均年齢は76.3±9.0歳であった.また,負荷心電図・シンチグラフィー・心臓超音波検査で正常と判定された20例,平均年齢67.6±10.5歳を男性正常群として比較を行った。
<方法> Tl負荷心筋シンチグラフィーは負荷終了後5から10分後より負荷像,3時間後に安静像の撮像を行った.画像収集には3検出器型ガンマカメラPRISM IRIXを用い,360度楕円収集を行い,得られた投影元画像から心筋再構成画像を作成した.そして,体内での減弱や散乱の影響が少ない前壁を基準に下後壁との集積比を求めた.また,全体の洗い出し率,下後壁の洗い出し率を求めた.さらに,偽陽性例の心筋外集積の有無について投影元画像から評価した。
<結果>男性正常群平均画像の下後壁/前壁集積比は負荷時0.85, 安静時0.86と下後壁の集積が有意に低下していた.洗い出し率は全体では39.0%,下後壁37.4%であった。
 偽陽性群と男性正常群の比較では, 下後壁/前壁集積比,全体の洗い出し率,下後壁の洗い出し率のいずれも偽陽性群が有意に低値を示した。
 負荷時,肝臓に強い集積が見られたのは偽陽性症例8例中5例でありいずれも洗い出し率が30%以下に低下していた.また,胃・腸管への強い集積が見られたのは3例であり,いずれも心筋集積が不均一だった。
<考察>下後壁/前壁集積比は正常群に比べ偽陽性群で有意に低値を示したが,横隔膜の挙上の度合いには個人差があり,特に偽陽性群では横隔膜の挙上による減弱の影響を強く受けたと考えられた.また,洗い出し率30%以下であった偽陽性症例5例はいずれも負荷時に肝臓への集積が強く認められており,一時的に肝臓に取り込まれたTlがその後徐々に心筋に再分布したため洗い出し率が低下したのではないかと考えられた.これらは心筋の再構成画像のみでは評価が困難であり,横隔膜挙上や心筋外集積を把握するため投影元画像の観察が必要と考えられた。
 負荷時に胃・腸管の高集積が認められた3例では心筋集積が非常に不均一であり胃・腸管の高集積がストリークアーチファクトを発生させたと考えられた.ストリークアーチファクトを画像収集後の処理過程で軽減させることは困難であり,発生予防のため可能な限り絶食下で検査を行い胃や腸管,肝臓への集積を軽減させる必要があると考えられた。
<結語>Tl心筋シンチグラフィーの精度向上には投影元画像を観察し,横隔膜挙上の程度,心筋外集積を把握すること.ストリークアーチファクト軽減のため検査前の絶食が必要と考えられた.

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© 2006 一般社団法人 日本農村医学会
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