日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
セッションID: sympo1
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シンポジウム1
地域医療を担う医師確保の現状と課題
大淵 宏道八百坂 透
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抄録

 医師不足は日本のいたるところにおいて益々深刻になり社会問題化している。
 地域医療を守り日夜奮闘している日本農村医学会会員にとって、またその活動拠点であり地域医療を担う立場の厚生連病院にとって、地域医療を守る仲間である医師の確保は病院開設以来続く最大の課題であり、永遠のテーマと言って良いが、その解決は困難を極めている。
 急激な高齢過疎化が進み変貌する地域社会では、平成の大合併と言われる市町村合併も進み、地域医療を取り巻く環境は激変している。制度的にも卒後臨床研修医制度の導入や医療法改正、医療費抑制のための医療保険法改正など医療制度改革が進められ、これらの影響による病院経営収支の悪化と医師不足により、病院勤務医師は劣悪過酷な労働環境を強いられ、現場からは悲痛な叫び声があがり心の休まる間もなく疲弊しきっている。中には耐え切れず病院をやめ、開業してゆく医師も多く見られるようになり、救急医療など地域医療の根幹の維持すら難しくなっている。
 各県一医大が実現しいわゆる新設医大も増えて、医師不足は解消したとされ、むしろ医師過剰が問題視されるようになり、医学部の入学定員が削減されてきたが、医療現場の実態とはあまりにかけ離れた現状認識であり、国民の健康を守るための国の基本的な方向性に大きな疑問と憤りを感じる。
 医療現場では医療の高度化に伴い専門性を持ったより多くの医師が必要になっており、医師不足の状態は以前よりむしろ悪化している。また若い医師は夜間救急診療や多忙な診療科、医療訴訟の多い診療科を敬遠する傾向にあり、医学部進学の女子学生の増加がこの傾向に拍車をかけている。居住環境においても大都市志向が定着している。
 結果として診療科偏在・地域偏在は深刻であり、麻酔科・小児科・産婦人科では医師不足で特に危機的状態にあり、診療科閉鎖に追い込まれる病院も数多く出てきており、地域医療は崩壊しつつあると言っても過言ではない。
 一方、マスコミの医療バッシングが続く中、地域住民の医療に対する期待・要望は多岐にわたり、医療安全はもとより益々高度・最新の医療が求められている。我々はこれらの期待に応えて最新のあるべき地域医療を行っていかなければならないが、そのためには医師のマンパワーアップは絶対条件である。
 このように医療を取り巻く近年の急激な環境変化が、医師確保に与えている実態を踏まえたうえで、この解決に向けて地域医療を志す医師の育成、入学定員の見直し、地域枠の拡大、診療報酬上の優遇、女性医師の働ける職場作り、地域医療ネットワークの構築など現状を打破するための具体策について、住民・行政・病院管理者・研修病院・医育機関・厚生行政などそれぞれの立場から提言していただき、地域医療確保のための方向性を探りたい。
 多くの会員から参加していただき活発で実りあるシンポジウムになることを期待する。

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© 2006 一般社団法人 日本農村医学会
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