日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
セッションID: sympo1
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シンポジウム1
私たちが希求する人間尊厳の地域医療
荻野 孝子
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抄録

<はじめに> 昨年10月3市町村が合併し、人口5万3千人の新城市が誕生しました。市長戦の最大の争点は、市民病院再建問題でした。当時新城市民病院は、一部で存亡の危機が囁かれていました。愛知県の二割の面積を占める奥三河の基幹病院として住民の医療を担って来た同病院は、今全国各地で起きている医師不足による病院の機能縮小の縮図のような状態に陥っているのです。医師数は、平成16年4月に34名でしたが、18年4月には24名になり、17年度中に病院全体で常勤医の25%が減少する異常事態が起こっています。
<現状> その結果、18年4月からの診療体制の状況は、産婦人科は休診、内科は初診外来は開設しない、他医療機関からの紹介のみ、消化器内科医は欠員、消化器外科で対応、呼吸器、内分泌の診察は非常勤医師が行う、入院診療は制限される、小児科は、5月以降常勤医師が一人になるため、外来診療のみとなり入院診療は出来ない、精神科は、常勤医師欠員のため金曜午前中に非常勤医師による外来診療のみ、リハビリ治療の縮小と見直し、さらに追い打ちをかけるように、?緊急お知らせ?として4月1日より、時間外診療、時間外救急医療が対応困難、平日時間内の救急医療は2次救急医療体制で診療、ただし心筋梗塞、脳出血、多発外傷など高度医療を必要とする場合は、3次救急医療施設への受診を誘導する。まさに総合病院としての機能は瀕死の状態で、少子化はさらに進み、若者の都市流出はますます増え、急病の場合は、遠くの病院をタライ廻しにされかねないなど、住民の不安はつのる一方です。こうした背景に、この数年間に病院長を含む相次ぐ勤務医の開業、公立病院特有の機構が、病院の運営を阻害し、責任の所在を不明確にしてきたこと、新しい臨床研修医制度が導入されて以降、大学病院への医師引き揚げがあるようです。
<今後> こうした状況のなか、病院再建を唱え、新市長として期待をよせられた穂積市長は、前院長の退職にともない、4月以降の新院長就任に奔走し、総務省を始め、各関係機関に出向き、市民病院改革委員会を設置、委員会からの報告書を受け、市民、患者も参加した再建支援委員会の立ち上げ、病院経営のプロを事務管理監としておくなど、大きく3点の方針を打ち出しております。 
 いずれにしても、私たち住民にとって安心して生活できる医療体制の確保と地震対策上からも、災害拠点病院として機能の回復に期待したいところです。 
 多くの人が望んでいるのにもかかわらず、自宅の畳の上で最後を迎えることが困難な時代になった今、せめて故郷の山や風景の見える場所で最後を迎えたいと思うのは贅沢な望みなのでしょうか。

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© 2006 一般社団法人 日本農村医学会
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