抄録
<はじめに> 新・胃X線撮影法ガイドラインでは胃の人工的な拡張に発泡剤5gを水20mlあるいはバリウムで服用としているが,当院健診センターでは水9と消泡液1の混合液(以下,水消泡混合液)10mlで発泡剤5gを服用している.水による発泡剤服用は液粘性の点で発泡速度,発泡効果は大きく短時間でプラトーに達するが,急激な胃の拡張に伴う不快感や痛み,げっぷを誘発しやすい,また少量のため上手に服用できず胃の拡張が不十分など少なからず経験される.これらの欠点は発泡剤量を4gから5gに変更でより経験されたため,同一の低濃度バリウムによる服用で欠点を補えるかどうかについて,インビトロ試験でその適正濃度,量の選択及びその結果の試用による経年受診者へのアンケート調査を行い,発泡剤の低濃度バリウム服用法が水消泡混合液10ml服用法に対して受診者の身体的負担軽減に寄与するか検討したので報告する.
<使用薬品及び測定機器>
1.バリウム製剤:ネオバルギンHD
2.発泡剤:バルギン発泡顆粒5g
3. 消泡液:バルギン消泡液
4. 人工胃液:崩壊試験第1液(pH約1.2)
5. B型粘度計(TOKIMEC製TVB-20L)
6. 発泡速度測定装置(共成製薬製)
<検討項目,方法及びアンケート対象>
1.発泡剤5gを水消泡混合液10ml,低濃度バリウム100,120W/V%(以下,バリウム100,バリウム120)20mlの服用液に,人工胃液0,35ml添加,液温25℃で発泡させた場合の発泡速度を測定した.
2.上記1.それぞれに高濃度バリウム200W/V%,130mlを加えた胃内バリウム粘度(mPa・秒/25℃)を測定した。
3.バリウム120,20mlによる発泡剤5g服用のアンケート調査は無作為に抽出した経年受診者440名(男性253名,女性187名)を対象に行った.
<結果及び考察> 検討項目1の発泡速度曲線より,発泡剤服用後検査開始までおおむね3分以内の想定で,発泡がプラトーに達する時間は,人工胃液添加0でバリウム100,20mlと水消泡混合液10mlは同じパターンで約150秒,バリウム120,20mlはより緩やかに約180秒で前者より30秒程度の遅延を示した.また,人工胃液35ml添加では水消泡混合液10mlは約30秒,バリウム100・バリウム200,20mlは同じパターンで約50秒で前者より約20秒程度遅延を示し,共に急激な胃の拡張に伴う不快感や痛み,げっぷの誘発の軽減に効果が期待されたが,胃内バリウム濃度の低下が小さいバリウム120が今回の検討では適当と考えられた.検討項目2の粘度から考察すると,水消泡混合液10mlとバリウム120,20mlによる粘度は人工胃液添加0で622と762,人工胃液添加35mlで127と141で,水消泡混合液10mlに対してそれぞれ+22.5%,+11.0%の上昇を示した.粘度の上昇が画質へマイナス影響を及ぼすかについて,経年同一受診者を対象に附着性,胃小区描出能,凝集について対照評価で検証をしている.検討項目3の経年受診者に対するアンケートでは,服用しやすいが48%,げっぷが出にくいが35%,お腹が急激に膨らまないが19%と水消泡混合液10mlよりは緩やかな発泡速度パターンの反映を示唆する結果が得られた.