日本農村医学会学術総会抄録集
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第56回日本農村医学会学術総会
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第56回日本農村医学会学術総会抄録
学会長講演
  • 吉川 明
    専門分野: 学会長
    セッションID: gakkaichou
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
     現病院の前身である「中越医療組合病院」(40床)が発足して以来、厚生連病院の宿命とも言うべき増改築が当院でも繰り返されてきた。長い年月を経て、狭隘、老旧化が進んできたことは否めず、平成5~6年頃移転新築構想が浮上してきた。以来、10有余年の歳月を経て、ようやく平成17年10月に移転新築することが出来た。早くも2年が過ぎようとしているが、職員一同、新しい施設での更なる飛躍と、地域医療への貢献を念願してやまない。  当院は現在531床、外来患者数約1400人、平均在院日数14日、入院の平均稼働率は92~96%である。医師は初期研修医13名を含めて74名である。しかし、決して十分な数とは言えないのが現状である。  昨年4月に地域がん診療拠点病院の指定を受けたこともあり、がん治療への重点的取り組みが求められる中、今回、当院における消化器疾患、とくに悪性腫瘍の診断と治療に関わる統計的成績の、昭和62年~平成18年に至る約20年間の推移を御紹介する。  (図1)上部内視鏡(GIF)は昭和60年代から約10年間は、年間8500~9500件施行していた。当時、全国的にも多い例数であったが、平成9年頃より大腸疾患の増加とともに,下部内視鏡件数が増加し、これに伴い7000件台に減少して現在に至っている。その原因として診療所に消化器医が増えたことも一因のようである。ちなみに下部内視鏡(CF)は、当初232件だったが、20年間に10倍に増えた。現有人員ではこれだけの数はこなしきれず、大学医師や開業した内視鏡専門医に助勤をお願いしている。  (図2)20年間で入院を要した各種消化器がん症例数の年別推移を見ると大腸がんの増加に比べ他の消化器がんは微増であった。  (図3)胃悪性腫瘍に対する手術率は各年ともほぼ70%で他の20%にEMR(粘膜切除術)が行われている。  (図4)食道がん例数は微増しているものの手術症例数に大きな変化はない。一方、EMRによる治療例が増えている。  (図5)大腸がん例は増減を繰り返しながらも右肩上がりで増加しており、大半が手術例となっている。EMR及びポリペクトミーは外来で行われており、この5年間は年間300例ほどである。  (図6)肝細胞がん例は漸増傾向にあるものの手術例の増加はない。塞栓療法(TEA)やエタノール注入療法(PEIT)などが導入されたことが大きな要因である。  (図7&8)胆道系がんと膵がんはともに漸増傾向にあるものの手術可能例は各年とも約半数である。  このほか学会当日には、検診受診者におけるがん発見成績や外科の新しい治療方法と、その成績などについても言及したい。  近年、医療改革が矢継早に施行され、医療機関がそれぞれの役割を明確にすることを強いられる時代になった。当院は地域の中核病院として質的充実を求めつつ、その役割を果たしてゆきたいと考えている。
特別講演
  • 長島 忠美
    セッションID: tokubetsu
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    平成16年10月23日午後5時56分、新潟県中越地方を襲った強い地震によって私達は生活の場を失い、ふる里を失う事になりました。 突き上げられ、投げ出されて、立ち上がる事もできない激しい揺れの中で私達は誰もが死を覚悟する事になりました。強い揺れが納まり、何とか外に出る事が出来ましたが、その時は何が起こったか分かりませんでした。近所の人、皆が集まった頃、一回目の強い余震がありました。月明かりの中で家が揺れる様子が見えて、初めて想像できない強い地震にふる里が襲われた事が分かりました。 当時、村長でしたから、とにかく役場で指揮を執ろうと思って、軽トラックで向かう事にしましたが、200メートルも行かないうちに道路が根こそぎない事が分かりました。4つのルートの全てが破壊され尽くしていました。村中、土石流で、歩く事さえ危険な状態でした。何とか救援を求めなければ。それがその時の実感です。電気も電話も道路も全て失っていました。携帯電話の通じる所を何とか探して、電話を掛け続けましたが、通じませんでした。焦る気持ちの中で3時間後やっと私の電話が県庁に繋がりました。 そんな状況の中で一夜を過ごし、夜が白み始める頃、再び役場を目指して歩き始めました。目に映るのは変わり果てたふる里の姿です。信じられない光景に何もする術はありませんでした。山を越え、谷を下り、やっと役場が見える山古志中学校に辿り着き、目にしたのは人の力の及ばない世界でした。山が頂から崩れ落ち、住宅を飲み込んでいました。20数戸の集落が全て地すべりでぶら下がっていました。わずか直線で500メートルの役場に行けないのです。 中学校のグラウンドを災害対策本部にする事にし、救援のヘリコプターの到着を待つ事になりました。やがて次々に自衛隊・警察・消防のヘリコプターが救援にやって来てくれました。その時はまだ村の状況の全部を私は知りませんでした。まず、ケガ人の救助、情報の収集からです。午前10時までにそれぞれの情報を総合してみました。山古志村は周辺の道路を失い、孤立していたのです。そればかりか14の集落の全ても孤立をしていました。そして住宅の半数が壊れているらしい事、公共施設の全てが被災をした事。その時はまだ村の中で命と財産を守るために何が出来るかを考え続けていました。 状況が分かるにつれ、その事が困難に思えました。午後1時、一番したくない「全村避難」を決断する事になりました。それから26時間、信じられない早さで避難を完了し、私は最後の村内点検をし、私も皆の待つ長岡市へ避難する事になりました。避難を指示した村長として、絶望の中ではありましたが、「村を捨てるんじゃない。必ず戻って緑の村を取り戻す。」 と私が私に約束しました。それを成し遂げるのが村民に対して責任を果たす事になるとも思っていました。 コミュニティの力と感謝の力に私は勇気をもらいました。皆様を始め多くの方々の御支援に「ありがとうございます」と言う事が出来ました。「帰ろう、山古志へ」これが私達の合言葉になりました。地震から2年6ヶ月。私達は数え切れない支援と温かい思いを頂きながら、最後の戦いをしています。私も最後の一人として今秋、仮設住宅を出るつもりです。 一度は失ったふる里で、私達は新しい生活を再び一から歩み始めます。そこには山の暮らしがあり、心温まるふる里がある。そんな村で皆さんをお待ちしたいと思います。 今学会が意義あるものになります事を心から祈念して御挨拶に致します。
教育講演
  • 熊田 博光
    セッションID: kyouiku
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    我が国のB型肝炎及びC型肝炎は、国民病として広く広がってしまった。 これは、C型肝炎に関しては、戦後の輸血及び医療行為によって感染したと考えられますし、またB型肝炎では、従来からの日本特有のB型肝炎の母子感染はほぼ終息したものの、海外からきた新たなB型肝炎が蔓延し始めている問題点があります。 本講演では、C型肝炎に関しては、最新の治療Peg-インターフェロン+リバビリン併用治療で、どこまでC型慢性肝炎が治癒するか、また肝硬変へのβインターフェロンの治療により、肝硬変も治癒する時代になったこと、更には将来の展望として、プロテアーゼインヒビターなどにより、いずれC型肝炎は絶滅に追い込まれる可能性についてもお話をしたいと思います。 一方、B型肝炎もC型肝炎ほど治療は進んでないものの、核酸アナログ製剤(ラミブジン・アデフォビル・エンテカビル)がでてきたことにより、長期的にHBV-DNAを抑え、また発癌抑制が充分可能な時代となりました。 本講演では、虎の門病院におけるC型肝炎 約7000例、B型肝炎 約5000例での長期データを基に、治療の実態を示したいと思います。
金井賞受賞講演
  • 小林 和衛
    セッションID: kanaishou
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    1.(文字数オーバーの為概要省略・抄録集をご参照下さい。) 2.助け合い組織の設立 年々、地域の高齢化率が上昇するなかで、平成9年8月にJA独自に「家庭介護アンケート調査」を行った結果、将来寝たきりや独り暮らしになった時に不安を感じる人が多く見られ、家庭で介護できるヘルパーなどの手助けがほしいと考える家庭が多いことがわかりました。 以前からJA女性部組織では、JA新潟厚生連長岡中央綜合病院協力のもと、「家庭介護教室」や、マンパワー育成に向けた「ホームヘルパー養成研修会」に取り組み、高齢者福祉への対応を進めてきました。 こうした背景を踏まえ、JAとして高齢社会に対応していくため、教室受講者やヘルパー有資格者を中心に、同年10月「高齢者助け合い組織」を設立(設立当時、協力会員51名(うちヘルパー資格者24名)、賛助会員49名)。「高齢者や家族が安心して暮らせる地域づくり」を目指して、会員の助け合い活動がスタートしました。 3.介護事業が本格化 活動を始めてからは、平成12年4月の介護保険制度施行にともない指定訪問介護サービスへ移行するなど、同年12月には厚生連病院の協力で「居宅介護支援事業所」を立ち上げるまでに至り、JA合併を契機に、訪問介護2ヵ所と居宅介護支援2ヵ所を長岡・栃尾各地域の拠点として、介護事業が本格化しました。訪問介護サービスでは、毎月定例のヘルパー会議等で情報の共有と、厚生連病院の協力を得ながら各種研修会や介護技術と資質向上に取り組んでいます。併せてヘルパーの養成も毎年実施し、これまで400人余りを地域に送り出しています。  地域の助け合い活動では、地域単位のミニデイサービス、病院や施設への地域ボランティアなど、支援活動の幅が年々広がるにつれて、会員同士の気運も高まり、自主的な意見や発想が出てくるようになりました。  高齢者が生きがいを持って暮らせる支えとして、介護保険適用外の対象者に実施しているミニデイサービス(長岡地区)では、単に会食などのふれあいの場を提供するだけでなく、「高齢者自身で何かできることはないか」と新しい視点の提案がありました。病院の検査などで使うことを目的に、ガーゼにチリ紙を挟んでたたむといった簡単な作業ですが、いまの自分でも社会や地域に役立っているという意識が、利用者の生きがいや張り合いにつながると考えました。こうした作業を続けるうちに、利用者からも「元気が出てきた、仕事が楽しい」と喜ぶ声も聞かれるようになり、平成18年度は13会場で455人から参加いただくなど地元に定着してきています。  助け合いの輪が広がるなかで、地域女性を中心に、病院・施設等で積極的なボランティア活動が活発化してきました。先進的にボランティア活動に取り組んでいた栃尾地区では、旧栃尾市から委託で行った配食サービス(行政合併によりH19年終了)や軽度生活援助のほか、特養ホームでの週5回の介助支援、栃尾郷病院でベッド清掃やシーツ交換を週1回継続実施するなど、活動範囲や目的別に独自の会を発足して、より地域に深く入り込んだ活動を展開しています。また長岡地区でも、長岡中央綜合病院の新設移転に伴い、車イス磨きなどの機材清掃を2ヵ月に1回、定例で行う病院ボランティアの新しい分野にも取り組み始めました。さらに、口コミなどで取り組みを聞いた女性部以外の方からも、「ぜひ協力したい」との声が広がるなど、波及効果も生まれています。 こうした様々な活動や地域との交流を通して、会員同士の意識を高めることはもちろん、地域の核となる厚生連病院と連携を密にしながら、助け合いの輪を広げていくことが豊かな地域を育てることにつながっていくと考えます。誰もが支え合い、助け合える地域になるために、「助け合い組織にできることは何か」を追求しながら、基本である「高齢者が安心して暮らせる地域」の実現を目指して、これからも活動を継続していきたいと思います。
シンポジウム-1
  • 浜田 正行, 山本 直人
    セッションID: sympo-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    新臨床研修が制度化され早くも4年目に入り、昨年の第55回本学術総会では、「新研修制度の検証と課題」がシンポジウムに取り上げられた。また、本年春に開催された臨床研修研究会では、「臨床研修の光と影」として活発な討論がなされ、初期臨床研修が提起した様々な問題点あるいは影の部分は、むしろいずれわれわれが直面する医療体制のあり方を浮かび上がらせてくれたのかもしれない。特に地域医療の現場で生じている医師不足は、研修制度の義務化により更に深刻化し、近い将来を見据えても、診療科の医師偏在、基礎医学系志望者の減少など、医療をとりまく環境はしばらく厳しい現実を受け止めねばならないのが実情である。  そのような中、厚生連病院長会として、全国レベルで臨床研修のあり方を考える協議会が発足して取り組みが始められている。また各県連レベルでも、県行政あるいは地元大学との連携など、オリジナリティの高い取り組みにより、研修医の養成とそれによる地域での医師確保対策がなされている。  本シンポジウムでは、そのような各県連単位での取り組み、特に初期臨床研修を踏まえた上での後期研修制度の在り方、指導医養成を通じて医師確保対策に結び付ける何らかの方略を探り、またお互いに情報を交換して良いところは他病院にも拡げ、新しい仕組みを構築して共有できる場にしたい。その中から、まさに光と影を浮かび上がらせ、厚生連の理念でもある「地域医療を守る」戦略への足がかりを模索してみたい。  シンポジストとして、1.秋田県 雄勝中央病院 中村正明先生、2.茨城県 土浦協同病院 橋本邦雄先生、3.長野県 佐久総合病院 西沢延宏先生4.愛知県 海南病院 三島信彦先生、5.三重県 鈴鹿中央総合病院 村田哲也先生、の5人の演者から、それぞれの病院独自で、あるいは県や大学と連携した後期研修と医師育成・確保に重点を置いてお話をいただく。一方では、最近都市部ではなく比較的人口の少ない非都市部における地域医療に、医療の原点を感じて高い志をもつ若手医師も増えつつあるように聞いている。そこで愛知県 知多厚生病院の宮良幸子先生と長野県 佐久総合病院の小澤幸子先生のお二人には後期研修医として地域に残り、充実した研修を継続している若き医師の想いを語っていただくよう、指定発言をお願いした。  人口5万人以下の地域に多くが立地する厚生連病院としては、本シンポジウムによって新しい研修制度の「光と影」をもう一度見つめ直し、光の部分は伸ばし、工夫によって影の部分を絶好の好機にするためのヒントが得られればと願うものです。
  • 西沢 延宏, 高橋 勝貞, 夏川 周介
    セッションID: sympo-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    新研修医制度が開始されて4年目になり、この制度の功罪がある程度明確化してきている。その中で研修医の大学離れが加速し、大学医局の医師引き上げ・派遣の中止などが生じ、地域医療の危機が生じてきている。今後、医師の研修制度に取り組む中で地域の病院での医師確保につながる方策について考察する。 初期研修医の研修先は、現在、市中病院と大学病院で半々である。また、後期研修医も市中病院で研修する医師が増え、今の所、市中病院と大学病院では半々であり、以前に比べて、大学医局への入局者は減少している。特に地方大学で入局者が減少すると共に、産婦人科・小児科・外科・脳神経外科などへの入局者はかなり減少している。今後、大学での後期研修プログラムの見直しの中で多少の増加はあるであろうが、従来のような医師派遣能力を大学医局に求めることは困難であろう。 新研修医制度に対応する中で医師確保につなげていかなければならない訳であるが、まず、各病院は初期研修医・後期研修医の教育体制を確立・充実させ、自前の医師養成システムを作っていく必要がある。その一方、各科の専門医を養成するためには、大学医局と協力する立場で共に臨床能力の高い医師養成を行なえるようなシステム構築が必要である。ただ、地域医療や総合診療の分野では市中病院でも大学以上の教育能力を持って、医師を養成できる可能性があるので、他と差別化した特徴あるプログラム作成が求められる。 地方病院では、中小病院が多いこともあり、研修医を確保することが難しい条件が多い。しかし、その中でも努力して医師を確保している病院もある。そのためには病院全体(特に病院幹部)の情熱が必須である。研修医教育の充実は病院に活力を与えると共に、医療の質向上につながり、病院経営にも益する所が大きい。 初期研修に対しては、県全体の病院としての交流会や研修会を行なうと共に、指導医養成講座なども合同で行なっていくことが望ましい。 後期研修は制度としてまだ確立されていないこと・特に研修内容に制限がないことなど各病院の特徴を出せる余地は十分にある。地域医療に興味のある研修医は少なくないので、それを組織として取り込み、一緒に行動し十分な処遇を行なえれば地域病院で働く医師を養成できる可能性はある。ただ、多くの研修医は、学位取得を必要としてはいないが、専門医・認定医などの資格取得を行なうことを希望しているので、可能な限りそれに配慮していかなければならないであろう。また、中小病院で単独での医師確保が困難なことが多いので、基幹病院から派遣できるようなシステム構築が必要である。義務としてではなく、地域住民に密着した医療を研修するために後期研修医が進んで中小病院に行くようなプログラムが作成できるかが鍵である。 新医師臨床研修制度は、プライマリケアの研修を大きな目標に掲げている。その研修の場として、地域の病院が最適であることを知ってもらい、多くの研修医が研修していれば、一緒に地域のために汗を流してくれる若い医師は必ず現れると確信している。
  • 橋本  邦雄
    セッションID: sympo-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    医師としての揺籃期に人格涵養、プライマリ・ケア、全人的診療の実践能力開発を研修目標として、収入が保証され研修に専念できる新臨床研修制度は4回生のマッチングが終わった。用意された研修先8000余に対して受け入れ先は11,000余もあり、マッチングによって自己責任で研修先を決めることができ、都市集中、地方回避の傾向が顕著に現れている。さらに当初から危惧されていた診療科の偏在により地域医療の崩壊が新聞紙上を賑わせている。茨城県は168人募集のところ117(全国17位)と前年よりは改善を見ているが、県内地域によっては厳しい現実に直面している。幸い、当院では毎年30人弱の応募があり、公募研修医10人の定員がフルマッチで決まり、大学関連の所謂「襷がけ」の研修医を合わせて2学年、30-40人の研修医が研修してきている。それでも病院が請け負う地域医療の使命から見ると、科によっては相対的医師不足になっている。 今後初期研修医は勿論、さらに地域に根付いた先進医療の習得を目指した後期専修医の参集を期待している。研修医にとってマグネット病院の条件は、処遇・待遇、症例数、研修プログラム、病院の施設・設備、先輩などの評判、雑用の多寡、大学あるいは当院での後期研修への継続性などと云われているが、当院の最大の利点は、第一に外来患者約2000人/日の病院機能に、救命救急センター(総受診数52,115人、救急車搬入患者7,606人)、茨城県小児救急医療拠点病院・総合周産期母子医療センター(約1,000の分娩、新生児救急患者270人、周産期救急患者423人など)、茨城県地域がんセンターなど特価した付加機能から生ずる、軽重・多彩な容体を含む十分な症例数と思われる。ついで東京医科歯科大学や筑波大学と連携できる進路決定の多様性が安心材料として作用していると思っている。   2006年9月に行った研修医に対する当院での研修内容・環境などについてのアンケートでは、おおむね良好な評価を受けているが、他方研修中の躓きは、二人に見られた。一人は不祥事により研修中断とせざるを得たかった。自殺に繋がる鬱状態が研修のストレスに起因する裁定報道を見るまでもなく、研修医の精神的サポートのためにフォスタードクターなどの手立てをしているが、今後一層のメンタルケアが求められる。研修評価については、あまり評判が良くないEPOCを中心に、各種の院内イベントの出席・発表のポイント数、当直実施記録などポートフォリオ方式に則って行っている。研修医の世話係にとって、いまなお当惑・模索が続く制度のさなか、初期研修の2年間で研修医の全人的評価をジックリと行ったのち後期研修医として厳選採用する努力の一方、自院のみでの一貫教育に執着しないで県内病院間・厚生連間あるいは他県・他機関との連携など個々の研修医にとってキャリアアップできる柔軟なプログラム運営の検討が必要と思われる。
  • 村田 哲也, 浜田 正行
    セッションID: sympo-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    平成16年度から開始された新医師卒後臨床研修制度はわが国の臨床現場に激震をもたらすひとつの誘因となった。今回我々は三重県における医師確保取り組みの現状や当院の努力を報告したい。 三重県下の各施設は三重大学と協調してMie Medical Complex(以下MMC)を形成し,県内各施設で一人でも多くの研修医を確保しようと努力しているが,残念ながら三重大学を含む三重県下の研修病院で研修をする医師は60~70名程度で,この中には三重県北部で三重大学関連ではない病院の10数名も含まれるため,実質は50~60名の研修医数となっている。新制度開始前は三重大学だけで70~80名の研修医が入局していたので,その差は歴然である。MMCでは県下の各病院の紹介をネット上でおこない,病院説明会も県内外で行って努力をしている。また採用試験も合同で行い,受験者が一日で三重県下の複数病院を受験できるよう便宜を図っている。しかしながら,全体としてMMCの努力が実っているとは言いにくいのが現状である。三重大学附属病院も多くの科で人員減少がすすみ,関連施設からの医師引き上げも起きている。 ところで当院は新制度開始初年度だけは8名の定員に6名しか集まらなかったが,以後は毎年8名定員が満たされる状態にある。三重県下でも有数の人気の研修病院であるといっても過言ではない。なぜ当院が研修医から人気があるのか。それには大きく二つの理由があると考えている。一つは,当院では新制度開始を見越してその数年前から研修制度の充実を図って来たことである。もともと地域の基幹病院として救急症例が豊富であったが,それに加えて2年次に大阪府千里救命救急センターでの3ヶ月実習を取り入れたことが大きく,この千里実習が目的で三重県に縁もゆかりもない人が研修病院として当院を選んでくれている。評価方法も確立されており,指導医による研修医評価だけではなく研修医による指導医評価や,関係看護師からの評価も取り入れている。評価結果は点数化され,毎年Best ResidentとBest Teacherの表彰も行っている。もう一つは三重大学から派遣される学生(クリニカルクラークシップとエレクティブ)や見学学生への丁寧な接触である。学生が研修病院を選ぶ場合の一つの選択方法として,その病院の「空気」へのなじみ感があるが,指導医・研修医が学生に対し上手にあたることで学生が安心して研修医に来てくれるようなムードを作ることも大切である。上記MMCの病院説明会以外に三重県厚生連病院だけの説明会も行っており,出席してくれた学生を病院見学に誘い,実際に来てくれた学生には丁寧に接している。学生に選んでもらえるよう,継続的な努力もしている。 当院では初期研修医は確保できているが,後期研修医はまだ数名しか確保できていない。千里で力をつけた研修医が他府県へ他流試合に出かける傾向があるが,彼らは行った先で鈴鹿の宣伝をしてくれていると信じている。いわゆる「クチコミ」も医師確保には重要である。今後は当院に残る後期研修医を充実させる以外に,他府県から当院を目指してくれる医師が増えるよう,努力したい。
  • 三島  信彦
    セッションID: sympo-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    研修医確保を通じての医師確保対策に関して、愛知県厚生連の取り組みを紹介する。 はじめに、愛知県には特殊な医師研修事情がある。インターン制度廃止後から続いている、関連病院での非入局、自主スーパーローテート研修で、名古屋大学方式研修と呼ばれている。このため、研修医育成が病院の貴重な戦力である若手医師育成に直結するとの認識が関連病院に出来ていた。このような背景から平成16年度の新研修医制度は違和感なく受け入れられた。 愛知県厚生連は平成16年7月「臨床研修等検討会」の前身となる会議を発足させた。県下9病院から副院長クラスの臨床研修実務担当者が2ヶ月に1回本部に集まる。研修に関して行政や支援大学医局の動向を検討し、研修医確保を通じての医師確保対策を話し合い、厚生連としての医師育成や病院間医師交流の可能性を模索し、病院長会議に報告する。会議では研修医採用育成に実績のある病院が経験を披露し、和気藹々のうちに各病院が臨床研修のノウハウを共有する。新たに2病院が研修病院指定を受け、7病院が臨床研修病院となった。 初期研修の検討過程で後期専門研修の重要性が認識された。各病院は専門医資格取得環境を整備し、平成18年度からの後期専門研修プログラムを完成した。病院によっては3年次他科ローテートなど特色のあるプログラムも見られる。  また、指導医層充実のため、愛知県厚生連主催の指導医講習会を開始した。平成18年度までの3年間に5回開催し、合計185名の指導医が修了した。8病院長や多くの副院長も修了証を手にした。泊り込み講習会の夜に行われる情報交換会ではアルコールの消費とともに厚生連医師としての一体感が醸成される。この指導医講習会では講習会指導スタッフの養成も重視されており、別名タスクフォース講習会とも呼ばれている。 平成19年4月、大阪で開催された民間医局の臨床研修病院合同セミナーに愛知県厚生連として初参加した。厚生連としての知名度を上げるとともに、研修医枠に空席のある中小病院に学生を誘導する意図があった。ブースには61名の学生が立ち寄って説明を聞いた。 その他、今年度は各病院研修医の交流を兼ねたACLS講習会の開催を検討している。 愛知県厚生連7病院での研修医確保の実績は、平成16年度45名、17年度58名、18年度60名、19年度65名と順調に推移している。19年度は空席が2病院4名のみとなった。 演者の所属する海南病院は平成14年臨床研修病院の指定を受けた。研修医は1年次終了時の初回志望科相談を経て、2年次秋までに志望科を調整決定する。若手医師は現時点で、研修医が毎年次12名、3年次医師15名(うち当院研修医から12名、公募から3名)、4年次医師13名(当院研修医から10名)、5年次10名(当院研修医8名中から4名)であり、自家育成の定着とともに、今年度から専門修練医の公募採用が開始されたところである。
  • 中村 正明
    セッションID: sympo-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【当院における医師不足の実情】 医師の地域偏在、診療科偏在はここ数年の問題ではない。いわゆる医師の地域格差は増大する医師の職務に対して医師の絶対数の不足が根本原因である。偏在はその表現様式にすぎない。 当院の医師数は今まで充足率100%を目標にぎりぎりの医師数による診療を余儀なくされていた。平成18年に循環器内科において医局派遣の医師引き上げが行われた。医局の派遣病院の見直しがその理由であるが、新臨床研修制度の間接的影響であると考えられる。 循環器内科は診療の要であり、病院経営上も影響大であった。地域住民には他の診療科においても医師不足をきたしているという風評も与えてしまった。 【医師不足と新臨床研修制度】  新臨床研修制度は従来からあった医師不足を顕在化させた。研修病院を選ぶという事と病院の選別が混同されることになった。意図的かどうかは不明だが、良い研修病院は良い臨床病院という単純化した図式を提供することになった。そのため地域医療に精励している病院の評価が決して高くないのは残念である。  一方では、研修医も常勤医数に算定される現在の制度上研修医はありがたい存在である。当院の医師充足率は研修医によって支えられていると言っても過言ではない。 【当院の医師確保対策】  医師確保においては医局に頼らざるを得ないのが実情である。医局も派遣受け入れ病院も制度が安定する数年後まで忍耐の時である。それまでは従来通りの地縁、血縁による医師確保をせざるを得ない。しかしながら人材確保が定期的ではなくまた計画的にいかない事が悩みである。  前述したように新研修制度を巧みに利用することは病院の評価の上でも、医師確保の上でも重要である。研修医が来ない病院は常勤医も来ないと理解すべきである。  当院では医師確保対策は同時に研修医確保対策でもある。研修医に病院を理解してもらう事が研修病院選定の最重要事項である。そのため医学生の病院見学を重視している。研修医や指導医との対話により病院の実際を知ってもらう事が基本である。秋田大学、東北大学の地域医療実習の協力病院であるが、実習生の中から翌年の研修医になることが多い。 【秋田県厚生連の医師確保対策】  秋田県厚生連では平成18年院長会議に医師確保対策委員会を併設した。 秋田県厚生連の医師確保対策の一つは県内厚生連病院の相互協力体制である。湖東総合病院における外科医師不足、当院における循環器内科医師不足に際しては県内厚生連の各病院から外来医師支援、病棟医師支援を相互に行った。  新臨床研修制度に関しては研修指導医講習会を秋田県厚生連単独で開催した。秋田県厚生連の一体感を高めることができ、好評であった。秋田県主催の指導医講習も厚生連が主体となって行っている。
シンポジウム-2
  • 大淵 宏道, 井上 憲昭
    セッションID: sympo-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    地方病院の医師不足は深刻さを増し、診療科は勿論、病院そのものの閉鎖も相次ぎ、地域医療をいかにして守るかは全国的に大きな社会問題となっている。特に救急診療や産科・小児科など、地域医療の根幹をなす診療を継続できなくなった病院が続出し、地方での医療崩壊はすでに始まっている。これは確固とした医療政策の不在による医師の絶対数不足、何の手当もせず施行された医師臨床研修制度、場当たり的な方針変更による看護師不足などが、いちどに重なって直撃した結果であり、背景には医療費を抑制しようとする国の低医療費政策がある。全国的に存亡の危機に立たされている病院も多く、地域から必要として設立され、地域の期待に応え、地域と共に発展してきた厚生連病院も例外でない。  一方、わが国は世界に類を見ない速さで超高齢社会に向かっており、国の高齢化率は既に20%を突破し、幾つかの県では30%に迫っている。京浜・中京・阪神の3大都市圏と地方、また県庁所在地と郡部の格差はますます拡大し、雇用を失った地域から若者が去って少子化が進行し、学校・病院の統廃合がさらに少子化、高齢化を加速させるという悪循環を生じている。日本のいたるところで医療弱者である老人が取り残され、老・老介護を強いられ、高齢・過疎化が急速に進行する山間部や離島では高齢化率が50%を超える地域も稀でなく、集落を中心に地縁、血縁でつながっていた地域社会そのものが崩壊している。このような地域も含め、どこに住む人にとっても安心で信頼できる医療や介護を提供できる施策を考えることは、これからの日本が避けて通れない大きな社会的課題である。  社会的共通資本である医療のあり方を含むこの課題は、国が積極的に取り組むべき問題であるが、現在の国の財政事情、政権与党の新自由主義的な経済政策の下では速やかな成果は期待すべくもない。厚労省は医療資源の効率的活用の面から病・病連携や病・診連携のような診療機能の分担と連携、さらに診療機能の集約化や重点化を声高に叫んでいる。しかしその多くは地方の声を無視した中央に住む者の傲慢さをあらわにした施策で、それぞれに大きな問題を抱え、成果は挙がっていない。そもそも医療資源がすでに消失している地域では連携そのものが不可能であり、北海道のように広大な面積に少人数しか居住していない地域や離島などに配置すべき診療機能を誰が判断できるだろう。また医師不足の中、無理やり集約化させられた地方の中核病院には、予想を超える患者が殺到し、過酷な労働を強いられた勤務医が病院を去っていくなど、官僚が机上で描いたプランどおりには解決できない問題が新たに発生している。  今こそ全国の厚生連病院は厚生連医療の原点に立ち戻り、住民本位の新しい医療のあり方を模索し、地域から信頼される医療・介護システムの構築に向けて取り組むべきである。  今回のシンポジウムでは、このような問題に直面している代表的な地域の現状と課題、そして解決に向けた取り組みについて発表していただき、国の方針や施策を伺いながら、地域医療をどのように展開していけばいいのかをみんなで考える機会にしたい。
  • 小瀬川  和雄
    セッションID: sympo-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    JA長野厚生連新町病院は長野県北部の上水内郡信州新町にあります。長野市中心部から車で犀川沿いに30分程に位置します。鉄道はありません。昭和37年に開設以来既に44年が経過し施設の老朽化も進んでいます。昭和63年にはへき地中核病院として指定を受けています。(現へき地医療拠点病院)  診療圏内は1町2村その周辺を囲む中山間地がほとんどで、少子高齢化と人口減少が顕著です。高齢化率は既に40%を越え、独居老人・老人夫婦世帯も多く家庭介護力や経済力の乏しい地域で、町村合併も暗礁に乗り上げています。  当院の許可病床数は140床で、一般100床、療養型病床40床(医療療養型20床、介護療養型20床)です。訪問看護ステーションとデイケアを併設してこの地域で唯一の病院として保健・医療・福祉事業を担っています。常勤医は6名、非常勤医師を合わせた常勤換算数は13.2名です。  当院の経営状況は、平成17年以降下降線をたどっていますが、原因は一過性のものでなく構造的なもので、次の3点であると考えています 1点は、少子高齢化と地域の著しい人口減少、2点目は新医師臨床研修制度施行で医師不足が更に加速したこと、3点目は医療制度改革に伴う診療報酬の引下げです。特に高齢者の診療報酬の引き下げは大きく影響しています。  外来患者数は平成11年をピークに減少を続け平成18年迄に2万8千人の減少です。入院患者数は年間4万8千人前後で安定的に推移していますが社会的入院患者も多く、診療報酬引下げの影響を受け入院収入が大きく減収しました。  このような状況下では病院の存続にはダウンサイジングもやむなしと考え、第三者機関に当院の経営調査診断業務を依頼しました。その結果、一般病床の削減だけでは経営改善は困難で、削減する病床を他の形態に転換する必要性を指摘され、理事会への報告を経て、一病棟を回復期リハ病棟に、療養病床を老健施設に転換する検討を始めました。しかし診療圏内で該当患者を確保することは非常に困難であるため、近隣の急性期病院との連携を強化しそれぞれの医療機能の役割分担を明確にした相互協力体制の構築が不可欠な課題です。  当院は、プライマリーケアから1.5次救急と慢性期医療を担うというスタンスを明確にして病院存続を図ることが地域医療に貢献できる最低限のことと考えています。そのためには、近隣する厚生連病院との連携の密度をより濃くしていくことも重要ですので、厚生連2病院での経営統合も視野に入れた組織的な連携体制構築の検討も並行して進めていくことにしています。
  • ?新潟県粟島浦村の遠隔テレビ電話診療?
    小出  章, 松浦 ユリ子
    セッションID: sympo-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    新潟県岩船郡粟島浦村は、村上市の北西35kmの日本海に位置する長さ7.5km、幅3.5km、面積9.14km2の離島である。粟島浦村の人口は2007年(平成19年)4月現在で370人、このうち65歳以上の住民は177人、高齢化率は47.8%である。島には村立粟島浦村小中学校があるが、2007年4月現在、生徒数は小学生9人、中学生13人の計21人で、少子化も顕著である。主な生業は、タイ漁を代表とする沿岸漁業と観光である。  島には医師の常駐した時期もあったが、1959年(昭和35年)から無医村となり、現在にいたっている。1961年(昭和36年)に粟島へき地出張診療所が開設され、1967年(昭和42年)から村上市岩船郡医師会の医師による診療所への出張診療が開始されたが、診療日は日曜などの休日に限られ、期間も天候や海象の比較的よい5月から9月の5ヶ月に限られたため、島民の医療的需要に十分に応じることはできなかった。また天候不良のため診療日に定期船が欠航し、出張医が診療日に島に行くことができないという事態も時に生じた。出張診療に並行して、1977年(昭和52年)からは、粟島へき地出張診療所と村上市にある病院との間で、ファクシミリを用いた週に1回の定期的な遠隔診療が開始された。粟島へき地出張診療所の看護師が、島の患者の主訴、症状、理学的所見、検査所見などの情報を事前に病院の担当医へファクシミリで送信し、これらの情報をもとに担当医が処方や処置の指示を診療所の看護師へファクシミリで返信するシステムである。ファクシミリを用いた遠隔診療システムは、天候や海象の影響を受けず、1年を通じて週に1度定期的に行われるという点で、当時島民に歓迎された遠隔診療システムであった。しかしながら医師は患者から直接に視覚的・聴覚的な情報を得ることができず、遠隔診療のための情報通信システムとしては時代的、技術的に多くの限界がみられた。  2000年(平成12年)12月、粟島へき地出張診療所と当院がテレビ電話回線で接続された。テレビ電話を用いた遠隔診療システムは、島の急患に対する診療を、365日、24時間態勢で可能にした。2001年(平成13年)11月には週に2回の定期テレビ電話診療を加え、離島の医療支援としてかなりの成果を上げつつある。  テレビ電話を用いた遠隔診療システムを中心として、無医村・粟島浦村に対する当院の医療支援を紹介する。
  • 早川  富博
    セッションID: sympo-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    農山村地域における医療・福祉(介護)の課題は過疎に起因する。すなわち、市場が成立しないことから民間業者が参入せず、医療や介護サービスが不足していることである。その解決に、都市部と農山村部の共生を掲げた住民運動が必要であることは言を俟たないが、地域との連携を基本的とした、少ないサービスの効率的運用を目指すことが重要である。 【旧東加茂郡(豊田市)の現状】 診療圏である旧東加茂郡の人口は15,000人弱で高齢化率はおよそ35%、全世帯の8%が独居、14%が高齢者世帯である。医療機関は常勤医師15人の当院(一般153床,療養型50床)と6診療所であり、当院は地域における2次医療以外に、1次医療である外来診療、在宅死を支援する在宅医療など、診療所の役割も果たしている。 【現在の対策】 1)これまで地理的な問題解決に取り組む在宅療養支援システムを構築してきた過程で、医療・介護・福祉の各担当者間の連帯と協働が重要であることを再認識した。病院が電子カルテを導入することによって、患者情報を担当者間で共有する地域医療連携システムを稼働した。連携先は医療機関(診療所)、福祉介護サービス機関(特別養護老人ホーム、社会福祉協議会)とし、開示内容は、医師へは全てのデータ(院内医師と同様に参照)、福祉介護サービス機関の看護師、ケアマネージャへは病名、入院・受診歴、処方箋、検査データとした。しかし、その利用は低く推移しており、今後は開示情報の内容、開示の双方向などを検討する必要性が認識された。 2)利用者情報(保健・医療・福祉・介護)の一体化は、住民健診データを電子カルテ上に取り込むことで一部可能となった。健診データを診療カルテに合体することで患者情報を一連のレコードとしてみられるようになり、日常診療に大いに役立ち、検査の無駄も少なくすることが可能となった。 3)地域との連帯は、まず病院からの情報公開であると考える。職員の専門性を生かした健康教室、介護教室も講演会と同様に病院を知ってもらうための情報公開である。年1回の年報内容公開の講演会、病院情報誌、モニター制度を利用して、病院がどのような保健・医療・介護サービスが提供出来るか、何が出来ないか、出来ないときはどのような手当てをするか、などを地域住民に十分理解していただくことが、連帯を求める基本姿勢である。 【今後の方向】 川の上流である農山村地域の健全な維持なくして、下流(都市部)に住む人びとの安全はない。その維持には、ある程度の人びとが住む必要があり、そのためには医療・福祉(介護)サービスが必須である。競争・市場が成立しない農山村地域では、縦割り組織による分断的サービスではなく、情報の共有化とそれに基づく効率的な住民への連携(合体)したサービス提供が重要ある。そのためには一律の法律に基づく均一な政策でなく、柔軟で多様な公的援助が必要であり、それなくして農山村地域の生存権を支える医療・福祉サービスの維持は不可能である。
  • 佐渡における現状と課題
    服部  晃
    セッションID: sympo-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    東京都23区の1.5倍の土地に6.7万人が住む佐渡は独立した医療圏であり自然の恵みと伝統文化は豊かであるが、わが国の30年先の高齢化(35%)、人口減(年約800)、多数の独居老人を抱えるなど、30年先の地域医療の問題点を抱えている。 22診療科、422床の当院は島の中央に位置し文字通り中核病院として稼動しているが、医師・看護師などスタッフ不足で、病院新築を2・3年後に控えて課題も多い。島内医師数は94名、10万人あたり141と佐渡全体が医師不足である。新潟県二次医療圏7中4位。当院は全島の救急搬送の70%、時間外患者の80%を担当している。医師会(21診療所)や他の5病院と連携し、医療ネットワークにより医療レベルの向上と普遍化を図ろうと、医師総動員体制を呼び掛けている。現状と問題点・課題を紹介したい。 佐渡市:平成16年3月10市町村合併により誕生し2市立病院を抱える市に対し、法定合併協議会、新市ビジョン策定委員会、また佐渡市医療計画策定委員会を通じて、医療の一元的運営、 他の地域医療機関への援助、また当院の新築への協力を依頼してきた。 医師会:当院内に医師会事務所がある歴史を生かし、理事会や医師会講演会、佐渡医療シンポジウム、佐渡病院医学集談会の開催、また糖尿病を考える会などを通じて良好な関係を保っている。 医療ネットワーク:5中3病院(市立病院を含む)への当院からの医師助勤と他病院および診療所間の助勤を延べ13診療科(含ドック、日当直)について、常勤換算で約3.1相当行なっている。当院への消化器部門の検査援助も検討中。 一般住民:病院祭(来場者7-5000)、医療の出前、小さな音楽会、患者会により当院への理解を深めて貰う。 医師確保:新潟大が中心であるが、臨床研修義務化以来大学医局が弱体化し、麻酔科などで現状維持が困難になりつつある。その中で4月より県の配慮で県条例の改正の結果、自治医大医師を1名確保できた。なお医師充足率は当院約80%、その他の病院約70-80%。研修医の研修および待遇、環境の充実に努め、HP・民間ドクターバンクの活用により、改善したい。 課題と問題:オープンベッド制は第一回アンケート調査で成立せず、再調査中。看護師の早期および中期退職の防止・減少。市立2病院との運営一元化、新病院への佐渡市の援助依頼、依然として強い市立病院への愛着(旧市民意識)の解消。一次救急センターの設立に向けた医師会、市への働きかけ。 おわりに 当院が担当すべき医療は、救急、急性期および専門医療、それに地域病院としての慢性期医療と考えられる。医療ネットワークの構築には佐渡全体としての発想を医療関係者全員が持つ事が出来るか否か鍵となるが、国の慢性期医療政策の行方が気になる。
  • 佐々木 孝治
    セッションID: sympo-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    (はじめに) 医療サービスは、地域において安心して生活が送れるよう、農山村も含め全国津々浦々で受けられるようにすることが必要である。特に農山村については、高齢化が進んでいることから、医療をはじめとする社会保障のニーズが極めて高いものと言える。 しかしながら昨今、地域においては、小児科、産科を中心に医師確保の難しさから医療機関が診療科を縮小・廃止したり、医療機関自体が無くなったり等、特に急性期医療の確保が困難になっている状況が発生している。 平成18年8月に関係省庁がとりまとめた「新医師確保総合対策」において指摘されているように、医師の地域偏在等がみられる中で、農山村において、各種の取組により医療提供体制を確保することが重要である。 (地域医療対策) 農山村のへき地における医療の確保については、厚生労働省は昭和31年度以降、「へき地保健医療計画」に基づき、へき地診療所の整備や代診医派遣の仕組みづくり等様々な対策を行ってきた。そして、平成18年度には、「第10次へき地保健医療対策」を策定した上で、へき地医療支援機構の強化、へき地で診療を担う医師向けの専門的な相談体制の確保、「へき地・離島医療マニュアル」の作成といった取組を新たに行っている。  都道府県においては、「へき地保健医療計画」を、平成20年度までに策定される「医療計画」に反映することとされている。厚生労働省としても、農山村のへき地における医療の確保に係る都道府県の取組に対し、今後とも積極的に支援してまいりたい。 (これからの医師確保対策) 農山村も含め、地域の医師確保については、前述の「新医師確保総合対策」の下、関係省庁とも連携しつつ、諸施策に取り組むこととしている。 具体的には、地域医療対策協議会を通じた医師の配置を調整する仕組みの構築、地域の医療資源を効率的に活用するための拠点病院づくりや医療機関間相互のネットワークの整備、休日夜間の診療に対する開業医の一層の協力等が挙げられる。 このため、厚生労働省では、_丸1_平成19年度予算において、前年度を大きく上回る92億円の予算額を確保し、財政面の支援を行うほか、_丸2_本年4月には「地域医療支援中央会議」を開催し、都道府県の医師確保等への取組に対し助言を行う仕組みを構築する等内容面の支援を行う予定である。_丸3_また、省内に「医師確保等支援チーム」を設置し、地域ごとの課題の抽出、解決方法の提示等を行っていく予定である。 さらに、短期的、中・長期的に関わらず、医師確保や医師不足地域への医師派遣に関し、有効と考えられる方策について、鋭意検討を行っているところである。 厚生労働省としては、これらの取組により、今まで以上に、農山村における医療提供体制の確保を図ってまいりたい。
シンポジウム-3
  • 明石 光伸, 賀来 満夫
    セッションID: sympo-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    公衆衛生の普及や優れた抗菌薬の登場などにより一見制圧できたかに見えた感染症は再び私たちの前に大きな脅威として蘇ってきた。すなわち、21世紀となった今日において多くの疾病のコントロールが可能となってきているのに対し、感染症の分野では多くの新興・再興感染症などが出現してきており、いまや世界中のすべての医療機関において感染症対策は最重要課題となっている。特に2003年以来、東南アジア地域を発端に世界的に広がりつつあるH5N1亜型ウイルスによる高病原性鳥インフルエンザの問題は鳥だけでなく、鳥からヒトへの感染伝播事例も確認されるなど深刻な影響をもたらしつつある。高病原性鳥インフルエンザウイルスの鳥への感染事例は現在、地域的には東南アジアからアジア全体、さらに中東、ヨーロッパ、アフリカへと広がりつつあり、拡大防止が困難な状況になっている。また、鳥からヒトへの感染伝播事例についてもベトナム、タイ、インドネシアなど12カ国で確認されており、2007年8月24日現在、WHOに対し公式に報告された確定感染者数は322名、死亡者数は195名にもおよんでいる。この高病原性鳥インフルエンザウイルスによる鳥の集団感染事例、さらに鳥からヒトへの感染伝播の問題はまさに新型インフルエンザの発生と密接な関連があることが危惧され、新型インフルエンザのパンデミックがいつ発生してもおかしくない状況となっている。 20世紀以降、これまでに新型インフルエンザパンデミックはこれまで、1918年、1957年、1968年と3回のパンデミックが発生したことが知られており、今後、新型インフルエンザパンデミックが発生した場合の全世界における感染者数は10~20億人、死亡者数は数百万人にいたるとも推定されている。そのため、世界保健機関(WHO)は、1999年4月にインフルエンザパンデミック準備計画、さらに2005年5月にグローバルインフルエンザ事前対策計画を発表し、世界各国に対し早急にパンデミック対策の策定、危機管理の徹底をはかることを勧告し、現在、世界各国においてさまざまな分野で新型インフルエンザパンデミック対応プランが策定されつつある。 このような背景のもと、本シンポジウムでは、「高病原性鳥インフルエンザと新型インフルエンザ・パンデミックへの対応」のテーマのもと、4名の専門家の方々にお話をいただくことにしている。まず、高病原性鳥インフルエンザに関して、吉田英樹先生(大阪市保健所)に「高病原性鳥インフルエンザの基礎知識」についてお話しいただき、永田紀子先生(茨城県保健福祉部)に「高病原性鳥インフルエンザと行政対応」についてお話しいただく。次に、新型インフルエンザ・パンデミックに関して、谷口清洲先生(国立感染症研究所)に「新型インフルエンザへの国内外での取り組み」についてお話しいただき、最後に加來浩器先生(東北大学感染制御・検査診断学)に「パンデミック時における医療機関の対応と問題点」についてお話しいただくこととしている。 本シンポジウムにおいて、現在世界的に最も大きな話題となっている「高病原性鳥インフルエンザ」および「新型インフルエンザ」の両者を取り上げ、その問題点や課題、今後の対応などの発表・討論を通じ、会員の方々に有益な情報を提供させていただくことを大いに期待したい。
  • 吉田 英樹
    セッションID: sympo-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    A型インフルエンザウイルスの表面には、ヘムアグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の2種類の糖蛋白が存在する。HAはH1~H16の16種類、NAはN1~N9の9種類あり、A型インフルエンザウイルスはその組み合わせにより16×9=144種類の亜型に分類される。鴨などの野鳥からはこの全ての亜型が検出されると言われている。 鳥インフルエンザウイルスは野鳥の間で感染を繰り返しているA型インフルエンザウイルスで、通常感染した鳥類が発症することはない。しかし、鳥インフルエンザウイルスの中には、鶏、あひる、七面鳥などの家禽類に感染すると、非常に強い病原性を示す亜型があり、感染後48時間以内の致死率が90-100%に達するものもある。これを高病原性鳥インフルエンザウイルスと呼んでいる。 鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染効率は悪いが、感染は成立し得る。1997年以降ヒトの感染事例報告があり、多くの場合感染した鳥やその排泄物への接触歴を有する。鳥インフルエンザに感染したヒトからヒトへの感染は非常に稀かつ限定的で、ヒト-ヒト感染がおこったとしてもそれが持続することはない。もしこのウイルスが変異して、効率よくヒト-ヒト感染し、しかもそれが持続的におこるようなものになれば、パンデミックウイルスの誕生である。 ヒトにおける鳥インフルエンザの症状は、発熱、筋肉痛、咽頭痛、咳嗽などのヒト型のインフルエンザ様症状を示すこともあれば、結膜炎などの軽い症状から肺炎、成人呼吸促迫症候群(ARDS)などの命にかかわる重い合併症をおこすものまで多岐にわたる。また呼吸器症状だけでなく、下痢などの消化器症状を示すものもある。どの亜型の鳥インフルエンザウイルスかによっても症状は異なる。 高病原性鳥インフルエンザウイルスの1亜型、H5N1ウイルスの最初のヒト感染例は、1997年に香港から報告された。この時は、養鶏場及びライブ・バード・マーケットの鶏を全て殺処分することによって、流行を終息させることができた。しかし、2003年頃より東南アジア諸国の家禽類の間でH5N1ウイルスが流行し始め、それにつれて、ベトナム、タイ、カンボジア、中国、インドネシアなどでヒトへの感染事例報告が出始めた。その後このウイルスは、中央アジア、ロシア、中東を経由してヨーロッパやアフリカ諸国の家禽や野鳥にまで広がり、ヒトへの感染事例も2007年7月までの間に、12ヵ国から319例の実験室診断確定例がWHOに報告され、そのうち192例が死亡に至っている(致死率:約60%)。 ここで注意が必要なのは、重症例ほどH5N1の検査を実施し、診断及び報告されやすい可能性があることである。軽症例や無症状病原体保有者が存在する可能性があるが、これらの症例はまず報告されることはない。 最近4~5年間、世界中の家禽類の間で流行しているH5N1ウイルスは、clade1とclade2の2種類あり、clade2は少なくとも3つのsubcladesに分類できる。現時点でH5N1ウイルスの家禽からヒトへの感染はおこりにくく、ヒト-ヒト感染も非常に限定的で、しかも持続的なものではない。しかし、多くの専門家は、ヒトへの感染性が高く、持続的にヒト-ヒト感染をする能力を持ったウイルスの出現を懸念している。H5亜型のインフルエンザウイルスに対する免疫を持つヒトはほとんどいないため、もしこのようなウイルスが出現したら、パンデミックになる可能性が高い。 世界中に広がってしまったH5N1ウイルスの根絶は難しい。ウイルスの流行状況や遺伝子の変異を注意深く監視していく必要がある。
  • 永田 紀子, 緒方  剛, 土井  幹雄
    セッションID: sympo-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 平成17年6月、茨城県の西部に位置する水海道市(現常総市)内の養鶏場において、日本で初めての弱毒タイプの高病原性鳥インフルエンザ(H5N2)が発生した。その後、抗体陽性養鶏場は県中央部にまで拡大し、最終的には、7市町、40養鶏場に達し、県内の採卵鶏飼養羽数の約半数にあたる約570万羽を処分した。県保健福祉部では、これら40養鶏場の従業員及び殺処分等防疫作業者の健康調査・健康管理(感染防御処置)を実施したのでその概要を報告する。 【発生の概要】 水海道市(現常総市)内のA養鶏場で、4月上旬から中旬にかけて産卵率の低下がみられ、5月23日、当該養鶏場が「(財)化学及血清療法研究所」へ検査を依頼した。6月24日、同研究所より県に鳥インフルエンザ感染を疑うとの連絡があり、県は「(独)動物衛生研究所」へ確認検査を依頼し、6月26日、H5N2亜型のA型インフルエンザ感染であることが確認された。翌6月27日、県では「茨城県高病原性鳥インフルエンザ対策本部(本部長:知事)を設置し、発生養鶏場の鶏の殺処分を決定した。 【健康調査の概要】 (1)発生養鶏場の従業員及び家族の健康調査 40養鶏場の従業員及び家族381人に対し、健康調査を実施した結果、問診、インフルエンザ迅速診断キット、インフルエンザウイルス検出検査(RT-PCR)は、全員異常は認められなかったが、血清抗体検査では、81名(うちペア血清で4倍以上の抗体上昇者:20名)が高い抗体価を示し、感染した可能性が示唆された。 (2)殺処分等防疫作業者の健康調査・健康管理 防疫作業者延べ3万6千人(殺処分期間:平成17年6月27日~18年2月21日)に対し、健康調査(問診、体温、血圧測定及び必要に応じて医師の診察等)を実施した結果、作業後の有症状者は762人で、主な症状は熱中症様症状、外傷、気分不快、高血圧等であった。 また、防疫作業による感染の有無を確認するため、34名の防疫作業者の血清抗体検査(ペア血清)を実施したところ、5名が第1回目の検査で高い抗体価が見られたが、第2回目の検査では下がっていることから、少なくとも防疫作業による感染ではなかったと考えられる。 【考察】 今回、本県では事前に、「高病原性鳥インフルエンザ発生時における対応マニュアル」の策定や実地訓練等を実施していたため、初期対応や関係機関との連携は迅速に行うことができた。しかし、鳥インフルエンザ(H5N2)については、ヒトへの感染に関しての十分な知見がなく、また、防疫作業の長期化や熱中症対策等、次々に起こる想定外の問題に対し臨機応変な対応が求められた。 一方、発生養鶏場従業員からペア血清で抗体陽性者が確認されたことは、ヒトへの感染の可能性が示唆されたものであり、養鶏場従業員等への平時からの感染対策(専用の作業服、マスク、帽子、手袋及び長靴の着用)の必要性の周知と徹底が望まれる。 現在、新型インフルエンザへの脅威は、東南アジアをはじめ、ヨーロッパ、アフリカ等における高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)のヒトへの感染によって、より深刻さを増しており、今後も、一層、慎重な監視・警戒が必要である。
  • 谷口 清州
    セッションID: sympo-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    新型インフルエンザによるパンデミックは、20世紀に入って以降、1918-19年、1957-58年、1968-69年と3回が記録されており、それぞれ、スペインインフルエンザ(原因ウイルスはA/H1N1亜型)、アジアインフルエンザ(A/H2N2亜型)、香港インフルエンザ(A/H3N2亜型)と呼ばれているが、その後、2005年現在までパンデミックの発生はみられていない。インフルエンザに関する科学的知見が蓄積されるにつれ、再びパンデミックがおこることが懸念され、1993年にはドイツでの第7回ヨーロッパインフルエンザ会議、また1995年に米国でのパンデミックインフルエンザ会議での報告をはじめとして、多くの専門家から「人の世界において流行する新型インフルエンザウイルスが早ければ数年のうちに出現する」との警告が出されていた。世界保健機関(WHO)は、1999年4月に、Influenza pandemic preparedness plan. The role of WHO and guidelines for national or regional planning. Geneva, Switzerland, April 1999を発表し、各国でPandemic Planを策定することを勧告し、2005年5月には、WHO global influenza preparedness plan. The role of WHO and recommendations for national measures before and during pandemics.(グローバルインフルエンザ事前対策計画)を発表してその具体的な方針を示したことから、世界各国のパンデミックプランの策定は促進された。 そして、近年の鳥インフルエンザのヒトへの感染事例の多発を受けて、現在世界では、H5N1亜型の鳥インフルエンザウイルスがヒト世界に侵入してパンデミックを起こすのではないかという目前の脅威に対して莫大な予算をかけて準備を進めており、本邦においても、2007年度末に新型インフルエンザ専門家会議が、サーベイランス、公衆衛生対策、ワクチン及び抗ウイルス薬、医療、情報提供・共有の5つの部門別に設置され、2007年3月にそれぞれのガイドラインとしてまとめられた。もちろん、この背景にはこれまでの歴史的な背景からH5N1亜型のような高病原性の鳥インフルエンザウイルスはヒト世界には侵入しないのではないかと議論も理解した上で、これが近い未来にパンデミックを起こさなかったとしても、他の亜型による発生の危険性は依然として存在する。また、これに対して準備を進めることは、大地震、ハリケーン、津波などの自然災害、バイオテロなどの人為災害、すべての健康危機から国民を守ることにつながるという国家戦略としての危機管理の考え方がある。 ここでは、歴史的なLesson Learnedや世界の対応状況をもとに、パンデミック対策の戦略を考えてみたい。
  • 加來 浩器, 國島 広之
    セッションID: sympo-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
     2007年4月から6月にかけて、10代後半~20代の青少年層を中心に全国規模で麻疹が流行し、大学が各地で学校閉鎖になったことをマスコミが大きく取り上げて社会問題となった。医療現場では、医療従事者が知らないうちに曝露されその後発症したり、そもそも入職時の検査で麻疹抗体陰性と知りながらワクチンを接種していなかったことが判明したりと、さまざまな問題が発生した。また、検査試薬やワクチンが市場で枯渇し入手困難となったが、たとえ入手できたとしても、誰を優先的に検査又は接種するのか等の対応に迫られた。陰圧個室を有さない医療施設内では、入院患者が麻疹を発症した場合にどのような感染制御を行うべきか等が議論された。 さて、人類にとって初めて遭遇する感染症、すなわち新興感染症であるパンデミックが発生した場合に、医療機関ではどのような対応をとるべきなのか? SARS対応の経験や今回の麻疹事例での医療機関の教訓は、そのまま生かせるのであろうか?この命題に答えるために、我々はパンデミック発生のシナリオを作成し、経時的に派生するさまざまな問題点を案出し、その対応策について検討した。 インフルエンザは、発症早期から人への感染性を有するため、各施設の外来でトリアージを行っても院内への持込を防げないことが、SARSとの相違点の1つである。個々の医療機関では、“海外渡航歴や鳥との接触歴が無い人でのインフルエンザAの急増”という現象に遭遇するであろう。この情報は、バイオテロの兆候の場合と同様、保健所又は地方感染症情報センターへ速やかに通報され認知されることが対応の第1歩となる。しかし、パンデミックが冬季に発生すれば季節性のものとの区別が困難であるばかりか、迅速診断キットの感度の問題や試薬の供給の問題で、現場が混乱することが予測される。 パンデミックへの医療対応は、個々の医療機関での取り組みも重要であるが、地域診療圏における役割分担、すなわち(1)発熱外来等又は重症度のトリアージを行う医療機関(又は、医療スタッフを派遣する施設)(2)重症のパンデミック患者を引き受ける医療機関、(3)非インフルエンザ患者へ対応する医療機関、の中でどの分野を担当するのか重要である。トリアージは、自治体や保健所等と連絡しながら適正で、しかも柔軟に運用しなければ、地域住民の中でパニックが生じる。医療機関では、多くの職員が欠勤することになると予測されるため、保持すべき病院機能を考慮して、人員の再配分を行わなければならない。そのためにも、意思決定部門(病院長、理事長等)との緊急連絡網がうまく機能するよう整備しておく必要がある。その他、マスクやガウン等のPPEの備蓄とその使用基準、院内アウトブレイク時のコホーティング要領、入院機能の維持のために必要最小限のライフラインの備蓄(水、食料等)、マスコミへの広報と対応(職員の教育等)についても準備しておくことが重要である。
ワークショップ-1
  • 外山 譲二, 松井 遵一郎
    セッションID: workshop-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    わが国で院内感染が社会問題化したのは1980年代に入ってからであり、薬剤耐性菌、なかでもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が中心であった。中小病院の多い全国の厚生連病院も例外なくその対策に追われるようになった。その後1996年の診療報酬改定「院内感染防止対策加算」(5点/日)により急速に意識が高まり、2000年には「院内感染防止対策未実施減算」となってからは、ほとんどの病院で感染予防対策委員会(ICC)や感染予防対策チーム(ICT)を組織するようになった。しかし、現実にはなお難題が山積しており、実際に院内感染対策に携わっている関係者の苦労は大きい。今回は、出来るだけ多くの施設の予防対策に生かせるようにワークショップを企画した。 全国の厚生連病院には、さまざまな規模やタイプの医療機関があり、付属する施設も多様であることから一様に予防対策を論ずることは難しい。従って、組織のあり方や理想型を求めるのではなく、現場で直面している具体的な菌やウイルスに対して、実際例をとりあげてその予防対策について発表していただくこととした。演者は、出来るだけ幅広く身近な病院規模や職種の中から、実際に中心になって活動している方々を選ばせていただいた。院内感染は疾患や感染経路が多種多様であり、時間の制約から取り上げる主題は限定せざるを得なかった。今後の予防対策の一助になることを願っている  結核やレジオネラなどの空気感染は、陰圧隔離室もなく予防対策が不充分な中小病院や介護施設などでは、患者の発見が遅れると大きな問題となる。特に結核は高齢化により日本ではまだまだ発症が減っておらず、若い医療従事者への感染や施設でのアウトブレイクも起きている。結核における感染、発病の判定や予防対策(ワクチンなど)のスタンダードは専門医の間でも充分に確立していないのが現状である。そんな中で結核については、専門医の立場からと介護施設での対策について取り上げていただくこととした。  薬剤耐性菌については、長い間MRSAの対策が主体であった。免疫不全や重症患者を抱える急性期病院では、経済的な側面も含めてまだまだ課題は多い。一方、近年新たな薬剤耐性菌として、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、βラクタマーゼ産生グラム陰性菌(ESBL)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)などが問題となってきた。薬剤耐性菌は、病棟や手術場などでの対策が主体であり、ICCやICTが確立している病院では、医師以外の職種の人たちが中心に活動するようになって来ている。しかし、200床未満の病院では、さまざまな制約の中で献身的な医師が指導していることが多い。そこで、今回は医師、薬剤師、看護師(ICN)のそれぞれの立場から、薬剤耐性菌の経験と予防対策を報告していただくことにした。  全国の厚生連病院には、関連の介護施設や訪問看護などを運営している医療機関もたくさんある。これらの所ではインフルエンザやノロウイルスの感染予防は最も身近で頻度の高い問題である。特にノロウイルス感染は院内感染としてアウトブレイクする可能性が高く、病院の規模や施設を問わず、予防対策には充分な注意を払う必要がある。介護施設では診断が遅れると疥癬の集団発生が見られることもある。今回は病院、介護施設、訪問看護なども含めたこれらの疾患の予防対策について、それぞれの立場からの報告をお願いした。  今回演者と演題の内容の選定後に全国的に麻疹の流行が広まった。麻疹をはじめ風疹、水痘、流行性耳下腺炎、パルボウイルスなども現場では大きな問題となっている。時間が許されるならこれについてもディスカッションで触れてみたい。
  • 安藤 俊二, 黒田 芳信, 明石 光伸
    セッションID: workshop-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    結核とレジオネラ感染症は,経気道的に院内感染を起こす病原体として重要である。共に空気感染であるが,ヒトからヒトへの感染の有無という点で異なり、それぞれに院内感染対策が必要となっている。 レジオネラ肺炎は集中治療が必要となる重症肺炎の中では、肺炎球菌についで頻度が高い。市中感染での適切な治療がなされなかった場合の死亡率は16から30%と報告されており、院内感染症として基礎疾患のある患者に発症した場合の死亡率は50%にも及ぶ。近年では、尿中抗原検出法などの迅速診断の普及により、早期診断が可能となり、適切な抗菌薬が使用されれば、死亡率の低下に結びつく。レジオネラ感染症はヒトからヒトへの感染はないとされている。感染経路としては市中では、24時間風呂や循環式の温泉があり、特に循環温泉水からの感染では、集団発生を起こしやすい(2002年に宮崎県日向市での集団発生など)。院内感染では感染源は病院内の水の供給にある。給湯施設やクーリングタワーのレジオネラによる汚染からの感染が問題となっており、2003年には岡山大学病院での病院内の給湯施設が原因となった院内感染が報告されている。当院でも院内感染対策として、給水施設のレジオネラ検査を行っている。当院での院内感染によるレジオネラ肺炎の発症は無いが、市中感染による症例を提示し、感染経路、画像、治療法についても述べる。 結核は、わが国では欧米諸国と比較して、今なお多くの新規患者が発生しており、これら新規の結核患者は一般的な呼吸器症状を主訴に外来受診することが多い。結核患者は周囲への感染性を有し、空気感染対策が必要であり、感染対策上、極めて重要な病原微生物である。更に近年では高度な医療に伴う易感染性宿主の増加により、結核専門病院以外での適切な診療及び感染対策も必要となっている。結核感染対策には、積極的な抗酸菌検査の実施による早期診断が重要である。当院は県内で唯一の精神科併設の結核病棟(現在は廃止)を有していたこともあり、また、市内に海外からの留学生を広く受け入れている大学があるため、結核症例は少なくない。当院にて2005年11月から2006年10月までの1年間で、抗酸菌検査を行った1079検体中、15検体が結核菌(塗抹、培養、PCR含む)陽性であり、その中にはガフキー9号という高度排菌症例も2例あった。医師、看護師を含む医療従事者の結核感染曝露の問題もあり、症例を提示し、当院での結核院内感染対策についても述べる。
  • 大榮  薫, 尾崎 隆男, 舟橋 恵二, 森下剛久 剛久, 加藤 幸男
    セッションID: workshop-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】 当院における耐性菌サーベイランスは、院内感染対策に問題となりうる薬剤耐性菌の感染発生動向を調査し、その対策を打ち立てることを目的としている。薬剤耐性菌の代表であるMRSA (Methicillin-resistant Staphylococcus aureus :メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)以外にも、近年問題となっているESBL (Extended-spectrum β-lactamase)産生菌やMDRP (Multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa:多剤耐性緑膿菌)のサーベイランスを実践した。それらの院内感染を防止させるための対策と実際の対応事例を紹介する。 【方法】 _丸1_院内感染対策上問題となりうる耐性菌検出後のフローチャートの作成。 _丸2_耐性菌サーベイランスの実践。 _丸3_感染症隔離予防策マニュアルの実践。 _丸4_入院における平成17年10月から平成19年3月まで18ヵ月間の対応事例。 【結果】 _丸1_院内感染対策上問題となりうる耐性菌の定義を確認、また、発生からその対策までをフローチャートとしてまとめた。ポイントとしては、Infection Control Team:ICTに報告されることによる早期対策の実現にある。ほとんどの症例において、ESBL等の耐性菌検出報告から数時間で感染症状の把握、並びにより強力な抗菌薬療法の開始、または経過観察など治療方針が決定されていた。 _丸2_耐性菌の検出において、通常はカルテに添付される細菌検査報告書を確認する必要がある。その場合、主治医が院内感染対策上問題となりうる耐性菌と判断するまでに時間を要する場合も少なくない。当院ではESBL、MDRPなどが検出された場合、主治医・ICT事務局・各病棟師長に細菌検査室より第一報が電話連絡される。ICT事務局の初動により、カルテ記載内容を確認し、その情報を基にICT医師によるフォローアップを始める。主治医との協議、及び連携によって感染症状の有無の判断、また抗菌薬療法が適切であるか等方針決定されるが、治療に於いては、ICT作成の昭和病院抗菌薬療法ガイドラインは十分に活用されていた。 _丸3_前記のように主治医や病棟師長ばかりでなく、ICTより、感染症隔離予防策マニュアルの実践を関係スタッフに啓発した。 _丸4_ESBLの報告は60件、うち感染症状無しと判断された状況は14件、検体提出日より適切な抗菌薬療法の実践は20件、より強力な抗菌薬療法を必要とした状況は24件、残る2件は原疾患の悪化による報告日前の死亡であった。またMDRPの報告は7件あり、その全てはmetallo-β-lactamaseを産生しないと判断された。感染症状が無しと判断された状況は2件、全ての抗生剤の中止による薬剤感受性の改善は3件、入院当日に検出され当日死亡が1件、原疾患および肺炎の悪化により約1月後に死亡したケースが1件であった。metallo-β-lactamaseを産生するP.fluorescensの報告1件では、全ての抗生剤を中止し、隔離対策も実施した。 【まとめ】 ICTによる耐性菌サーベイランスで高度耐性菌が検出された際、その対策は全て当日の内に確立された。その治療に於いて、ICT作成の昭和病院抗菌薬療法ガイドラインは十分に活用されていた。また、検出される菌の感受性パターンの相違から、高度耐性菌の院内伝播は発生していないと判断された。
  • 久保田  妙子, 菊池 充, 浦田 輝夫, 小磯 雄一, 高野 康二, 斉藤 幸江, 太田 正康
    セッションID: workshop-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】多剤耐性菌感染が原因とされる院内感染死亡者発生の報道により、厚労省から医療機関における多剤耐性菌に対して感染防止対策の周知徹底と強化が求められている。当院感染対策委員会も、院内の環境調査、微生物の動向調査、抗菌薬の適正使用状況調査と抗菌薬の使用届出管理、院内感染発症の届出、人工呼吸器関連感染・医療器具留置関連感染サーベランスを主な活動として積極的に感染予防に取り組んでいる。感染対策委員会とリンクする看護部の感染チーム委員会も病棟での日常的処置やケアの中で、手指衛生を含めた標準予防策遵守と耐性菌保菌者に対する感染経路別予防対策を強化しており、2005年4月から感染専任看護師が配置された。今回、他部門との連携を図りながら院内感染防止対策の啓発活動の中で、当院での多剤耐性菌対策の実際と感染専任看護師の役割を通しての感染防止対策の実際を報告する 【事例】、 1:人工呼吸器装着に関連したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)がA病棟で3名検出  介入:スタッフの接触予防対策の実践強化と環境整備の徹底を図り、原因追及をおこなった 結果:呼吸器操作パネルに患者と同様のMRSAが検出された。操作パネルの清掃整備の見直しと管理を行ったところ、人工呼吸器装着に関連したMRSA感染が減少した 2:B病棟、入退院を繰り返す患者の喀痰検査から多剤耐性緑膿菌(MDRP)が検出される  介入:MDRPについての情報提供を行い、徹底した個室隔離と接触防止対策の指導、家族への指導と協力依頼、B病棟巡視を頻回に実施 結果:アウトブレイクは防止でき、新たなMDRP院内感染者はでていない 3:外科病棟患者の胆汁培養からPseudomonas putida検出 MDRPの可能性が高い  介入:MDRPについての可能性の情報を伝達し注意を呼びかけ、伝播防止対策を実施 結果:再培養検査提出した結果、問題となる菌の検出は通過菌と思われた 【考察】週に1回、提出される検査細菌室からの情報を基に病棟を巡視して、入院患者の感染状況を確認しているが、耐性菌が同病棟で同時期に検出されると、医師・看護師によるものと考えがちだが、呼吸器操作パネルを介してのMRSA感染が起因となった事から医療器材関連の感染伝播について注意を喚起するきっかけになった。MDRP感染は、易感染者の多い呼吸器・神経内科病棟で起こったが患者・家族を含めた徹底した接触感染予防策を図ったことで院内から新たな感染発症を防止できた。胆汁などの検体採取時は、無菌的採取が行わないと検体を汚染してしまう可能性があるため検体採取や取り扱いの教育は必要である。アウトブレイクと思われる場合や耐性菌が検出された場合は直接、感染対策委員会医師と感染専任看護師に連絡が入り、早期の段階から状況調査と感染防止対策にむけ現場訪問を行い対策を開始するが、平時でも各現場ではリンクナースを中心に感染対策が積極的に実践される体制が確立されるようになってきている。 【結語】感染専任看護師が窓口となることで各部門の担当者と情報共有が円滑となり、実践する現場との連携が図られ耐性菌の蔓延を防止できている。サーベランスにおける情報をフィードバックし対策を実践することで感染の拡大防止に役立っている
  • 江川  雅巳
    セッションID: workshop-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    1. 病棟での細菌感染アウトブレイク  「A病棟で大腸菌O-18による腸炎が急増しています.」検査室からの連絡で調査を開始したICTを,激震が襲った.「緑膿菌感染症のアウトブレイクも起きている!」  病床数68の外科系混合病棟Aでは平成17年4月中旬から大腸菌O-18による腸炎患者が増加していたが,便中緑膿菌検出も高頻度だった.過去1年間の調査では19名から緑膿菌を検出し,初検出部位は主に消化管と気道だった.検出された緑膿菌は耐性菌が多く,入院期間が長引くとともに耐性が高度化する傾向を認めた.緑膿菌・大腸菌感染のアウトブレイクがあると結論し,保健福祉事務所へ連絡するとともに,対策に乗り出した.  院内感染対策の基本は「感染源対策」と「感染経路遮断」である.保菌患者の病室履歴頻度は看護師詰所近くの病室で高かった.病棟内巡視では_丸1_詰所内の流しが雑然,_丸2_病棟内各所のカーテンの汚れ,が挙げられ,便器周囲の汚れは目立たなかった.細菌検査では,給食・配膳関係,便器・汚物処理槽に異常を認めず,詰所内流しに置かれた医療器具洗浄用スポンジから一般緑膿菌を検出した.  手洗いを含む標準予防策の徹底をはかり,環境消毒,洗浄用スポンジの毎日交換と再利用時の煮沸消毒などを行った.これらの経過中,病床数177の当院ではA病棟における細菌汚染を職員一同が極めて深刻に受け止めるとともに,知恵を出し合って入院患者の安全を守ろうとする機運が高まった.  その後,膀胱カテーテルを留置した同病棟患者の尿からMDRPを新規に検出した.尿関係の感染源を改めて見直した現場スタッフにより,蓄尿回収用共用バケツの存在が明らかとなり,そこからMDRPを大量に検出した.感染源をついに発見したのである.発見が遅れたのは,スタッフ達に(まず無関係)という思いこみがあったためと思われる.  蓄尿回収法の改良により,緑膿菌院内汚染は治まった.以上から,A病棟における緑膿菌感染アウトブレイクは蓄尿回収用バケツを感染源,回収手順を感染経路とした可能性が高く,大腸菌O-18による腸炎アウトブレイクは標準予防策の不徹底に起因した可能性が高いと結論した. 2. 関連施設におけるノロウィルス感染アウトブレイク  ノロウイルス感染が全国的に大流行した平成18年度の冬,入所者60名,職員40名の老人施設Bで,平成19年1月末からノロウイルスによる急性胃腸炎が集団発生した.同施設では,自宅で急性胃腸炎を発症し回復期の認知症老人を短期入所させた事から,汚染が始まった.生活空間を共有した入所者2名が1月28日に発症し,29日に5名,30日に5名と次々に伝染した.  31日朝には県保健福祉事務所へ集団発生を届け出,立ち入り調査および「環境消毒」と「隔離」の指導を受けた.消毒手順は次亜塩素酸希釈液(0.02%)を噴霧後,乾拭き・換気とし,消毒回数は基本が1日2回,その他随時とした.また,発症者を部屋単位でまとめ,なるべく出歩かない様に誘導するとともに洗面用具の管理を行い,リネン類を清潔区域に保管した.汚染された衣類はその場でビニール袋密封した.  以上の対処により居住スペース間の発症者拡大を抑える事ができたが,最終的には15日間で入所者の約半数(28名)と職員4名が発症した.徘徊を含む認知症利用者が多い老人施設では,感染対策が困難であると実感させられた.
  • 池田  しづ子
    セッションID: workshop-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    病院、施設、訪問看護等で、インフルエンザ、ノロウイルスの効果的感染予防対策とは「感染経路の遮断」の実践です。具体的実践のポイントは標準予防策、手洗い/乾燥、その場で密封処理です。 インフルエンザの感染経路は飛沫/接触感染です。感染経路を具体的場面で考えてみましょう。患者の咳やくしゃみでインフルエンザウイルスは環境に散らばります。人ごみや、1m以内での接触者は空間で漂うウイルスを吸い込むことで感染します。また、ヒトは咳やくしゃみを反射的に手で受止めたり、鼻をかんだりします。患者はインフルエンザウイルスを受止めたその手でドアノブ、蛇口、エレベーターボタン等を触れます。次にドアノブや蛇口等を利用するヒトにウイルスが付着する可能性が高く、そのまま手洗いせず、物を食べたり、唇や鼻、目などに触れることによって感染の可能性が出てきます。それは病院、施設、訪問看護等医療機関だけでなく、家庭、学校、職場、公共施設を問いません。ドアノブ、蛇口等を触れたり、汚物の処理をした後、場所を移動した直後等は、入念な手洗い/乾燥が何よりも予防に効果的です。したがって咳など頻回の方が病院玄関に来られたときは、感染源の早期封じ込め対策としてサージカルマスクの貸与/着用指導と、咳を受け止めた手の手洗い/乾燥を具体的に指導します。また病院環境は多くのヒトが頻繁に触れるところは念入りに湿式清拭を行い、環境を清浄化しておくことも感染経路の遮断対策として効果的です。 ノロウイルスの感染経路は汚染された二枚貝等の生喫食による食中毒、糞口感染、不潔な調理器具や汚染手指による接触感染、噴水状吐物による飛沫感染です。ノロウイルスの感染予防対策はインフルエンザの飛沫/接触感染経路の遮断対策と同じです。さらにもう1点、重要な対策があります。それは、感染しても嘔吐や下痢を発症しない健康保菌者は感染発症者同様にノロウイルスを約1ヶ月間排便中に排泄し続けます。したがって健康保菌者は保菌している自覚を持ち、感染経路の遮断目的で手洗い/乾燥できるかがポイントです。しかし、自分が健康保菌者か否かの判断は困難です。そこで標準予防策として、感染症がある・なしに関わらず、湿性の血液、体液、排泄物等は感染性があるものとして取扱うことが感染予防対策に効果的です。また、入念な手洗い/乾燥とは、誰にでも、どこでも簡単にでき、接触感染経路を断つ、有効かつ安価で効果を期待できる方法です。手洗い/乾燥は医療従事者と入院患者や利用者、家族、面会者等にも具体的指導/教育をすることがさらに病院環境の清浄維持と感染経路の遮断対策に有効です。手洗いは手洗ミスを補う6つのポイントを意識して手洗い技術を高め、継続させることです。手の乾燥は微生物の伝播を防ぎ、手荒れ予防にも効果的です。手洗い/乾燥は患者・家族・仲間を感染から守り、自分も保護される効果的な対策です。さらに、その場で密封処理とは、汚染オムツの交換時、排泄物がもれないように丸め、作業者が汚染オムツを開封したプラスチック袋へ直接投棄/密封処理することです。この方法は生活環境であるベッド周囲の汚染を最小にすることができます。また悪臭残存を防ぎ、快適空間を維持できます。
  • 島崎  豊
    セッションID: workshop-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 近年は、高齢者社会の到来により介護施設利用者が急増しており、利用者や職員の健康を守るため、施設内における感染対策の重要性が問われる時代となっている。  施設を利用する90%以上の高齢者は、循環器疾患、脳疾患、呼吸器疾患、糖尿病などを既往しており、入院治療の際に病院などで感染した利用者も少なくない。 また、糖尿病や化学療法などで免疫力の低下した、易感染状態にある利用者も多く、感染症に関してはハイリスク集団である。介護施設における感染対策は、今日の科学的根拠のない対策も散見され、利用者や職員の安全が確保されていないなど問題を残している。今回は、介護施設に対する当院の取り組みと感染対策の現状について報告する。 【当院の取り組み】  当院は、地域医療の基幹病院として、急性期医療を中心にリハビリテーションから慢性期、在宅医療という医療分野、介護部門を中心とする福祉分野まで担う施設である。感染対策においては、院内の介護施設を始め地域の施設までを範疇として、定期的な研修会を院内外で開催し啓蒙すると共に、地域のネットワークを構築し個別のコンサルテーションも展開している。 【結核の感染対策】  結核の感染対策の問題点として、_丸1_若年者の大部分が結核に未感染である。_丸2_医師や職員の認識不足。などがあり排菌している利用者の対応が遅れて施設内での集団感染につながる危険性が指摘されている。結核の自覚症状は、咳、痰、微熱、全身倦怠、体重減少が多く、特に咳や痰が二週間以上持続している場合は結核を疑うことが必要であるが、高齢者の場合は、咳や痰がないことも多いため発見が遅れる要因になっている。 職員採用時のツ反(二段階法)の未実施と、N95マスクが準備されていないことも多く、罹患しやすい職員が感染する危険性を高めている。 咳や痰がある利用者との接触では、積極的にサージカルマスクを着用して結核の疑いがある利用者を早期に診断することが最も重要な感染対策である。 【疥癬の感染対策】 疥癬の感染対策の問題点として、疥癬の診断の遅れが指摘されている。疥癬の確定診断としてKHO法を行い検鏡し疥癬虫や虫卵を検出するが、その検出率は20~60%と見つかりにくい特徴がある。症状が軽度な場合や二次的な変化が加わった場合は診断が難しくなるため、診断の遅れから施設内での集団発生の要因となっていることが多い。 また、安易なステロイド剤使用による角化型疥癬(ノルウエー疥癬)発生の危険性や、疥癬予防のために日常的にオイラックス軟膏やムトーハップを使用することも問題である。  疥癬の感染対策で重要なことは、利用者の皮膚の観察を十分行うと共に、特に入浴介助時における接触感染対策を強化することが必要である。 【まとめ】 今日まで行ってきて問題ないから、お金がかかるから、管理者の理解が得られない、などという施設内の体制を改善して、感染対策の正しい知識を習得し実践することが必要である。
ワークショップ-2
  • 藤原  秀臣, 塩飽  邦憲
    セッションID: workshop-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    メタボリックシンドロームは従来の生活習慣病の概念を発展させ、肥満に注目して動脈硬化の危険因子を総体的に捉えたものであります。すなわち、栄養過剰や運動不足などの近代の生活習慣が肥満を招き、耐糖能異常、高脂血症、高血圧などの危険因子が一個人に集中することで動脈硬化性疾患が発生しやすくなることに警鐘を鳴らしているものです。当初、この疾患概念はReaven G (1988)がシンドロームXとして提唱していたものですが、最近になってWHOや米国NIH、さらに国際糖尿病連盟などがメタボリックシンドロームの診断基準を発表し、注目されるようになったものです。日本では、松澤佑次らが1994年より内臓脂肪型肥満の概念を発表し、さらに、内臓脂肪組織よりIL6やTNF-などのサイトカインを分泌する内分泌機能組織として捉えているところに特徴があります。内臓脂肪(内臓肥満)がそのリスクの中心にあり、脂肪細胞の機能異常が直接血管障害を起こすとされています。一方、アメリカ糖尿病学会などは、メタボリックシンドロームのコア病変はインスリン抵抗性と捉えており、日本やヨーロッパの学会とは違いが見られます。 肥満対策が健康維持に不可欠であるとの啓発活動も普及し、最近では肥満の基準としての腹囲測定が一般検診でも一般化してきましたし、食事、運動を中心にした生活習慣への関心も高まってきています。しかし、その疾患概念にも、診断基準にも未だに議論があり、予防や治療も多岐に亘るのが現状です。 そこで、今回のワークショップでは比較的新しい症候概念であるメタボリックシンドロームについて、その疾患概念(今井泰平:土浦協同病院内分泌科科長)、疫学的視点(塩飽邦憲:島根大学医学部環境予防医学教授)、機序と病態(吉川隆志:帯広厚生病院内科医長・健康管理センター)、予防と治療(大林浩幸:東濃厚生病院内科・アレルギー呼吸器科部長)、外科治療(川村功:下都賀総合病院院長)について、5人の先生のご発表をいただきます。それぞれの演者により様々な角度からの解説と研究成果等をご披露いただきますが、特に外科治療についてはメタボリックシンドロームに対する最新の特殊治療であり興味深いお話が伺えると思います。
  • 塩飽   邦憲, 岩本 麻実子
    セッションID: workshop-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    1. メタボリックシンドロームの定義と病態をめぐる問題点  2005年に国際糖尿病連盟などは、内臓肥満をコア病態としたメタボリックシンドローム(MS)の診断基準を発表し、日本人向けの診断基準も公表された。内臓肥満をコアにしたこのMS定義に対し、アメリカや欧州の糖尿病学会からその病態(インスリン抵抗性)と動脈硬化疾患危険因子としての予知能力(高血圧やLDL-Cの軽視)に厳しい批判がなされ(Kahn R et al., Diab Care 28: 2289-2304, 2005)、本年4月にバルセロナで開催された2nd International Congress on Prediabetes and the Metabolic Syndromeではその反批判が展開された。日本では平成20年からMS予防を主目的にした特定健診・保健指導が導入されることになり、日本でのMSの実態と予防戦略の確立が急務となっている。 2. メタボリックシンドローム(MS)の疫学  日本でのコミュニティを対象としたMSの疫学調査は多くない。我々は、2000年より日本を含む北東アジア地域でMSの国際比較研究を行ってきた。アジアでMSを構成する代謝異常の集積が増加していることは共通認識となりつつあるが、同じ診断基準を用いても内臓肥満と代謝異常との関係は各国で異なっていた(Shiwaku K et al., Lancet 2005; J Lipid Res 2005)。2006年に島根県雲南市掛合町で行った調査では、糖尿病有病率8%(経口糖尿病薬またはインスリン治療中または空腹時血糖126 mg/dl以上)、MS10%であった(ウエスト周囲径男85cm以上、女80cm以上に2つ以上の危険因子)。20-59歳までは、男性が女性よりも糖尿病とMSの有病率が有意に高いが、閉経後の60-70歳代では性差はなくなった。MS群は、内臓肥満と高インスリン血症(インスリン抵抗性)を有し、糖尿病群は、HbA1Cは高いが、内臓肥満や高インスリン血症の程度は正常群とMS群の中間であった。30-50歳代ではMSが多かったが、高齢者に多い糖尿病群は、肥満を伴わず、遺伝および老化によりインスリン追加分泌の低下した病態を示していると考えられた。農村地域での糖尿病対策は、MSの早期発見・予防とともに、HbA1Cでのスクリーニングにより肥満を伴わない食後高血糖を呈する耐糖能異常者を早期発見し、行動療法および健康なまちづくりを推進することが重要と考えられる。 3. メタボリックシンドローム(MS)の行動療法  MS予防については、行動療法が薬物療法よりも効果ならびに経済性にすぐれていることは欧米の介入研究で証明されている。我々は、2000年からMSおよびその予備軍に生活・健康診断ならびに健康教育による3カ月間の行動療法を行ってきた。行動療法前にMS(上記の定義)該当者中で男性29%, 女性44%が改善した。これは、脂質代謝異常(特に高中性脂肪血症)の改善によるものが多かった。中性脂肪の変化は、介入前の中性脂肪値と体重減少により30%を説明できた。MS改善群では、体重が3.2 kg(男性3.1 kg、女性3.2 kg)減少した。ウエスト囲は3.3 cm(男 性2.8 cm、女性3.6 cm)減少したが、MS悪化・不変群との間に有意差はなかった。体重減少には炭水化物の摂取熱量減少が最も貢献しており、各地域の食習慣を踏まえた予防対策が重要と考えられた。
  • 吉川 隆志, 新  智文, 飯居 サト子, 安東 明子
    セッションID: workshop-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
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    1999年WHOがメタボリックシンドロームという名称を提唱して以来、世界では6年間で7つの診断基準が作られている。NCEPの診断基準では、腹部脂肪蓄積が第一の診断項目としてあげられ、メタボリックシンドロームの成因に最も関与が高いことを反映しているが、一方WHO基準はインスリン抵抗性を必須項目としている。2005年に日本内科学会をはじめ8関連学会が日本におけるメタボリックシンドローム診断基準を作成したが、腹囲のカットオフ値の妥当性が疑問視されるなどの論争が起きている。さらに厚生労働省は糖尿病等の生活習慣病、とりわけメタボリックシンドロームの該当者・予備群を減少させるため、「標準的な健診・保健指導プログラム」を作成し2008年実施を目指しているが、その際、保健指導を必要とする者を的確に抽出し階層化することが求められている。  そこで今回、当院健診センター受診者について8関連学会によるメタボリックシンドローム診断基準をあてはめ、これまでの報告と比較検討した。 〈対象・方法〉2006年4月から2007年3月までの間に当院健診センターを受診した13095人に対し、8関連学会による診断基準に従いメタボリックシンドロームを診断し、さらに脂質値、血糖値、血圧値のうち1つが該当する場合を予備群とし検討した。 〈結果〉男女とも腹囲とBMIは正の相関関係を呈し(男性、女性共p<0.0001)、男性の腹囲85cmに相当するBMIは24.3、女性の腹囲90cmに相当するBMIは26.4であった。男性のメタボリックシンドロームの該当者、予備群共加齢と共に増加し、70歳代でそれぞれ44.4%、7.0%となり、全体では37.3%、3.2%であった。また女性のメタボリックシンドロームの該当者、予備群も加齢と共に増加し、70歳代でそれぞれ16.0%、4.2%となり、全体では5.8%、1.1%であったが男性に比し著しく低値であった。 〈考察〉2004年度国民栄養調査成績のメタボリックシンドロームおよび予備群の頻度について男性はそれぞれ23.0%、22.6%、女性はそれぞれ8.9%、7.8%と報告されている。この報告に比し、当健診センターの男性のメタボリックシンドロームの頻度は各年齢層で高値であり相対的に予備群が低値となっており、その頻度については今後さまざまな集団を対象とし地域差を考慮した調査が必要と思われる。8関連学会による診断基準に用いられた腹囲は腹部CTスキャンによって測定された内臓脂肪蓄積から算出されたものであるが、今回当院健診センターにおける腹囲とBMIとの比較では、女性腹囲90cmでは肥満者が多く含まれる結果となった。メタボリックシンドロームの診断基準に関しては、現在の腹囲の基準について特に女性に関しこれでよいのか、また閉経も考慮しなくてよいのか、また年齢を考慮すべきか、などの問題点が多く残されており今後の検討課題と思われる。
  • 大林  浩幸
    セッションID: workshop-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    生活習慣の改善により疾病予防する、国民主体の健康づくり運動『健康日本21』の中間評価報告書が厚労省より最近公表された。その中で、20-60歳代男性肥満者割合が1997年国民栄養調査時のベースラーン24.3%から29.0%(2004年調査)に増加し、2001年以降横ばい状態が続くことが重要視された。この結果、来年4月以降施行される健康日本21に、メタボリックシンドローム(以下、MetS)に関する数値目標の改正が為された。2012年まで施行期間が延長され、MetS該当者と予備軍を2012年までに2008年ベースラインより10%、2015年までに25%減らす目標が掲げられた。平成18年時点で、男性(40歳~74歳)の約半数、女性(同)の約5人に1人にMetS該当者・予備軍がいる中、この減少の為には、従来の疾患治療的な考え方から、より予防医学的領域へ踏み込んだ治療介入が求められる。過栄養・運動不足などの生活習慣が、体質・遺伝的要素に修飾され、過剰な内臓脂肪蓄積、インシュリン抵抗性を招き、やがて糖尿病・高血圧・脂質異常症の発症、動脈硬化の進展、そして致死的な心血管疾患へとドミノ状に突き崩れる『メタボリックドミノ』をいかに上流で堰き止め、心血管イベントを減らすかが最大目標である。また、MetS診断基準は内臓脂肪減少のみで病態改善が図れる患者群を効率的に見つけ出すこともその目的の1つである。 MetS治療の大原則は「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、さいごに薬」である。個々の異常値に囚われるのでなく、心血管疾患発症リスクとなる内臓脂肪自体の減少を目的とした治療が先行する。 1) 運動療法・・・・1日に最低30分程度のウォーキングなど有酸素運動を週5日程度。 2) 食事療法・・・・理想体重あたり20-25kcal程度の食事制限。食事内容は、糖質55%程度、タンパク質20%程度、脂質20~25%以下が理想である。 1)、2)の結果、3ヶ月~半年で体重の5%程度を、その後1年程度で7~10%程度の体重減少を目標。 3) 禁煙・・・・動脈硬化進展予防等 4) 薬物治療・・・・MetS該当者の脂質異常症は中性脂肪高値やHDL-C低値が多い為、フィブラート系や、中性脂肪低下作用も持つストロングスタチン系も適する。高血圧症に対し、ARBはDM発症抑制、腎機能改善、死亡率低下等のエビデンスがある。本番で個々の薬剤を挙げて述べたい。 治療上の問題点・・・・Metsの治療ゴールは過度な内臓脂肪減少と、それによるインスリン抵抗性の改善、そして心血管イベント抑制であるが、最初の内臓脂肪量の評価法は、現時点ではCT等による画像診断しかない。一方、MetSで低アディポネクチン血症を認めることを自験例でも確認し、今後アディポサイトカインを治療効果判定に応用できないか期待しているが、保険適応がなく日常臨床での測定は困難である。さらに、診断基準自体に1)女性ウェスト周囲径基準の見直し、2)空腹時血糖値基準を100mg/dLに引き下げるべき等の問題が生じており、その治療法の進歩とともに、今後の展開に注目したい。
  • 川村  功
    セッションID: workshop-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    メタボリックシンドロームの中心に位置するのは肥満である。肥満は世界で17億人に達しており、WHOはその拡がりに強い警告を発している。この勢いはアジア諸国においても同様である。メタボリックシンドロームを形成する疾病郡として、アジア人種に特徴的なのは糖尿病が多いことである。わが国においても糖尿病の問題は深刻であり、その多くは2型糖尿病であるのは周知であるが、根治的な治療法はないとされている。近年メタボリックシンドロームを形成する肥満・糖尿病・高脂血症・高血圧に対し、その根治的手法としてMetabolic Surgeryという概念が出て、その臨床例も積み重ねられている。Metabolic Surgeryは重症肥満に対する減量手術からでてきたものである。 減量手術には大きく分けて二つの戦略がある。ひとつは胃を縮小してエネルギー摂取を抑制する方法であり、もう一方は食物通過ルートを変えて消化吸収能を減弱させる方法である。これらの手術は、現在重症肥満に対して世界中で年間25万例ほど行われている。 手術にて、十分な減量を得て、その状態が維持できることによって、肥満に合併した糖尿病、高脂血症、高血圧などが効果的に治療される。しかし、糖尿病の治療効果については、減量手術の術式によって大きく異なる。胃縮小術では、胃バイパス術と同じ減量効果が得られても糖尿病の治癒率がはるかに低い。例えば胃バンディング術後1.5年後の糖尿病改善率は48%であり体重の減少に伴いながら改善するために時間がかかるのに対し、胃バイパス術では改善率は84%で、術後2,3日から2,3週間のうちに改善が認められるとの結果が得られている。すなわち2型糖尿病の治療効果は、体重減少に伴って治療する二次的因子と、手術に伴って消化管の環境背景が変えられたことによる直接因子の二つがあるとされる。それらの機序として腸ホルモンであり、インスリン分泌・感受性を高めるIncretinの分泌と、それに対抗するAnti-incretinの分泌が関わると説明されている。  演者らは減量手術として幾つかの術式を行ってきたが、近年採用している胃バイパス術における耐糖能異常の改善率はより優れていることを認めている。また、2名のPick-Wick症候群の患者に対し胃バイパス術を行ったが、数年後体重のリバウンドを認めたにも拘らず、耐糖能異常だけは再発してこない事実を認めている。 Metabolic Surgeryの意義と効用をメタボリックシンドロームの治療として今後わが国でも積極的に導入していくことが期待される。
  • 今井 泰平
    セッションID: workshop-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    メタボリックシンドローム(MS)は“メタボ”と略称されて昨年の流行語大賞に選ばれたほどに人口に膾炙されているが、その実態は十分理解されているとはいい難い。そもそもは1980年代後半に動脈硬化性疾患の危険因子を複数有している病態(シンドロームX、死の四重奏など)が次々提唱されてきた。これらの病態概念はマルティプルリスクファクター症候群と総称されているが、MSはその代表的な疾患概念である。1999年にインスリン抵抗性を中心病態としたWHOの診断基準が、2001年には腹部肥満を中心としたアメリカのNCEP基準が作成されたのを受け、日本では2004年に日本内科学会を中心に8学会合同のMS診断基準が作成された(図)。中心基盤として内臓脂肪蓄積の必須項目に加え、脂質異常・血圧異常・糖代謝異常の3項目中2項目以上をMSとしている。これらの異常は共通の基盤をもっているため集積しやすく、その中心基盤としてインスリン抵抗性や肥満特に内臓脂肪蓄積が想定されている。内臓脂肪からは種々のサイトカインやホルモン(アディポサイトカイン)が産生されており、高血圧や代謝異常の発症に関係している。従来の生活習慣病は個人の食生活・運動習慣・ストレス・喫煙・飲酒など生活習慣の問題が蓄積して惹起された疾病で、糖尿病・高血圧・肥満症・高脂血症・高尿酸血症・心臓病・肝臓病・悪性疾患などが相当する。糖尿病・高血圧・肥満症・高脂血症などは単独で動脈硬化性疾患の危険因子であるが、MSではより軽症の異常が集積することで危険因子となっている。MSの診断基準にある血圧異常は高血圧の基準を満たしておらず、また空腹時高血糖も糖尿病ではなく、いわゆる境界型である耐糖能障害の基準が採用されている。つまり高血圧あるいは糖尿病の予備軍がMSとして将来糖尿病や高血圧などになる危険が非常に高いと考えられている。日本では40歳以上の男性の2割以上がMSといわれ、2000万人近くがMSと考えられており、なお増加傾向にある。肥満症からMSを経て糖尿病などの生活習慣病を発症し、動脈硬化性疾患を惹起すると考えられており、MSは動脈硬化疾患発症の過程における注意すべき病態であり、予防・介入のターゲットして捉えていくべきであろう。
一般演題
  • 四戸 隆基, 佐藤 正夫, 馬場 岳士, 角田 恒
    セッションID: 1B01
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
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    【目的】高齢者大腿骨近位部骨折において医療費高騰の要因とされる「社会的入院」の実態を知る.【対象】2003~2005年に加療した60歳以上の大腿骨近位部骨折症例のうち解析可能であった75例(男24,女51例)を対象とした.年齢は平均81.2歳(60~97歳).骨折型の内訳は頚部骨折39例,転子部骨折36例.治療法は保存治療1例,人工骨頭置換29例,骨接合(頚部骨折)11例,骨接合(compression hip screw,以下CHS)21例,骨接合(ネイルタイプ)13例.在院日数は平均57.3日(15~163日).【方法】主治医より本人,家族に退院勧告した日以降の入院日数を「社会的入院日数」と定義し,社会的入院日数が2週間を越える「長期群」(46例),2週間以内の「標準群」(29例)に群別し各項目を比較した.【結果】1)年齢:長期群81.7歳(60~97歳),標準群83.4歳(64~94歳).有意な差は認めず.2)歩行能力:当施設のGrade分類を用い歩行能力をGrade1からGrade4までの4段階に分けた.退院時の歩行能力は,長期群でGrade1が21例(45.7%),Grade2が11例(23.9%),Grade3が14例(30.4%).標準群でGrade1が11例(37.9%)Grade2が4例(13.8%)Grade3が13例(44.9%),Grade4が1例(3.4%).長期群で退院時歩行能力が高い傾向にあった.3)治療:長期群は人工骨頭15例(32.6%),CHS15例(32.6%),ネイル9例(19.6%),骨接合(内側)7例(15.2%),標準群は人工骨頭14例(48.3%),CHS7例(24.1%),ネイル4例(13.8%),骨接合(内側)3例(10.3%),保存治療1例(3.4%)で治療されていた.治療による差は明らかでなかった.3)退院後の生活環境:長期群で,退院後自宅生活者35例(76.1%),施設入所11例(23.9%).標準群で自宅16例(55.2%),施設13例(44.8%).長期群で自宅退院が多かった.4)社会的入院日数と在院日数:社会的入院日数と在院日数は有意な強い正の相関を示した.5)社会的入院の理由:長期群46例の退院できない主因は, 疼痛の残存と日常生活動作の不安が入院継続希望の理由である「本人の希望」が15例(32.6%), 経済的な理由や家族関係の問題を理由とした「家族の希望」が9例(19.6%), 手すり増設や段差解消等の「自宅整備のため」12例(26.1%),「施設の空き待ち」10例(21.7%).であった.中には,永久的な入院を家族が希望する例や,本人と家族の施設入所に対する意志の相違が著しく紛糾した症例もあった.【考察】当院においては,高齢者の大腿骨近位部骨折症例の在院日数は社会的入院により長期化していた.社会的入院の長期化の要因としては,実際の歩行能力や治療法,骨折型等の純粋な医学的問題よりも本人や家族の意識の問題や経済的事情,後方施設との連携の方がより重要であった.入院が長期化することは国民医療費の増大に繋がり,病床稼働率の低下に伴う病院経営の悪化や空床不足による地域医療への悪影響といった弊害をも生み出す.社会的入院長期化の改善のため医療スタッフが適切な治療や効果的なリハビリ等の「狭義の医療」に力を注ぐのは当然だが,ソーシャルワーカーと本人および家族との相互理解を深め後方施設との風通しを良くするなど「広義の医療」を実践するべく大きな視野を持つ事が望ましい.また経済的な問題も決して少なくない.介護保険の適用や診療報酬の問題など行政の対応に依存する部分については,現場の状況を最もよく知る我々が声を発信し理解を求めていくことが必要であると改めて認識した.
  • ~パニック障害の既往を持つ妊婦との妊娠期から施設退院後の関わりを通じて~
    近藤 景子
    セッションID: 1B02
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    〈はじめに〉近年の出産環境は、自宅分娩から、急速に施設分娩へと移行してきた。そのため、出産後の母親は医療施設が決めた時間から、施設退院後は自らの生活時間に戻らなければならない。ただでさえ、女性にとって、妊娠・分娩・産褥は、心理・社会的な側面で大きく変化する時期である。とくに出産後の1ヶ月間は精神的に不安定で、母親にとって危機的な時期であり、母親への支援が最も必要な時期であると考えられるようになってきた。 今回、パニック障害の既往を持ち、未入籍での妊娠、養父の入籍反対、パートナーの転職による不安定な経済的状況といった社会背景により、妊娠中の妊婦自身の育児不安が強く、さらに産褥期にいちばんの支援者となるであろう実母も現病歴にパニック障害をもっており、退院後の家族の支援体制についても不安が感じられ、産後においてパニック障害の増強・育児困難が予測された妊婦と妊娠期~退院後まで関わった。そのなかで、妊娠期から行政と情報交換などの連携を持つことができ、施設助産師として継続支援の必要性について考えることができたので報告する。 〈倫理的配慮〉研究以外の目的で、知り得た個人の情報を公表しないことで了承を得た。 〈事例紹介〉妊婦:20歳、初妊婦。既往歴:2年前にパニック障害と診断。妊娠時には症状は改善され、通院、内服は不必要。家族構成:養父(実母と再婚)、実母、叔父、妹。実母は現病歴にパニック障害を持っている。 〈経過〉妊娠21週頃より、社会背景から育児不安が増強され、妊婦自身が中期人工妊娠中絶を希望するようになったため、産婦人科外来スタッフと行政が連携し、情報交換を行うこととした。その後、当院での分娩を考慮し、病棟スタッフも交えて定期的に開催される「未熟児等連絡会」で情報交換を行った。妊娠25週になり、養父からの入籍の許可があったことやパートナーの仕事も安定してきたことから精神状態も安定してきた。病棟での担当助産師として、妊婦健診時に外来にて実母同席のもと、分娩入院時オリエンテーションを実施した。分娩においては、軽度の混乱状態となる場面もあったが、パニック発作をおこすこともなく順調に進行した。分娩直後にはカンガルーケアを実施、その後の入院期間中は妊婦のバースプランに添い、産褥2日目より母子同室を開始する。産褥6日目の退院後、産褥9日目に電話訪問、産褥14日目に産後訪問をそれぞれ実施した。退院後は実母の状態も落ち着いており、母子の支援は実母が担っていた。児を中心として、家族関係も良好であることが伺えることができた。 〈考察〉今回の妊婦との関わりを通じて、母子の継続支援を行うためには、施設と地域の関係機関との連携が必要不可欠であることを再認識した。当院では行政からの委託を受け、当院で分娩し、希望する市内在住の褥婦と新生児に対して、1ヶ月健診前に産後訪問を実施し、その結果と継続訪問の必要性の有無を行政へ報告している。利用者の妊娠・分娩・早期の産褥経過を知っている施設助産師が、施設退院後も褥婦と新生児に継続的に関わることは、利用者への安心感にも繋がっていると思われる。施設から地域に戻ったばかりの母子が、心身ともに健康な生活を営むことができるよう、各関連機関との連携を持ちながら妊娠期から施設退院後まで継続支援を行っていくことも施設助産師の役割である。地域において、唯一産科を有する施設の助産師として、その役割を果たしていきたいと考える。
  • ~在宅死を望んだ患者の一例~
    小西 智子
    セッションID: 1B03
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 当院は、北海道北部の急性期医療を担う病院である。平均在院日数17日(H18年度)であり、医療処置が継続された状態やADLが低下した状態で退院されるケースが多数ある。その患者家族が安心して退院後の療養生活を送ることができるよう、地域医療連携室・医療福祉相談室・外来保健指導室が退院支援チームを結成し、病棟と連携して退院支援にあたっている。その退院支援の際には、地域の在宅サービス機関・福祉施設・医療施設等との連携が必須で、その調整には関係機関・関係職種等を交えての共同カンファレンスが重要となる。今回、ターミナル期にある患者が、在宅死を希望されその意向に沿うために市内の在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションとの共同カンファレンスを実施し患者の希望の最期が迎えられた事例を経験した。その事例を通して共同カンファレンスの重要性、退院支援チームの役割を再考したので報告する。 <事例> 【ケース背景】62歳 女性 膵臓癌・肝内胆管癌にて動注療法を施行。市内在住。住職の妻、寺の僧侶夫婦2組と同居、7人暮らし。ADLは自立。入院日H18.9.21、退院日H18.12.20、介入期間 H18.12.5-H18.12.19。 【介入依頼】「在宅死を希望しており訪問看護等の導入が必要」と病棟看護師から依頼があり、ターミナル期で状態が不安定なことと訪問看護ステーションとの連携があることで外来保健指導室保健師が担当とした。 【初回面接】介入依頼即日、病棟看護師と治療方針・今後の医療処置等の確認をし、外来保健指導室保健師(退院支援担当者)がケースとの面接を開始。患者の実母が癌で自然死を希望し自宅で看取った経緯もあり、強い在宅死の意向を表出された。また、葬儀・死装束・遺影なども自分の意向が反映されるようなものにしたいと既に夫と話し合い済みであった。 【在宅療養支援診療所と訪問看護ステーションの紹介】 複数ある市内の看取り・訪問診療が可能な在宅療養支援診療所と連携訪問看護ステーションを紹介。今後の看取りのための訪問診療を地域の診療所で行うことができることを説明した。 【共同カンファレンス開催】 ●場所;当院の患者の病室(個室)●参加者;患者本人、患者の夫、在宅療養支援診療所医師、訪問看護ステーション看護師、担当医師、担当看護師、外来保健指導室保健師 ●内容;患者の最期までの療養生活への希望、当院での退院後の治療方針、在宅支援診療所との役割分担 【退院後の経過】 ・退院当日は訪問看護師が訪問し、退院翌日は在宅支援診療所医師が訪問診療した。 ・退院後は、ADLが自立していたためサービスの利用はなし ・2月末、呼吸苦出現しHOT導入、当院通院中止 ・疼痛出現、在宅支援診療所の診療により疼痛コントロール開始 ・3月中旬 患者本人の希望どおり、自宅で家族・同居者に見守られ、読経の中永眠 <考察> 共同カンファレンスを実施したことで、患者家族の意向の共通理解のもとに終末期の療養方針がはっきりし、それに添って急性期病院・在宅支援診療所・訪問看護・外来看護の役割が明確になった。その共同カンファレンスを必要時に召集し、マネジメントする役割が退院を支援する我々退院支援チームにあること、そしてその支援体制を調整しさらに拡大していく役割も担っていることを認識した。
  • 小玉 かおり, 西 悦子, 小西 智子, 坂本 瑠美子, 木下 千尋, 須田 明子
    セッションID: 1B04
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 当院では退院後の療養生活が困難になると予測されるケースのコーディネート機能として、H16年 7月から退院支援を行っている。これは地域医療連携室と外来保健指導室保健師、医療相談室MSWで構成された退院支援チームが院内外との調整を図りながら進めているものである。今回、H18年度の退院支援実績と共に、当院の退院支援システムについてここに報告する。 <H18年度実績> 退院支援件数は139件で前年度比41.8 %の増加だった。平均年齢は75.5歳、年齢構成は「75歳以上」が最も多く82件(59.0%)だが、「40歳以上64歳以下」も28件(20.1%)あった。主疾患別では「がん」が最も多く59件(42.4%)だった。転帰別では、「自宅」が最も多く63件(45.3%)、転院は39件(28.1%)だった。一方で、状態悪化により退院支援を中止又は死亡したケースが23件(16.5%)あった。居住地は、「旭川市内」が98件(70.5%)、上川管内20件(14.4%)、その他の地域が21件(15.1%)で、北海道北部の広域支援につながっていた。ADL別で最も多かったのは「車椅子」60件(43.2%)、「自立」は最も少なく13件(9.4%)だった。意識状態別では「認知症」が35件(25.2%)を占めた。介護保険の新規申請あるいは区分変更が必要だったのは87件(62.6%)で、内訳は「新規申請」が70件(80.5%)、「区分変更」が17件(19.5%)だった。また「新規申請」の全件に居宅介護支援事業者選定の支援を行なっており、ケアマネージャーとの具体的な連携を可能にした。新規で訪問看護を開始したのは34件(24.5%)だった。 <システム> 【退院支援チーム】それぞれの業務と兼務で退院支援活動にあたっている。 【依頼窓口】MSWに一本化している。MSWが基本情報を収集し、毎朝のチームミーティングでメンバーに下ろし担当者を決めている。医療処置があったり状態が不安定だったりするケースは保健師が担当している。 【退院支援担当者】病棟看護師と共同で面談やカンファレンスを行いながら進めている。患者・家族同席のもと、ケアマネージャーやサービス事業者とカンファレンスを開催したり、最近は在宅療養支援診療所との共同カンファレンスを開催したりするケースも出てきた。 【記録・連絡】病棟窓口はチームリーダーであるが、数日で交代があるため入院カルテ(日々の看護記録用紙の次頁)に記録用紙をはさみ経過記録をしている。又、担当者の院内PHSを使用し随時連絡が取れるようにしており、院外関係者からの連絡もスムーズに行なえている。退院前に退院支援連絡用紙を作成し、関係機関へ早目に情報提供をしている。 【チーム活動】チームミーティングでは、各ケースの報告や意見交換の他、院内の問題点への対策などを話し合っている。その他、退院支援の周知活動や地域連携を視野に入れた療養生活サポート活動などを行っている。 <まとめ> 退院支援を進める中で、病棟看護師と共同で進めることにより入院早期から在宅復帰を目指した看護展開につながり、支援内容がより充実したものになると感じた。現在では病棟と退院支援担当者の役割について相互理解が深まり、効率よい支援が出来るようになってきている。 表1 40未満 40~64 65~74 75以上 合計 0 28 29 82 139 0.0% 20.1% 20.9% 59.0% 100% 表2 がん 骨折 COPD 消化管 DM その他 合計 59 17 11 6 4 42 139 41.3% 12.2% 7.9% 4.3% 2.9% 30.2% 100% 表3 自宅 転院 施設 死亡等 合計 63 39 14 23 139 45.3% 28.1% 10.1% 16.5% 100% 表4 市内 上川管内 その他 合計 98 20 21 139 70.5% 14.4% 15.1% 100% 表5 寝たきり 車椅子 室内 自立 合計 26 60 40 13 139 18.7% 43.2% 28.8% 9.4% 100% 表6 なし 認知症 意識障害 知的障害 合計 97 35 5 2 139 69.8% 25.2% 3.6% 1.4% 100% 表7 新規 区分変更 合計 70 17 87 80.5% 19.5% 100%
  • 田村 佳代子
    セッションID: 1B05
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉日本看護協会によると病院における離職率は12.1%、新人看護師では9.3%という結果が出されている。当院の平成17年度の離職率は6.4%、新人看護師では20%であり、その理由は自信がないであった。そこで自信を持って働くためには、自己目標を持つことが重要と考え、平成18年度より人間関係作りの中で自ら目標を見つけることを目的に新カリキュラムを取り入れ、卒後教育の再構築を試みた。その結果、離職防止に対する卒後教育において示唆を得たので報告する。
    振り返り研修企画内容
    目的 入職後の自分を振り返り、自分の思いや考えを相手に伝え、相手の思いを聞く場の中で自ら目標を見出すことができる。
    期日 年3回 4月 6月 12月に実施
    方法 勤務時間内の1時間とし、ケーキとお茶を準備する。担当師長は開始時と発表時のみ同席する。形式はグループワークでテーマは「無題」とし、新人同士が自由に話し合う。
    〈結果〉発表内容は1回目は技術面や先輩、患者とのコミュニケーションへの不安、2回目は未経験なものへの不安や身体的疲労感やストレス、3回目は医師との応対、記録やカンファレンスへの不安などであった。アンケート結果は1~3回目とも自分の思いを話せたかは十分話せた、まあまあ話せたを合わせ88~100%、他の人の話を聞けたかは十分聞けた、まあまあ聞けたを合わせ100%、収穫があったかは十分あった、あったを合わせ100%、明日の目標が見えたかは全員が見えたと答えている。感想は自分の思いを話し、他の人の話を聞くことで自分だけではない、明日から頑張ろう、ほっとした、慰めあい、笑いあって明日からのやる気になったなどであったた。
    〈考察〉近年医療現場では業務の高密度化と看護の専門性が問われるようになり、看護師は様々なストレスにさらされている。発表内容からも新人が力量不足と職場の対人関係などに関する多くのストレスをかかえていることがわかる。新人はストレスを他の人に話すことができず孤立化し、自分の中だけで戸惑い自信をなくしていく。そこで自信を持って看護にあたれるよう、教えるのではなく何が必要かを自ら気付かせることで精神面へのフォローができるのではないかと考え研修を企画した。講師をたてず、課題を設定せず、ケーキとお茶を用意した非日常的空間の中でただただ話し合うという場で自己の目標を見出すことができたのは、1回目、2回目と回を重ねるごとに顔見知りから仲間意識が芽生え、十分に自分の思いを話し、相手の話をきくことで、自分には何が必要かを考え気付くことができたためと考える。平成18年度の新人の意識調査では、継続勤務を希望するかでは、希望するが平成17年度の22%に比べ45%と増加しており、離職防止に効果があったといえる。         
  • 近藤 陽子
    セッションID: 1B06
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    [はじめに]当院外来処置室は中央化されており、全科の静脈・筋肉注射、採血、検査説明、各種処置が集中し、外来において最も手洗いを必要とする場である。しかし、当院処置室の手洗い状況の観察をしたところ、実施されていないのが現状であった。院内感染防止と手洗いの重要性は広く認識され、CDCガイドラインも作成されている。藤井1)は「医療従事者で手洗いの重要性を知らない人はいないはずなのに、世界的傾向として手洗いのコンプライアンスは低い」と述べている。手洗いは、感染防止の為の重要な要素であることを認識すると共に、手洗いのコンプライアンスを阻害する要因を探るため、アンケート調査を実施し分析したのでここに報告する。 [方法]当院外来看護師30名を対象                      1.手洗いについてのアンケート調査 2.デイルの学習ピラミッドとアンケート結 果を基に勉強会 3.勉強会後のアンケート調査 [結果・考察]手洗いの必要性はアンケートに 答えた全員が理解していると答えているのに、勉強会前後での手洗いの回数は2回から5回が一番多く、増えていない。手洗い方法も明らかな手指の汚染がない時は、アルコールが菌を減少させるなどの理由から、現在の手洗い方法の第一選択は、「速乾性手指消毒剤」であると勉強会のなかで強調した。しかし勉強会後のアンケートの結果も「石鹸+流水」が「速乾性手指消毒剤」を大きく上まわっている。このことは、目に見える汚染のあった時のみに手洗いをする為ではないかと考えられる。デイルの学習ピラミッドによると、人間の記憶できる割合は、読む-10%, 聞く-20% ,見る-30%,デモンストレーション-50%、グループワーク-70%、実際に他人に教える-90%、と示している。そこで私達はグループワークまでを勉強会に取り入れ、そのグループワークの結果出された意見を参考に、処置台の上に手洗いの標語をプレートにして表示してみた。アンケートの結果そのプレートにより意識が高まった、と感じた看護師は25名中15名で60%だった。その中でも、業務が多忙であっても目に留まるので、意識して手洗いできると答えた人もいたし、感染防止の為に手洗いを実施していると答えた人が25名中13名で52%であった。しかし先に述べたように手洗いの勉強会後でも、手洗いの回数は増えていない。  私達は今回、外来看護師に勉強会を行うことにより手洗いへの意識の変化がもたらされ、中央処置室での速乾性手指消毒剤の使用が1処置の一連の流れの中に組み込まれ、回数が増えると予想していた。しかし実際に手洗いの回数が増えていないということは、手洗いの必要性は理解していても行動に反映されていないと言う事だと考えられる。今回のアンケートの結果とグループワークから、感染委員の実施している手洗いトレーニングの実施率は低い。看護師1人に対する患者数の増加は手洗いコンプライアンスを下げる。ミーティング時の声がけや勉強会の開催回数をもっと考慮し、繰り返しの教育の必要性を強く感じた。今後感染委員の基本的考えに沿って啓蒙活動の継続に取り組んで、私たち看護師が感染源にならないよう1処置1手洗いの徹底につとめていきたいと思う。
  • 八田 誠, 田渕 昭彦, 加納 正也, 竹内 直子, 水野 光規, 守屋 佳恵
    セッションID: 1B07
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    麻酔科医の不足は産科、小児科などと並んで深刻な問題となっています。しかし、他科と異なるところは麻酔科の絶対数は増えているのに需要に追いつかないという点です。
    近年麻酔事故の深刻さや、市民の医療に対する関心や知識が高まっていること、病院機能評価受審の広がり、麻酔科業務の拡大など様々な要因が重なっていることなどが需要の増大に影響していると思われます。しかし、麻酔科を目指す人たちも増加しているにもかかわらず、需要の増加率には追いつけず、仕事量は増大し、多くの麻酔科医は疲弊してしまい、ついには離脱してしまう人も出ています。
    業務量の過大については、麻酔科に限らず、勤務医全体に生じている問題です。そして、それらの解決策のひとつとして医師の集約化が提示されています。しかし、大病院への集約化は中小病院の医師不足を招き、このための業務量、当直日数の増加が勤務医離脱の悪循環を生んでいます。そして、これらの病院では麻酔科医の不在が各診療科の負担をさらに助長していると思われます。
    安城更生病院麻酔科においても新研修医制度の影響を受け7名の常勤医が、2004年から2005年にかけ1年足らずのうちに4名に減少してしまいました。これを機会に、医局からの供給のみに頼らず、研修医の中から麻酔科を志望する人たちを募ろうと考えました。そして、2007年5月現在、10名の大所帯となりました。このことは若干の努力と、多くの幸運がもたらした結果であると思われます。これらの要因について考察し、今後の問題点や不安を分析し、将来に備える方策を考えてみます。
    まず、われわれは研修医の指導に力を入れることにしました。指導を補助してくれそうな教育的資材は積極的に購入し、麻酔科学に興味を持つよう誘導しました。見学に来る医学生には技術的な指導が行き届かない面もありますが、これらの資材によって多少補っていたかもしれません。当科専攻を志望するものの中にはその理由として見学時の印象をあげていました。
    幸運な要因の一つに、若手常勤医師たちにより、麻酔科医の常駐する医員室が常に明るい雰囲気に包まれていることがあります。研修医だけでなく、他科の若手医師も麻酔科医員室に集まってきます。
    新しい研修医制度によって非常に厳しい状況を体験させられましたが、今になってみると全員が比較的長期間、麻酔科をローテートすることが幸いしていると考えられます。しかし一方では大学での研修医不足が問題となっています。
    現在当院の麻酔科の現状は比較的恵まれていると自覚しておりますが、大学や周辺施設の状況によっては急転することも懸念されます。当院のみの対策としてではなく長期的展望をもって、マンパワー確保を考えていきたいと思います。
  • 川崎 郷子
    セッションID: 1B08
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉授業時間数の削減、学習内容の簡易化などの「ゆとり教育」を受けた学生が、平成18年度より看護専門学校に入学するようになった。「ゆとり教育」を受けた学生の、学習観、学習形態の好みや家庭学習の状況を把握し、より効果的な教授学習方法を検討する。 〈方法〉 1.用語の定義:学習観 1)とは、学習の仕組みに関して個人が抱いている信念をいい、「意味理解志向(⇔暗記主義)」、「失敗への柔軟性(⇔挫折しやすさ)」、「思考過程重視(⇔結果主義)」、「方略志向(⇔物量主義)」の側面がある。 2.研究方法:平成19年3月、平成18年に入学した看護専門学校1年生59名(A群)に、無記名自記式質問紙調査を行った。平成16年度入学生(B群)の結果2)と比較検討した。 〈結果〉 1.学習観の平均下位尺度得点:「意味理解思考」17.2点、「失敗に対する柔軟性」18.2点、「思考過程の重視」19.8点、「方略志向」20.5点であった。「方略志向」の得点はA群の方が有意に高かった。(B群18.6点) 2.家庭学習の状況:平均学習時間はA群1.58時間、B群(2.28時間)の方が多かった。予習をしている学生はA群19.3%で、B群(36.5%)の方が多かった。 3.授業形態の好み:1)臨地実習が好きな学生は60.7%で、B群(84.0%)の方が多かった。好きな理由は、両群共に「学びが深まった」が多かった。嫌いな理由は、B群は「記録・宿題が多い」24%で多かったが、A群は「緊張・ストレス」が17.2%で多かった。2)技術演習が好きな学生は74.5%で両群に有意差はなかった。好きな理由は、A群は「机上の学習より楽しい」、B群は「実際にしたほうが覚えられる」が多かった。嫌いな理由は、A群「先生によってやり方が違う」「緊張する」「いつも自分だけできない」などの理由が多かった。3)グループ学習が好きな学生は67.9%で両群に有意差はなかった。好きな理由は、両群共に「思考が深まる」が多かった。嫌いな理由は、A群は「協力しない人がいる」が多かった。また、「課題よりメンバーに気を使う」や「集団行動が苦手」などの理由もあった。4)講義が好きな学生は47.4%で両群に有意差はなかった。好きな理由は両群共に「多くのことが学べる」が多かった。嫌いな理由は、両群共に「眠くなる・退屈」が多かった。また、A群では「進みが速くてわからない」も多かった。 〈結論〉「ゆとり教育」で育ってきた学生は、それ以前の学生に比べ、1)「方略志向」の学生が増えた。しかし、家庭学習の時間が短く、予習をしている学生が減った。その為か、「進みが速くてわからない」という理由で講義を嫌う学生が増えた。
    2)実習が嫌いな学生が増えた。また、「対人関係によるストレス」が高いことを臨地実習やグループ学習が嫌いな理由としている学生が増えた。しかし、この傾向と「ゆとり教育」との関連は不明確である。  このような学生には、自己学習の方法を学べるような課題や、3時間くらいの家庭学習の時間を確保できるような課題を提示する必要がある。また、対人関係能力を高められるような教授学習方法を積極的に取り入れていくことが必要である。 引用文献 1)市川伸一編:認知カウンセリングから見た学習方法の相談と指導、ブレーン出版、pp.186-203、1998。 2) 星野薫・川崎郷子:当校学生の学習観と授業形態の好み、新潟県厚生連平成15年看護部研究会収録、pp.15-18、2003。
  • ? 電子カルテ導入後3年を経過して -
    杉浦 正士, 山内 啓嗣
    セッションID: 1B09
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉多くの施設で電子カルテ・オーダリングシステムが導入され、これらを維持管理する部門として医療情報室(以下情報室)が設置されるようになった。病床数203床の中規模施設である当院では、平成15年12月から電子カルテ運用を始め大きなトラブルも無く順調に稼動している。中小施設の情報室は大規模施設とは業務内容も大きく異なっているため、今回は導入後3年間の業務実績に加え中小施設での問題点についても報告する。 (対象期間)平成16年4月から19年3月までの3年間とした。電子カルテ運用当初の混乱期はメーカーSEの常駐など状況が異なっていたため今回の集計対象外とした。 (電子カルテシステム概要)電子カルテ:富士通EGMAIN-EX・HOPE、画像:富士通薬剤科:小西、検査科:東芝、栄養科:大和 *LAN・・院内全体で有線および無線対応可*クライアント:テ゛スクトッフ゜70台 ノート70台 (医療情報室概要) 当院の医療情報室は平成17年10月の設置で、導入検討から設置までの間は電子カルテ開発プロジェクトチームが中心となって対応してきた。情報室スタッフは、専従は無く検査科と医事課の2名の兼務体制で発足した。しかし、兼務とは言え位置付けが確立した事で活動は行い易くなった。 医療情報室業務は、電子カルテ端末のフリーズ対応からマスタ管理・医療情報関連委員会運営まで幅広い範囲である。主要業務の概要を以下に示す。 1)マスタ修正・・部門ごとに担当者を決め、修正用端末にて修正作業を行う。情報室スタッフが定期的にサーバーへのアップとクライアントへの資源配布を実施。 2)各種障害対応・・量的には圧倒的に多い業務で、当院ではメーカー常駐スタッフは居ないため情報室スタッフで全てに初期対応する。必要時は、富士通SE・CEに連絡を取って可能な範囲の対応は行っている。因みに年間の出動回数は、16年度463回・17年度438回・18年度583回と増加傾向を感じている。当初はフリーズが多くあったが、最近ではHDDやメインボードの交換などCE作業の依頼が増加している。 3)医療情報関連要望対応・・当院では「システムに人が合わせる」を基本として電子カルテ導入を実現しており、要望に対しては「システム以外の運用が考えられないか?」の問い掛けから始まる。基本的には情報室において全ての要望に対応して、必要な要望について委員会に諮る手順となっている。 4)電子カルテ運営委員会・・院内医療情報関連の全スタッフに加え富士通SE・愛知県厚生連本部電算課も参加する会議で、要望対応から電子カルテの運用・医療情報計画に至るまで討議を行う。情報室は、協議事項提案・資料作成から議事進行・議事録作成まで受け持っておりかなりの労力を要する。 (まとめ) 医療情報システムは、導入時の費用負担に加えて稼動後の維持管理にも多くの経費が必要であるが、中小施設では十分な維持管理体制を持つ事は非常に困難である。当院においても、情報室スタッフは兼務で一人前の本来業務を持っているため大きな負担となっている。しかし、稼動後3年以上を経過した現時点においても、何とか大きなトラブルも無く運用できており、情報室スタッフを中心にしたマスタ管理・部門システム管理に関わっている多くのスタッフの全面的協力体制によるものと考えている。
  • 望月 剛
    セッションID: 1B10
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    〈はじめに〉 当院は平成15年に地域がん拠点病院(現在の地域がん診療連携拠点病院)に認定された。地域がん診療連携拠点病院は、がん医療の均てん化を目的に二次医療圏に一箇所程度設置され、当院は西三河南部医療圏の拠点病院となっている。がん診療連携拠点病院の認定要件はいくつかあるが、中でも地域のがん罹患率などがん患者実態把握に欠かせない院内がん登録について登録の状況と蓄積されたデータの活用方法について報告する。 〈院内がん登録の目的〉 院内がん登録は、病院を訪れた患者についてがんの診断、治療、予後の情報を集め整理し、集計解析を行う仕組みのことで、がん医療均てん化の評価、一般への情報提供、地域がん登録への情報提供によるがん施策決定の重要な情報源を作ることである。 〈登録方法〉 院内がん登録は、全国統一の標準登録様式に則って登録される。登録体制は、がん登録専任者1名と、兼任者2名の計3名で行われる。登録者は各自国立がんセンターなどで行われる研修に参加し専門知識と登録方法を学んでいる。 〈登録システム・運用方法〉 登録システムは、国立がんセンターから配付されているHos-CanRVer2.1を使用している。当院の院内がん登録は、平成17年10月にがんと確定した患者から開始した。運用方法として、まず登録項目を主治医の担当する項目、病理医が担当する項目、事務がん登録担当者が担当する項目の3つに分けた。次に医師により電子カルテ内の病名登録にがんと確定登録されてから、初回治療が終わっているであろう6ヶ月後を目安に抽出し、各医師に依頼表を渡し、医師が電子カルテ内の登録エリアに入力をする。依頼表の登録対象患者は事務がん登録担当者が監査をして患者を絞りこんでから依頼をしている。依頼表は月に1度配布し2週間後に回収を行っている。回収した依頼表を基に事務がん登録担当者が全ての項目をHos-CanRに登録をする。登録対象件数は、毎月約100~120件程度で、平成19年4月末時点で総登録件数が1300件を超えている。 〈データ活用方法〉 従来は協力事項として医師が指定の用紙に記入し提出していた地域がん登録を院内がん登録のデータから抽出することにより電子データでの提出が可能となり、提出件数が向上した。 又、蓄積されたデータは患者向けに拠点病院として病院のホームページに載せ、臨床指標として活用できる。更に院内がん登録に協力している医師へデータのフィードバックも行っている。 〈まとめ〉 院内がん登録のデータに電子カルテから手術の情報や在院日数の情報を合わせれば「がん」をキーにして様々な統計資料が作成できるので、医療情報の有効活用になる。今後は医師のニーズに合うデータと患者向けのデータを分けて加工し提供できるようにしていきたいと考えている。 〈今後の課題〉 ・予後調査の方法を検討する ・登録漏れについて 病名登録をキーに患者を抽出しているが、病名登録のされていない症例がないか、年間の区切りごとに検証を行う方法を構築する。 ・多重がんの扱い 定義が登録担当者ごとに異ならないように院内での取り決めを明文化する。 ・HosCanR登録項目の活用 わが国に多いがんと当院に多いがんの比較 がん種別の来院経路  がん種別の治療とステージの分析 医療雑誌アンケート回答 など これらが今後の課題として挙げられる
  • 田中 彩, 羽毛田 梢, 宇梶 一樹, 新津 理絵, 須田 茂男, 細井 泰子, 荒井 季彦, 依田 尚美, 西澤 延宏, 夏川 周介
    セッションID: 1B11
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当院の位置する旧南佐久郡および佐久市を含む地域は東信地区と呼ばれているが、この地区には、佐久保健所が管轄する地域がん登録システムがある。地域の医師会が主体となってがん登録委員会が設置されており、当院と佐久市の佐久市立国保浅間総合病院が実務を担当している。旧南佐久郡は厚生労働省の(当院担当)、旧佐久市は文部科学省の(浅間総合病院担当)がんコホート研究対象地域に指定されたことから、この地域にがん登録システムが整備された。 【取り組み】当院はスタート当初の1990年より参画している。地域がん登録では、登録の精度が問題となる。死亡情報で初めて登録された割合(DCN:Death Certificate Notification)が少ない、つまり入院時にすでに登録されている割合が多いほど登録の精度は高くなり、死亡情報から生前の遡及調査ができなかった割合(DCO:Death Certificate Only)が少ないほど登録精度が高くなるとされている。 【結果・考察】佐久地域のがん登録システムのうち、旧南佐久地域のみのデータでは、罹患数が4,056人、うちがん死が1,636人、DCNが6.6%、DCOが2.9%である。国際的な地域がん登録システムへの加入資格は、DCOが10%以下とされており、旧南佐久地域におけるがん登録システムは、規模は小さいが十分に精度が高いと考えられる。旧南佐久地域におけるがんの罹患数と死亡数を臓器別にみると、例えば胃がんと肺がんの罹患数には大きな差があるが、死亡数はほぼ同等であることがわかる。また、肺がんでは、近年、女性を含め罹患数が増加しているが、ヘリカルCT検診車を導入した2001年以降は早期がんの発見が増え、死亡数は減少している。今後も罹患数と死亡数の乖離が続けば、検診の効果といえるのではないかと考えている。また、検診発見群の10年実測生存率は、非検診発見群に比べ有意に良好であることも確認された。 【まとめ】このように、地域がん登録で得られたデータを分析することにより、その地域において、どの種類のがんが予後不良であるかといった、がんの種類による傾向が浮き彫りにされる。今後、地域における包括的ながん医療の戦略を立てるにあたり、地域がん登録の重要性はますます高まると考えられる。また、地域がん登録を導入することで、各施設や地域全体の診療を客観的に評価し、医療の質の向上や標準化も可能となる。さらに、地域がん登録をただ導入するだけでなく、がん登録セミナーなど開催し、実務者のレベルアップを図ることが急務と考えられる。
  • ~患者アンケートから解るインフォームド・コンセント(IC)の重要性~
    青木 篤子, 飯田 友紀, 板倉 紀子, 菊地 幸代, 前田 益孝
    セッションID: 1B12
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】  腎不全に陥った患者は、透析治療法の選択を余儀なくされる。患者自身が納得して自分に合った治療法を選択できるように、血液透析(HD)と腹膜透析(PD)の治療法選択入院による3日間のクリティカルパス(3日パス)を導入している。選択入院が適当であったか、納得して選択しているかなど3日パスの効果を知るためにアンケート調査を行った。その結果、ICの重要性と今後の課題が明らかになったので報告する。 期間:平成18年7月~平成19年4月 対象:透析治療法選択入院患者18名 方法:アンケート調査を実施し、透析治療法選択入院(3日パス)の効果を知る 【結果】 アンケート回収率は100%であった。3日間の入院期間は適当であったかでは、はい13名、いいえ0名、無回答5名であった。選択後そのまま導入になった9名においても、3日パスで選択できた。また、納得して選択できたかでは、選択できた13名、迷いはあるが選択できた5名、選択できない人は0名だった。今回の選択入院を体験してよかったかでは、良かったが10名、まあまあ良かった5名、無回答3名、悪かった人は0名だった。 【考察】  選択入院3日パスを導入し透析治療法の知識を深め、生活スタイルを十分考慮して治療法を選択できたことはよかった。また、半数の患者は選択入院の時期が遅く選択後そのまま導入となったケースもあったが、3日間で自分の治療法を納得して選択できたことは良かった。このことから3日パスは効果があったといえる。また、入院期間に関しては、全患者が3日間で選択できていることや長期入院できない患者もいることから適切であった。しかし、選択したが迷いがある患者では、決定的な選択理由がないために決めかねていることが分かった。治療法選択は将来のQOLに大きく影響するため、退院後のフォローも不可欠であると考えられる。医師や看護師による情報提供、治療中の患者の生の声を聞くことや見学をすることは、治療法を自己決定するために重要な情報源である。3日間という短い期間ではあるが、わかりやすく充分な説明の提供が、ICの視点からも大変重要であると考える。 【まとめ】  透析治療法選択入院3日パスを導入した全患者が治療法を選択できたことは効果があった。治療法を自己決定するうえで、インフォームドコンセントは重要である。スタッフが患者に統一した指導ができるように、さらに学習会などで知識を深める必要がある。
  • 金山 智美, 藤巻 真理子, 江口 和江, 森岡 宣伊
    セッションID: 1B13
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに  当院では1998年より、サマリー形式の看護記録を使用して看護を展開してきました。しかし、この方法では記録内容に重複する部分が多く、記録に要する時間には個々の経験により差がある等、使用に際して問題があります。 日本看護協会では、記録とは必要な看護情報を効率よく利用しやすい形で記録する必要がある。と報告しています。そこで、現在使用している看護記録用紙の問題点を改善するにあたり、クリニカルパスとフォーカスチャ―ティングを取り入れた記録用紙を作成し、使用してみて、その時間短縮という視点から有効性を立証できたので報告いたします。 研究方法 1.研究期間  平成17年12月~平成18年7月 2.研究方法   1)クリニカルパスとフォーカスチャーティング形式を取り入れた新しい手術室看護記録用紙の作成をおこないました。 2)手術室スタッフへのクリニカルパスとフォーカスチャーティングに対する勉強会の開催を行いました。 3)当院手術室における腰椎麻酔下での帝王切開手術があった場合に、その手術の麻酔看護及び記録に携わった手術室看護師(9名)に新しい看護記録用紙を使用してもらい、時間の測定を行い、新旧用紙での時間の比較を行いました。その後 面談方式で自由に述べてもらうアンケートを実施しました。            結果 1.前記録用紙と新記録用紙の記録に費やした時間の比較です。 旧記録用紙695.3±163.6秒 新記録用紙360.8±47.1秒  P値は0.003 2.面談形式でのアンケートの結果は 時間が短縮された・・・71% 観察項目が明確で看護のレベルが統一されている・・・43% 経時的な軸で患者を観ることが出来る・・・43% 病棟への申し送りがしやすくなった・・・43% 考察 以前の使用していた記録用紙で記載に時間が掛かった理由は、看護問題が記録用紙の両面にわたって書かれているために、記載する際に、用紙を何度も裏返すという動作が伴ってしまうことが大きな障害となっていました。加えて、サマリー形式での看護記録であるため、問題発生時の記録の記載が、担当看護師の主観的な判断で記載する場所が異なってしまい、記載内容にも統一感が持てません。手術中においても、1つの処置に関連して問題が連鎖して起こることがあるため、以前の記録用紙では記載内容、記載場所が重複してしまいます。新しい記録用紙では、前述した問題点の解消に焦点をしぼり、書籍を参考にして作成しました。その結果、新しい看護記録用紙では1つの紙面での記載が可能となり、記載項目を具体的にチェックリスト方式にし、文章化する手間を省きました。これらの改善点が記載に掛かる時間の短縮につながったと思われます。しかし、全く新しい用紙での記載に関して、今回事前学習時間が少なかったため、スタッフ各自のクリニカルパスに対する理解度も、解釈も異なったこと。また、フォーカスチャーティングという新しい記載方式に対しての抵抗感を持つスタッフがいたことも事実であり、今後の改善課題です。そして、記録の個別性に対する疑問などもあり、今後の課題としてクリニカルパスのバリアンスコードの作成や、フォーカスチャーティングの勉強会を開き、各自の意志を記録に反映させられるようなフォーマットが必要と考えられます。また、申し送りがしやすく統一性があることが大きな利点であることもわかりました。今回は手術室スタッフのみの意見調査となりましたが、術中に残された看護問題を、病棟での継続看護に生かせるよう、病棟看護師の意見調査も行い、継続看護も視野に入れた記録用紙の作成も今後必要となると思われます。それに伴い、患者様の個別性を生かした看護を記録に反映できるように、術前・術中・術後を1つの時間の枠組みとしたクリニカルパスの検討を踏まえ、現在行っている術前訪問の問題点も統一化し、見直す必要性があると思われます。
  • 酒井 義法, 鎌田 和明, 加納 嘉人, 池辺 佐和子, 伊藤 裕子, 今西 暁, 大木 史郎, 望月 奈穂子, 草野 史彦, 田沢 潤一
    セッションID: 1B14
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
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    大腸癌に対するFOLFOX(5FU, Oxaliplatine, L,eukovoleine)療法は奏効率が高く、標準治療の候補と考えられる。しかし血球減少は高度で減量が必要な症例も多く、末梢神経障害も必発であるなど副作用も強い。反復投与により抹消の血管が荒廃し、血管確保のため静脈ポートの植え込みが必要になる症例も多い。慎重な経過観察と厳重な管理が必要なレジメンと考えられる。クリニカルパスは臨床の現場に導入され、治療の標準化、効率化のための有用な手段となっている。当院で従来使用していた電子クリニカルパス(以下電子パス)は抗癌剤が取り扱えなかったが、平成19年3月から運用を開始した新電子パスでは注射、内服の抗癌剤も一括して取り扱うことが可能となり、レジメンもクリカルパス化することが可能となった。
    そこで我々は、静脈ポートの埋め込みとそれに引き続くFOLFOX療法を一体化した電子パスを作成した。1日目は入院、オリエンテーション、術前検査を行う。2日目は静脈ポートの植え込み。3日目からFOLFOX療法を開始し5日目に抜針して退院するという5日間のパスである。電子パスは看護システムと連動しており、静脈ポート埋め込みや化学療法に伴う観察項目は網羅されている。薬剤の作用、副作用および副作用の支持薬に関しても癌専門薬剤師から患者に説明する時間を設けた。FOLFOX療法の場合原則的に2週毎に投与を反復するが,2回目以降は外来化学療法室で治療を継続する。そこで外来化学療法室担当の看護師から外来での治療に関するオリエンテーションを実施することにした。通院回数を減らすため5FUの持続投与はインフューザーを用いて行うため患者自身による抜針指導も組み込んだ。
     電子パスは各種のオーダーを一括して出すことができ、どのPC端末からも情報にアクセス可能で多職種間での情報共有が容易である。今回導入した電子パスは同時に複数の電子パスの展開が可能であり、また複数のミニパスを複合して1つのパスとして扱うことも可能である。また詳細なバリアンス集計、解析が容易にできる。またパス適用終了時にパスを使用した医師がパスの評価を入力する画面があり,パス改良につながる情報を収集できる。パスの使用状況を確認しながらバリアンスを評価し,問題点があればパスを随時編集改良しながら運用することが可能な優れた機能を有する。当院では来年DPCが導入予定であるが,DPCが適応される疾患に対しては積極的に電子パスを開発して診療の標準化を図り,電子パスを改良しながらより診療効率を高めて行くことが有用と考えられる。
    電子パスは医師、看護師、薬剤師が協力してチーム医療を展開するうえで大変有効なツールであり、化学療法を安全に施行するために有用と考えられる。
  • 高田 美知子, 加藤 涼子, 加藤 朝子, 伊藤 睦子
    セッションID: 1B15
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>当院は脊椎脊髄病専門医のクリニカルフェローの認定施設であり、脊椎疾患の年間オペ件数は約300件である。平成12年度よりクリティカルパス作成に取り組み使用してきたが、指導項目の記載がなく、指導項目・指導方法は看護師個々の判断にまかされている状態であった。脊椎疾患の術後は術直後から患部の安静を保持した生活を送る必要があり、個々の生活習慣により再発の可能性もあるため術前から細やかな指導が必要である。そこで回復過程で必要となる指導項目を抽出し、標準化、各段階に応じアウトカム設定と評価日を設けたパスに改定、さらに、すべての看護師が標準的に指導できるよう指導項目別にパンフレットを作成した。結果統一した指導ができるようになったが、アウトカムに応じた評価が不十分であり、評価方法も看護師個々によって差が生じていた。そのため、指導は行われるものの、患者個々の達成度があいまいとなり患者教育としては不十分な結果となっていた。そこで、今回さらに対応策を組み入れた達成度評価スケールを作成し、パスと連動して使用することで指導の充実が図れたので報告する。 <方法>2006年6月~7月に従来のオーバーヴュー形式のパスからアウトカム志向の指示簿・看護記録一体型のパスに改定し、各アウトカムごとの指導パンフレットを作成した。指導項目は「起き上がり動作」「コルセット・カラー装着方法」「DVT予防指導」「歩行器歩行指導」「シャワー浴指導」「日常生活指導」の6項目とした。2007年1月~3月までの3カ月間のカルテからアウトカムに沿った指導に対する評価ができているか調査。調査結果を基に対応策を組み入れた5段階からなる達成度評価スケールを作成し、パスに盛り込んだ。評価スケール活用後、アウトカムに沿った評価ができるようになり、十分な再指導が行えるようになったのか、カルテより調査し、有効性、効果について検討した。<結果>パスを改定し指導パンフレットを併用したことで、統一した内容で指導することができ、看護師自身も経験年数や力量に関係なく指導が行いやすくなった。しかし各段階における評価状況について調査してみると、指導後の達成度についての評価がほとんど行われておらず、患者の一般状態に対する記述が多く、評価の上再指導が行われていた例は5割も満たなかった。そこで対応策を組み入れた達成度評価スケールを作成し、パスに組み込んだことで、各指導に対する達成度評価が容易となり、評価率及び、患者個々の達成度が把握しやすくなり各スケールに応じた再指導が可能となった。
  • 依田 尚美, 小池 恭子, 飯島 良子, 磯貝 むつ子, 西沢 延宏, 大井 悦弥
    セッションID: 1B16
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    1. はじめに  日本の急性期医療は、一連の診療行為をひとまとめにして支払う包括評価支払い(DPC)への移行が検討され、平成15年から大学病院、特定機能病院に導入された。当院においても検討され、平成18年4月から参加となった。今回導入にあたりクリニカルパス専任看護師の関わりを中心に報告する。 2.DPC導入の経緯  平成10年より急性期入院医療の定額払い方式の調査協力に参加。平成16年度からの導入を目指したが、意思統一が図れず、準備不足のため試行適応は見送られる。DPC委員会の立ち上げにより準備が進められ、平成18年4月からDPC導入病院となる。 3.DPC導入に際しての看護部の活動 1)平成14年よりDPC調査に参加し、入退院時ADL、退院時JCS、喫煙調査の入力を実施。2)クリニカルパスの充実 DPC導入に向け、DPC対応のクリニカルパスに改定を行った。3)外来業務の改善 入院期間の短縮に伴い、外来での入退院のマネジメントが必要となることから業務内容の見直し、術前検査の中央化などの検討を行った。4)看護体系(7:1)導入に向けての準備 看護師確保に向けての検討、リクルート活動を開始した。5)入院病棟においての看護度調査の実施(平成17年 平成18年 年1回) 4.クリニカルパス充実にむけて DPC導入に際しては、クリニカルパスの充実が求められ、DPC導入と同時に専任看護師が配属となった。業務内容として、DPC対応パス作成の支援、改定、外来から入院の説明を患者パスを使用しての説明業務、パスの管理、パスの使用状況の把握、スタッフ教育、連携パスの作成支援などである。 1)DPC対応パスの作成支援 これまで入院後に行っていた術前検査等を外来に移行するにあたり担当医はもとより外来検査部門、外来、病棟との調整役となることによりスムーズな移行が行え、入院期間の短縮をした。2)外来にて入院説明業務 予定入院の患者に対しては、外来の時点から患者用パスを使用して、入院後の治療計画等を詳しく説明することにより、治療内容や日程等を納得し、安心して入院治療を受けていただけるようにしている。また主治医と患者、麻酔科医と主治医、麻酔科医と患者等の橋渡しとしての役割を果たすことで、安全で安心して手術、検査、治療を受けていただくという意味では、患者満足度のアップにつながっている。3)パスの使用状況の把握 平成18年度の使用率は全体で38%であり、今後使用率アップにつながるようパスの見直しをする必要がある。4)連携パスの作成支援 医療圏などの問題から連携パスはなかなか進んでいないのが現状であるが、CPAP導入後の連携パス、分院から使用する幽門側胃切除パスの作成をおこなった。今後も使用範囲を広げると伴に連携パスの作成の必要性を感じる。 5.今後の課題 パス専任看護師としてDPC導入後パスを中心にさまざまな活動を行ってきた。パス専任看護師を置くことで院内のパスの管理や質の向上、各部門との調整などが以前よりスムーズに行えるようになった。しかしコスト意識、エビデンス、標準化といった点においては今後も検討をしていく必要がある。 そしてその先にはまず患者にとって「安全で安心して治療が受けられる」という「患者中心の医療」の心を変えることなく、看護師としてチーム医療を推進していくことが、医療の質の向上に結びついていくと考える。
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