抄録
【はじめに】医療の現場で事故に遭遇した患者は感情的に混乱した状態であり、医療者が医学的立場で主張しても問題が大きくなるばかりである。そこで医療コンフリクトマネジメント技法を用い、ケア的応答によって患者側のニーズや問題を明確にして対応することで感情的混乱を自らの力で克服していった1事例を考察する。
【医療コンフリクトマネジメントとは】 医療の現場で不利益なことが起こった場合、家族は不安や葛藤に襲われパニック状態になることがあるため、医療者側と家族の意見・価値観に相違が生じ、対立する。これらを解決するため、調停者が家族と向き合いながら主張や不安を聞き出すことで現実を正しく理解してもらい、立ち直れるように支援することで悲嘆から回復できるようにする。
事例紹介 患者:90代男性。独居。下痢・嘔吐で入院中に夜間譫妄のため転倒した。その直後の頭部CT撮影に異常はなく、退院後2週間してから脳外科で硬膜外血腫と診断され血腫除去術を行った。既往として経皮的腎瘻造設
クレームの内容 医師から譫妄を「一時的なボケ」と説明されたことや看護師が転倒した際、家族に協力を依頼したことで強い怒りをもった。
【結果】
_丸1_1回目面談(表1参照)
1回目の面談は平行線をたどり、次回に再度面談となった。
_丸2_調停者との話し合い(表2参照)電話や面会時を利用して患者側の思いを受け止めた。医療者には患者の言い分に対して真意を確認した。
_丸3_2回目の面談 家族はこれまでの思いを述べた。「転倒によって、硬膜下血腫が発症したので混乱してしまい、現実を認識できなかった」と素直な思いを述べ、医療者側は転倒によってご家族に不安を与えたことを真摯に受け止めた。調停者から「その当時はどのような状況でしたか」と質問を投げかけることで、当時の状況を看護師から家族に正しく伝えることができた。家族は「父のことをよく覚えてくれてありがとうございました。」と真相を理解する言葉が聴かれた。
【考察】患者の転倒で家族が混乱している時に、医療者が医学的正論を前面に出したことが今回の原因と考える。調停者と応答を重ねていくうちに感情が沈静化し、現実を正しく認識しようという気持ちに変化し、変容が見られたと考える。そのことでお互いの思いが理解でき、納得のいく合意が得られた。
【まとめ】紛争の対応には医療コンフリクトマネジメント手法が有効であるとおもわれる。
表1第1回目の面談 患者の主張:これだけの(転倒後手術)ことをされたので最後まで責任を取ってほしい。
表2 調停者との会話 患者の主張:説明をまだ十分にしてもらっていないのでもう一度説明してほしい。
