日本農村医学会学術総会抄録集
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第57回日本農村医学会学術総会
セッションID: symposium
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シンポジウム 「農村医学とは何か」
公的病院としての厚生連病院の課題
高橋 正彦
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抄録

まず、農業または農村について述べる。農業は、人々の生存に深く関わる食料等を生産する、自然環境を保全する、などの重要な役割を果たし、社会的共通資本として捉えられている。しかし、我が国は、工業を保護するために、農業を市場経済にゆだね、外国からの輸入にまかせてきた。その結果、低い食料自給率、農業存続危機、自然破壊など、国民にとって最大の危機を向かえている。今回の中国食品の問題は、我が国の農業の再生、食料自給率の上昇、自然環境の保護などにとって絶好のチャンス到来と考える。学校保健に関わり驚いたことに、日本の学童は米国の学童に比べて血中コレステロールの平均値が高いということであった。それ以来学校保健会を通して、児童生徒の食育などの小児生活習慣の予防教育をおこなってきた。
次に、地域医療について述べる。厚生省は、「医療費亡国論」を掲げ、1987年に診療報酬と医学部学生定員の抑制を基本とする中間報告を発表し、現在に至っており、医療機関にとっては年々厳しくなっている。診療報酬抑制政策により、赤字の病院、診療科を休止した病院、救急などの指定を取り下げた病院、廃院などが増え、病院医療崩壊、ひいては医療崩壊が進行している。病院医療崩壊の大きな原因の一つに、診療報酬抑制と共に、勤務医の激減が挙げられる。病院勤務では、肉体的・精神的・経済的に満たされず、病院から逃避する若い医師が増えている。さらに、新臨床研修制度が医師不足に拍車をかけた。研修指定病院が乱立し、研修医が大都市に集中した。勤務医の供給源であり、地域医療を支えてきた大学では医局崩壊が起こり、勤務医不足を加速させた。しかし、勤務医不足や救急医療から撤退する病院が激増している一番大きな原因は、医師法第21条により、医療過誤が刑事訴訟として扱われることにある。今年度に、厚生労働省より、「医療安全調査委員会(仮称)」の第三試案が公表された。かなり改善されおり評価すべきであるが、多少の問題点もあるので、検討を要する。全国的な調査によれば、救急患者が救急病院に一極集中化する一方で、医師も救急病院に集中している。そのような病院には患者も増加し、経営成績も堅調であることも事実である。若い医師等にとって魅力ある病院づくりは我々に課せられた課題である。OECDの調査によると、加盟国の中で、我が国は、医師・看護師ともに少ない一方、病床数は極めて多く、小規模の病院が乱立している。医師の集中化の問題と合わせて、病院の統廃合は今後の重要な課題と考える。
最後に、農村医学についてであるが、農村医学は農民が存在する限り不滅であるので、ここでは日本農村医学会について述べる。農民の絶対数が減少し、生活様式も特有のものではなくなり、農民特有の病気も極めて少なくなった。一方、日本農村医学会の会員の90%以上が地域医療の中核を担う厚生連病院の職員であり、農村医学に興味をもつ人は非常に少ない。医師のなかには先端の臨床研究をおこなっている人も少なからずいる。厚生連病院は教育病院でもあるので、医師を日本農村医学会に閉じ込めてはならないし、大学や他の医療機関にも通用する学徒を育てねばならない。「日本農村医学会」のを「全国厚生連病院学会」に改め、農村医学はその特別部会として継続してはどうであろうか。

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© 2008 一般社団法人 日本農村医学会
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