日本農村医学会学術総会抄録集
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第57回日本農村医学会学術総会
セッションID: 1J133
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一般講演
前立腺肥大症および過活動膀胱安定期患者の地域への逆紹介
-病院と診療所の機能分担と連携-
井坂 茂夫湯浅 譲治大貫 新太郎志潟 紀子内田 栄美吉村 南
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抄録

〈緒言〉本邦における医療の質の向上と効率化の両面を実現するために、病院と診療所の機能分化と連携は必須の課題である。病院が入院機能を特徴として重症と救急の患者に特化し、診療所は軽症と慢性期患者を主たる対象とするのが基本戦略である。われわれの施設では地域の泌尿器科開業医が少ないため、前立腺肥大症や過活動膀胱で当院を初診し、治療により安定しても長期に外来通院することが常態となっていた。慢性期外来患者の増加により新患、救急患者をじっくり診察する余裕が失われてきたことが実感されたので、これらの患者を地域開業医に紹介することとし、泌尿器科と医療相談課が協力して逆紹介を実現したので、その過程と成果を報告する。
〈対象と方法〉対象患者は前立腺肥大症または過活動膀胱で薬物治療により症状の安定した患者。逆紹介の準備として平成19年10月地域医療機関(内科、外科、泌尿器科開業医)へ以下の内容のアンケート調査を行った。_丸1_患者受け入れが可能かどうか。_丸2_処方可能な薬はどれか。_丸3_見込まれる通院頻度はどの程度か。返信結果に基づき対応可能医療機関の一覧表及びプロット地図を作製した。平成20年1月対象となる患者に、慢性期通院は他院を紹介する旨の通知を院内掲示し、個々の患者には担当医から直接事情説明を行った。了承の得られた患者から順次地元の医療機関を紹介した。紹介状には、病状の悪化があった場合救急を含め必ず対応する旨明記した。
〈結果〉開業医アンケートは101件に発送し49件(48.5%)の回答を得た。内容は対応可能43件、現在は困難1件、今後とも不可能5件であった。対応可能な43件のうち処方内容に制約なしが25件(58.1%)であった。通院頻度はすべての施設で2週に一度または月1回との回答であった。逆紹介を納得し、施設を選び、場合によって薬を変更して効果を確認し、地元のかかりつけ医に紹介できたのは平成20年4月時点で28人であった。対象となる病状でありながら逆紹介が困難な事例の理由のほとんどは、院内他科受診の事情であった。内科その他の科が日頃からかかりつけであり、開業のかかりつけ医を持っていない患者にとって、逆紹介を受け入れてもらえなかった。逆紹介に要した担当医の労力としては、事情説明と紹介先探しに20分程度、紹介状作成に10分程度であり、1例30分程度の手間を要した。再来慢性期患者の減少により、新患患者を余裕を持って診察することができるようになってきた。
〈考察〉地域医療連携の中で病院に通院する慢性期外来患者を診療所に紹介していくことは、病院勤務医の負担を軽減しやりがいを高めることの意義が大きい。診療所にとっては専門分野外でも受け入れることでかかりつけ医としての機能が向上し収益の増加につながる。病院好みの患者にとっては自由な選択を許されなくなる不利があるが、日頃から身近なかかりつけ医に些細なことでも相談でき、重要な問題が発生した場合は病院への優先的紹介が得られるという利点がある。逆紹介の過程で発生する一時的な医師の作業量の増加に対しては、コメデイカルの積極的な支援がこれを軽減できる。病院経営者は外来収入の減少を恐れることなく、本来機能の発揮と医師のやりがいの向上のために慢性期外来患者を診療所に移すべきと考えられた。

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© 2008 一般社団法人 日本農村医学会
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