日本農村医学会学術総会抄録集
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第57回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2F237
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一般講演
農村部における高次脳機能障害者支援ネットワークの構築に向けた現状と課題
成沢 斉深町 泰子岡田 美咲
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抄録

〈緒言〉
 『高次脳機能障害』とは、病気や事故などにより脳が損傷され、言語・記憶・注意・行為・感情・思考など、脳の高次元の機能に障害が起きた状態である。平成13年度より、国としても12の都道府県及び指定都市にて支援普及モデル事業を行い、高次脳機能障害の診断基準・標準的訓練方法・支援方法などを作成し提示してきた。これらの取り組みを始めたことにより、この障害は社会に浸透しつつある。また、国としては各地域においてネットワークを構築することを推奨している。
 長野県における支援の現状としては、国のモデル事業には選ばれなかったが、平成16年度より県内を4つの圏域に分類して、各圏域に高次脳機能障害の拠点病院を設けた。そして、ゼロ予算にて拠点病院ごとに独自の支援を行わせてきた。
 当院は、長野県の東信圏域の拠点病院として支援を担当している。また、当院のある地域は農業従事者も多く生活している。農村地域では、社会資源の不足などから国が標準的に想定している都市部における支援と同様な支援を行うことが困難である。そのため、当院では農村地域における独自の支援ネットワーク構築を目指して取り組みを行っている。
〈方法〉
 都市部と違い農村部において不足している社会資源とは、社会復帰訓練施設等の物理的資源と、そこで行われる支援のノウハウ。また、この障害の特徴として高次元の脳機能が障害されているために車の運転が出来なくなることが多い。社会参加のためには移動手段の確保は最低条件である。都市部においては公共交通機関網が発達しているためこの状況をカバーできるが、農村地域では車の運転が出来なくなると社会参加の機会が著しく制限されてしまう。農村部では生活上の社会基盤が都市部と比べて著しく不足している。物理的資源の不足を補うために、既存の施設や他障害者施策や保健師などのマンパワーを積極的に活用した。
 その基盤づくりとして、平成16年から4年間に亘り広報・普及活動のターゲットを明確にして徹底した関係者研修・講演会を年に数回開催してきた。ターゲットとしては、関わりながらも未だ理解を得られていない医療・福祉関係者。支援を進めるにあたり是非とも理解を得ておきたい行政職員。障害の当事者及び家族。地域の保健・福祉事情に精通している保健師。これらの人たちをターゲットとしてきた。また、当院の病院際で高次脳機能障害を取り上げるなどして、地域の方々にも高次脳機能障害者を理解してもらうように普及活動を行った。その他にも、個別の症例を通じてハローワーク・交通安全センター・学校・他の障害者ネットワークなどと連携をおこなう中で、普及活動を行いつつ資源の発掘や活用を行ってきた。
〈結果〉
 以上の取り組みにより少なくとも医療・保健・福祉関係者の中での認知度は上がってきた。実際、地域からの相談件数もここ数年で増加してきた。しかし、『高次脳機能障害』という用語は確実に浸透しつつあるが、その支援に対しての周囲の理解は未だに低い。
   今後の課題としては、物理的資源は既存の施設や施策の活用で少なからずカバーできるが、生活上の社会基盤の不足を補う方法が未だ見出せていない。また、当事者団体の整備も課題である。今後、当事者参加の中でより多くの立場の人を含めた高次脳機能障害支援ネットワーク構築が必要となる。そして、農村部でも高次脳機能障害者に住みやすい地域にするよう提言していかなければならない。

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© 2008 一般社団法人 日本農村医学会
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