日本農村医学会学術総会抄録集
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第57回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2J276
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一般講演
持参薬に関する当院の取り組み
百瀬 羽津子倉林 誠車塚 千穂上村 怜奈後藤 美幸佐藤 弘康佐藤 公人田村 広志下山 光一
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抄録

緒言
近年、入院患者の持参薬の取扱いはリスクマネジメント、薬剤の有効活用などの面から重要な課題である。薬剤師が入院時に持参薬の識別を行うことは誤薬の防止、相互作用回避などの点でリスクマネジメントの向上につながると考えられる。
従来、当院では薬剤師の人員不足並びに持参薬に関する業務手順の未確立から、看護師主導で識別業務が行われていた。実際、入院患者の多くは複数の診療科及び複数の医療機関の薬剤を服用しており、ジェネリック医薬品の普及もあり、識別業務は複雑さを増してきていた。このことが識別業務の主体であった看護師の負担増加になり、その結果、医療安全上の弊害となっていた。当院では平成19年初めより、持参薬に関わる問題解決のために医療安全推進委員会において小委員会を設置し、持参薬に関する院内統一ルールの作成、運用に向け活動を始め、同年8月から運用を開始した。 現在の持参薬に関する当院薬剤科の業務実態を調査した結果と、薬剤師が関与することによる成果について報告する。
方法
調査期間中に持参薬識別を依頼された全件を対象として「持参薬識別業務 実態調査票」を記入した。主な記入内容は以下の通りである。
「内容情報」・・・識別総剤数、処方元情報、添付情報の有無、外部への照会の有無など。
「処理情報」・・・受理時刻、識別開始時刻、識別完了時刻、識別者など。
「リスクマネジメント貢献情報」・・・識別業務により発覚した問題点を具体的に記入。
調査期間は平成19年8月~平成20年3月である。ただし、「リスクマネジメント貢献情報」の記入は平成19年11月からである。
結果
持参薬識別業務開始前は識別依頼が月平均5.3件であったが開始後は月平均80.5件となり、依頼日、依頼病棟に偏りがみられた。識別所要時間は1件あたり約30分であったが、実際には1分から2時間を超えるものまで様々であり、剤数や添付情報の有無などにより差がみられた。1件あたりの識別剤数は平均7.6剤であった。また、73.8%が持参薬に対する何らかの情報が記載された紙を持参していたが、10.7%に外部施設へ照会する必要が生じた。入院時持参薬を薬剤師が識別することによる成果として、持参薬識別実態調査票の「リスクマネジメント貢献情報」には36件(全識別依頼件数の約9%)の記載があり、そのうちの11件について日本病院薬剤師会にプレアボイド報告を行った。
考察
入院時持参薬識別業務の有用性を判断する指標としてリスク回避事例が挙げられる。当院でも実際に様々なリスク回避がなされ、一応の成果をあげられていると考えられる。 長期投与原則解禁並びにジェネリック医薬品導入促進などの医療環境の変化によって、入院時持参薬は以前に比べて多種多様となっている。専門職である薬剤師の持参薬識別は相互作用や重複投与の回避、持参薬の服用終了予定日提示による服薬中断の回避などチーム医療としての質を高めるとともに持参薬の有効活用にもつながっていくものと推察される。

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© 2008 一般社団法人 日本農村医学会
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