日本農村医学会学術総会抄録集
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第57回日本農村医学会学術総会
セッションID: workshop7-4
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ワークショップ7
これまでの枠組みにとらわれず新たな発展を
角田  直枝
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抄録

〈緒言〉訪問看護ステーション(以下、ステーション)は現在約5500箇所であるが、この数年の増加は年間わずか200箇所程度に留まっている。一方、在宅療養者数は増え、健康問題の重度化、生活上の課題の複雑化が指摘されている。本来ならば訪問看護の利用者が増加しても良いところであるが、利用者の伸びは訪問介護利用者と比べて著しく低い。この結果、増加する訪問看護ニーズにサービス提供量が追いつかなくなってきている。このような状況の背景にあるものは訪問看護師不足につきる。とは言え看護師全体が不足している現在、この問題にどう立ち向かうか、今後の訪問看護はどうあるべきなのかを、これまでの実態にとらわれずに考えてみたい。
<これまでの訪問看護>訪問看護は平成3年度にステーションが設置されてから15年以上、その実施形態は大きな変化をとげなかった。平均の従業員数、利用者数は微増の傾向にあるがほとんど変わっていない。対象となる疾患も脳血管障害を主とする循環器系疾患であり、がん末期は1割以下に留まり、精神疾患・小児は共に5%以下という比率になっている。ステーションの経営収支も赤字が3割にもなり、平成18年診療報酬改定では病院勤務者増を図るため、病院併設のステーションのいくつかが休止となったと聞くが、もしそのステーションが赤字であれば病院管理者から考えれば当然の判断だと言えるだろう。看護師が経営権を初めて持ったステーションではあるが、その15年の歴史は私達訪問看護師を変えたとはいい難い。
<新しい訪問看護>しかし、平成17年前後から訪問看護には新たな動きがいくつか見られた。第一に訪問看護認定看護師の誕生である。日本看護協会が約20年前に制度化した認定看護師制度であるが、現在病院内では緩和ケアチームなどで活躍し診療報酬にも考慮されてきた。現在では、認定看護師は看護学生にも身近なモデルとして認知されている。中堅看護師にとってもキャリアアップの目標に位置づけられてきた。このような認定看護師が訪問看護に誕生したことは、質の向上はもちろん、現任者の継続意欲の向上や新たな人材確保の道を開くものと考える。第二に、療養通所介護の創設である。これは平成18年介護報酬改定で制度化され、平成20年4月現在50箇所余りと決して開設の動きが活発とは言えない。しかし、19年度調査によると介護保険利用者以外にも、超重症児や成人期の重度障害者も利用し、ここへの通所により入院が回避できたという声もあった。ステーション側からこの事業をみると、現在では収益性が低く看護師不足を助長するという意見もあるが、現状だけで判断してはならない。療養通所介護は街角にある看護のモデルルームと考えてはどうだろうか。病院勤務が長い看護師でも適応しやすく、訪問看護で課題であった新卒教育の場にも応用できる。収益性が低い問題は、利用者とその関係者が我々と共に、このサービスが必要だからと声をあげて解決を図りたい。第三は大規模化である。大規模化により、サテライト設置や専門特化チーム作りが可能になる。そして就労環境も改善し看護師の定着に寄与するに違いない。
<結論>これからの訪問看護は認定看護師等をリーダーとして質向上を図ると共に、療養通所介護を活用しながら利用者層を拡大し、しかも新卒者の雇用・育成ができる職場として発展したい。国民の期待に応える訪問看護になるには、看護師確保の新たな試みにも挑戦し、これまでの枠組みから一歩出た発展が必要となるだろう。

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© 2008 一般社団法人 日本農村医学会
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