日本農村医学会学術総会抄録集
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第58回日本農村医学会学術総会
セッションID: S2-1
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地域医療の課題解決に向けて
古川 俊治
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抄録

「医療崩壊」と呼ばれる現象は,(1)国民医療費の在り
方,(2)医師数の適正化,(3)勤務医の報酬の在り方,(4)医療
紛争処理の在り方,(5)臨床研修医制度の在り方,(5)専門医
制度の意義,(7)職域団体(医師会,学会等)の役割などの
多様な問題点が複合的に関連した結果として起こったもの
である。その解決に向けた議論では,それぞれの問題点へ
の政策的対応が他の問題点の前提に少なからぬ影響を与え
ることを考慮し,各種の問題点を総合的に扱う必要がある。

諸問題のうち,医療紛争処理の問題については,医療事
故調査委員会制度を早急に制度化しなければならない。臨
床研修医制度については,大学病院との連携等に関する運
用の弾力性を高める改正を行ったが,根本的な制度の検証
を早急に進めることが必要であろう。
ただ,中でも,最も重要な問題は,医療費の問題であ
る。現在の先進国で世界最低レベルの医療費の水準を,先
進諸国並み(対GDP で現在の1.5倍程度)の水準に引き
上げる必要性は,既に与野党の一致した認識となってい
る。その実現のためには,安定財源の確保が必要であり,
早期に消費税を含めた税制の抜本改正を行うことが不可欠
であろう。

一方,医師の養成数増加の問題は,慎重に対応するべき
である。既に2009年度から医学部の入学定員は10%程度増
加している。今後人口減少社会を迎える日本では,徐々に
医療需要は減少していき,2020年代半ば以後は医師過剰に
転ずると試算されている。また,今後医学部入学定員を増
やしても,卒前・卒後の教育期間が必要であり2030年頃ま
では,地域医療で活躍できる医師の実質数は増えてこな
い。すなわち,医学部の更なる定員増加は得策ではなく,
必要なのは,現在から2020年代半ばまでの医療スタッフの
マンパワー不足をどうやって補っていくかの問題である。
それには,医療秘書を増員したり,一定の研修を経た看護
師等に,安全性の確保できる範囲で,より積極的な診療行
為の補助を認めたりするスキルミックスが必要であろう。
同時に,女性医師の就業支援も重要であり,女性医師が,
出産・育児を経ても臨床業務を続けられるよう,多様な働
き方を可能とする制度改革を行っていく必要がある。
また,仮に今後医師数が充足していっても,労働環境が
厳しくて報酬が少ない診療科の医師増には繋がらない。第
一の改善策として,基幹病院の勤務医が一般外来患者の対
応に忙殺される現状を合理化し,軽症患者は救急患者も含
めて診療所等の中小医療機関が対応していく役割分担体制
の構築が必要である。

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© 2009 一般社団法人 日本農村医学会
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