日本農村医学会学術総会抄録集
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第58回日本農村医学会学術総会
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我が国の高齢化と運動器疾患
戸山 芳昭
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抄録

我が国は,豊かさとともに世界一の長寿を享受できる国となった一方で,都市化,核家
族化,少子高齢化等の社会的背景が表面化し,中高年齢層では生活習慣病の増加,要支
援・要介護者の増大等の課題にも直面している。国民はQOL の向上,豊かな老後を強く
求めているが,同時に,特に高齢者では自分の健康について不安や多くの問題を抱えてい
るのが現状である。
この高齢化社会の現状と将来の人口推移推計を見てみると,現在の日本の総人口は約1
億2,700万人強,高齢者(65歳以上)比率は22%強と世界一の高齢化社会となっている。
75歳以上も約10%強であり,この比率も多分世界一であろう。反対に15歳以下の小児比率
は13%程であり,まさに少子高齢化の最たる国となっている。そして,2005年時の調査に
よれば一人暮らしの高齢者は405万人と報告されており,近い将来高齢者は3,300万人を
越え,その比率は25%になると予想されている。さらに,2050年頃までには高齢者比率は
何と40%程度にまで上昇すると推計されている。つまり高齢化ではなく,超高齢社会が直
ぐそこまで来ているのが我が国の将来像である。当然,特に高齢者では誰でも健康な状態
で老後を過ごしたいという強い願望がある。
このため国は今後の方向性として,単なる長寿ではなく国民一人ひとりが生涯にわたって
元気で活動的に生活できる「明るい活力ある社会」の構築を目指している。そのためには国民
の健康寿命を伸ばすことが基本戦略となる。
その柱として国は,「生活習慣病対策の推進」と「介護予防の推進」を基本政策とし
て展開する方針を打ち出した。この方針,つまり“生涯にわたって元気で活動的に生活で
きる社会”を構築し,その目標を達成するためには運動器(骨や関節,脊椎,神経など)
疾患への対応とその予防が不可欠となっている。癌や生活習慣病である糖尿病,高血圧,
心疾患等が何とか目標とする改善値まで到達できたとしても,運動器が障害されていれば
元気で活動的な生活が送れない状態にあると言っても過言ではない。また,癌に対しては
運動療法等の効果はないが,心疾患や高血圧,糖尿病,メタボリックシンドロームなど
の生活習慣病には大きな効果をもたらすことも周知の事実である。つまり,高齢社会が進
む我が国において,要支援・要介護者や生活習慣病を減少させるためには骨粗鬆症の予防
や運動器の機能,特に下肢機能を維持させることが重要であり,各論では罹患率の高い腰
痛・膝痛や骨折等への対応が急務である。そこで,国民の健康寿命延伸に向けた健康作り
政策として2000年から「健康日本21」,2004年から「健康フロンテイア戦略」,2007年か
らは「新健康フロンテイア戦略」が行政主導でスタートした。この「新健康フロンテイア
戦略」では「介護予防」なる項目の中に運動器疾患対策が重要課題として取り上げられて
いる。
本講演では高齢化が抱える健康問題,特にその問題点の一つとして重要視されてきた運
動器疾患を取り上げ,その病態から診断と治療までを最新知見を含めて概説する。

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© 2009 一般社団法人 日本農村医学会
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