抄録
【はじめに】認知症は、脳の気質的な要因により記憶、判断、思考の知的機能に支障をきたし、社会性が営めなくなった状態をいい、その認知症の維持、改善、予防のひとつに学習療法がある。学習療法とは「音読を中心とする教材を用いた学習を学習者と支援者がコミュニケーションを取りながら行うことにより、学習者の認知機能やコミュニケーション機能、身辺自立機能などの前頭前野機能の維持・改善を図るものである。」といわれている。今回学習療法を実施し認知機能、コミュニケーション機能、身辺自立機能の改善がみられたので報告する。【方法】入院患者3名に週3回簡単な読み書き、1桁の計算、数字並べの学習療法を実施した。学習療法実施前、3ヵ月後、6ヵ月後、9ヶ月後、1年後に前頭葉機能検査(FAB)、全般的認知機能検査(MMSE)、老年者用精神状態尺度(NMスケール)、老年者用日常生活動作能力尺度(N-ADL)を用いて評価した。学習療法で使用した問題シートは、FABとMMSEの検査結果に合わせ、患者が必ず100点を取れる内容を実施した。【結果】学習療法実施後、3名全員にFAB、MMSE、NMスケールの点数が上昇し、前頭葉機能、認知機能に改善がみられた。特にNMスケールにおいては、関心・意欲・交流に関しての点数が大きく上昇し、患者自ら他の患者、職員に話しかけ笑顔が多くみられるようになった。N-ADLは、1名に摂食、排泄の点数上昇がみられ、排泄はほぼ自立するまでになった。他の2名は変化なかったが、ADLの維持には繋がった。その後A氏は施設に入所したが、A氏と家族は学習療法を継続したいという希望があり、現在も訪問看護師が介入し学習療法を継続している。