高齢者の疾患を診療する際は,認知症の問題が入院中,
外来を問わず対応に注意を要する場合が少なくない。今回
は医師の視点からの問題点を取り上げ,対応への注意点や
工夫について述べたい。
わが国の認知症患者はごく軽度のものを入れると約200
万人といわれているが最近ではこれらの認知症も早期発
見・早期診断が重視されるようになってきている。早期に
発見し早期に介入することにより患者やその介護者の
QOL を高めることが重要であるという考え方が優勢に
なってきているからである。さらに一歩進めて予防ができ
ればもっとよいことはいうまでもない。
われわれの職務領域(外科)では手術を予定する高齢者
が患者となることが多く,年齢的に当初より認知症を診
断・治療されている例もまれではない。体力的に比較的余
裕のある,より年齢層の低い患者層でも,悪性疾患など高
度の肉体的・精神的ストレスのかかる環境におかれた場合
はせん妄症状が起こりうる。
手術等に伴うせん妄は肉体的ストレスの軽快により時間
とともに回復することも多いが,その奥には認知症の早期
症状がかくれていることも少なくなく,その鑑別は困難である。
認知症の中核症状である認知機能の障害への対応はもち
ろん重要であるが,実際の医療や介護の現場ではそれより
も周辺症状といわれる,いわゆるBPSD(behavioral and
psychological symptoms of dementia)への対応に苦慮
し,それらが患者や介護者のQOL を障害していることが多い。
他疾患治療を契機に認知およびその周辺症状が発現,増
悪する可能性を減らすことがこれからの課題であり,それ
らの解決策について討議していきたい。