<初めに>
脳卒中再発を繰り返し抑うつ状態となっていた高齢患者から、作業療法場面での同年代患者との交流により良い反応が得られた症例を経験したので報告する。
<症例>
89歳男性。脳梗塞(第1期)にて入院中に脳梗塞再発(第2期)。その後さらに出血性脳梗塞発症(第3期)。運動機能は問題なくADL自立レベルだが視覚症状(同名性半盲)が再発のたびに悪化。性格は社交的でまじめ。
<方法>
リハビリスタッフ、看護師のカルテ記事から症例の内面に関係すると判断される記事を抜き出しまとめた。
<経過>
第1期:視覚症状に強い不安を訴えるが、症状が安定し人や場になじむ中で活動性が向上し落ち着きを取り戻す。第2期:「なにもする気が起きない」「死んだほうがいい」と強い不安と絶望感を訴える。作業療法で集団活動(80~90代脳血管障害患者と風船バレー等の活動)を導入。躍動的な表情が見られ活動を楽しむ。活動後の談話で「あんたもか!」と互いの病気について知る。職員の励ましの言葉に“症状へ理解がない”と怒っていたが、患者からの励ましの言葉に嬉しそうにする。第3期:ふたたび落ち込みは見られるが他患者と訪室すると不安を訴えつつも互いの健康をいたわりあう言葉が聞かれ、笑顔も見られる。再び導入した集団活動も積極的に参加。第2期に比べ不安の表出は軽度で期間も短く、早期に活動性や意欲の向上が見られた。
<考察>
症例は再発を繰り返す中で障害や老いへの不安が強くあったが、同年で同じ病を患い入院生活を送る“仲間”と出会えたことで、若いスタッフとの間では得られなかった共感や安心感が得られた。また集団活動を通して楽しみや役割を得ることができた。結果、再発による不安や活動性の低下などを軽減できたものと思われる。高齢患者の治療において、このような人・場・集団を治療的に活用することの重要性が示唆された。