日本農芸化学会誌
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菊芋より酒精の製造に關する研究(第一報)
菊芋の糖化に關する研究菊芋の酸糖化に就て(其一)
朝井 勇宣
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1937 年 13 巻 4 号 p. 247-261

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抄録

菊芋の硫酸糖化に就て實驗した.而して工業的應用の見地から總ての實驗は糖化後の物料の糖分濃度が最高約10~13%となる様な状態換言すれば乾燥菊芋に對して5倍,生菊芋に樹して20%の酸液を用ひて行つた.其等の結果を要約すると次の如くである.
(1) イヌリンは澱粉に比して酸糖化は甚だ容易である.純イヌリンの常壓酸糖化には0.8%硫酸10倍量を加へ30分100°に加熱すれば充分である.
(2) 乾燥菊芋を硫酸で糖化する場合常壓100°では15%硫酸を用ひ60分間加熱するを要する(酸液を10倍乃至20倍に増加せば酸量は2分の1乃至5分の1に減るが工業的には糖分の濃度が低過ぎて不經濟である).
(3) 乾燥菊芋を加壓酸糖化するには壓力に應じて夫々の適當條件が見出されるが, 50lbは糖分解の危險が多く,大體30lb壓力0.5%硫酸30分乃至50分加熱又は40lb壓力, 0.5%硫酸, 20分加熱がその最適條件ではないかと考へられる.
(4) 乾燥菊芋を酸にて糖化する場合その常壓たると加壓たるとを問はず豫め原料を蒸煮し又は鹽酸の稀薄液にて浸漬し組織を柔かにして置けば糖化に要する酸量,壓力,分解時間を低減し得る.但し酸浸漬には少量の炭水化物の溶出があり,又その他の場合に於ても燃料の消費を伴ふから工業的應用には愼重な考慮を要する.
(5) 乾燥菊芋は乾燥甘藷及び乾燥馬鈴薯に比して酸糖化は著しく容易であり,菊芋の加壓酸糖化の最適條件に於て(100%糖化)甘薯は27~42%,馬鈴薯は17~25%の糖化が行はれるに過ぎない.酒精製造原料として少くとも酸糖化を行ふ場合菊芋は他の二つに比して甚だ有利であるといへる.
(6) 原料として生菊芋を用ひる場合の酸糖化の適當せる條件を試験した.その結果常壓酸糖化では0.6%硫酸30分加熱(100°)加壓酸糖化では20lb壓力, 0.3%硫酸60分加熱, 30lb力, 0.4%硫酸, 20分加熱, 40lb壓力, 0.5%硫酸, 10分, O.4%硫酸20分, 0.3%,硫酸40分が適當してゐる.乾燥菊芋よりも酸量その他が少なくてすむから收穫時の酸糖化には生菊芋を用ひる方が遙かに有利である.
以上を要するに菊芋の酸糖化は甘藷,馬鈴薯よりも遙かに容易でありその點酒精製造原料として勝れたものである.

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