抄録
(1),曩に分離し得た麥角菌のうち寄主別の26株並にClaviceps purpurea Tul.及びClaviceps microce phala Tul.の28株を各種の人工培養基に培養して,各菌株の形成する分生胞子の數を酵母計算器を以て計算し,或はその發育速度を比較して逆に接腫菌苔中の分生胞子數の多寡を比較した.(2),麥角菌は分生胞子形成上菌株に依り固有の能力を有する.(3),麥角菌の分生胞子形成能力は培養温度24~28°,培養基の最初の水素イオン濃度4.8~6.8,寒天量3~6%なる範圍内に於て發育を完了せしむる時之等の培養條件との間に一定の關係がない.(4),麥角菌の分生胞子形成能力は培養基の適否或はその量に依り左右され,之等の榮養條件の改善に從つて愈々數の分生胞子を形成する.(5),從つて麥角菌は寄主植物の種類に依り分生胞子形成の上に影響を受くべき可能性がある.(6),供試菌株28株を分生胞子形成能力の強弱に應じて7種の階級に分屬せしめ得た.(7),各階級と之に屬する菌株を寄主別に示せば次の如くになる.註 カモジグサ(1) は本邦産の2品種,カモジグサ(2) は満洲國産の1品種,ツルヨシ(2)はヨシの群落に隣接して居たもの.(8),各階級間の分生胞子形成能力の差異は榮養條件の改善に伴つて小となる.(9), Sphacelia-Mützchenに於ては該麥角菌の分生胞子形成能力に應じた數の分生胞子を留めて居る.(10),分生胞子の大さに於て同一種と見做し得た菌株は分生胞子形成能力に於ても同一の階級に屬す.
終りに臨み本研究に際し終始御指導御鞭撻を賜りたる武田二郎博士並に本報告の發表を許可されたる當研究所長桑田智博士に對し深謝する。又御懇篤なる御指導を仰げる朝比奈泰彦,中澤亮治の兩先生及び本報告の御校閲を賜りたる坂口謹一郎先生に深甚の謝意を表する.尚ほ本實驗の御助力を願ひたる山野藤吾氏に對し厚く感謝する.