日本農芸化学会誌
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醤油香味成分に関する研究
(第15報) 火入醤油の香気成分(その2)
横塚 保
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1958 年 32 巻 1 号 p. 23-26

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抄録
火入醤油の弱酸性部に含まれる有香物質を各種の方法で分離しその中で従来未発表の物質に就き定性的事項を要約したが一般に火入醤油の香味成分構成は複雑でその分離は生醤油に比し困難であることを認めた.
これを概ねtransfer numberの少いものより列記すれば次の如くである.
(1) RFが最も低い不明スポット
(2) FeCl3で赤色, Fe2(SO4)3で紫色を示し果実様芳香を有する針状晶(RFはvanillic acidより僅かに小).
(3) メルカプタン性硫黄を含みAl2O3に吸着され易い溜分(RF不明).
(4) エーテル結合性硫黄を含む香気の強い油状溜分.この中からFe2(SO4)3で赤色を示す昇華性針状結晶(香気強くRFはvanillic acidとバニリンの中間)が分離されたが原溜分との関係は不明である.
(5) 分子式C5H6O3(m.p. 126~8°),せんべい様香気の強い針状晶.本物質は著しく不安定で常温で分解し褐色樹脂化する.又昇華し易くRFは前項の結晶とほぼ同一で,変り易い火入醤油香の重要な特質成分の一つと推定した.
(6) m.p. 110° ca.を有する有香針状晶(RFはチロゾールより僅かに小).
(7) Phenylisocianateにより著量の2,3-butylenglycolの誘導体(m.p. 198°)及びm.p. 162°の不明ウレタンの分離される有香溜分.
これらが火入により初めて出来たものか,或は単に生醤油から増減したものかは不明である.然し火入醤酒のエーテル抽出物中の硫黄含量は生醤抽のそれよりも多いから上記の含硫成分は既報のフェノール成分と共に火入醤油の特徴成分として注目すべきものである.
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