日本農芸化学会誌
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牛乳カゼインミセルに対するリン酸塩の影響
梁 逸中村 隆米沢 大造
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1974 年 48 巻 1 号 p. 49-56

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抄録

(1) 脱脂乳に各種の濃度にリン酸塩を添加して,30°でカゼインミセルに対する影響をクエン酸塩,グリセロリン酸塩と比較して調べた.
(2) ペレット重量,濁度,および粘度の測定の結果,リン酸塩の添加により,ミセルが膨潤を起こすことが観察された.この膨潤は,添加リン酸塩濃度0.06M付近から急に著しくなる.
(3) 添加リン酸塩のミセルに対する結合をしらべた結果,0.06M付近から結合が認められるようになり,このリン酸塩濃度がミセルの構造に大きい変化が起こる臨界濃度に相当することが認められた.
(4) 沈降による観察の結果,リン酸塩濃度0.05M付近からミセル間結合が起こり始めることが観察された.粘度測定の結果も,このことを裏書きしている.
(5) クエン酸塩,グリセロリン酸塩の添加では,ミセルの膨潤は起こるけれどもミセル間結合の生成は認められず,ミセルからのタンパク質の溶出が著しかった.
(6)リン酸塩の添加により脱脂乳はゲル化を起こすが,ゲル化の起こり始めるリン酸塩濃度は0.07~0.1Mであった.このゲル化の臨界濃度は5×10-4Mのクエン酸塩の添加で低下し,10-2M以上の添加で上昇した.グリセロリン酸塩および食塩の添加でも,臨界濃度は低下した.塩化カルシウムの添加も,著しくゲル化を促進した.
(7) 以上の観察に基づき,添加リン酸塩によるミセル間結合の生成機溝について考察し,カルシウムリン酸複合体によるカゼイン分子間の架橋が,リン酸イオンにより可逆的な切断をうけ,ミセル構造の変動による内部構造の露出に伴って,ミセル間結合を形成するという仮説を提案した.

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