日本農芸化学会誌
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凝乳酵素生産糸状菌の分離,同定とその変異株の誘起による酵素特性の改良について
東尾 侃二吉岡 八洲男
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1981 年 55 巻 7 号 p. 561-571

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抄録

(1) 土壌分離かび約300株の中から強力な凝乳酵素生産かびNo. 50を1株得た.しかし,本菌の凝乳酵素のMCA/PA比は,すでに実用化されている市販レンネットよりも低く,このままでは実用化に問題があった.
(2) 凝乳酵素生産かびNo. 50は, Mucor race-mosus Fres.と同定された.
(3) 本菌を親株とし, NTG処理あるいはUV照射して顧次変異株の誘起を重ねることにより,凝乳酵素のMCA/PA比が徐々に向上し,親株の酵素に比べ1.5~1.7倍比が高く,市販の名糖レンネットとほぼ同程度の比を有する第4代変異株が2株得られた.
(4) 親株および変異株の凝乳酵素および市販レンネットを含め,他の各種凝乳酵素についてMCA/PA比を比較した結果,蛋白分解活性の測定に使用する除蛋白剤(TCA)濃度によって, MCA/PA比が大きく変化する凝乳酵素群(仔牛レンネット,親株および変異株の凝乳酵素)とほとんど変化しない凝乳酵素群(名糖レンネット, Irpex lacteusおよびBacillus polymyxaの凝乳酵素)の2グループに大別された.
(5) 第4代変異株は,親株に比べ気菌糸の高さが低くなり,生育が若干悪くなっているほか,生育限界温度域や各種炭水化物の利用性等も変化し,菌学的性質にも変異を受けていた.
(6) 小麦ふすまを培地とする固体培養において,第4代変異株の凝乳酵素生産性は24°C培養では親株とほぼ同程度(約6500u/gふすま)で良好であったが, 20および28°Cでは親株よりも劣っていた.また,親株および変異株とも酵素生産の経時変化は非常にシャープなピーク状を呈し,低温培養ほどブロードになる傾向がみられた.

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