農業経済研究
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論文
不完全競争市場における米作農家の借地行動
取引費用と不確実性の影響分析
草苅 仁中川 聡司
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2011 年 83 巻 1 号 p. 28-42

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抄録

農家が農地を借りるときには,適当な農地を探すための探索費用などの取引費用が発生する.また,将来の収益が不確実なときには,現時点で借地による収益増加が見込まれても,将来に対する不安から,現時点の借地契約を延期する可能性がある.本研究の課題は,取引費用と収益の不確実性が農家の借地行動の抑制要因となっていることを,理論的・実証的に明らかにすることである.既存研究はこれら2つの抑制要因の影響が捨象された完全競争市場として貸借市場を捉えたために,既存研究の分析結果が示唆するほどに現実の農地流動化は進展しなかった.本研究の特徴は,こうした既存研究による過大評価の要因を理論と実証の両面から明らかにすることであり,そのため,リアル・オプション理論を適用して,取引費用と不確実性の尺度であるオプション価値係数を実際に推計した.分析結果は次のとおりである.はじめに,農地貸借市場が不完全競争市場であれば,完全競争を前提とした借地選択基準は流動化の程度を過大に評価してしまうことを理論的に明らかにした.次に,実証分析の結果,取引費用とオプション価値係数が統計的に有意に検出されたため,貸借市場は不完全競争市場であることが実証された.このとき,取引費用は前半期間(1981~92年)の方が後半期間(1995~2002年)よりも大きく,逆にオプション価値係数は後半期間の方が前半期間よりも大きくなっていた.取引費用と収益の不確実性の両方が,時期は異なるものの,いずれも流動化を抑制するように作用したことを表している.したがって,農地流動化を促進するためには,取引費用と収益の不確実性を同時に軽減するための対策を実施する必要があることを,分析の帰結として指摘した.

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© 2011 日本農業経済学会
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