2020 年 2020 巻 131 号 p. 1-11
明治期の農業啓蒙家・津田仙が主宰した学農社は,『農業雑誌』の発行をはじめとした事業を通じ,地方における農業の近代化に大きく寄与した。長野県松本地域でも津田仙・学農社の影響を受けた豪農層が中心となり,明治13年(1880)に松本農事協会を結成し,農事改良を実践した。本稿で同協会が行った諸活動について検討し,同協会が農村不況の影響など困難に直面しながらも,明治30年(1897)頃まで活動を続け,特に松本地域におけるリンゴ,ブドウ,ジャガイモ栽培の普及に寄与するなど,地域農業の振興に少なからぬ役割を果たしたことを実証した。明治前期には同協会のみならず各地で地方農業結社が創設された痕跡があるが,組織や活動の実態については不明な点も多い。明治農業史研究の進展にとって,当時の地方農業結社に関する資料の発掘と,その全貌の解明は極めて重要な課題であるが,本稿はそのための第一歩と位置付けられよう。