日大医学雑誌
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原著
軽度低体温循環停止,急速冷却復温による脳保護効果に関する実験的検討
猪野 崇秦 光賢本間 琢中田 金一谷口 由樹折目 由紀彦秋山 謙次三俣 昌子塩野 元美
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2013 年 72 巻 6 号 p. 312-319

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抄録

目的: 今回我々は大動脈外科における新しい 脳保護法及び体外循環法として軽度低体温循環停止・急速冷却復温法を考案した.従来法は,20°C の超低体温とし,復温も緩徐に行うことが一般的であった.我々は 28°C の軽度低体温・循環停止からの急速な温度変化によっ ても脳に対して影響しないと推測し,実験的検討を行った.方法:体重,約 40 kg のブタを用いて完全体外循環モデルを作成し,実験モデルを以下の 3 群 (各 n = 10) に分類した.A 群:直腸温 20°C の高度低体温で 20 分間の循環停止後,直腸温と人工心肺送血温の差を 5°C 以内に保ち,緩徐に 37°C まで復温する.B 群:28°C の軽度低体温で 20 分の循環停止後 A 群と同様に復温する. C 群:28°C 軽度低体温で 20 分の循環停止度後,38°C に加温した血液を送血することにより急速に復温する.人工心肺開始前,冷却完了時,復温開始時,復温完了時の 4 時点における血液生化学検査,CK-BB, S-100 及び脳組織血流,脳酸素分圧,頸静脈酸素飽和度について比較検討し,実験終了時に大脳皮質・海馬組織を採取し,病理学的に検討した.結果: 血小板数は復温完了時において A 群 が他の 2 群に比較し有意に低値であった.各測定時において BUN, Cr は群間に有意差はなかったが,復温完了時において AST は C 群が他の 2 群に比して有意に低値であり,LDH は A 群が他の 2 群と比較して有意に高値であった.CK-BB, S-100 は血中,髄液中ともに A 群が他の 2 群と比較して有意に高値であった.脳組織血流量は冷却完了時,復温開始時,復温完了時において A 群が他の 2 群と比較して有意に低値であった.脳酸素分圧に関しては復温開始時において,A 群が他の 2 群と比較して有意に低値であった.脳組織における細胞変性数は 3 群間で有意差は認められなかった.結論:28°C の軽度低体温循環停止に続く急速復温法は脳組織に対する影響は少なく,血液凝固障害の予防のためにもより有効な方法であると考えられた.

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© 2013 日本大学医学会
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