2022 年 81 巻 6 号 p. 347-354
【背景】一過性脳虚血発作は局所的な脳,脊髄,網膜の虚血によって発症したものの新鮮な梗塞を有さない一過性の神経症状と定義される.近年一過性脳虚血発作後に認知機能の低下や疲労感などを起こすことが報告されており,これは一過性脳虚血発作が脳だけでなく全身の分子・組織学的変化を引き起こしている可能性がある.今回 damage-associated molecular patterns (DAPMs) の一種である high mobility group box-1 (HMGBl) に注目し,一過性脳虚血モデルで HMGBl の全身性の発現,脳内の変化を観察した.【方法】一過性の総頚動脈遮断によるラットー過性脳虚血モデルを作製した.片側遮断群と両側遮断群を作製し,遮断 3 日後に脳,心臓,肺,肝臓,脾臓,大腸,小腸を摘出した.免疫染色で脳及び全身臓器の一過性脳虚血後の HMGBl の発現,脳内の細胞応答を観察した.アストロサイトの発現定量のために GFAP,炎症細胞であるマイクログリアの発現定量のために CD11b を Westernblotting で 定 量 し た.PCR で組織炎症の指標であるPKCδ,組織破壊の指標である MMP-9 を測定した.【結果】全身臓器の免疫染色では脳組織,肺胞上皮細胞,肝細胞,脾臓リンパ球,遠位尿細管上皮細胞,大腸の筋層,粘膜固有層細胞,小腸の粘膜固有層細胞がHMGB1 陽性を示した.GFAP の発現量は大脳皮質において両側遮断群で Sham 群に比べ有意に高い値を示した (P < 0.05).CD11b の発現量も大脳皮質において両側遮断群で Sham 群に比べて有意に高い値を示した (P <0.001).PKCδ,MMP-9 の発現も遮断群は Sham 群に比べ高い傾向にあった.【結語】軽微な脳虚血であるラット一過性脳虚血モデルでも全身臓器の炎症反応,脳内の細胞傷害及び炎症反応が惹起される事が証明された.