2023 年 40 巻 2 号 p. 86
内分泌腫瘍の第5版のWHO分類が2023年中に出版される。内分泌腫瘍に限った事ではないが,第3版WHO分類(2004年)から第4版(2019年)までの間が15年であるのに対して,第4版から第5版は僅か5年と改訂までの期間が短い。その背景には内分泌腫瘍に関わる分子病理学の進歩,腫瘍の発生や進行に関わる遺伝子異常の解明がある。あわせてインターネット環境の進歩による学術情報交換の高速化,WEB学会の普及やOpen accessの雑誌の増加が大きいのではと考える。ただし,インターネットによる情報交換は迅速であるが,欠点として一方的になりがちである。対面での情報交換に比べ,相互の理解,合意形成が不十分となりがちである。この3年間はCOVID-19のパンデミックにより国際学会が制限され,対面での交流の機会が激減し,国際的ないし地域間の情報交流が十分なされなかったように思われる。その中で発刊された第5版WHO分類では,大きな変更が加えられている。内分泌腫瘍の分子病理学の進歩を背景に,近い将来の腫瘍分類のあるべき姿が示され,既に次の第6版での改訂の方向性が予告されている。
特集2では,第5版WHO分類での甲状腺腫瘍の分類の変更のうち,本邦の甲状腺臨床の現状に照らして重要と考えられる点について,甲状腺癌取扱い規約の病理委員を務める先生方に,以下のテーマで解説いただく。
1.第5版WHO分類の概要と濾胞結節性疾患 菅間博(那須医科学研究所)
2.甲状腺腫瘍の遺伝子異常 千葉知宏(がん研究会がん研究所)
3.低リスク腫瘍 廣川満良(隈病院)
4.高異型度濾胞細胞由来非未分化癌 中島正洋(長崎大学原爆後遺障害医療研究所)
WHO分類は甲状腺腫瘍の病理組織学的分類の世界標準である。国際的な浸透,普及には時間がかかることから,4年での改訂はやや無理があるように思われる。また,分類改定の議論が北米中心に進められ,必ずしも日本の甲状腺診療の事情は反映されていない。しかし,発刊される第5版WHO分類が国内の甲状腺診療に混乱を招いてはならない。そのためには,改訂されたWHO分類が正しく理解されることが重要である。本稿が会員諸氏の新WHO分類の理解の一助となり,国内の甲状腺腫瘍診療の質向上に資することを期待したい。